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砂漠の砂に飲まれかけた廃墟ビルの内部は予想以上に荒廃していた。
入口を抜けるとすぐに広がるホールは天井が一部崩落しており、砂と瓦礫が積もった床には巨大な亀裂が走っている。壁面はひび割れ、コンクリートの表面が剥がれ落ちて骨格のような鉄筋が露出していた。空調設備の名残と思われるダクトが天井付近で無惨にちぎれている。
「ひどいな……」
太田が埃を払うように手を振る。空中には細かい砂塵が舞い上がり、窓枠に溜まった雨水の残りが鏡のように反射してキラキラと光っていた。
正面には朽ちたエレベーターの扉が歪んだまま開いている。その奥は深い闇に包まれており、底知れぬ不安を煽る。右手に延びる廊下へと足を踏み入れると、ぎぃっという軋みが不気味に響いた。
廊下の壁は黄ばんだポスターや落書きで埋め尽くされている。ほとんどが色褪せて判読不能だが、「避難誘導」「救援求む」といった文字の断片が辛うじて読み取れる。床には紙切れやプラスチック容器の破片が散乱し、歩くたびに砕ける音が虚しく反響する。
左手の窓からは夕暮れの砂漠が望めるが、景色よりも室内の様子の方が深刻だった。窓ガラスの大半は割れており、風が通るたびに金属製のカーテンレールが悲鳴のような音を立てる。
突き当たりに差し掛かると急に空間が開けた。かつて事務室だったであろう区画には粗末な机や椅子の残骸が乱雑に放置されている。机の抽斗からは黄ばんだ書類の束がこぼれ落ち、ページの端が風化して脆くなっていた。
壁際にはモニターの残骸や古びたパソコンが転がっている。ディスプレイは割れ、キーボードは砂に埋もれている。充電コードと思しきケーブルが無秩序に伸び、蜘蛛の巣のような模様を描いていた。
「誰もいませんね……」
アヤノが小声で呟く。声が壁に吸い込まれるように消えていく。
さらに奥へ進むと医療器具らしきものが散乱した一角に出た。金属製のトレイや錆びた注射器が無造作に放置され、薬瓶のラベルが剥がれかけている。棚には粉末状になった薬物や空になったアンプルが並んでいるが、どれも劣化していて使い物になりそうにない。
不自然な点は他にもある。生活用品はあるのに食料品が一切見当たらないのだ。食べ残しや飲み残しもなく、ゴミ箱すら存在しない。まるで住人たちが忽然と姿を消したかのようだ。
「ねぇ……これ」
ムジナが足を止め、床に落ちた一枚の写真を拾い上げた。家族写真のようだが、四隅が破れており、中央には小さな点がついている。おそらく血痕だろう。
「ここに人がいたことは確かみたいだけど」
太田が周囲を見回しながら言った。「でもなぜ姿を消したんだろう?」
答えは見つからないまま、我々はさらなる探索を続ける。どこからともなく吹き込む砂混じりの風が、この廃墟の孤独感を一層際立たせていた。
だが、それ以上に俺を睨んでいる・
唇を奪った相手である俺に対する複雑な感情が込められています。
建物内で座るフミナさんの顔には明らかな矛盾が刻まれていました。一方では助けてもらった感謝があり、もう一方では無理やり唇を奪われた屈辱感があります。
彼女は自分の唇を何度も拭いながら、こちらを鋭い目つきで睨んできます。その瞳の奥には怒りと共に恐怖が見えました。
「・・・あとで、話さないとなぁ」