「うおおッ!」
咆哮と共に盾を地面に叩きつける。衝撃波が砂塵を巻き上げ敵の視界を遮る。
「なめるなァ!」
黒龍が吠える。鎧のような鱗に覆われた尻尾が鞭のようにしなり襲いかかる。
右腕を盾代わりに掲げる。刹那の接触で肘関節が軋み上がる。金属と骨が激突する不協和音。
「くそっ……」
踏ん張った足が砂に沈む。だがこれで十分だ。
左腕の槍を水平に構え全身を捻る。白銀の装甲が陽光を反射し虹色の輝きを放つ。筋肉の収縮に呼応してプレート同士が擦れ合い独特の摩擦音が響く。
「喰らえェッ!」
投擲!槍が螺旋を描きながら砂嵐を切り裂く。目視出来ない空間で金属音が炸裂した。
「ぬぅッ!」
黒龍の呻き声。命中したか? すぐに次の一撃に備えるため左手を胸前で握りしめる。新たな槍が生成される感覚。血管が破裂するような苦痛と引き換えに冷たく重い鋼塊が手中に現れる。
視界の端で赤い閃光が走る。炎の息吹だ。咄嵯に身を捩る。灼熱の舌先が脇腹を掠め甲冑の縁を焦がす匂いが鼻をつく。
「効かぬ!」
虚勢ではなく事実だった。竜鱗を思わせる甲殻は既存の高温には耐性がある。しかしこれは何度も浴びれるものではない。
砂粒混じりの熱風が吹きつける中で睨み合う。彼我の距離僅か五メートル。互いの呼吸音すら聞き取れる極限状態。
突如背後から金切り声。
「危ない!」
振り向く間もなく脇腹に衝撃。足払いだ。バランスを崩す一瞬の隙を突いて黒龍が跳躍する。
「させるかァァァ!」
右足の装甲を全力で地面に打ちつける。振動が砂海を伝播し波紋となって広がる。崩れた体制からも膝蹴りを繰り出す。
「グフッ」
命中したはずの鈍い手応え。しかし眼前に迫るのは丸太のような尻尾の薙ぎ払い。回避不能——ならば受けるのみ! 右腕の鎧全面に意識を集中させ衝撃に備える。
「ぐああッ!」
凄まじい質量が胸部装甲を粉砕する。内臓が破裂する錯覚。視界が紅く染まる中で肺が空気を求めて痙攣する。
だがここで止まるわけにはいかない。全身の神経を賦活化させ無理やり骨格を修正する。再生の過程で皮膚表面が泡立ち金色の燐光を撒き散らす。
「まだ終わらんぞォ!」
叫びと共に左腕を振り抜く。槍が弧を描きながら黒龍の眼球を狙う。相手も牙を剥き出しに迎撃の構え。口内に蓄積される赤熱。
「同時に潰すつもりか」
冷笑と共に踏み込む。残像を残す程の高速移動。槍先が口腔を貫く寸前で軌道変更。
「こっちだ!」
偽の標的を作り出した瞬間逆サイドから本命の一撃を叩き込む算段だったが—
「遅いッ!」
黒龍の旋回速度の方が上回っていた。鉤爪が鎧の継ぎ目を抉る鋭い音。
「なんだとッ」
驚愕する暇もない追撃。連続して繰り出される凶爪が装甲の隙間を縫って侵入してくる。皮膚組織が削り取られる感覚。白銀の鎧と肉片が入り混じった物体が宙を舞う。
「くそったれが!」
捨て身の体当たりで距離を取る。膝裏から噴射機構を開放し強引に後退。背後の岩壁に激突する前に急停止する。
息つく間もなく敵の魔術式が起動する気配。指先から放たれる青白い魔法陣が砂漠を焼く。不可視の刃が四方八方から迫ってくる。
「舐めるなァッ!」
左手の槍を独楽のように回転させ防壁とする。
「このデュークモンは」
宣言が砂塵の中に響く。喉が焼けるような感覚を押し殺して声を絞り出す。体を突き抜ける衝撃の余韻が未だ骨髄に残っている。
「お前の暴走を止める。そして……」
目の前の黒龍が唸り声を上げた。漆黒の鱗が月光を浴びて鈍く輝いている。瞳は獣のように拡大し瞳孔だけが針穴のように収縮していた。
「そのパートナーを救う」