再度、この情況となりながら、片手にある盾を構えながら、眼前にいるケモノガミに視線を向ける。
先程の攻防で僅かに分かったが、この姿、デュークモンの力は凄まじい。
それこそ、以前、1度だけ暴走する形となった龍の姿よりも。
だが、それは同時に一撃で目の前にいるケモノガミを殺してしまう可能性がある。
(それだけは避けたい。だからこそ)
そう、再度、決意するようにその盾を、デュークモンの左腕の盾が歪み始めていた。表面の亀裂から微かに青白い光が漏れる。ケモノガミの猛攻が盾の装甲は傷がつかない。
「ぐっ……!」
この強すぎる力を制御する術はまだない。デュークモンのパワーが暴走する前兆だ。
砂埃が舞う中、目の前の敵を観察する。ケモノガミの爪牙は容赦なく振り下ろされる。一撃一撃が大地を揺るがす程の威力。だが致命傷を与えないように調整されている。それはつまり相手もまた俺を殺す気が無いということか?
次の瞬間、目の前に巨大な影が落ちた。咄嵯に盾を掲げる。金属同士がぶつかる音が耳を劈く。
「……っ!」
腕が痺れる。この重量級の打撃を受け止めた時点で通常兵器の限界を超えているはずだ。
だがデュークモンは耐えた。
砂丘に反射する太陽光が刃となって降り注ぐ。否応無く前進せざるを得ない状況だが……ここで無謀な特攻は自滅行為に等しい。
思考を巡らせている隙を突くように正面から突進してくるケモノガミ。あの巨体からは想像できない俊敏さだ。
「っしゃぁッ!」
今度は敢えて盾で真正面から受け止める。衝撃で後方に滑走しながらも踏みとどまる。装甲板が悲鳴をあげる。視界の端でひび割れた金属片が宙を舞うのが見えた。
次の瞬間――
ケモノガミの巨体が視界いっぱいに広がる。黒曜石のような鱗が陽光を反射し、獲物を定めた瞳が血走っている。彼の尾が巨大な鉄槌のごとく迫ってくる。一瞬の判断。このまま受け止めたら確実に粉砕される。だが……
「ッ!」
盾を斜めに構え、衝撃を逸らす! 金属が悲鳴を上げる。足元の砂が爆ぜる。ケモノガミの尾が盾の表面を滑り、地面に叩きつけられる。砂塵が天高く舞い上がった。
「グガァァァアア!!」
怒りの咆哮と共に奴は身を翻す。四本の足が砂を蹴り上げる。その速さは疾風。回避は不可能。ならば!
「迎え撃つ!」
左腕に意識を集中させる。盾が微細に振動し始める。光の粒子が盾の周囲に渦巻く。
ケモノガミの巨体が飛びかかる! その牙と爪が目前に迫る!
「はぁッ!」
衝撃波が砂漠を揺るがす。爆発的な光と音が炸裂した。一瞬の静寂。そして視界がクリアになる。
盾とケモノガミの巨体が拮抗する。否、むしろこちらが押し返していた。彼の攻撃の勢いを完全に受け止めている。だがその代償は大きい。全身の筋肉が軋み、骨が砕けそうな痛みが走る。それでも!
「この程度で……ッ!」
ケモノガミの唸り声が耳を劈く。彼の瞳に映るのは怒りだけではない。どこか懇願するような色さえあった。分かっている。彼も望んでこんなことになっているんじゃない。操られているのだ。
「許せよ!」
盾を押し返すと同時に跳躍。空中で身を翻し距離を取る。ケモノガミも同時に飛び退き距離を取る。互いに睨み合う。砂煙が立ち込め視界が悪い。だが気配だけで分かる。彼はまだ諦めていない。
「来るか……!」
再びケモノガミが突進してくる。そのスピードは先ほどよりさらに速い。砂を掻き分けながら一直線に向かってくる。盾を構える間もないほどの距離まで接近されて――
「しまっ――」
咄嗟に身を屈める。紙一重で鋭い爪が頭上を通過する。だが代償は大きかった。右肩に激痛が走る。振り返れば血が噴き出し視界が歪む。
「クソッ……!」
ケモノガミはさらに追い討ちをかけてくる。回転しながら尾を叩きつけてくる。避ける術はない。盾を展開し防御するしかない!
「うおおおおッ!!」
全力で構えた盾に巨大な質量がぶつかる。衝撃で砂が巻き上がり視界が閉ざされる。だが衝撃自体は大きくない。むしろ盾の方が頑丈すぎて逆にケモノガミ自身が跳ね返っている。
「どういうことだ……?」
疑問符が頭を巡る間に再び彼は襲いかかってくる。今度は噛み付き。左腕を盾にして受け止める。牙が装甲を突き破ろうとする感触が伝わってくる。冷や汗が背中を伝う。
「まだ……!」
両足で踏ん張り堪える。だが持久戦になれば不利になるだけだ。いずれ体力が尽きて――
「いや……」
待てよ? 彼の攻撃パターンに気づく。どれも単調。しかも威力はあるのに精度は低い。まるで自分の意思で動けていないようだ。
「まさか……!」
盾で押し返し距離を取る。そして確信する。彼は操られている。彼自身の意志ではなく外部からの命令で動いているだけなんだ。
「だったら――」
突破口はある。その方法を探すため意識を集中させる。すると……微かに感じる異質な気配。ケモノガミの体内から漏れ出る邪悪な波動。あれが原因か!
「よし!」
決意と共にケモノガミを迎え撃つ。今回は防御だけじゃない。反撃のチャンスを伺う。そしてついに訪れた好機――
彼の尾が大きく振り上げられた瞬間!
「そこだ!」
タイミングを計り左腕を伸ばす。光の粒子が集約し槍の形を成す。聖なる輝きを纏ったそれが完成した瞬間だった――
砂漠の空気が凍りつく。まるで時が止まったかのような静寂。しかし俺の胸中は熱く滾っていた。目の前のケモノガミ――ケモノガミがこちらに向き直る。その漆黒の鱗から放たれる威圧感に思わず息を飲む。
「……来る」
左手に握られた盾が微かに震えた。
俺は槍を構えた。突きの姿勢。真紅の槍穂先が空を裂く。
「ロイヤル……セイバァァアアッ!!」
声帯が張り裂けるような咆哮と共に全身全霊の一撃を放つ!
ケモノガミは迎撃のために身を縮めた。だが遅い。すでに俺は間合いに入っている。残像さえ残さぬ神速の突き。
ズンッ!
衝撃波が砂漠を焼き払う。槍がケモノガミの腹部を貫通する直前――
ピタリ。
槍先は表皮に触れるか触れないかの位置で停止していた。
「…………」
静寂が流れる。
ケモノガミの瞳から怒りが消え困惑の色が広がる。同時に黒い鱗から滲み出ていた毒気が霧散していく。
「終わったぞ」
俺は静かに告げた。