部屋に漂う伽羅の香りが濃くなる。六花……いやリリスモンの吐息が甘く香ばしい。
「あぁん……焦らないで」
彼女の指が俺の腰紐を解く。緩んだ帯はするすると床へ落ちる。
「まずは繋がりを確認しましょう」
花魁姿のリリスモンが背を向けた。金襴の帯が解け、襦袢から雪のような肌がのぞく。
「ご覧になって?」
ゆっくりと振り向く彼女の胸元には薔薇色の痣が浮かんでいた。
「これが私たちの絆……永遠に切れることはない」
彼女が跪く。赤い唇が俺の指を含む。
「さあ、力をお使いなさい」
歯列が硬く締め付ける感触。指先に微かな電流が走る。
「教えてくれ。なぜ魔王達に俺達は呼び寄せられた?」
俺の問いにリリスモンは鏡台へ移る。髪を梳きながら肩越しに笑う。
「簡単な話よ。この世界の欲望があまりにも強烈だったから」
櫛を持つ指が透ける。
「我々魔王は『強く渇望された場所』に現れるの」
俺は拳を握る。
「なら六花という姿は?」
彼女が振り返る。花魁の衣が蛇のように蠢く。
「俺が出会った時から、騙してたという事になるのか」
「騙していたというのは少し違いますね。あの姿も人間である私の本来の姿。ただ、力が強くなるまで記憶も封じられていましたが」
それと共に、俺に触る動作はより濃厚になっている。彼女の指先が俺の頬から首筋を伝い、肩甲骨へと滑っていく。
「それに……あなたと出会えた事自体が幸運だったのよ」
彼女の手が俺の腹部を撫でる。リリスモンとしての冷たさと六花としての温もりが混ざり合う感覚。
「欲望なんてそんなものです。一度知ったらやめられない」
その言葉と共に、彼女の口元が俺の首筋に近づく。
「特に色欲は……一度覚えた悦びを忘れられないでしょう?」
唇が耳朶を捉え、吐息混じりに囁く。
「この世界にはまだ沢山の欲望がありますよ」
そして今度は頬をすり寄せながら囁く。
「でもあなたは特別な存在……だからこそ魔王達もここまで強い力を使って呼び寄せたのですから」
「このままにしたら、お前は何をするつもりだっ」
「人間界とケモノガミ、二つの世界は一つに溶け合う事を願っております。既に下準備も十分」
「十分だとっ」
そうしていると、リリスモンは俺を抱き締める。
「古の時代から儀式は行われていた。人間とケモノガミの繋がりは十分。そして、この世界は既に人間とケモノガミ同士の絆によって、あと僅かになる」
「そうなったら、世界はっ」
すぐに離れようとする。
だが、敵わない。
「世界の理を維持するシステムであった主も、もうすぐいなくなる。そうした時、世界を安定する力にもなる」
「さあ、決めなさい」
リリスモンが俺の耳朶を甘噛みする。唾液で湿った熱い息が鼓膜に絡みつく。
「我が手を取りし者は永遠の快楽を得る……ただし」
俺の頸動脈を探るように彼女の指が滑る。脈拍の早さを測られているようで全身に鳥肌が立つ。
「代償は命以上のものを捧げなければならないわよ」
彼女の声は蜜のように絡みつく。
「あなたが今まで感じてきた愉悦は序章にすぎない」
俺の喉がカラカラに渇く。リリスモンの唇が俺の首筋をなぞりながら言葉を継ぐ。
「私と契約すれば」
彼女の爪先が俺の乳首を弾く。
「試してみたくない?」
背筋を伝う寒気と興奮。拒絶すべきなのに身体が勝手に疼く。
「契約書は必要ないわ」
リリスモンの唇が俺の耳朶に触れる。
「ただ、"はい"と答えてくれればいいの」
彼女の長い睫毛が伏せられると同時に、俺の視界が暗転した。
闇の中で聞こえるのは自分の心臓の鼓動のみ。
次の瞬間──
「あぁ……っ」
熱い。身体の中心から炎が燃え上がるような錯覚。
俺の手はいつの間にかリリスモンの細腰を抱いていた。
拒もうとしても離れられない引力。
まるで磁石に吸い寄せられる鉄屑のように。
「これで完了よ」
リリスモンがうっとりと囁く。
「あなたは私の所有物になったわ」
その言葉とともに
俺の意識は深い奈落へと堕ちていった。
意識が奈落に落ち、その後の事。
そう、何が起きたのか。
おそらくは、俺達の冒険の意味があるのか。
だけど、今、分かるとしたら。
「全ては掌の上だったという事」
今回で、無事に完結を迎えました。デジモンサヴァイブ自体もかなり暗いエンディングもあり、色欲をテーマにした作品となりました。
この話自体が、デジモンサヴァイブの裏側でもしかしたら世界の繋がりを強化した冒険の一つとして、書かせて貰いました。
彼らのその後に関しては、あえて描写しない事で、終わらせてしまい、申し訳ございません。
次回作は、活動報告にて募集していた次回作募集から出る予定です。
ここまでの応援、ありがとうございます。