翌朝。一室で俺達は向かい合っていた。
昨日の出来事もあったが、生き残る為、俺達は食料を分け合いながら話し合いを行った。
「結局、この世界の事については分からずじまいだけど……」
「とりあえず他に生き残ってる人間を見つけないと」
六花の意見に全員が頷く。
「でもどうやって? 森の探索は危険だし」
「マッドレオモンみたいな化け物がまた現れるかもね」
「あいつ……本当に死んだのかしら?」
アヤノが不安げに呟く。確かにあの傷で致命傷にならなかった可能性もある。いやむしろ進化系の生物なら自己修復能力を持っている可能性すらある。
「とにかく情報が欲しい」
俺は努めて冷静に言った。
「他の人間を探しつつ安全な拠点を作る必要がある」
「私は賛成よ」
六花が同意する。昨日までの冷めた印象とは違い積極的な姿勢だ。あるいは共通の危機に晒されたことで結束力が生まれつつあるのかもしれない。
「ルガルモンが言ってたんだけど」
アヤノが口を開く。
「北東の方角から時々奇妙な匂いがするって」
「どういう意味だ?」
「人間じゃないかもしれないけど生命体の気配らしいわ」
興味深い情報だ。もし本当ならばそこに行けば何かわかるかもしれない。
「じゃあ決まりだな。北東を目指すぞ」
「でも森の中を歩くのはかなり辛いかも」
六花の懸念はもっともだ。現状俺たちの装備はほとんどない。衣類は破れかけた制服のみ。武器といえるものすら乏しい状況で野営するリスクは計り知れない。
「・・・けど、早くしないと、マッドレオモンの奴に殺される可能性が」
「あんな奴に殺されるより、他の方法を探す方がマシ」
「・・・それも、そうだな」
アヤノと六花はそれぞれ意見を交わし合う。そして俺も自分の考えを述べた。
俺達は、すぐに出掛ける準備をした。
戦闘は、ギルモン達に任せる。
人間同士で戦うのは、出来るだけ避けたい。
だから俺達は逃げながら相手の情報を集めようと決めた。
「行くよ!」
俺達は出発した。
まずは北東方面へ。
幸いにして道中は比較的安全だった。稀にケモノガミの鳴き声が聞こえる程度で大きな脅威には遭遇しなかった。
しかし森の中は思った以上に過酷だった。足元は常にぬかるんでいて体力を消耗させる。木々の密集具合も厄介で視界が限定されて周囲の状況把握が難しい。
森の奥へと進むにつれ、湿った腐葉土の匂いが鼻腔を刺すようになった。六花が突然立ち止まり肩を震わせる。
「どうした?」
振り返ると彼女の視線の先に人影があった。白い軍服のような衣装を纏った女性だ。短パンから伸びる長い脚が異様に目を引く。
「誰だ?そこにいるのは?」
呼びかけると女性はゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。白髪が風に揺れ蒼い瞳が冷たく光っている。年の頃は二十代後半だろうか。妙な威圧感を放つその佇まいに思わず息を呑む。彼女の隣には狐のケモノガミが静かに佇んでいた。
「あなたたちはなぜここにいる?」
凛とした声に敵意はないが尋問されているような緊張感がある。
「迷い込んでしまったんです」
正直に答えると女性は片眉を吊り上げた。
「この世界について何も知らないのか?」
「詳しいことは……」
言い淀む間に六花が口を開いた。
「私たち三人で彷徨っていただけなんです」
「なるほど」
女性が一歩前に出て、手を伸ばす。
「・・・色欲。憤怒は取り込まれている」
「えっと?」
その瞬間、獣の姿が眩い光に包まれた。
「これは!?」
驚愕する暇もなく九つの尾を持つ巨大な狐型デジモンが出現する。
その神々しさと恐ろしさの混在した姿に背筋が凍りつく。
「キュウビモン」
「・・・」
そのままキュウビモンはこちらを睨みつける。
「何をするつもり?」
俺は警戒して一歩下がった。
「・・・別に、ただ、このままそっちの思い通りになったら困るの」
「何が困るんだよ」
「・・・そうだね、どう言えば良いのか、いや、それも面倒だから、大人しくしておいて」
そうして、キュウビモンがこちらに向かって襲い掛かる。