人妻が不倫して、職場の男に手を出すお話。

 それから、また人妻が姿を消すお話。

 それに思いを馳せて、どうにか過去の思い出を辿ろうとする男のお話です。






 えーすけ先生のエロ漫画作品、「よりみち」の続きを妄想して描いた作品です。
 涼香さんがいなくなってしまった、主人公真琴のその後の話を書いております。
 作者からの許可はもらっております。

 よりみちの本編を読んでもらったほうが、より感情が移入できるかと思います。まずそちらを。ご一読ください。。
 そうしなくても楽しめるようにはしております。
 よろしければ、ご一読ください。



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よりみちのつづき

 

 夢を見ていた。

 たぶん一目ぼれだった。

 ずっと、好きだった。

 比喩なんかじゃない。本当に、好きだったんだ。

 どれくらい、一緒にいたんだろう。一年足らずの、短い間だったのかもしれない。本当は、もっと長かったのかもしれない。

 俺はその人が好きだった。

 名前は佐橋涼香(すずか)。

 赤毛のとてもきれいな、女の人だった。

 出会いは、今でもはっきりと覚えている。

 あれは大学の講義で、合間に入った喫茶店だった。

 とても綺麗だった。正直、下心もあった。

 接客業にしては、冷ややかな表情。

 それと同じように、細くもはっきりとした声。

 生まれて初めて、一目ぼれと言うものを体験した。

 いてもたってもいられなかった。

 頭が真っ白になったのを憶えている。俺はいつの間にか家に戻り、履歴書を書いていた。

 そして、バイトに申し込んだ。その、喫茶店に。

 その三日後の、ことだった。

 その人が、既婚者だと知った。

 足元からひっくり返りそうな感覚がした。ずっと舞い上がっていた気持ちが、一気に地の底まで落ちるのがはっきりとわかった。

 おなかの底が冷え、脚が震えて、体から力が抜け落ちるのを感じた。

 その時の自分は、何とも間の抜けた顔をしていたと思う。

 でも、その時は持ち直した。

 かなわぬ恋でもそれでいいと。それでもずっと一緒に仕事ができればそれでいいと。

 かなわぬ恋でもいいじゃないか。このドキドキは心地がいい。ならば、それでもいいから、ずっと。

「仕事中、私の胸見すぎ」

 気持ちはさらに地の底を貫いた。

 一瞬にしてすべてが砕け散った。

 その人に惹かれた隠れた理由の一つを、その時穿ちぬかれた。

「……ごめんなさい」

 そう、答えるしかできなかった。

 しばらく、周りの居酒屋の喧騒しか、聞こえなかったのを憶えている。

 そうだ、これは、涼香さんと一緒に、二人で飲みの席に言った時のことだった。

 そういえばなんで、この人は僕を誘ってくれたのだろう。ああそうだ、この時、俺は本当に思っていたんだ……。この人が、もしかしたら俺に……と。

「真琴くんってさ、私目当てでバイトはじめたの?」

 顔が熱くなるのを感じた。

 まだ、望みはあるのかもしれない。

 手元の料理を口に運んで、涼香さんはもくもくと口を動かしていた。

 僕はうつむいて、

「はい」

 と答えた。

「そういうのってストーカーっていうんだよ。迷惑なんだけど」

 再三舞い上がった気持ちは、もう地殻を貫かんばかりだった。

 そんな俺に、涼香さんはさらに続けるのだった。

「真琴くんてさ、どうせ童貞でしょ」

「彼女もいたことない」

 ズタボロに。俺のひとめぼれは、破られてしまった。

 こうなるに、決まっていたんだ。

 ひとめぼれして、結局舞い上がってただけで、空回りしただけだったんだ。

 もう心がズタズタだった。飲みの席に誘われたのは、そういうことだったのか。彼女からの、忠告と突き放しの時間。

 そうだ、明日、もうバイトをやめさせてもらおう。

 いやでも、いきなりは、店に迷惑がかかるかな。

 いろんな考えが頭をめぐった。

 もう、その時は、その場からいなくなりたかった。

 目の前の涼香さんは口元にビールを運んでいて、まだ俺には飲めない苦い液体の入ったジョッキを、カンっと机に突き立てた。

 もう、これで終わりか、と、短い青春に、思いをはせて。

 ふと、俺は顔を上げた。

 なんでそうしたのかは、覚えていない。もしかしたら、最後に一度、その顔を見たかったのかもしれない。

 俺は、息を詰まらせた。

 涼香さんは、顔を赤らめて、笑っていた。

 酒のせいだったのかもしれない。もしかしたらほかの理由だったのかもしれない。

 でもいずれにせよ、俺にはわからない理由だった。

 それ以降は、もう、何も考えていなかった。

 

 それから、俺の部屋に行った。

 人生初めての女性は、激烈だった。

 本当に熱くて、きらめいていて、体中が、熱く発火していた。

 なんで彼女が俺と寝ようとしたのか。なんで涼香さんが、俺にその姿を見せようとしたのだろうか。それは今でも、分からないことだったけど。

 そんなことは、その時の俺は、一つも気にしていなかった。

「あのっ、旦那さんっ、とかは」

「んー、なんで今、そんなこと聞くの?」

 そのやりとりを、今でも憶えている。

 涼香さんは。その時だけは、俺を見てくれていたのだ。

 短い時間だった。それでも鮮烈だった。今でも忘れられないほどに、そのあとに交わしたいくつもの交じり合いの中でも鮮やかに、それを思い出すことができる。

 俺のすべての中に、俺の心の中に、その人が深く刻みつけられた瞬間。その始まり。それから、もう戻れない。

 そう、それは、今でも。今でもあの人のことを、俺は忘れられないのだ。

 もう、あれから。一年が経つころだった。

 涼香さんと会えなくなって。最後のあの一晩が終わって。

 一年が、経つ。

 

 あれからまだ、俺はアルバイトを続けていた。

 やめようとは思った。何度も迷った。

 それでも、俺はここでの仕事を続けることにしていた。

 涼香さんの思い出を、長い間一緒に働いた思い出が、この喫茶店は思い出せるところだったから。

「君がここで働き始めてから、もうずいぶんになるね」

「はい。もう二年くらい、ですかね」

 思えば、その日数が、涼香さんと出会ってからの日数だった。

 もう、二年もたっていた。

 あの鮮烈な――ただの一方的な一目ぼれから、それだけの時間が。

「あの、店長。涼香さんって、どこに行ったのか、分かりませんか」

 ある時、俺はこう尋ねたことがある。

「佐橋さん? わからないねぇ。いきなりやめちゃったものだから。それに、今のご時世、そんなことを聞くわけにもいかないし」

 涼香さんがいなくなったのは、突然だった。

 本当に、突然だった。

 ある夜。あの、最後の夜。

 俺は、ずっと。何が起きてもいいって、思っていた。

 何かが起きる予感はしていた。それでも、こんなことが起こるとは、到底考えていなかった。

 ある日の突然の別れだった。

 起きたらもう涼香さんはいなくって、それでもいつものバイト先で会えるかと思っていた。

 それでも、涼香さんはこなかった。それから、もう。

 涼香さんとは、二度と、会っていない。

 メッセージの履歴は残っている。交わした何百何千もの会話はずっとそこにある。

 写真もある。涼香さんが送ってくれた、かなり過激な写真も、禁欲してた時に送って来た自慰の動画も……。これを使って、いなくなってしまった涼香さんを思い出そうとして、一晩を自慰に明かしたことだってある。

 いなくなった、彼女。それでも、彼女の存在で、俺の心はずっといっぱいだった。

 

 そんな生活の中で。

 それは奇跡だった。

 確か、アルバイトの帰りだった。俺はそこでぼやっと空を見上げながら、家に帰っていた。

 思えばそうだった。彼女が、ここでアルバイトをしていたのは。おそらく、彼女の家がここから近かったからだろう。

 彼女は既婚者だ。それだけ離れた場所で働くはずもない。でもそれならなんで、一年も会えなかったんだろう――――

 それだけ一瞬錯綜したその情報を、俺は一気に飲み込んだ。

 そして、目の前の光景に、集中した。

 涼香さんだった。

 間違いなかった。

 後ろに一つにまとめあげた、ばらばらに散りやすい気質の髪の毛は。

 それは、彼女のうしろ姿。

 何度も何度も後ろから突いた、彼女の魅惑的な体の線は。

 涼香さん、だった。

 一瞬、時間が止まったように見えた。もし涼香さんでなければどうしよう、とも思った。

 ただ体が硬直して、ものすごい喜びが奥から湧き上がって来て、この停滞した一年が、一気に巻き戻って来たかのように、それまでどこか色の剥げていた世界が、急激に色づくのを覚えた。

 そして、彼女だけに集中していて狭まっていた視界が広がるにつれて。

 俺は、また動けなくなった。

 固唾をのんだ。

 隣に、誰かがいた。

 男のひとだった。知らない、うしろ姿だった。

 いや、知っているはずだった。いや、見たことはなかったけれど。

 そしてその間にあるのは、一つの、黒い、ベビーカーだった。

 そういう、ことか、と。すぐに、分かった。

 声なんて、かけられなかった。

 それが、涼香さんの。

 俺が一回も見たことのない、俺のずっと知らない、彼女の。

 俺はずっと涼香さんと一緒にいた。涼香さんがいた時は、ずっとその傍にいた。

 バイトはずっとフルだったし、涼香さんと一緒にいるために大変な課題も趣味も、そっちのけで、涼香さんと一緒にいた。

 できるだけ。涼香さんとの時間を、手に入れたかった。

 でも。それでも。涼香さんには、涼香さんの、生活があったのだ。

 そのバイトも、そのためのお金も。

 全部、彼女の持つ家庭のためのものなのだ。

 声なんて、かけられなかった。

 近づくことも、できなかった。

 涼香さんと一緒にいた時は、ほんの少ししか意識していなくて、目にしたことすら一回もなかった。その隣にいる存在が。そして、その間にある時間が。

 俺が脚を踏み入れられない、十分な、十分すぎる理由だった。

 たとえ、一年もの、思いをはせていた時間があったって。

 一年もずっと待望していたこの瞬間を、俺はずっと、立ち尽くして。

 いつしかその姿は、見えなくなってしまった。

 

 知っていはずだ。わかっていたことだ。

 それでも、口惜しかった。

 長くは続かないとは思っていた。いつかは分かれる時間が来ると予感していた。

 それでもあまりに名残惜しかった。

 別れはあまりに唐突だった。

 いや、それはただの言い訳だったのかもしれない。ずっと涼香さんは、覚悟を決めていて。最初から、俺から離れるつもりでいて。

 でも。

 涼香さんの笑顔を見た。ほめてあげると、赤らめてくれるかわいい表情を見た。俺を旅に誘ってくれて、自信満々に自慢げな顔をつくる涼香さんを見た。

 俺は涼香さんが大好きだった。

 涼香さんも俺のことを、たぶん、きっと。好きだったはずだ。好きで、いてほしい。そうであってほしかった。

 涼香さんの笑顔を知っている。彼女と何度も会話をして、俺のために相談に乗ってくれたりもして。何のこともない、ありふれた会話をしたりもした。

 涼香さんの好きなことも憶えている。彼女が好きな色も、服装も、どんなところに行くのが好きなのかも、どんなお酒が好きなのかも……。

 体だけじゃない。そこまで知って、俺は、好きだった。

 だから、今でも、受け入れられなかった。

 いきなり彼女がいなくなって。さようならの一言もなくって。

 あれだけ何度も交わしたのに。言葉だけじゃなくて、体も、口も、いろんなものを。

 だから、涙が止まらなかった。涼香さんのうしろ姿を見た晩は、自然に涙が出てしまった。

 ぜんぜん、受け入れられてなかった。

 また、会いたかった。また話をしたかった……。多くは望まないから、一度でいいから。

 会話をするだけでもいい。メッセージを少しやり取りするだけでいい。

 体の関係だなんて、贅沢なことは言わないから。

 少しで良いから、メッセージに返信をしてほしい。

 自分の涙に濡れたベッドの中で、何度も擦り切れるほど見たトーク画面を、薄れた視界で俺は見た。

『涼香さん、どこにいるんですか』

『アルバイトやめたんですか』

 そのメッセージは、もう一年も前だった。

『また会えますか?』

 それは、また数か月前のものだった。

 それが、最後だった。

 そのメッセージには、既読がついていた。

 それだけが望みだった。まだ涼香さんとのつながりがあると思えた、たった二つの文字だった。

 既読が付いただけでこんなにうれしかったことはなかった。でも、こんなに心が口惜しくなることも、生まれて一度もなかった。

 メッセージを送ろうとしてタップして、その手が止まる。

『涼香さん』

 ただ、名前を呼ぶだけの、メッセージ。

 おそらく、返信はこないのだろう。今まで通り、何も言われないのだろう。

 それでも既読が付くかもしれない。

 万が一、億が一、返信があるかもしれない。

 そしたら、聞きたい。

 なんで俺の前からいなくなったんですか。

 俺のこと、嫌いになったんですか。

 俺のことを、どう思っているんですか。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 ただ、もう一回だけ、話が、できたなら。

 スマホを握り締めて、ベッドの上で、涙がつうっと頬を滑っていく。

 それを送れない。送信のボタンを押すことができない。

 涼香さん。涼香さん。涼香さん。

 あの人のことだ。

 大好きで、大好きで、本当に大好きで。

 あのばらばらした髪の毛が本当にいとおしくて、あなたのきれいな腰の線が本当に好きで離れなくて、あなたの冷たくも、凛とした、綺麗な声が、また、聴きたくて………。

「く、そっ…………」

 涙がまた、一筋、頬をつたう。

 ああ、俺。本当に、この人が好きなんだ。

 そう、思った。

 一年経っても、ずっと。

 会いたい、なあ。

 

 ……朝か。

 気が付いたら、もう朝だった。

 目元が痛かった。どうやら泣き明かしてしまったらしい。

 ほう、とため息をつく。

 もう会えないのはわかっているだろうに。

 でも、それを考えると、心がずぐんと痛くなってしまう。

 どうしても心から離れないのだ。一年経っても、どれだけ経っても。

 あの涼香さんのうしろ姿を一目、見るだけで。

 もう会えないだなんて、心が耐えられない。そう、思えてしまった。

 今日は、土曜日か。スマホを見て、確認をする。

 そのまま、俺はスマホの画面を眺め続けた。

 どれだけ色づいていたのだろうか。

 涼香さんからくるメッセージがずっと楽しかった。

 いつも会えていたからメッセージが待ち遠しかったとかはなかった。それに涼香さんからメッセージが来るのは……一時期を除いて、それなりに珍しかったから。

 それでも。期待していなくても。あの人から来たメッセージを見たら、心が躍りだしはじめた。

 何を言ってくれたのだろう。ああ、そのことか。早く、返信をしないと。

 そう思って、気持ちが明るくなって、すぐにアプリを開いて、すでに文字を打ち込んでいるのだ。

 全部、楽しかった。あの人から来るメッセージすべてが、俺にとっては本当に、無意識にも楽しみにしていた……。

 それの、最後のメッセージ。涼香さんから来た最後のメッセージが、画面の上の端に残っている。

『建物の前で待ってて。いま迎え行くから』

 それは、あの人との最後の夜を過ごす、その直前のやりとりだった。

 心がずきりと熱くなった。あの光景を思い出して、また涙が出てきそうになった。

 涼香さんとは何度か出かけた。それでも、この日は、特別だった。この人がいなくなったということを、のぞいても。

 初めて、涼香さんがいつもと違う服をしているのを見た。涼香さんはいつも、黒いパーカーだった。それが、今回は。

 薄茶のダウンジャケットに、白いタートルネックのセーター。それから、黒くて長い丈のフレアスカートに、長いブーツを履いていた。

 そうだ。あの日は、寒い冬の日だったのだ。

 いつもと違いすぎる彼女の服装に見とれて、しばらく唖然としてしまっていた。

「やっぱ変かな?」

 俺の顔色を見て、そういう涼香さんに、

「いえ!! めっちゃ素敵っす!!」

 と、即答したのを憶えている。

 そうすると涼香さんは、顔を赤らめて、笑顔になって、こう言ったのだ。

「じゃー感謝してね、こういうのめったに着ないんだから」

 じゃ、あっちに車準備してあるから――――

 そう言って、涼香さんは歩いて行った。

 とても、いや、めっちゃ。ものすごく、かわいかった。

 片手を腰について、指を一本たてて、ふんす、と鼻から息をついて見せる彼女の顔は、まるで少女のようで。初めて見る、表情で。

 それから、いつもと違ったところがいくつもあった。

 いつも服装を気にしない涼香さんは、髪を編んでいて、それをポニーテールに編み込んでいて。

 それから、かわいい鼻歌を歌いながら、車を運転していたんだ。

 つけている眼鏡もいつもと違った。その日は、涼香さんは、どこからどこまで、新しかった……。

 それからずっと。ホテルに着くまで、ずっと涼香さんのことを、俺は見ていた。

 ホテルに到着してチェックインして、部屋についた途端、俺たちはキスした。

 舌を交差させて、口の中を互いに巡らせて。これから始まる一晩中続く出来事の前兆を、予感しながら。

 独り占めできる。一晩中、涼香さんと一緒にいられる。

 心臓が高鳴って、脚が震えて、必死で涼香さんを抱きしめる手に力を込めた。

「真琴くん、今日ずっと、わたしのことえっちな目で見てたね」

 キスが一通り終わって、涼香さんの顔が間近で、そうささやいた。

 それはそうだ。そりゃ、これからのことを想像したら。

「想像って、どんな?」

 涼香さんはそう言って、再び顔を近づけてきた。

 涼香さんの長い舌が、俺の口の中を侵略して。

 俺も、涼香さんの舌に、自分のをできるだけ絡ませて。

 頭がずるずると、快感に溶けていく感触がした。

「真琴くんは頭の中で、私はどんないやらしいことしてたの?」

「おしえて、ほしいな」

 理性は、残っていなかった。

 溶けかけた頭で、俺は目をそらしながら、気恥ずかしさを憶えて、正直に答えた。

「その……めっちゃ、フェラしてくれました」

 一瞬、涼香さんは呆けたような顔をして。

 その顔が、くしゃりと笑った。

「正直すぎでしょ」

 だって、仕方がないじゃないか。

 涼香さんの口が、気持ちよすぎて。

「ふーん」

 とても、恍惚とした顔だった。さっきとは、雰囲気が打って変わって。

 気づいた時には、涼香さんと俺は、全部脱いでいて。

 涼香さんの顔が、俺の股の間にあった。

「しょうがないなー♡」

 ずるり、と。

 涼香さんの舌が、俺の肉棒をなめた。

 ぞくっ、と背筋が震える。

 ぢゅるり、と舌を添えながら、涼香さんが先をすする。

 ずっと慣れないその口づかいの快感で、頭がびくんと後ろにはねてしまう。

「ひゅごい、たまたま重たい……♡」

 そうだ。俺は、この日のために、ずっと、オナ禁してて。

 それから……。

「じゃあ、すっごい気持ちいい射精になっちゃうね」

 その一言に、息がつまった。

 ちゅぷっ、と、俺の、先をくわえて。

 にゅる、にゅるっと、そこだけで上下する。

 それから容赦なく、少しずつ。奥へ、奥へと侵略していく。

 やわらかい舌が、長い舌が、唾液でぐっちょぐちょになった舌が、俺のそれを、ぐちゃぐちゃに凌辱していって。

 ぷはっ、と口を離して、涼香さんは今度は指のわっかで、俺の先と棒のくびれを、ぐちぐちといいじりはじめた。

「すごいエッチな顔してる……出ちゃう?」

 ぐちゅぐちゅっ、と。

 容赦なく、涼香さんは指を小刻みに動かす。

 最初の夜も同じことをやっていた。それを俺が好きだってことを、涼香さんは知っていたのだ。

「わかるよ……。おちんちん、我慢の限界でびくびくしてる」

 もう、すぐそこだった。

 ばつん、と頭が切れて。

 腰が、いっそう大きく跳ね――――

「でもだめ♡」

 えっ……!?

「そんな、あ゛ッ……」

 びく、びく。

 寸前で止められた俺は、射精した時よりも、目の前が真っ白になって。

「あーあ」

 淫乱な声で、涼香さんが言って。

「頑張って溜めた精液、すこし漏れちゃったね♡」

 まるでゼラチンのように、先走ってしまった液体を。

「かわいそ♡」

 涼香さんは、一番奥まで、一気にくわえた。

 絶頂の直後の快楽で、頭がガクガク震えた。

 肉棒がびくびくと跳ねて、涼香さんは容赦なく舌を動かした。

 俺の棒についたすべての液体をなめとって、涼香さんは満足そうに、俺の先端をちゅうちゅうと吸って。

 すり、すり、と。とてもやさしい感触で、俺の側面を、撫でて。

「ゼラチンみたい♡」

 ごくり、と。涼香さんは、そのすべてを飲み込んだ。

 愛しかった。自分が凌辱されているのに、とてもかわいかった。

 そして、腹の底から、ぐらぐらと。欲が、湧き上がって来たのだった。

 どさっ。

 今度は俺が、涼香さんを押し倒していた。

 口をみだらに開けて、涼香さんが俺を。

 じっ、と。そうやって、見て。

「いいよ」

 ――来て。

 それから、俺は獣だった。

 ベッドがきしんだ。

 涼香さんは舌を出していた。

 舌を突き出し、口をいっぱいに開けて、ベッドのシーツをぎゅっとつかんで。

 もう片方の腕で俺の腕をしっかりとつかんで、目元に涙をたくわえて。とても、気持ちよさそうに。

 俺はがむしゃらに腰を振っていた。理性なんてなかった。

 この人の奥に何度もついて、ついて、ついて、ついて、ついて。

 深く、できるだけ深くに。

 同じところをなんどもついて、考えなんてまったくなしに。

 ただずっと、この人の体を、むさぼることだけしか、頭にはなくて。

 突きながら、胸を揉んで。

 あの時一目ぼれした時、とても大きかったそのおっぱいを、後ろから何も考えずに突きながら、手にいっぱいに掴んで。

「深っ、はげしいっ、よっ……♡」

 俺は腰を掴んで、逃がさないように、ぎゅっと。

「真琴くん、そんな同じとこ、いっぱい、あっ♡」

 びくんと涼香さんの頭が跳ねる。

 俺は、ぐいっと彼女の体を抱き上げて。

 彼女の肩の、フェロモンいっぱいのあせを舐めて。

「だめだよ……♡ ねえ、すぐに……」

 どさっ、と。

 涼香さんの体に、覆いかぶさるように。

「すぐに、キちゃう……♡」

 待って……

 そう言おうとする、涼香さんに。

「俺は、寸止めとかしないから……」

 このまま、イカせる。

 奥を、突き続けた。

「やぁっ!? らぁっ♡」

 舌ったらずで喘ぐ涼香さんがいとおしい。

 何回だってそれを聞きたい。

 快楽に潮を吹いてしまっているみだらな体がめっちゃエロい。

 何回だって、その奥を。

「一番奥ですよね、はあっ、大好きなところ」

 涼香さんの一番好きなリズムで。

 そこを、俺は執拗に突く。

「いって、いいですよ」

 ほら……。

 もっと。

 俺に、もっと。

 びくりと涼香さんの頭が跳ね上がる。

「ッフ!!」

 その腕をつかんで、見計らって、全力で奥に押し込んだ。

「オ゛ォっ!!」

 獣のような声を出して。

 がくがくがくっ、と涼香さんは、絶頂をした。

 最初は俺の方が先にイってしまっていた。

 でも今は、そうじゃなかった。いつしか、俺の方が、涼香さんをきもちよく。

 イかせる。

 イかせる。

 肉棒が、涼香さんのなかから抜ける。

 びくびくと、きもちよさそうに、後頭部が揺れている。

「ッ はひっ♡」

 ぽーっと、してしまっているその体に。

 俺は、またいれた。

「あっ、今だめっ」

「言ったでしょ? 何度もイカせるって」

「真琴くん落ち着いてっ♡ 今トントンしないでっ」

 涼香さんがグズグズになるまで。

「ふぁ……♡」

 大きく口を開けて快楽に耐えている涼香さんをもっと。

「涼香さんの弱いトコ、今日は全部イかせるから……」

 他の男じゃ満足できなくなるように。

 奥に、奥に、奥に。

 後背位から体位を変えて、涼香さんを仰向けにさせる。

 めいっぱい、腕をつかんで。

「そんにゃ、らぇ♡、もう……♡」

 子宮を、泣かせる。

「♡♡♡――――ッ、♡♡――――!!!」

 ぎゅーっ、と、中が締まった。

 涙を流して、涼香さんが舌をだらしなく出す。

「ほんとに、待っ」

 それに、俺はおおいかぶさった。

「れぁ♡」

 その開いたくちを、俺は侵略した。

 涼香さんが俺に脚を絡ませて。

 ずっとずっと奥に届くように。

 口も。まんこも。奥も、全部入って。

 とろとろと、一番奥が、開くのがわかった。

「涼香さん!!」

「はぁっ……」

 汗と、唾液と、涙まみれになった、口を離して。

 すべてを、吐き出した。

「~~~~~~♡♡♡」

 涼香さんは枕をつかんで、腕を大きく上げて。

 あーっ♡、と、乱れた声を、大きく上げて。

 俺の放ったものを受け入れながら、涼香さんは絶頂した。

 出る。もっと出る。

 精液が吸われるように。

「っはあっ、はあっ、はあっ!」

 涼香さんの顔の横をつかんで、とろとろになったその顔を見て。

 まだ射精が続く。

 奥にもっと入る。

 ぎゅーっ、と、俺の肉を受け入れてくれて。

「ッハァ!! は……ッ」

 長い射精が、終わった。

 体の力が、抜けてしまう。

 俺は腕を後ろについて、天井を仰ぎ見ていた。

「はあ、はあ、はあっ」

「これ……」

 涼香さんが、ふとつぶやく。

「?」

 体を起こして、涼香さんはおしりをこっちにむけて。

 その光景が、本当にエロかった。

 腕をベッドについて、上半身を上げながら、彼女が見せているのは、ついさっきまで俺が凌辱した、彼女の入り口だった。

おっぱいも、おしりも、まんこも、とろけた顔も。そこから、全部が見えた。

「こんなにドロドロの、いっぱい……♡」

 ごくっ、と、涼香さんは唾液を飲み込んで。

 それから、脚をひらいて、仰向けになって。

 入り口を、手で開いて見せた。

「ダメな日だったら絶対妊娠しちゃう……っ、まだ出る……♡」

 そこから、俺の子種が、どろりと垂れていた。

 どくん、と心が跳ねた。

 そうだ。この時の。

 俺は、この人を、にんしん……妊娠、させようと、していた。

 俺の精子が、涼香さんを。そう思って。

 この人を、俺は、孕ませたかった、とはっきり思った。

 そのあと一緒にお風呂に浸かって。

 涼香さんが俺にキスをして。

 この人を、孕ませる。

 いや、さすがに、そんなことは、と。

 理性がそう考えて。

 キスをしてきた涼香さんの舌が、俺の中で暴れている。

 この時、この人も、ただ俺を求めていた。

 許されるわけがない。

 だって、この人は――――

「ねぇ」

 俺の肉棒を、涼香さんが撫でた。

「これ……さっきより、凶悪な感じになってない?」

 ダメ、なのに。

 なのに、俺は……

「部屋、もどろ……?」

 その夜、こう、決断していたのだ。

 今夜、この人を孕ませる。

 そう、決めた、と。

 安全日とか、なんだとか、そんなこと、関係なくなるくらいに。

 俺の、精液漬けにして。

 俺の女だって。しるしをつけて。

 他の、誰にも、渡さないように。

 俺の、俺の精子で。

 それから、俺は。

 ずっと、腰を振り続けながら。

 何も覚えていないあたまでただずっと。

 ただ無防備になった涼香さんの子宮に。

 もっと深くにちんこ埋めて、一滴だって漏れないように。

 何回も射精して。

 流し込んで。

 涼香さんを、ずっと、抱きしめて。

 しつこく小突いて。

 なんども体位をかえて。

 子宮口説いて。

 ずっと、小突いて。

 何回も、射精して。

 本気に、させて。

「真琴くん……!」

 もう、どろどろだった。

 胸を乱暴に放り出した涼香さんは。

 もう、目を涙でぐちゃぐちゃにして、口からの唾液でどろどろになって。

 淫らに、吐息をはいていた。

 その体がぞくり、とうずいたところに。

 孕め。

 そうやって。

「ふぁ♡ イク♡」

 奥に、奥に。

「すごっ、これっ」

 強く、強く。

「また、イっちゃ」

 深く。

「奥イク……♡」

 孕め!!

「イ゛ッ♡♡♡」

 びゅぐるっ♡♡♡

 びゅーーーーー♡……

「っ……♡」

 はあ……。

 もっと……。

「っ♡」

 俺の顔を、涼香さんがなでた。

「ほんと……。考えてること、顔に出すぎ」

 涼香さんも、分かっていた。

 その時……俺の、気持ちを。

 そして、俺に。

「でもすごいうれしい……」

 その一言で、胸がまた高鳴って。

 この人も、俺のことをそう思っているんだって。

「本当は私も真琴くんのこと」

 ――――ほしい……。

 また止まらなかった。

「はっ、締まる、イック……!」

 いつの間にか、またしていた。

 涼香さんは限界も超えて、四つん這いになって、嬉しそうな淫乱な声で、叫んでいて。

「来て♡ 孕ませてっ♡ ドロドロの精液全部子宮に出して♡」

 そして。

「妊娠、させてっ……♡」

 そう、認めて、くれた。

 涼香さん。

 涼香さん。

 涼香さん。

「涼香さんッ出します!! だから必ず、孕んでください!!」

 出る……ッ

「うん♡ だして、だしてっ!!」

 ――――真琴くんの、赤ちゃんちょうだい………

「ッ」

 ドクンッ

 びぐびぐびぐっ

 びゅるっぶびゅびゅぐっ、ぐびゅるるるっ

 震える。ずっと奥に。

 ガクガクガク、と涼香さんが震える。

 まだ、奥に。ずっと、奥に。

 もっと、本当に。この人を。

 子宮に、俺の赤ちゃんを。

 孕ませたかった。

 ぞわり、と涼香さんが震えて。

 俺は彼女にのしかかって。

 また、射精しながら。腰を振っていた。

「♡♡♡」

 ぶるりと震える涼香さんを、腕に、強く、抱きしめて。

 その夜は、涼香さんを抱き続けた。

 これが俺の決意だというように。

 そして思った。

 もう何が起きても。すべて、受け入れよう。

 何が、あっても。この人に。

 朝が、来る頃。

 俺は、そう思っていた。

 

「涼香さんはやめました」

「え?」

 それが、最後だった。

 店長の口から、そう言われた。

「私もよくわからないんだけどね、急に辞めますって連絡だけ来て」

 それが俺の、結末だった。

 それ以上の話は、何も入ってこなかった。

 涼香さんとの夜が終わって。

 もう、そこには何も存在していなかった。

 まるで、夢のような一瞬で。

 いなくなったことが、嘘みたいで。

 ああ、もしかしたら、あの人は最初から幻だったのかもしれない、と。そんな、文学少年みたいなことも思ってしまって。

 その現実を、受け入れられるのかと。

 ただ、ずっと、考えてしまって。

 ずっと。

 受け入れ、られなかった。

 

 衝撃だった。

 本当に唐突だった。

 間違いなかった。その顔は。

 もう、顔が、最初から見えていた。

 なぜならば。彼女が、喫茶店の店に入ってくるところだったから。

 店長と話をしている。久しぶりですね、あの時は急に辞めてしまってすいません。

 そんな、話をしている。

 涼香さん、だった。

 こちらに、気が付いた。

 あの眼鏡。後ろでまとめたばらばらの赤毛。冷たく不愛想な顔。

 それが、こっちを見て。

 ほころんで、俺に手を振った。

「すずか、さん」

 夢かと、思った。幻なんじゃないかと、感じた。

 気が付けば、その人のそばに、駆け寄っていた。

 それから、また気が付いた。後ろに、誰かいると。

 顔が、見えた。男のひとだった。

 ベビーカーを、押していた。

 その中には。本当に小さな赤ちゃんが、すうすうと寝息をたてていた。

 舞い上がった心が、ぎゅうっ、と、止まりそうなくらいに締め付けられた。

 ぎゅっ、とこぶしを握り締めてしまった。

 ただ、この顔だけは涼香さんに見せたくないと。俺はうつむいていた。

「久しぶり」

 そう言われて、俺は顔を上げた。

 それから、涼香さんの顔を見た。

 微笑んでいた。

 いつも仕事中は不愛想だったあの表情が。すこし赤らめられて、和らいでいた。

「元気してた?」

「っ、あ」

 声がつっかえて出なかった。

 緊張で、喉が震えていた。

「あっ、はいっ、元気、です」 

 やっと、会えた。

 なのに。

 体中が、冷汗でいっぱいだった。

 それでも心は高鳴っていた。でも、なんだか苦しかった。

 苦しいのに、うれしかった。会えたのがうれしいのに、苦しかった。

「そっか。良かった」

 涼香さんはそう言った。

 それから。

「もうすぐバイト、終わるよね」

「え?」

「夫、カフェで休憩させるから。ちょっと、歩かない?」

 首を縦に振らない理由が、なかった。

 涼香さんはそれから、席に座って。三十分ほど、談笑していた。

 対面にいる、旦那さんと。

 とても、楽しそうな人だった。話している涼香さんは、とても嬉しそうだった。

 でも、それを妬む権利が俺にはなかった。俺が部外者、だったから。

 最初から、この人は、あの人と一緒になっていたから。

 それでも、うれしかった。

 涼香さんに会えたことが。

 涼香さんにメニューを聞いて、その注文をとれたことが。

 涼香さんにコーヒーを持って行って、少しの会話ができたことが。

 涼香さんと、話ができていることが。

 たまらなくうれしかった。それだけで、本当にうれしかった。

「行こうか」

 俺の仕事の時間が終わって、涼香さんはそう言った。

 旦那さんに二言、『昔のバイトの後輩と、ちょっと話してくるね』とそう言って。

 僕らは、店を出た。

 行く先は、路地裏だった。

「真琴く」

 抱き着いていた。

 そのうしろ姿に。

 涼香さんの頭に、顔をうずめて。

「あいたかった、です」

 自分の涙ぐんだ声で、そう言った。

 俺は泣いていた。

 涙が出てきて、止まらなかった。

 やっと会うことができた。

 この人と話すことができた。

 この人に触れることができた。

 また、この人という存在を、認識することができた。

 この人に……この人の目に、映ることができた。

 止まらなかった。涙がどんどんとあふれ出てきた。

 ずっと熱いものがこみ上げて。息が勝手に口からもれて。

 ぎゅっ、と。

 腕に力を込めていた。

「そんなに私に、会いたかったの?」

「はい」

 即答した。

 涼香さんの声は、かわらず、俺をおちょくるような声だった。いつもと変わらない調子で、俺を遊ぶかのような声。

 そうだ。遊びだ。あの長い間の関係は、涼香さんの遊びだったのだろう。

 でも、それでもよかったんだ。遊びだって、なんだって。この人に、会うことができたなら。

 理由は何でもよかった。

 この人が。

 たとえ気まぐれだったって。

 少しでも、俺のことを思い出してくれて。

 よりみちを、してくれたのならば。

「久しぶりだね」

「はい」

「私に会いたかったんだ」

「ずっと」

「一人でさみしかった?」

「はい」

「ずっと、わたしのこと考えてたんだ」

「はいっ……!」

 涼香さんの手が、俺の腕を、さらりと撫でた。

 きゅっ、と。それから、俺の手を、掴んだ。

「いいよ。真琴くん」

「え?」

「ひさしぶりに、しよっか」

 

 それから。

 涼香さんは、長い丈のフレアスカートを、たくし上げて。

 俺は、チャックを開いて、そこから肉棒を取り出していた。

 そうだ、この服装は。あの時、最後の時のものと、同じだった。

「いいよ」

 息が荒かった。

 路地の壁に手をついて、腰をこちらに突き出す涼香さんは。

 とんでもなく、魅力的だった。

 興奮の息、それと一緒に。感情の息が、はっ、と漏れ出た。

 それを塗りつぶしたくて。今は、忘れたくて。

 俺は、涼香さんの中に入った。

「あっ」

 びくんっ、と涼香さんがゆれる。

「はあっ」

 俺も、同じだった。

 熱い。暖かい。ぎゅっ、と絡みついてくる。

 がしっ、と涼香さんの肩を掴んで。

 ずにゅっ、と奥までいれた。

「はぁっ、あっ♡」

 はあ、はあ。

 気持ちよかった。快楽がすごかった。

 ぎゅっ、ぎゅっ、と包み込んでくれる肉の壁。とても、きもちいい。

 幸せだった。懐かしかった。

 はあっ、と息が漏れて。

 安心感が、心の底から湧き上がって来た。

「なんか、前よりおおきくなってない? ひさしぶりっ、だからかな」

「涼香さん」

 俺は、涼香さんの体を、抱きしめた。

 ぎゅっ、と。ずっと。力、いっぱい。

 先が、ぐっ、と奥につきこまれる。

 ふっ、と涼香さんはびくりと震える。

 ぐん、ぐんっ、ぐっ、と。

 ずっと奥の方で、俺は腰を動かした。

「あっ、ふかっ、ちょっと」

 まとわりついてくる。涼香さんの壁が。

 突くごとに、びくんとうねって、ぎゅっと絡んできて。

 ここを突けば、涼香さんはびくんと跳ねる。

 奥の底に、ぐーっと押し当ててやれば、びくびくっ、と小さくイく。

 変わってなかった。

 すべてが。おんなじ、だった。

 そう、思いたかっただけかもしれない。

 でも、確かに、俺はそう感じた。

 ぎゅっ、と胸を掴んで。

 服の上からは、そういえばあまりなかったな。

 そう思いながら、服が崩れることもいとわずに、大きな胸を、両手で揉みしだいた。

「イきます、涼香さん」

「っ、ふぁっ、いっ、いいよっ……あっ、なか、でいいよ――――」

 どくっ。

 どくどくどくっ。

 腰が、その場で抜けそうだった。

 ぎゅっ、とひときわ強く、俺は涼香さんを抱きしめた。

 できるだけ奥の方に。気持ちよくできるように。

 いや、そうじゃない。

 涼香さんを。

 どこにもいかせたくなかった。

「好きです」

 びくっ、と中がうねった。

「ふぇ?」

「すきです、すきです」

 また、俺は腰を動かした。

 そのまま。また、始めた。

「えっ、真琴くん、ちょっとまって。今、いったばか――――」

 ぐんっ、ぎゅっ、ずぷっ。

 絡みついてくる肉の奥を、俺は突いて行く。

 喉の奥からこみ上げてくる感情を押し込めるように、無心に突いていく。

「はあっ」

 息が、口からもれる。

 ぎゅうっ、ぎゅううっ。

 強く、力強く、抱きしめて。

 奥に、奥に突きこんでいって。

 そうやって、まだ、まだ、としていって。

 できるだけ、できるだけ味わいたくって。

 それでも、終わりの予感がしてしまって。

 あれだけいつも望んでいた快楽の絶頂が。今は、なんでか。とても、惜しくて。

「好きです、好きなんです」

 俺は、泣きながら、抱きしめていた。

「はあっ、涼香さん。大好きです。っ、ずっと……」

 本当に、最低な告白だ。

 奥を凌辱しながら、感情を吐露しながら、自分がってにいって、独りよがりにやって。

「ごめんね」

「ッ」

 涼香さんがささやいた。

「ごめんねっ、真琴、くん」

 わかってる、そんなことは。

 この人には、いるんだ。

 隣にいる人が。一生を過ごす人が。ずっと、一緒にいる人が。

 家族が。

 でも、俺は。

 俺は……!

「涼香さん……行かないでください」

 そんなことを、いわずにはいられなかったんだ。

「行かないでください。消えないでください……また、いなくなっちゃったりしないでください」

 ぎゅっ、ぎゅっ、と奥を突きながら。

「なんでいなくなったんですか。なんで何も言わずに消えちゃったんですか。なんで、挨拶もなしに……」

「っ、ふっ」

 ぼたぼたと、涙が涼香さんの肩に零れ落ちていく。

 彼女の、タートルネックのセーターを濡らしていく。

「ごめんね」

 涼香さんは、またそう言った。

「ごめんねっ……ごめんね……」

 それしか。それだけしか、言ってくれない。

 その理由は分かる。

 そうとしか言えない。涼香さんの、理由が。

「はあっ、はあっ」

 ああ、終わりたくない。

 射精したくない。

 涼香さんと、離れたくなかった。

 もっと、ずっと一緒にいたい。いつまでも、こうしていたい……。

「っ、ふっ」

 でも、目の前で喘ぐ涼香さんには。

 俺以外の人間がいて。ずっと、最初からそうで。

 その顔は、俺には見えない。

 俺は、ただの後発の男だったから。

 ぐーっ、と下腹部が熱くなる。

 腰の動きがはやくなる。

 ぱんっ、ばんっ、ばちゅんっ、ばちゅっ。

 路地裏に、みだらな音が広がる。

 誰かに見られるかもしれない。そんなものはどうでもいい。

 ただ。名残惜しい。涼香さんがいなくなってしまう。

 いやだ。もっとずっと。いっしょに、ずっと――――

「涼香さんっ……」

「あっ――――♡」

 全力の、力を込めて。

 びゅるっ どくっどくっ

 奥に、ずっと、奥に。

 それを、注ぎ込んだ。

 いなく、ならないで欲しい。

 その気持ちを込めて、さらに、俺は涼香さんを抱きしめた。

 きゅっ、と中が締まる。

 びゅっ、びゅっ、と残りのものが、さらに飛び出していく。

 それで、少しでも涼香さんが、俺のことを求めてくれているような気がして。

 あと少しだけなら、受け入れて、くれるのかと。

 もうすこしだけ。ちょっとだけ、一緒に。

 涙を、流しながら。

 しばらく。俺は、抱きしめ続けていた。

 

「お会計、1759円になります」

 時間が、終わった。

「二千円で」

「はい」

 涼香さんがお財布から二枚の千円を取り出して。

 それを俺はつかんだところで、自分の手が震えていることに気が付いた。

 ぐっ、と手に力を入れて、お金をうけとり。

 おつりを清算して、小銭を取り出して、涼香さんに渡した。

 すっ、と差し出された手は、とてもきれいで。でも、あの時より、すこし厚くなったようにも見えて。

 それに、俺は小銭を渡した。

 ああっ、と、傍で何かが高い声で泣き出した。

 そちらを見ると、それはベビーカーの中からだった。

 高い声で、泣く赤子。

 それを涼香さんはベビーカーから抱き上げえて、あやすように、体を揺らし始める。

「いい子いい子。ほーら、大丈夫、大丈夫」

 そうか。涼香さんは、母になったのか。

 とても新鮮で、その光景に、俺はしばらく見入ってしまっていた。

 とても幸せそうな顔だった。自分の子供に向けるその視線は、とてもやさしかった。

 なぜか、ぐっ、と目元が熱くなった。また、泣き出しそうになってしまった。

「ほら、真琴くん、見て」

 涼香さんが、赤ちゃんを抱いて、俺の方に向けてくる。

「かわいいでしょ」

 赤らめて、かわいい顔で、涼香さんは、そういった。

 やすらかな、顔だった。涼香さんのあやしで、いつの間にかもう、目を閉じていた。

 俺は、目元をごしごしと拭った。

 それでも、嬉しかった。

 そして、はっと思い出した。

 あの時。あの、最後の夜。

 俺は、涼香さんを。

 この子は。

 涼香さんの腕の中で、くう、くう、とかわいらし気に寝息をたてる。この子どもは。

「なに? 感想はないの?」

「あっ……。はい」

 俺は、唾液を飲み込んで。

 言わなければ、いけないことを。

「とても、かわいいです」

 でも、本心から、そう言った。

 それは。その、子どもは。

 もう、会えなくても。

 涼香さんとの、ずっと、ずっとの、宝物。

 それが、そこに生きている。

「女の子。琴葉っていうんだよ。楽器の琴に、はっぱの葉ね」

 息が、つまった。

 また、目が熱くなって。

 俺は、心の底から、笑うことができた。

「いい名前ですね。大事に、してください」

「もちろん」

 そして、その子を抱きながら、涼香さんは、出口へと歩いて行った。

 涼香さん、その後ろに続く、旦那さん。そして涼香さんの腕に抱かれる、かわいい赤ちゃん。

 扉を開き、外に出る、最後の間際で。

 涼香さんは振り返って、こう言った。

「またね」

 その顔を、俺は一生、忘れなかった。

 


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