漫画『はるかリセット』(野上武志先生・チャンピオンREDコミックス)の二次創作です。
主人公の春河童先生をふたなりにして、梶井基次郎の『桜の樹の下には』をオカズに「リセット」(意味深)していただきました。

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第1話

「――では、今回も玉稿賜りました。お疲れ様です、春河童先生」

「はい、ありがとうございました!」

 

今月もどうにか無事に、原稿を納品できた。

 

「…………あぁ~、きっつかったぁ~」

 

担当の大山さんを見送ったあと、畳の上に大の字になる。

天井を見上げながら、深く息を吐く。

文筆家業の宿命とはいえ、締め切り直前の修羅場は何度経験しても辛いものだ。

 

「お疲れさま、はるか!」

 

労う声に視線を向けると、奥の襖から顔を出したマリコが、満面の笑みを浮かべていた。

 

「うん、今月もありがとねー! ほんっとーに助かったよぉ」

 

マリコは学生時代からの友人。

かつては某大手企業の社長秘書をしていたが、今は私の秘書として働いてくれている。

電子機器の画面が苦手な私にとっては、手書きの原稿をパソコンで清書してくれるという点においても、大切なパートナーだ。

 

「どう? 今日のお昼ご飯は?」

「んー……今はあんまり食欲ないかな? 昼はこのまま寝て、その分、夜はお祝いに美味しいもの食べようかなって……」

「あら、それならとっておきのお店があるんだけど、今夜はそこでお祝いしちゃう?」

「いいね、じゃあ予約は任せた! 夕方になったら連絡ちょうだい、それまで寝てるか―――ふわぁああ……」

 

大きなあくびが会話を遮る。

 

マリコはくすりと笑って、

「はいはい、わかったわ。じゃあ、また夕方ね」

そう言い残して玄関から出て行った。

 

「うん、ありがとー」

 

軽く手を振って見送ると、いよいよ私一人になった部屋で、再び大きなため息をつく。

 

「……はぁ~~~~」

 

締切間際の緊張で強張っていた全身の筋肉が、一気に弛緩していくのを感じる。

先程宣言した通り、今日はこのまま夕方までひと寝入りと洒落込もう。

 

……だが、目を閉じた瞬間、私の体を突如、得も言われぬムラムラとした感覚が襲い始めた。

そう、主に下半身的な意味で……。

 

(あー……やっぱこうなるよねぇ)

 

体を横たえたまま股間に目をやると、そこにはもう立派な『山』が出来上がっていた。

布地を押し上げ、まるで噴火直前の火山のようなシルエットを浮かべている、我が愛しの『万年筆』。

仕事終わりには、いつもこんな感じだ。

 

こうなっては仕方がない。

 

「――よーし、『リセット』するかぁ……!」

 

リセット。初期化。

私は主に「息抜き」という意味で、この表現を使うことが多い。

仕事が終わった時、自分へのご褒美として。

あるいは、仕事が行き詰まった時、敢えての気分転換として。

どこかに出かけたり、家の中を掃除したり、なにか新しいことに挑戦してみたり――

とにかく、「自分の中に溜まっているもの」を一旦全部吐き出して、体と心を「再起動」させるのだ。

 

最近では、この『リセット』自体をテーマにしたエッセイの連載もしていて、先日おかげさまで連載100回を突破、我ながら色々とやってきたものだと思う。

そして今からやろうとしている行為も、そういう意味では正しく『リセット』なのだけれど、その内容はちょっと原稿のネタにはできない類のものというか……

ええ、はい、つまり、アレですよ、自慰行為、オナニー、自涜、マスターベーション、ご自愛、ひとりエッチ。

その類の行為のことです。

 

……とはいえ、そこは物書きである私のすること。

世間一般の皆様とはちょっと違うこだわり(こじらせとも言う)がある。

 

「さて、それじゃあ今日は、どのお話"で"致しましょうかねぇ……」

 

畳の上に横になったまま、私は脳内の本棚にある大量の蔵書を検索し、その中から今日の「おかず」を選定する。

川端康成をはじめ、森鴎外、太宰治、谷崎潤一郎、江戸川乱歩、宮沢賢治に至るまで、近代文学の文豪たちが記した「性愛」にまつわる作品は、意外なほどに多いものだ。

そして、幼い頃から文学に親しんできた私が、それらの作品から性の目覚めを得たことは、ある意味、必然であったと言える。

今回の仕事は相当ハードだったので、今日はあまり直接的なやつじゃなくて、もっとこう、ジワジワくるやつで楽しみたい気分だ。

 

――季節は春。

 

開け放った窓から、ひとひらの桜の花びらが迷い込んでくる。

淡いピンク色の一片が、ひらりと畳の上に舞い降りる様を目で追うと、私の脳裏にはひとつのお話が思い浮かんだ。

 

「……よし、今日は梶井基次郎にしよう!」

 

そう決めた私は、早速、そのお話の世界へと没頭していった。

 

――桜の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか――

 

梶井基次郎『桜の樹の下には』。

一人称の文体でグロテスクな自説を開陳するこの文章は、一般的には「桜の花があまりにも美しすぎたから、その裏には何か得体のしれない秘密があるのではと不安になったのだ」という解釈がされている。

 

しかし見方を変えれば、この有無を言わせない一人語りの力説ぶりは、何かの行為の「言い訳」のようにも思えないだろうか。

そう、それはまさに、私が今これからしようとしていることと同じ――美しいものの中にふと感じてしまったエロスを、ついつい自慰行為のお供として使ってしまうという、背徳的な行いの正当化とも解釈できる。

 

梶井基次郎は、自分自身の内なる黒いリビドーを、「桜」という美しいものを通して表現したかったのではないか?

というか、あの勢いある文章そのものが、最早ある種のオナニーのような趣さえ漂わせてはいないだろうか――?

そう考えたらもう止まらない。

だから私は今日、『桜の樹の下には』をオカズにして、自分の股間にそびえ立つ『桜の樹』を愛でることにする……!

 

◆◆◆

 

「あ~~……もうダメ。我慢出来ない……!」

 

帯を解き、着流しを脱ぎ、満を持してショーツを脱ぎ去ると、「むわっ♡」と立ち上る熱気と性臭。

そして、その奥に隠れていた、私の万年筆……もとい、『桜の樹』が姿を現した。

 

「はぁ~~っ♡ 我ながら相変わらず凶悪なフォルムしてるなぁ……♡」

 

ギンッ♡ といきり勃つそれは、決して何かの比喩とか大人のおもちゃとかではなく、正真正銘、私自身の股間から生える『本物のおちんちん』だ。

そう、私は生まれつき雌雄両性の性器を併せ持つ、いわゆる「ふたなり」と呼ばれる身体的特徴の持ち主なのである。

普段は普通の女性と見分けがつかないくらいに小さく隠れているけれど、締め切り直前などで極度の緊張感が数日間続いたり、あるいは性的な興奮が高まると、こうしてお股から元気よく頭を出してきてしまうのだ。

ちなみに、マリコを始めとする一部の友人にはカミングアウト済みで、幸いにもみんな理解を示してくれている。

というか、さらにその一部とは、ぶっちゃけ更に深い関係になってたりもして……まあ、その辺りについてはまた別の機会に。

 

――と、そんなことを考えているうちに、私の『桜の樹』はどんどんと雄々しく反っていく。

それと同時に、先程まで溜め込まれていたものとはまた異なる性臭が、私の鼻腔をくすぐり始めた。

 

「うーわ、くっさ……♡ やっぱこの臭い、たまんない……♡」

 

自分自身すら虜にしてしまう、それとも自分自身だからこそ特別に感じてしまうのか、その臭いは私の脳を麻薬のような多幸感で満たし、さらに私を興奮させていく。

一度意識してしまうと、もう止まらない。

 

「はー……っ♡ んっ♡ 堪らなく臭い……♡ こりゃ『屍体の臭い』だわ……っ♡」

 

鼻が触れるか触れないかというところまで顔を近づけ、漂う性臭を胸いっぱいに吸い込むと、いよいよ私の中のメスの部分が刺激されて、キュンキュンと疼き始める。

そして同時にオスの部分も、ますます私の『桜の樹』を花咲かせ、私の頭の中はまさに春爛漫といった具合だ。

 

もう我慢できないとばかりに、私は自らの舌を伸ばして、眼の前のそれをぺろりと舐め上げた。

 

――おまえは何をそう苦しそうな顔をしているのだ。美しい透視術じゃないか。俺はいまようやく瞳を据えて桜の花が見られるようになったのだ。昨日、一昨日、俺を不安がらせた神秘から自由になったのだ――

 

「あっ♡ んむ……っ♡ はふ……っ♡」

 

セルフフェラ。

ふたなりもののエロ漫画ではよく見かけるプレイだが、実際に自分の体でやってみると、これがまた実にいいものだ。

口の中に広がる味と臭いに、私の脳みそがぐずぐずに溶けていく。

舌の上に広がる苦み、そして鼻に抜ける青臭さはまさに樹液のそれであり、やっぱりこれは『屍体の臭い』だと実感する。

しかしそれでいて、どこか甘く感じるのは何故だろうか。

その甘さが、より背徳的な行為への没入感を増していく。

 

ゾクゾクとしたオスの快感が背中を走り抜けるのを感じながらも、その快感は当然ながら、私のメスの部分にもフィードバックされるわけで……ああもう、これだからふたなりは!

私は唇だけで『桜の樹』の先端を食むようにしながら、空いた両手を使って、先程から上半身で疼いている二つの『お山』を揉みしだき始めた。

 

「んあっ♡ ふーっ……♡ これっ、やばいかも……っ♡」

 

普段は大して感じるわけでもないのに、こうして他の部分と一緒に刺激してやると、途端に膨れ上がる乳首と乳輪。

それを指先で摘んで伸ばしながら、その谷間で『桜の樹』の幹を挟み込むように包んでやれば……!

 

「へへ……セルフパイズリフェラ、最高……っ♡」

 

ゆさ♡ ゆさ♡ と体を揺らしながら、自分の体の持ち味をフルに活かして、自分自身を慰める。

 

「はむっ♡ んっ♡ んふっ♡」

 

あー……我ながらすごい絵面だ、これ。

こんな姿、他の誰かに見られたら軽く10回は死ねる。

でも……だからこそ、背徳的な興奮が止まらない……!

気づけば私は、自分でも驚くくらいの吸引力と舌遣いで、目の前のそれを味わい、そして自分の胸を揉みしだいていく。

 

もう限界だ! イクッ! イっちゃうっ!!

 

「んぐっ!♡ ん~~っ♡♡♡!!!」

 

どぴゅるるるるっ!!!♡♡♡ びゅくっ!♡♡ どぴゅっ!♡♡♡ びゅるるるるるっ!!!♡♡♡♡♡

 

瞬間、口の中に勢いよく放たれる熱い迸り。

それに一瞬遅れて広がる、苦味と生臭さ。

でも、それがたまらなく愛おしいものに感じられた。

 

「んふっ……♡ ふーっ……♡ んくっ……ゴクッ……んっ……♡」

 

もう何度も味わったことのあるその味は、決して美味しくはないはずなのに、なぜか病みつきになってしまうのだ。

 

――何もそれを不愉快がることはない。べたべたとまるで精液のようだと思ってごらん――

 

いや、これマジで精液ですから……。

そんな一人ツッコミを入れながらも、生命の源である液体をすすりながら自らのリビドーを開花させる私の姿は、なるほどまさに『桜の樹』そのものであることだなあ、と妙に納得してしまったりする。

 

「んくっ……♡ ぷはっ……はぁーっ……♡」

 

そして、最後の一滴まで飲み干したところで、私はようやく一息ついた。

 

「……ふぅ、ごちそうさまでしたっと」

 

だが、ここまでは言わば前菜のようなもの。

なぜなら、『桜の樹』は満開になっても、その根本にある『秘密』はまだ暴かれていない。

水晶のような液をたらたらとたらし、貪婪な蛸のように花弁をヒク着かせる『溪』――こちらも満足させないことには、オスメス兼ね備えた私の体が本当の意味で「リセット」されるには至らないのだ。

性感帯の数は人一倍あるというのに、腕の数は二本しか無いものだから、その全てを同時に満足させることは、なかなかに難しい。

 

古代ギリシャの哲学家・プラトンの著書によれば、人間は遠い昔、一つの体に雌雄両性を備えていたばかりか、腕も足も四本ずつ、頭も前後に二つという「完全な姿」であったという。

しかしその全能ぶりを奢ったことが神の怒りに触れ、罰として今のような男女別の姿に分かたれたのだとか……。

ということは、私のこの体は、神様の忘れ物的なアレなのだろうか?

まあ、そんな哲学的な話はさておいて。

 

「さて、それではご開帳~♡」

 

これまで敢えて手を付けていなかった、『桜の樹の下の秘密』に、私はとうとう手を伸ばした。

 

くぱぁ♡ と割り開かれたそこは、もう既に十分に潤っていて、私の指を何の抵抗もなく受け入れていく。

 

「んふっ……♡」

 

そして、そのまま中へと侵入していく指先。

第二関節まで入ったところで、私はその指をくいっと曲げた。

すると……。

 

「ぁ"♡♡♡」

 

今までとは段違いの快感が、私の体を走り抜けていった。

そこは、女性器の中でも特に敏感な部分であるGスポット――であると同時に、男性器の根本、前立腺の役割も兼ね備えた、ふたなりだけの特別な器官。

いわば、「オスとメスの境目」にあたるその部分を指で押し込むと、声にならない喘ぎが、私の意思を無視して喉奥から漏れてくる。

 

「――ぁ♡ っ、……ぅ♡ っ……♡♡♡ お"っ……♡♡♡♡」

 

そのまま、ぐりっ♡ ぐにっ♡ と指の腹でそこをこね回すと、自分という人間がぐにゃあと溶けていくような、そんな心地よさが私の頭を支配し始めた。

 

「ん"っ♡ お"っ♡ お"ぉ"っ♡♡ あへ……っ♡♡♡ はへぇ……っ♡♡♡」

 

エロ漫画の女の子のような、品のない喘ぎ声が止められない。

私の一番の商売道具であり、同時に様々なものを縛り付けている「日本語」の語彙力を、今このひとときだけは完全に言語野から放逐する。

でも、それがいいのだ。

そこまで「リセット」してこそ、私は本当に自由になれるのだから。

 

「お"っ♡ おほっ♡ お"っ♡ お"っ♡ お"ぉ"っ♡♡ あへっ♡♡♡ んひぃぃぃっ♡♡♡♡♡」

 

あさましい肉の声が、室内の空気を満たしていく。

しかし、ここは私の城。私が自由に振る舞える場所。

誰に見咎められることもなく、むしろ誰かに見せつけてやるかのように、私は空いていたもう片方の手で、再び自らの『桜の樹』を刺激し始めていた。

先程よりも更に激しく、そしてねちっこく、時には自分の胸も揉みしだきながら。

体の内側から押し出されるように尿道から勢いよく飛び出る我慢汁のしぶきが、私の顔にびちゃびちゃと降りかかるが、それを拭うことすらも煩わしい。

ただただ、この快楽を貪り続けるだけの存在に成り果てた私は、いよいよ最後の瞬間へと向けて駆け上がっていく――!

 

「お"っ♡ お"っ♡ お"ぉっ♡♡♡ イ……ぐっ!♡♡♡」

 

ぷしっ♡ ぴゅるるっ!♡♡♡

 

「あ"~~……っ♡♡♡♡♡」

 

それまでとは一転した情けない声とともに、私のメスの部分から勢いよく噴き出した潮が、シーツの上に染みを作っていく。

一方のオスの部分は、射精を伴わない絶頂、ドライオーガズムのおかげで、透明な汁をぴゅる♡ぴゅる♡ と弱々しく漏らすのみ。

 

――ああもう、本当に最低で最高な「リセット」だ……こんな姿、誰にも見せられない……!

 

「はーっ……♡ はーっ……♡」

 

荒い呼吸を繰り返しながら、私はゆっくりと指を引き抜いていく。

もうすっかりふやけてしまったその指をぺろりと舐め取ると、それだけでまた、私の中のオスとメスの部分が同時に昂り――いや、これは「求め合って」いるというべきだろうか。

体は一つだけれど、そこに同居する二つの性が、お互いの存在を同一人物だと認識できていない。

いや、同一人物だと認識した上で、敢えて知らんぷりを決め込んでいる、と言った方が正しいかもしれない。

 

――ああ、なんて都合の良すぎる解釈、都合の良すぎるカラダだろう。

 

でも、それでいいのだ。

『ふたなり』とは、そういうものなのだ。

 

「はぁ……♡ はぁぁ……っ♡」

 

絶頂の余韻に浸りながら、私の体はまたも勝手に動き始めた。

今度は何をしようというのか――それは私自身にも分からない。

ただ、この体の奥底から湧き上がる衝動に突き動かされるがままに手を動かし、足を開き、そして――

 

「ん……♡」

 

気が付けば、私は自らの花弁に向けて、自らのモノの先端を宛がっていた。

 

――ああ、これは本当に、いよいよもって『ふたなり』の本領発揮だ。

 

私は今、自分の中のオスとメスを、本当の意味で、同時に満足させようしているのだから。

そしてそれは、きっと「リセット」への最短ルートでもあるだろう。

 

「んふ……っ♡」

 

くちゅ♡という水音と共に、私のオスの部分が私のメスの部分に呑み込まれていく。

そして同時に、私のメスの部分もまた、自らのオスの部分を包みこんでいく。

 

「あ……はぁぁ……♡」

 

思わず、溜息が出た。

私の中のオスとメスが、同時に悦んでいるのが分かる。

自己挿入、セルフセックス。

あまりに倒錯的なその行為に、私は背徳感を覚えながらも、ついには根元まで咥え込んでしまった。

 

「はー……♡ はーっ……♡ とうとう、やっちゃったぁ……♡」

 

ふたなりモノ作品でも定番中の定番「自分自身とのセックス」。

この体に生まれたからには、一度はやってみたいと思ってはいた、けれどどこかで理性が歯止めをかけていた行為。

それを、ついにやってしまった。

 

「あ……はは……♡ 私のおちんちん、ビクビクしてる……♡」

 

自分の中がこんなにも複雑に入り組んでいたなんて。

自分のモノがこんなにも熱く滾っていたなんて。

指で触るだけでは絶対に分からない、自分自身のむき出しの生殖能力に、私は思わず身震いしてしまう。

 

すると、

「……っ!!♡♡♡♡」

 

私の膣内をぴったりと満たしているモノの先端が、私の一番奥にある「そこ」に触れた。

先程の秘密スポットのような、鮮烈な快感があるわけではない。

それでも、私の体の最奥部にあるその部分は、生命としての根源的な本能を、オスメス両面から刺激してくる。

 

「あ……♡ あ……っ♡ これぇ……っ♡ 赤ちゃんの……お部屋ぁ……♡」

 

そう、そこは「子宮」。

赤ちゃんを産むための大事な部分に、自分自身のモノが直接触れている。

もしこのまま射精をしてしまったら、私の子宮に自分自身の精液が直接注ぎ込まれてしまう。

それはつまり、自分自身で妊娠をしてしまう可能性があるということで――

 

でもいいか、ここまできたら、もうやっちゃおう。

近代文学によくある、一時の享楽に任せて「人生」という物語を堕落させてしまうような体験を。

 

そうだ。

だって私は「文筆家」だぞ?

自分の「筆」と「インク」で何かを生み出すのは、むしろ本望じゃないか――

 

そう思った瞬間、私の中で、何かがカチリと外れる音が聞こえた気がした。

 

「ん……ふっ♡」

 

そして――私は、ゆっくりと腰を動かし始めた。

最初は恐る恐る、そして次第に速度を上げながら、自分の中の『オス』を『メス』にぶつけていく。

 

「はー……っ♡ はー……っ♡ はーっ……♡」

 

呼吸を整えながら、私は両胸に手を伸ばす。

全体を手のひらで包み込みながら、ゆっくりと揉みしだいていくと、じんわりとした温かさが胸いっぱいに広がっていく。

 

「んっ……♡ はぁ……っ♡ あふぅ……♡」

 

左右の胸を交互に愛撫していくうちに、膣も自然と反応し、自分自身のモノをきゅっ♡と締め付けてしまう。

腕が二本しかなくても、こうやって工夫次第で、快楽を得る手段は無限に広がっていくのだ。

 

「えへへ……♡ いいなぁ、これ……♡」

 

もちろん竿自体も出し入れできるので、自分自身の「中」をかき回す感覚も楽しめる。

自分の体のことは自分が一番よく知っているから、どこをどうすれば気持ちのいいポイントを攻められるのかも把握済みだ。

 

「んっ……♡ 子宮口……当たってるぅ……♡」

 

先端で子宮口をとんとんとノックしてやると、私のメスとしての部分がきゅんきゅんと反応し、オスとしての部分はビクビクと震え上がる。

何より、今ここで射精して、私の中を満たしたのなら、どうなるだろう。

 

「あはっ……♡ いいなぁ……っ♡ 出したいなぁ……っ♡ 自分に中出しとか、人間の尊厳まるごと『リセット』しちゃうみたいで……最高にゾクゾクするなぁ……♡」

 

そんなことを口走るうちにも、私の中のオスの部分は、さらに大きさを増していく。

そして、それに合わせて私のメスの部分もまた……。

 

「あ゛ー……っ♡ 出る……っ♡ 出ちゃうぅ……っ♡ 我慢できないっ♡ もうダメっ♡ 出すよ!? 出しちゃうからね!?♡♡♡」

 

自分自身の限界を悟った私は、最後に結合部を思い切り両手で押し込むと……その勢いのまま、自身の中に熱いものを吐き出した。

 

「んお゛ぉッ!!♡♡♡♡♡♡」

 

どぴゅるるるるるるッ!!♡♡♡ ぶぴゅーっ♡♡♡ ぶぴゅっ♡♡ びゅるるっ♡♡♡ どっぴゅん!♡♡♡ びくんっ!♡びくんっ!♡♡どくんっ!!♡どぷ……っ♡♡どくんっ……!!♡♡♡♡♡♡♡♡♡

 

「お゛ッ……♡ お゛ほ……ッ!?♡ お゛おぉ~~……ッ♡♡♡♡♡」

 

凄まじい快感と共に、熱い白濁液が子宮の奥へ奥へと注ぎ込まれていく。

まるで、私の全てがこの一瞬のためにあったかのように。

それはただの肉欲ではなく、私のメスとしての存在意義を叩きつけられているような、強烈な快楽だった。

 

「お゛っ……♡ お゛ぉっ……♡ せーえき、出てるぅ……っ♡ 自分の中でびゅるびゅる言ってる……♡ 妊娠……っ♡ 妊娠しちゃうぅ……♡ 自分ので……妊娠しちゃうのぉ……っ♡」

 

びくびくと痙攣しながら余韻に浸っていると、子宮の内側からじんわりと温かいものが広がり、私の中を満たしていった。

 

ああ……これやばっ……精子が卵子めがけて突き進んでく感覚とか伝わってきて、体中が自家受精を全肯定してる感じ……これ、すごすぎるって……♡♡♡

 

今なら世界中の誰よりもすごい官能小説が書けるぞ……とまで思えてしまうほど、それは素晴らしい体験だった。

これぞまさしく「ふたなり」の醍醐味というべきであろう。

 

「はああぁ……っ♡♡♡ すごぉい……♡ 自分のお腹の中に自分専用のインクぶち撒けちゃったぁ……♡」

 

ひとしきり出し終えたあと、私は改めて自分の体を確認する。

全身汗まみれで、髪は乱れていて、下半身からは自分自身が放ったばかりの白濁液を垂れ流している。

そんな私の目の前には、鏡があった。

 

「あ……きれい……だな……」

 

鏡の中に映る自分自身を見て、素直にそう思うことができる。

私はふらふらと立ち上がり、愛用の古いフィルムカメラを持ってくると、そのままパシャリと一枚写真を撮った。

とても写真屋さんには出せない画だけれど、私はつい先日、自分の手で現像する技術を身に付けたばかりだから、何も問題はない。

 

そんなところまで「自給自足」で賄えてしまうことが何だか可笑しくなって、私はいよいよ満ち足りた気持ちで、晩餐までの時間を、ぐっすりと眠ることにしたのだった。

 

 

◆◆◆

 

――夕方。

 

マリコからの何度目かの電話のコール音でようやく目を覚ました私は、慌てて飛び起き、身支度を整えた。

膣内が自分自身の精液で満たされていることなどすっかり忘れたまま――恐ろしいことに、あれだけ出したのに一切垂れ落ちてこないせいもあるのだが――どうにか約束の時間に間に合う。

 

「ごめ~ん、爆睡してた!!」

「だと思ってたわ。まあ、そんなこともあろうかと、今日は時間に余裕持たせておいたけど」

 

流石はマリコ。

普段から忙しい身でありながら、こういう気配りができるあたり、彼女には本当に頭が上がらない。

 

「お店はここから歩いて行けるところだから、桜でも眺めながらゆっくり行きましょう」

「うん」

 

マリコに促されるまま、私たちは夜の帳が下り始めた桜並木を歩いていく。

すると、ここにきて、私のお腹の中が突然じわりと熱くなり始めた。

 

「っ……♡」

「どうしたの? まだ具合悪い?」

「いや……そういうわけじゃないけど……ちょっと、梶井基次郎を思い出しちゃって」

「ああ、『桜の樹の下には屍体が』ってやつ? 確かにあれは、ゾクッとくるわよねー」

 

そう、思い出した。

私の『桜の樹』の下にもまた、今まさに――たっぷりの『屍体』が蠢いていることを。

それは、子宮という名の墓標の下で、受精の希望を奪われ、ただ朽ちていくことを待つ、無数の精子の屍体。

まるで、ひとときの快楽のために命を弄んでしまった、愚かしい私の影法師のようだ。

 

あ、そういえば、アフターピル、まだ飲んでなかったな……

 

「うん……ゾクゾクするよね……♡」

 

それは、どんなに頭を振っても離れてゆこうとはしない、灼熱した生殖の幻覚だった。


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