悠柳のホワイトデー共依存嫉妬すけべ話

・両思いイチャイチャ
・後背位あり
・濁点喘ぎあり
・少々乱暴な描写がある。
・合意している。愛がちゃんとある。
・共依存
・悠真は嫉妬であり病んではいない
・SMチックではある
・防衛軍時代に柳が怪我を負い、傷が残っているという捏造をしている。
・作者にとって人生で二作目の年齢制限ものである

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秘め色乱れて依り添い存って

 

 爪に色を薄く乗せれば、薄青くて可憐なひとひらが現れる。ひとつ、ふたつ、みっつ。十枚めを塗り終えた浅羽悠真が顔を上げれば、バスローブを纏(まと)った月城柳がこちらを見つめていた。紅紫色の瞳を潤ませ、恍惚として──。

 

 ベッドに腰掛けた男女がこの先の出来事を想像しないことはない。彩られた爪には、少なくない期待がのっていた。

 

「あの、」

「そんな心配そうに見なくても、ちゃんと綺麗に塗ってますよ」

「そうではなくて、その、なんだか」

「んー?」

 柳の話を聞く気があるような、ないような。悠真は曖昧な返事をしながら、すり、と爪が彩られた柳の指を撫でた。第一関節から付け根まで。滑らかで、細く、白い指。弓を引き、柄を握りしめる骨ばった自分のそれとは違う。これが薙刀を振るっている強者の手とは思えない。しかし、間違いなく、自分が慕う女の指。

「月城さんの手、綺麗ですよねぇ。本当に僕らと一緒にこわーいエーテリアスと戦ってます?」

「貴方や課長、蒼角ほどではありませんが……」柳は遠慮がちに眉を下げた。

「冗談ですよ」

 こんなときでも謙遜なんて、と言おうとしたが、「月城柳」という人となりを知り尽くした上でこの手の話を振った自分にも非があるな、と悠真は言葉を飲んだ。

「ほら、これで全部塗りました。あとは乾かすだけ」

 悠真は手にしていたマニキュアの刷毛がついた蓋を小瓶に戻してベッドボードの上に置いた。薄青い色に塗られた柳の爪。どこかH.A.N.D.で羽織る揃いの上着を彷彿とさせる。これを選んで渡したのは、悠真自身だった。ホワイトデーのお返しに、と。

 とはいえ、これはただの口実にほかならないが。

「きれい、ですね」柳は指を伸ばし、爪先を室内灯に翳(かざ)して言った。

「秘(ひ)色というらしいですよ。いやぁ副課長どのからお褒めに預かり光栄ですねぇ。似合ってますよ。仕事好きなあなたピッタリだ。選んだ人間はセンスがいい」

「仕事が好きなわけではありません。それに選んだのは貴方ですよ。浅羽隊員」

 自画自賛ですか、爪先から視線を外し柳はこちらを見た。悠真の手前味噌なセリフをきっぱりと指摘した小さな口元だが、心なしか愉快そうに見える。

「いいじゃないですか。あなたのことをよーく考えながら選んだんですよ? こういうときくらい僕だって自分を褒めたいもんですって」

「それで、どうしてマニキュアを選んだのですか?」

 悠真の自惚れた言い分に返すことなく柳は別の質問を投げた。悠真はわざとらしく肩を竦める。

 

──茶番だなぁ、何もかも。

 

 オフィスにいるときと同じように「副課長」や「浅羽隊員」と呼び合うことも、軽口も、少々雑な扱いも。仕事という憂鬱を抜き去れば、子供の遊びに変貌する。秘匿性の高さを理由に高級ホテルのだだっ広い部屋を借り、ベッドの上で柳と肩を寄せ合えば、こんな遊びが始まるのは必然なのかもしれない。贅沢な子供たちになる夜を、二人で味わっていたいのだ。

「マニキュアって使うと減るでしょう? 使わなければ、まぁ、飾りくらいにはなる。生かすも殺すも月城さん次第ってわけですよ」

「また縁起でもないことを」

「そうは言っても副課長どのだって完全に否定できませんよね? あとは、ちょっとやってみたいこともあって」

「やってみたいこと?」

 一体何を、と問うように柳は瞳を輝かせる。そんな彼女に悠真は手を伸ばした。細く嫋(たお)やかな桜色の御髪を彼女の耳に掛ける。今は自分の渡したブランドもののシャンプーの香りはしないが、ホテルに備え付けられたそれの香りを揃って纏(まと)っている。

 部屋に入るなり性急になって押し倒さないでよかった、と悠真は思った。すべて柳の言うとおりにしたのだ。私はあとから浴びると頑なな彼女を置いて先にシャワーを浴びたし、ベッドで待つ間も、壁の向こうから聞こえる水跳ねの音が止むのを今か今かと待ち侘びた。バスローブ一枚しか纏っていないというのは、寒々しいし滑稽だなと自分のことを嗤いながら、それでも、いや、その甲斐があったからこそ、このときを喜ばしく感じる今があるというもの。

 先程まで彼女と共に参加していた懇親会とは名ばかりの酒の席。そこで嗅いだ不愉快極まりない紫煙の気配はもうないのだから。

 そういえば、あのタバコを吸っていた上司も月城さんに何か渡してたっけ。

 ただでさえ今日の彼女は男に囲まれていたというのに、おまけにタバコの匂いときた。嫌な記憶が二つあるなど許せない。香りを消しただけでは到底足りない。塗り替えなければ、今すぐにでも。月が出ている時間の、端から端までを使い切ってでも。

「副課長。今度は僕の番だと思いません? ちゃんと良い子にしてましたよね?」

 柳に問いかけた悠真は、髪を耳に掛けていた手をそのまま後頭部へ回し、優しく、それでいて、くしゃりという音が似合う仕草で繊細な髪を握った。

「一応は」

「なんですかそれ」

「この行為は悪い子のそれですよ」柳が後ろに回した悠真の手に視線をやった。どうやら髪を乱されたことを言っているらしい。

「ヒドいなぁ。言うほど乱暴にはしてないじゃないですか」

 悠真は柳の顔を寄せ、彼女の返事を待たず口を寄せた。

 そう、まだ(・・)、乱暴じゃないはずですよ。

 んぅ、と柳の小さな声。何か言おうとしていたのだろう。声ごと悠真は飲み込んだ。触れるだけの口づけで足りるわけもなく、角度を変えて舌で彼女の唇に触れる。ここを開けてくれませんか、と。

 しかし柳は頑なに開けようとはしてくれず、とんとんと悠真の肩を親指の付け根で叩いた。

「……なんですか、せっかく良い雰囲気だったのに」渋々顔を離すと、悠真は不満を零(こぼ)した。

「爪が、まだ」

 柳はとまどいがちに自身の指先を見る。その仕草だけで悠真は彼女が言わんとしていることを察した。どうやらせっかく彩られた爪をきれいなまま乾かしたいらしい。それゆえに悠真の肩を叩くときも爪先が触れないようにと気を遣って妙な叩き方をしたのだ。

 そんなこと、しなくてもいいのに。見事に思惑にハマった彼女に向かって、「ああ、なんだ」と悠真は呟いた。

「わざとですよ。月城さん。僕があなたの爪を塗ったのは、そのきれいな指先を今から汚すためです」

「なぜ」

「そうしたいから、ですかね」

 自分勝手な返答をして、じゃあ、つづけますよ、と悠真は再度顔を近づけようとしたが、柳は逃げるようにベッドの上に登った。逃げ場なんてないのに。彼女を追いかけ覆い被されば、必然的に押し倒すような体勢になる。足の間に膝を入れられなかったが、それは後々、と悠真は柳の手首を掴んで、彼女が守ろうとしていた指先を見た。先程丁寧に塗った薄青い花弁は布で擦れ、もう艶やかさは失われている。

 まだ乾かないでよ。もっとぐちゃぐちゃなほうがいい。

「自分で台無しにしたい、というのは、貴方らしくありませんよ」

 せめてもの抵抗か、柳は非難の目を悠真に向けた。

「そうですかねぇ」悠真は自嘲的に口を歪めた。「僕、けっこうヒドい奴ですよ。だって、月城さん、あなた今、うまく動けないでしょう?」

「私から自由を奪いたくて、分かっていてやった、と。そう言うのですね」

「当然。爪なんていくらでも塗ってあげるのに、あなたはそれでも守りたがってさ。まったく、健気ったらない」

 だからきっと、傷つくんだろうな。たとえ、こんな僕がいなくなっても。

 悠真は胸の内に言葉を留め、代わりに呆れたと言わんばかりの溜め息をついた。手の内を明かしたというのに、柳はもう逃げようとはしておらず、ただ動きにくそうに身を捩(よじ)った。

「こんなことしなくても、言ってくれたら動きません。貴方の好きに扱って構いませんよ」

「それじゃダメなんだって──そういうことじゃないんですよ。副課長」

 不可解そうに眉を顰めた柳を無視して、悠真は彼女の首の付け根に口を添えた。すると拘束していないほうの手がすぐに悠真の頭を抑え、抵抗してきた。

「そこは、一番、見えますから」

「まだ何もしてませんってば。っていうかたった今『好きにしていい』って言ったのは何だったんです?」

「貴方なら、見えるところに跡はつけないと思っているので」

「それはそれは……随分信頼されてるなぁ。僕」

 まるで悪者のセリフ。いや、今の僕は十分すぎるほど悪者か。

 悠真は柳の手首を掴んでいた手を離し、自分の前髪を掻き上げた。そして、彼女の肩に掛かったバスローブをするりと脱がす。滑らかな彼女の肩と鎖骨が露わなると、脇の下、膨よかな胸の付け根を指でつぅっと撫でた。すると、すぐ傍で彼女が息を飲む音が聞こえた。

「副課長、期待してます?」

「っ──していません」

「どうだか」

 ふい、と、顔を背けた柳が愛おしくて仕方ない。悠真は目を細めると彼女の鎖骨の下に口を寄せた。わざとらしく音を立てて疵(しるし)をつけていく。白くきめ細やかな肌に、数日と経たずして消えてしまう赤い花がいくつも咲いた。

 悠真は花見をすることもなく、今度は胸の付け根に添えていた手で彼女の膨らみに触れた。包もうとしても、彼女の乳房は片手で易々と収まりきるような大きさではない。その上、マシュマロのように柔らかく、掴むことも難しい。ただ心地よいその感触を確かめるように、やわやわと緩やかに揉んだ。

 今夜もあいかわらずなようで。まぁ、これに興味津々な奴が、僕は本当に憎いわけだけど。

 悠真は柳の体に特別な興味があるかと訊かれたら、首を傾げる部類の男だった。どちらかといえば、重そう、動きにくそう、という考えが先に浮かんでくる。傍にいる時間が長くなるほど、そういう印象が強く残るようになった。

 しかし、ひとたび服を脱がせ素肌で触れ合うようになってからは、考えに変化が起きた。頬を染め幼気(いたいけ)な反応をする彼女に、溢れてくる感情は止められず、そういう意味での興味は、関係を持ってしばらく経つ今もなお、尽きることがなかった。

 僕は、月城さんだから──いや、月城さんが、いいんだ。

 未だに顔を背けたままの柳を見つめながら、悠真は胸の頂きにある小さな果実を親指で掠めた。

「っあ」

 柳の口から零れた声には熱がこもっていた。指で丁寧に彼女の蕾を撫でたり軽く摘んだりを繰り返す。その度に彼女は身を震わせ、声を抑えようと口元を手で塞いだ。

 あの副課長がこんなに、簡単に。

 ふと、悠真の視界に柳の爪が映る。さっきほどよりも乱れて、地爪が見えている指もあった。

 この爪で、あなたは明日、出勤するんだ。手袋の下に僕と過ごした夜の記憶を隠して。

 喘ぎを堪(こら)える柳を見ながら、悠真は、は、と息を零した。口が緩む。笑っていた。みぞおちから喉仏まで満たされていく感覚。自分だけが知る彼女の姿があるという優越感。そう、これを、昼間から渇望していた。

「我慢なんかいります? 僕しかいないのに」

 そう訊きながらも柳の答えを待つつもりは毛頭ない。指でふにふにと頂きを可愛がると、触れていないほうの実を舐った。

「あっ! んぅ、は、ぁ」柳の声が大きくなる。口を押さえた手の隙間から漏れるのはどこか扇状的だ。

 かわいいなぁ。月城さん。

 髪を乱し、身悶え、頬を染め、目を瞑る彼女に湧き上がるものが、愛しいというきれいな感情だけなら、この反応をゆっくりと楽しむだけで良かった。

 

 けれど残念なことに、今夜はそうではない。

 

「すみません。もっと声が聞きたいんで」

 悠真は口元を抑えていた柳の手を半ば強引に引き剥がした。ひゃっと、小さな悲鳴が聞こえる。代わりとばかりに自分の指を彼女の口の中に差し入れる。

「ぁ、るまさっ!」舌を抑えられた柳が必死に悠真の名前らしき声を上げた。

「上司と部下のごっこ遊び(・・・・・)はまだつづけときましょうよ、ね。副課長」

 わざとらしく悠真が無邪気な声色で誘うと、彼女は恨めしそうに睨(ね)めつけてきた。しかし悩ましげな眉と潤んだ瞳では、批判の視線も煽りにしかならない。

「あなたが僕の指を噛もうとしないのは、この指が弓を正確に打つのにとても大切だから、ですよね。なんというか、さすがは僕らの──いや、僕の副課長どの。こんなことをしている時でさえ、優等生でいたがるんだからさ」

 これ以上柳の意思を無視して悠真が自分本位な行為に及んだとしても、「月城柳」という女は、「浅羽悠真」という男を受け入れるのだろう。わざわざ試すまでもなく、そういう確信めいたものが悠真にはあった。

 こんな僕でも、あなたはちゃんと愛してくれる。それはある意味ひどいことだって、僕は思いますよ。

 

 昼間、悠真の心を支配していた感情をひと言で表すなら、それは嫉妬だ。腹が立ったのだ。邪な目つきで柳の体を舐めるように見つめ、お返しを渡すというのを口実に、彼女に近づこう、あわよくば写真を撮っておこうとする存在に。それもこれも一ヶ月前、他所の部署にまで義理だと言って甘いものを彼女が寄越したのが全ての原因だ。しかし、悠真にそれを止めさせる資格はない。できるとするなら、これから態度で示すくらいだ。

 

 なぜなら、互いの想いを確かめたとき、立場を考え恋人にはならないという選択を二人はしたのだから。

 

 分かってるよ。恋人なんてただの肩書きだって。所詮(しょせん)、所詮──。

「まぁいいです。あなたが僕の名前を呼んでも、僕はいつもの呼び方をつづけるんで……今夜は、特に」

 そう告げた悠真はまた柳の胸に顔を埋(うず)め、舐るのを再開した。無駄に広い室内に柳の嬌声が響き渡り悠真の耳に届く。また一つ満たされた気がして心地いい。

 悠真は「浅羽隊員」でありつづけることで、昼間の出来事を掻き消そうとしていた。柳に近づこうと画策する職場の男どもと同じような口実で渡したそれを使って彼女に欲を押し付ける。ひと月前に貰った思いにお返しをするらしいこの日に。同僚という枠組みを越え、自分だけが特別な存在なんだと確認する。側(はた)からすれば最低な上塗りだが、それでもいい。この関係性はどうせ二人しか知り得ない。

 もしかしたら、あなたに裁いて欲しいのかもしれないな。嫉妬でこんなことをする僕を。そして、正しさ(・・・)を、教えて欲しいのかも……どうだろう、自分が分からないな。ぐちゃぐちゃなのは僕の心か。

 そういえば、今日はまだ、大切なことを伝えていなかったな、と悠真は顔を上げ、柳の目の前にきた。突然行為が止まり、柳が肩で息をしながら悠真を見つめる。そんな彼女の額に悠真は自身のそれを寄せ──。

「好きです。月城さん」

 唯一確信していることを伝えるや、悠真は柳の口に差し入れていた指を引き抜いて、噛み付くようなキスをした。ついさっきまで固く閉ざされていた薄赤い扉が、今は不用心に開かれている。舌を差し入れ歯列をなぞると「ふ、」と彼女が息を漏らした。悠真は唾液で濡らした指に構うことなく彼女のうなじへと手を回し、後頭部を支え、口内の、もっと奥へと侵入した。さっきまで指が入っていたせいで彼女の口の端からはだらしなく唾液が垂れ、頬を伝い髪を濡らしている。これからどれだけ髪が汚れても、もう同じこと。

 柳は悠真がするより先に自分の舌を絡めてきた。両手が悠真の頬に添えられる。強情、負けず嫌い、そういった性分のせいか、はたまた母性による享受なのか。どちらにしろ乗り気な態度に悠真は夢中になって彼女の口内を貪った。

 口付けを愉しんでいる最中、意外にも柳の手が悠真のバスローブをするすると脱がし始めた。

 月城さんもしかして、はじめから脱がすつもりで? 

 本当にそうなら、とんだ策略家だ。悠真はまさか自分が先に脱がされるなんて思ってもみなかった。こんな煽り方をするというのに、自己をつまらない女と表現する柳は、流石に嘘がすぎる。

 どちらからともなく顔を離せば銀の糸が二人の口を繋げて消えた。息を整えようとする柳の口に悠真は再び指を入れる。今度は後ろから腕を回して。まさかまたやるのかと言いたげに柳が目を見開いた。

「声、我慢しないって約束できないでしょ」

 そろそろこっちも触ろうと悠真は口を塞いでいないほうの手をするすると下へと持っていった。ついでに意味をなさずにただ腰に引っかかっていただけのバスローブを剥ぎ取れば、彼女は一糸纏わぬ姿になった。

「まっえ、は、ぁ、あっ」舌足らずな嬌声の合間に柳が制止を求めた。

「待ちませんって」

 柳の要求を悠真はあっさりと断り彼女の体を堪能するように撫で回す。そして、ゆっくりと下へ、下へと手をおろす。鼠径部に辿りつく手前、それまで滑らかだった肌がざらりとした感触に変わった。ちょうど横腹辺り。そこには大きな傷痕(ケロイド)がある。昔──防衛軍時代に敵の爆破攻撃に巻き込まれ負った傷だと彼女は言っていた。

 逃すわけもなく悠真が傷をなぞれば、柳の体が小さく跳ねる。傷のせいでここは皮膚が薄く感じやすい。それを知っているのは、彼女の体を深く知る人間だけ。自分以外にいたかどうかを訊ねる無粋さを悠真は持ち合わせてなどいない。触れながら今は自分のものと陶酔できればそれでいいのだ。

 鼠径部にたどり着くと、止まることなくその溝に導かれて割れ目に手を這わせた。柳の喉が空気を求めてひゅぅと鳴る。悠真は何度か割れ目を往復してから、そこに潜む花芽に指先をあて、下から上へと撫であげた。

「んんぁ、ぁあっ!」反射的に柳が膝を曲げ、快感から逃げようとする。

「逃げちゃダメですって」

 上体を起こした悠真が甘ったるい声で嗜めると、柳は曲げた膝をずるずると戻した。足の指にはぎゅっと力が込められている。しかしシーツを掴つもりはないようだった。

「良い子」

 頭を撫でる代わりに花芽を指の間に挟むと、何度もやわやわと擦った。

「んぅ、っぁ、ぁ、あっ……」

 柳は悩ましげに眉を寄せ、擦れる度に声を上げると、堪らないとばかりに背を弓なりにした。

 気持ちよさそうでよかった。このまま一回、登り切って欲しいな。

 悠真は栁を自分に背を向けるように転がすと、自身も寝そべりぴたりと背中に寄り添った。後ろから抱きしめるような体勢で股の間に片足を差し入れる。さっきから下のほうで熱を持って立ち上がっている分身が、柳の尾てい骨に当たった。それを感じたのか彼女の肩がぴくりと跳ねた。

「副課長。この体勢で、指、挿入(い)れますね」

 これからの行為をわざわざ伝えたのは、柳に意識してもらうため。花芽のさらに奥へと指を進めていく。到達した蜜壺からはすでに内股を伝うほど液体が溢れていた。何度か入り口を撫で蜜を掬い指を濡らすと、悠真はゆるやかにナカへと指を挿入した。

「あっ、ん、っぁあ──!」

 指を押し進め、ある一点を優しく突けば、ひときわ大きな声で柳が鳴いた。彼女のいいところを悠真はもう知り尽くしている。とんとんとソコを突く、その度に彼女の声が大きくなる。舌を抑えられているせいで口からはだらしなく唾液が垂れつづけ、悠真の手を汚す。彼女の歯が指を挟んでいたが、飼い猫の甘噛みよりもよっぽど優しい。

「べつに強く噛んでもいいですよ。噛まれた程度で弓の精度が落ちるなんてあり得ない。僕のこと、信用なりませんか?」

 そう訊けば、ふるふると柳は首を横に振った。

「じゃあ、ほら。こうしますから。好きなやつ」

 悠真は指をナカに入れたまま親指で柳の花芽に触れ、円を描くように撫でたり、芯に触れたりを繰り返した。

「ふ、あっ、あっ、ぁあっ、っ──!」

 が、っと柳の歯が悠真の指をしっかりと噛んだ。痛みが指に走り、悠真は顔を歪めたが、それも最初だけ。むしろ手が固定されたことでより一層、彼女のナカを責めることに集中できた。

 しばらく柳を一定の速度で責め立てていると、だんだんと彼女の呼吸が浅くなりはじめた。もう少しで天辺へと辿りつくらしい。下半身に力が入り、股の間にある悠真手足が強く挟まれた。そのタイミングを見計らい、悠真は口を塞いでいた指を抜きさった。

「ぁっ、あさ、ば、たぃ、いん」

 自由になった口で柳が最初に発したのは悠真のこと。律儀。ごっこ遊びをしたいと誘ったのは悠真だが、それをしっかりと最後まで守ろうとする彼女を飾るのにこれほど似合う言葉はない。

「っ、なんです? 副課長」面くらいながらも悠真も同じように応えた。

「も、もうっ。わたし──はっ、」

「……うん」必死に訴える柳に悠真が応えたのはたったひと言のみ。動きは絶え間なく彼女の良いところを触れていた。

「ぁあ、ん、ぅ、ぁっあぁっ────! はぁ、はぁ、ぅ」

 キツくぎゅっぅ、とナカが締まり指に肉襞が絡む。と同時に悠真の手足が強く拘束された。

 柳の体はしばし強張らせていたが、やがて力が抜けていった。はっ、はぁ、はぁっと肩で息をする柳の眦に涙が浮かんだのが見えて、悠真はそれを口で拭ってやった。

「やっぱりえらいですね。月城さんは」

 さぁ、起き上がって、と、彼女を腕で支えた。

 しかし、「……──っまだ、です」柳はそれを拒絶した。

 えっ、と悠真が反応するより早く、柳は手を後ろへ回し、熱を持った悠真のモノに触れた。細い指すべてで握り、緩やかに上下させる。

「っ!? ま、まっ、て、つきしろさん!」

「私が言っても貴方は、待ちませんでしたよ」柳は手を止めることなく、むしろ速度を上げ、先端を親指で擦った。

「っぅ、これっ! 止めて、くださいって」

「浅羽隊員。貴方が今夜、さいごまで、やりたいこと、してくれるのなら、やめます」

「なっ……ぁ、も、もう、わか、分かりました、からっ!」

 悠真が承諾すると、柳の手がぴたりと止まった。はぁ、とひと安心する。あのままつづけられていたら、それこそ本懐など遂げられない。

「……あなたって人は、なんて誘い方をするんですか」

「このまま普通(・・)にしても、貴方が完全に満たされないことは、分かっていますので」

 先ほどまでの乱れ方はどこへ。柳は澄ました声で応えた。しかしその顔はベッドに伏せている。羞恥がないわけではないらしい。きっと、悠真の望みが分かっているから、なおさらこういう態度なのだろう。

 あぁ、この人は、本当に、どこまで僕を甘やかすのか。

 申し訳なさ、と照れ、そして、高揚感が胸の内でない交ぜになる。悠真は柳のうなじに額を寄せると、掠れた声でそれを口にした。

 

「副課長、僕、後ろからしたいんです」

 

 

 

***

 

 

 

 あられもない声が、自分の口からまろび出ていく。欲の具現化に深く、奥まで突かれる度に、何度も、何度も、何度も、何度も。

──あぁ、なんて、惨め。

 四つん這いになって、と悠真の願いを柳は聞き入れた。この大人しく従う精神も、知り尽くされた上で彼に撫で回され、その度にいちいち反応する体も。なんと浅ましいことか。

 そう思うのに、柳の胸の内には確かに存在する。この状況を悦んでいる心が。

 はたしてこれは、愛している、だけで済むのでしょうか。

「月城柳」という女のつまらなさを「浅羽悠真」は思い知っているはずだ。その上で彼は柳の思いを享受している。尽くすことで必要とされつづけていたいという柳の、愚かな承認欲求を。

 悠真、貴方はその金色の瞳で見透かしいるのに、認めてくれている。私の、すべてを。 

「あ゛っ──!」

 背後からずん、と奥へと強く突かれ、柳の喉から汚い声が出た。息つく暇などない。入り口から奥まで抽送が行われる。さっきまでの優しい愛撫など忘れたような、わがままで、横暴な行為。

「ぁ゛っ、あ゛、ぁっ、あ゛ぁっ!」

 最奥(ポルチオ)に到達する度にチカチカと視界が眩み、柳は必死にシーツを掴んだ。悠真の手によって彩られた爪は、とっくに、彼本人の意思によって無下にされた。すっかり汚れた爪を掴んだ布に食い込ませる。

「は、ふくかちょうっ」

 未だ役職で呼ぶ悠真が、柳の下腹部に触れる。自らを受け入れている箇所を彼は指でとんとんと数度押した。ぁ、と小さく喘ぐ。すっかり教え込まれた体では、その弱い刺激でさえ快感となって、柳は肩を震わせた。

「ここ、入ってるの、わかります?」

「わ、かり゛、ます、から゛っ」

「そ、じゃあ──」

 もう少し、がんばりましょうか。残酷なことを柳に告げた悠真が、今度は指ではなく手のひらでそこを押した。それと同時に彼の反対の手は、柳の腰に触れる。傷痕のある腹部と違い、傷ひとつない背中は滑らかで、彼の手はするりと臀部まで撫で上げた。さぁ腰だけを突き上げて、という意味だ。

「っぅう゛ぅ……」奥歯を噛み締め柳は唸った。

 こんな格好と声、まるで、獣みたいな。そう思うのに、体は従順に、導かれるままに悠真の望む姿勢になる。

「良い子ですねぇ、ほんとうに。きもちいいですもんね、これ」

 するすると柳の臀部を愛おしく撫で、「動きますよ」と言った悠真は再び律動をはじめた。角度が変わり、上から下へと突き刺され、最奥をより強く突かれる。

「んお゛、ぁっ、ぁ゛、あ゛ぁっ!」柳の喉の奥から濁った声が絞り出される。

 こんな声だが、痛いわけではない、むしろ、快感さえ掴めるような体になっている。すべて彼がやったこと。

 けれど、と柳は思った。

 このままでは、壊れそうっ。

「は、ぁ゛、る゛まさっ」

「ぅん、ゃなぎ、さっ」

 

 茶番など忘れ、二人は互いの名前を呼びあった。

 

──あぁ、そういえば今日は彼に好きの言葉をひと言も言えていない──手を絡めてさえ。

 絶え間なく喘ぎ声を涸らしながら、柳はできなかったことを数えた。

 どうにかして間に合わなせられないだろうか。そう思い、自身を支えていた手を離し背に回す。片手では到底体重は支えきれない。肩をベッドに押し付ける形になったが、回した手に悠真は指を絡めてくれた。

 絡めた指に力を込めると、彼の動きが緩慢になった。

「ぁ、すき。は、る、まさ」

「っ!?」

 貴方がこういう行為を望む理由を、私は知っています。

 柳に対して悠真が乱暴な扱いを望むのは、決まって柳が男と接触する機会が多い日だった。そんな彼が、ホワイトデーなんてイベントごとを迎えて、耐えられるはずがないことはあらかじめ予想していた。

 嫉妬なんて子供っぽいことを、なんて可愛らしいのだろう、と思えたらいいのだが、彼が望む行為はそう素直に思うには難しい。体も心も、自分でないとダメになるよう、快楽にどっぷりと浸からせて、好きにする。

 きっと悠真は、そうやって柳を蹂躙したいのだ。

 恋人という関係を結ばない代わりに、強く心身に刻みつけて去りたい。そういう魂胆だ。

 でも、私も貴方を傷つけられたらと思っていることは、まだ知られていないのでしょうね。

 悠真が抱える病気も、サボり癖も、支配欲でさえ、必要とされることが嬉しい身の柳にとって、享受することは容易い。彼から愛を感じているのだから尚更。

 しかし、それとは別で悠真がいつか柳に本気で罰されたいと思っていることも察していた。

 しませんよ、そんなこと。そしたら貴方は私を恨むでしょう。どうか、その傷をあの世まで持って行ってください。

 愛撫とは違う激しい快楽で、視界の明滅頻度が高まる。もうすぐ意識が飛ぶと、体が知らせてきた。

「っはぁ、ぁ。やなぎっ──っ!」

「ぉ゛、ぁ゛っ、んぅあ、ぁあ゛っっ!」

 一段と強い律動を肉襞ですべて受け止めれば、熱い欲がどくどくとナカに吐き出された。絡めていた手も離される。体中の強張りからも解放され弛緩して、ベッドへと沈む途中、柳は意識を手放した。

 

 

 

***

 

 

 

 シャワーを浴びて、下着とスラックスを履くと、悠真はベッドルームのカーテンを開けた。今朝は朝焼けが出ていて、オレンジの陽光が部屋に差し込む。先に起きたのは、ベッドから動けないであろう柳を介抱する準備をしたかったからだ。

 悠真の背後から布擦れの音が聞こえた。振り返れば、柳が布団の中でもぞもぞと身じろぎをしているところだった。

「月城さん、立てます?」

 ベッドに腰掛け、柳の様子を伺えば、彼女は毛布から半分ほど顔を出した。

「……おそらくは」応えた柳の声は掠れて、喋りにくそうだった。

「水は──いります、よねぇ」

 要らないわけがないと言わんばかりにじろりと睨まれ、悠真は苦笑しながらベッドボードに置いなペットボトルの水を口に含んだ。

 中途半端に顔を出してないで、こっちに見せてとばかりに毛布を剥がし、当たり前のように口で柳に水を与える。

「浅羽隊員、貴方のせいでひどい爪になってしまいました」

 意外にも柳から発された文句は爪に関する事項だった。

「──副課長、まさか除光液なんか持ってませんよね?」

「ええ、非常に残念ながら。今度から携帯します」

「困るなぁ。また別の方法を考えないと」

 夜明けと共に再び始まった茶番に二人ともほくそ笑む。いいのだ、今は、この関係で。誰一人として知られずに密やかに愛し合うのが、心地よくて、幸せで、かけがえのない時間なのだ。

 やっぱり恋人じゃないって言ってるくらいが、僕はたくさん求め続けていられるのかな。

「手袋、帰るまで外せませんね」

「誰のせいですか。フォロー、お願いしますね」

「はいはい」わざとらしく悠真は眉を下げたあと、毛布の中へと入った。「今日ってもう少し寝れます?」

「本当に、もう少しなら」

「じゃあ、もう少しだけ」

 悠真は柳を抱きしめた。背丈はあまり変わらなくとも、男と女。体格がまるで違う。すっぽりと胸の中へ収まる愛しい女(ひと)の髪を撫で、朝焼けの中で過ごすことにした。

 

 

 

了


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