◆
朝だ。
佐々木真矢はゆっくりと瞼を押し上げた。
シーツの海はどこまでも冷たい。
もう十年も前から、ずっとこの温度のままだった。
人の温もりを忘れた肌が静かな朝の空気にちりりと粟立つ。
キッチンで真矢は一人分のコーヒーを淹れる。
大学生になった息子、圭太はもう学校へ行った様だ。
テーブルの上に放置された食パンの袋だけが、彼が此処に存在した証だった。
まるで蝉の抜け殻みたいだと、真矢は思った。
ふと、あの男の匂いが鼻腔を掠める。
十年前に夫だった男──信二はいつも安物のタバコとやけに甘いコーヒーの匂いをさせていた。
その二つが混じり合った信二の首筋に顔を埋めるのが、真矢はたまらなく好きだったのだ。
週末の朝は決まって信二の腕の中にいた。
まだ薄暗い寝室で、シーツの海に溺れるように互いを求め合ったものだ。
信二の指が真矢の背骨のひとつひとつを確かめるように滑り落ちていく感触は、十年経った今でも皮膚の下で疼くように蘇る。
熱を帯びた舌が、肌を焦がしていくような錯覚。
汗ばんだ肌が擦れ合う音と、どちらのものとも知れない喘ぎ声だけが支配する小さな世界。
信二の硬い筋肉の奔流が、真矢の柔らかな肉を飲み込み、そして砕く。
信二の行為は荒々しかったが、その暴力的なまでの支配に身を委ねることが抗いがたい快感であった。
愛されているのだと。
疑いようもなく、ただ、そう信じていた。
まったくもって、記憶という装置は、過去を都合の良い形に捻じ曲げる悪質な詐欺師である。
その甘美な楽園は実にあっけなく終わりを告げる。
「好きな人が、できたんだ」
信二のその一言で、真矢の世界は粉々に砕け散った。
やり直したいと願う言葉は、信二の耳には届かない。
懇願は、やがて詰問へ。
詰問は、やがて罵倒へと形を変えていった。
ここからが本当の地獄だった。
言葉は鋭利な刃物となって互いの心を削り合い、血を流させる。
リビングが正真正銘の戦場と化した夜があった。
信二が振り上げた掌がやけにゆっくりと見えた。
次の瞬間、頬を灼くような衝撃。
脳が揺れ、頬に走る鈍い痛みが徐々に鋭くなっていく。
真矢は床に蹲り、ただ獣の咆哮のような罵声が降り注ぐ嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。
信二が叩きつけた皿の破片が照明を反射してキラキラと光っていたのをなぜか今でも覚えている。
まるで砕け散った自分の心のようだと、ひどく陳腐なことを考えていた。
圭太の事を思う。
その声も、不機嫌そうな時の眉の寄せ方も──日に日にあの男に似てくる。
憎むべき男の面影を宿した、世界で一番愛しい存在。
はあ、と一つ溜息をつき、真矢も出勤の準備をした。
◆
冷え切ったマグカップを流しに置いた数時間後、真矢は別の戦場にいた。
蛍光灯が白々しく照らす古びたオフィス。
澱んだ空気と埃っぽい書類の匂いが支配する、真矢のパート先である中小企業の経理課だった。
カタカタと、キーボードを叩く乾いた音だけが規則的に響いている。
その単調なリズムを破るように、ぬるりとした気配が背後に立った。
高木部長だ。
加齢臭と安物の整髪料が混じり合った不快な空気が、真矢の見えない縄張りを侵犯する。
「やあ佐々木さん、今日も頑張ってるねえ」
その声は、まるで耳の内側を湿った指で撫でるような感触があった。
聞きたくもない声に、真矢はキーボードを打つ手を止めずに会釈だけで応じる。
高木は真矢のPC画面を覗き込むふりをして、不必要に体を寄せてきた。
「相変わらず綺麗だねえ。女手一つで息子さんを大学まで行かせるなんて立派だよ。でも、寂しいんじゃない?」
言葉の端々から、粘着質な下心が滲み出て滴り落ちそうだ。
すっと伸びてきた大きな手が、ためらいもなく真矢の肩に置かれた。
その感触はまるで蛞蝓が這うかのよう。
真矢は反射的に全身の筋肉を硬直させる。
これもまた戦闘なのだと、真矢は認識した。
言葉と視線とそして不快な接触による精神的な領域侵犯。
元夫が振るった物理的な暴力とは質が違う。
だが相手の尊厳を削り取ろうとする嗜虐的な本質において、これらは同種の行為に他ならなかった。
真矢はゆっくりと顔を上げた。
そして、鏡の前で幾度も練習を重ねた無害な微笑みを、完璧にその顔に貼り付ける。
「ありがとうございます、部長。ただ、この入力、今日の午前中までなんです」
肩に置かれた手を乱暴に振り払うのではない。
僅かに身を捩じり、キーボードを打つ体勢を直す動きの中で、ごく自然にその接触を解くのだ。
これは高等技術である。
相手に明確な敵意を悟らせずに、しかし確実な拒絶の意思を伝えるという、社会という名の荒野を生きる弱い女のための護身術。
高木は一瞬、不満げに口を歪めたが、やがて芝居がかった咳払いをして自分の席に戻っていった。
嵐の後の静けさが訪れる。
真矢は誰にも気づかれぬよう、細く長い息を吐き出した。
肩に残る生々しい感触を振り払うように、ぎゅっと目を閉じる。
生物学的に見れば職場のハラスメントとは群れにおける雄の優位性誇示、いわゆるマウンティングの一形態に過ぎないのかもしれない。
迷惑なことこの上なかった。
生活のため。
息子の学費のため。
その言葉を意味の失せた呪文のように心の中で繰り返し唱える。
真矢は再び無表情の仮面を被ると、目の前の無機質な数字の羅列へと意識を沈めていった。
◆
終業を告げる無機質なチャイムが鳴り響く。
今日の戦闘はこれで終わりだ。
真矢はパソコンの電源を落とすと誰よりも早くタイムカードを押し、解放を求めてオフィスを飛び出した。
駅のホームは一日の労働で疲弊しきった人々が吐き出す熱気で淀んでいる。
滑り込んできた銀色の箱に、真矢は意思のない物体のように押し込まれた。
ドアの近く、人の背中と冷たいガラスに挟まれた狭い空間。
汗と様々な香水と誰かの夕食の惣菜の匂いが混じり合った空気がひどく息苦しい。
電車の大きな揺れに合わせて、背後から何かが腰に強く触れた。
この地獄のような混雑では仕方がないことだと、最初は思った。
だがその接触は、揺れが収まっても頑として離れない。
指先が確かな意図を持ってそこに留まっていた。
真矢の背筋に氷を滑らせたような悪寒が走る。
真矢は誰にも気づかれないよう、僅かに体をずらして抵抗を試みた。
無駄だった。
その手はまるで獲物を見つけた蛇のように的確に真矢の体を追ってくる。
やがて指は大胆になり、スカートの上から臀部の丸みを確かめるように、ゆっくりと撫で始めた。
その動きは次第にいやらしく熱を帯びていく。
指先が執拗に肉の谷間を探り、なぞり始めた。
屈辱が胃の底から熱い塊となってせり上がってくるようだった。
都市という巨大な匿名空間は、時に人間を最も卑劣な捕食者に変貌させる。
そして満員電車とはそのための完璧な狩場なのだ。
「やめてください!」という叫びが、喉の奥まで込み上げてきた。
この汚らわしい手を掴み、捻り上げ、衆目の下に晒してやりたい。
しかし次の瞬間、冷たい理性がその燃え盛る激情に水を浴びせる。
電車が止まる。
好奇と侮蔑と、そしてあからさまに面倒そうな乗客たちの視線。
駅員が来て、警察が来る。
同じことを何度も、何度も説明させられる屈辱的な事情聴取。
なぜ被害者である自分がこれ以上の時間と尊厳を削られなければならないのか。あまりに馬鹿馬鹿しいと、真矢は思った。
次の駅で降りる。
あと、たった三分ほどの我慢だ。
真矢は奥歯を強く、強く噛みしめた。
これは戦いですらない。
道端で汚物に遭遇したのと同じ、ただ目を閉じてやり過ごすべき災厄なのだ。
プシュー、という気の抜けた音と共にドアが開く。
真矢は犯人の顔を見ることさえせず、人をかき分け、まるで転がり出るようにホームへと降り立った。
排気ガスと埃の混じった生ぬるい夜の空気を、喘ぐように肺いっぱいに吸い込む。
厚い服の上からだというのに、まだあの男の汚らわしい指の感触が自分の肌にねっとりとこびりついているような気がした。
◆
人波に逆らわないよう、ただ流れのままに改札を出る。
体にまとわりつく不快な感触はまだ消えてくれそうになかった。
朝は元夫の記憶に心をかき乱され、昼は上司の粘つく視線と言葉に耐えた。
そして夜は見知ぬ他人の汚れた欲望に体を嬲られる。
もう、本当にしんどい、という思いが真矢の全身を支配していた。
ともすればその場にへたり込みそうになってしまうのを耐え、歩を進める。
駅前の雑居ビルの一階、以前は確か空きテナントだったはずの場所に温かい光が灯っているのが見えた。
真新しい白木の看板には、墨痕鮮やかな筆文字でこう書かれていた。
『おひとり様専用居酒屋 独酌』
おひとり様という言葉がやけに真矢の目に突き刺さった。
そういえば近頃よく聞く言葉だ。
おひとり様焼肉におひとり様カラオケ。
個人主義の進展と共同体の解体が生んだ孤独の商業化は、現代社会における必然的な帰結であるらしい。
孤独ですら商品になる便利な世の中。
そんな流行りに乗るようで、少しだけ気恥ずかしい気持ちがした。
だが今の真矢にとって「一人きりになれる」という響きは、何よりも甘美な誘惑に感じられたのだ。
圭太の夕飯はどうしようか。
一瞬、母親としての思考が頭をよぎる。
いや、あの子ももう大学生だ。
腹が減れば自分で冷蔵庫の中の何かを漁るだろう。
今夜くらいは許してもらってもいいはずだと、真矢は自分に言い聞かせた。
このまま家に帰ったところで、澱んだ気持ちを抱えたまま、どうせうまく眠れやしない。
それならば、少しだけ、ほんの少しだけ、強いアルコールで今日という汚れた一日を洗い流してしまいたいと、彼女は切に願った。
真矢はふうっと、自分でも驚くほど長い息を吐いた。
そしてまるで誘蛾灯に吸い寄せられる虫のように、その店の引き戸へとゆっくり手を伸ばした。
◆
思った以上に多く飲んでしまい、ややふらつきながら帰宅の途についた。
アルコールが脳を痺れさせ、今日一日の屈辱と疲労を溶かしていく。
鍵を開けて玄関に入ると、リビングから漏れる明かりがやけに暖かく感じられた。
「おかえり、母さん。ずいぶん遅かったじゃないか。それに……酒臭いぞ」
リビングでテレビを見ていた圭太が、訝しげな顔でこちらを見ていた。
その声、その眉の寄せ方。
ああ、まただ。憎らしいほど、あの男に──信二にそっくりだ。
「ちょっと、付き合いで……飲み過ぎちゃったみたい」
呂律がうまく回らない。ぐらりと世界が傾いだ瞬間、圭太が駆け寄ってきてその腕が力強く真矢の体を支えた。
「おい、大丈夫かよ。立てるか?」
心配そうに顔を覗き込まれる。近い。驚くほど近くにある圭太の顔。いや、これは圭太ではない、信二なのだと真矢の脳が錯覚した。自分を組み敷き、その支配欲に満ちた瞳で射抜いてきた、若き日の信二の顔がそこにあった。
「……大丈夫。少し、水を飲んだら」
「洗面所まで行くぞ。ほら、肩貸せよ」
圭太に肩を借りながら、おぼつかない足取りで洗面所へと向かう。服越しに伝わる息子の体は、いつの間にか記憶の中の夫と同じくらい硬く、厚みを増していた。酒に濁った思考が圭太に完全に夫の姿を重ねて見る。
めらり、と胸の奥で何かが燃え上がる音がした。
それは憎しみか、それとも長年押し殺してきた欲望の残滓か。真矢にはもう、分からなかった。
水を飲んでも頭の芯で燃え盛る炎は消えなかった。リビングに戻ると圭太はソファに座り、まだ心配そうにこちらを見ている。その視線がまるで獲物を見定める捕食者のように感じられた。
真矢はまるで操り人形のように圭太の前へと歩み寄った。自分でも何をしているのか分からない。ただ、体の奥底から突き上げてくる衝動に抗うことができなかった。
ゆっくりと、かがみこむ。
そして驚きに見開かれる圭太の瞳を無視して、その唇を奪った。
一瞬、圭太の体が石のように硬直する。だが真矢は止まらない。いや、止められない。びっくりしたように硬直する圭太をよそに、真矢は一気に上着を脱ぎ去り、ついでスカートのホックに手をかけた。乱暴に引きずり下ろされたスカートが、床に落ちてくしゃりと音を立てる。
今や圭太の顔は、夫と瓜二つにしか見えなかった。あの頃のように自分を暴力的なまでに支配した男の顔に。
ちらりと視線を落とせば、圭太のズボンの上からでもその熱の昂りがはっきりと見て取れた。
それを見た瞬間、真矢の思考を縛っていた最後の理性の鎖がブツリと音を立てて切れた。
「圭太……」
掠れた声で息子の名前を呼んだつもりだった。だが唇から漏れたのは、かつて夫を呼んだ時の甘く湿った響きだった。
圭太の腕が、ためらいがちに真矢の腰に回される。
その指先に戸惑いと、それ以上の熱が籠っているのが分かった。
その熱が真矢の体に燎原の火のように燃え移っていく。
「母さん……何してんだよ……」
圭太の声が苦しそうに喘ぐ。
だがその声は拒絶の色を失い始めていた。むしろ未知の快感への期待に震えているように聞こえる。
その反応が真矢の奥深くに眠っていた被虐のスイッチを的確に押し込んだ。
そうだ、それでいいのだと真矢は思った。彼は信二なのだ。あの頃のように、自分をめちゃくちゃに壊してほしい。そんな思いが、真矢を突き動かした。
彼女は圭太のシャツを掴むと、ソファへと強く押し倒した。驚く圭太の上に跨ると、その硬い昂りを下着の上から、ゆっくりと、そして執拗に擦り付ける。
「んぅっ……!」
圭太の喉から、堪えきれない吐息が漏れた。その反応を見て、真矢の口元に歪んだ笑みが浮かぶ。
支配しているようで支配されている。与えているようで与えられている──この倒錯した関係こそが、信二との間でしか得られなかった快感の核心だった。
圭太の指が、いや、信二の指が真矢のブラウスのボタンに乱暴にかけられる。ブチブチと音を立ててボタンが引き千切られ、窮屈な下着から解放された乳房が露わになった。ためらいなく伸ばされた大きな掌が、それを鷲掴みにする。
「ひっ……!」
痛みにも似た強い刺激に、真矢の背筋が弓なりにしなった。
爪が食い込み、肌がミシミシと悲鳴を上げる。
だがその暴力的な愛撫が、子宮の奥に鈍い疼きを生み出していく。
「もっと……もっと強く……!」
無意識に懇願の言葉が漏れる。圭太の目が戸惑いから確かな欲望の色へと変わっていくのを真矢は恍惚として見つめていた。
そうだ、その目だと真矢は恍惚として思った。自分を壊す、獣のような目だ。
圭太の体が反転し、一瞬で上下が入れ替わる。
真矢はソファの背に強く押し付けられ、抵抗する間もなく下着ごと引き裂かれた。
圭太の動きが、一瞬止まる。
その視線が、あらわになった真矢の秘裂に釘付けにされていた。そこは母のものでありながら、見知ぬ女のそれだった。
湿り気を帯びて、欲望に震える生々しい肉の割れ目。
それを見た瞬間、圭太の中に残っていた最後の戸惑いが獣のような飢餓感に塗り替えられた。
呼吸が荒くなり、その瞳に宿っていた理性の光がどろりとした昏い情欲の色に変わる。
「……すげえ……」
吐き出されたのは感嘆ともつかない掠れた声。
もうそこに戸惑う息子の面影はなかった。
剥き出しになった秘裂に、指が遠慮なく突き立てられる。
「あっ! や……だめっ……!」
思考が拒絶の言葉を叫ぶ。
これは圭太だ、自分の息子なのだと。
だが体は正直だった。
指が内部の最も敏感な点を抉るように擦り上げるたびに、腰がびくんと大きく震え、思考とは裏腹に蜜がとろりと溢れ出す。
その事実に羞恥と興奮が同時に全身を駆け巡った。
「やめてって言いながら、こんなに濡れてんじゃねえか……」
耳元で圭太の、いや信二の低い声が囁く。
その声に含まれた嘲りが、真矢をさらに興奮させた。
指が引き抜かれ、代わりに、灼けるような硬い楔がそこに宛がわれる。
真矢はこれから起きることを悟り、恐怖と期待に体を硬直させた。
「やめて……お願い……!」
語尾が快感に震えてしまう。
その声を聞き届けた圭太は獰猛な笑みを浮かべると、一切の躊躇なくその楔を叩き込んできた。
信二譲りの余りに大きいそれが、みちみちと音をたてて真矢を貫いていく。
「あ゛あ゛あ゛ッッ!!」
肉が引き裂かれるような激痛。カヒュッと喉が鳴り、声にならない嗚咽が漏れた。
だが痛みはすぐに熱へと変わり、内部を蹂躙する異物の感触だけが生々しくなっていく。
ずくん、ずくん、と子宮の入り口が脈打つ。痛みから快感へと変わる疼きが脳を焼き切ってしまいそうだった。圭太は真矢が苦痛に喘ぐのを気にも留めず、若さを持て余すように、ただひたすらに腰を振り続けた。
「あ゛、あ゛ッ! あ゛、うッ!」
喉から迸るのは、もはや人間の声ではなかった。快感と屈辱に理性を破壊された、雌の獣の喘ぎ声だ。
熱い涙が止めどなく溢れ、頬を濡らす。
これは罪だ。決して許されることのない、地獄へと続く道なのだと、理性の片隅が叫んでいた。それなのに、体は圭太の暴力的な律動に歓喜し、腰が勝手に揺れてしまう。
ぐちゅり、ねちり、と卑猥な水音がリビングに響き渡る。
ソファのスプリングが、二人の激しい動きに合わせてぎしり、ぎしりと悲鳴を上げていた。
肌と肌がぶつかる乾いた音、そして真矢の甲高い嬌声が混じり合い、倒錯的な交響曲を奏でる。
圭太の若く猛々しい肉体は尽きることのないスタミナで真矢を貪り続ける。
その顔は純粋な欲望に染まり、ただ目の前の獲物を食い尽くすことしか考えていない雄の顔だった。
信二よりも若く、強く、そして容赦がない。
「もっと……もっと、めちゃくちゃにして……!」
涙と涎に濡れた顔で、真矢は喘ぎながら懇願した。
もういっそ、このまま壊してほしいと彼女は願った。孤独で惨めな自分を、この圧倒的な快楽で粉々に砕いてほしいと。
その祈りが聞こえたかのように、圭太の腰の動きが一段と激しさと深さを増した。真矢の腰を掴む指に力がこもり、まるで肉に爪を立てるように、ぎりぎりと締め付けてくる。
ずぶり、と一際深く、熱い鉄の杭が子宮の最奥を抉り貫いた。
「い゛い゛い゛い゛ッッ!!」
絶叫と共に、真矢の視界が真っ白に染まる。
脳の芯が痺れ、全身の筋肉が硬直したかと思うと、次の瞬間には激しい痙攣の嵐が吹き荒れた。
子宮がびくびくと脈打ち、体の奥から熱い奔流が何度も何度も込み上げてくる。
快感が強すぎて、まるで死んでしまうかのような錯覚。
思考が完全に停止し、ただただ荒れ狂う快楽の波に翻弄されるだけの肉塊と化していた。
その痙攣の最中、圭太の低い呻き声が耳元で響き、腹の奥に灼熱の奔流が叩きつけられるのを感じた。
◆
翌朝。
ソファの上で目を覚ました真矢の体を、まず襲ったのは鈍い痛みと、そしてそれを遥かに凌駕する罪悪感だった。散らかった衣服、体に残る生々しい痕跡、そして昨夜の記憶の断片が、自分が何をしでかしてしまったのかを容赦なく突きつけてくる。
慄然とする。
母親失格だ。いや、人として終わっている。
どんな顔をして圭太に会えばいいのだろう。絶望が冷たい霧のように心を覆い尽くしていく。
とにかく、今は顔を合わせたくない。その一心で時間を確認する。今日は休日だが、確か圭太は友人と遊びに行くと話していたはずだ。その記憶に縋りつき、真矢は安堵の息を漏らした。
そっとリビングへ向かい、とりあえずインスタントコーヒーでも作ろうとキッチンに立つ。ケトルでお湯を沸かし始めた、その時だった。
不意に、尻に何かが柔らかく当たる感触があった。
「母さん」
背後から聞こえたのは、紛れもない圭太の声だった。心臓が凍りつく。ゆっくりと、しかし確かな意図を持って、圭太の手が尻を撫でている。
「なっ、何をするの!」
悲鳴に近い声を上げ、その手を跳ね除けようとする。だが、圭太の腕はびくともしない。それどころか、力ずくでキッチン台に抑え込まれてしまった。
圭太は何も言わず、真矢の着ていたパジャマのズボンを、その下着ごとゆっくりと引き下ろしていく。抵抗できない。いや、抵抗する気力すら、もう湧いてこなかった。
すべて、自分が悪いのだ。
酒に酔い、寂しさに負け、この子を道連れにしたのは自分なのだから。
真矢の中から、すべての抵抗が消え失せた。ふっと体の力が抜け、されるがままになる。圭太はその変化を敏感に感じ取ったようだった。
昨夜よりは幾分か、その動きは優しくなる。しかしそれは、獲物をいたわる優しさでは断じてない。完全に手中に収めた獲物を、じっくりと味わうためのものだった。
やがて圭太は真矢の体の向きを変えさせ、その場に跪かせる。目の前に突き出された、若々しく猛々しい熱の塊。
真矢はすべてを諦め、ゆっくりと、それ自身の重さを確かめるように震える唇で受け入れた。