朱色の空に紺色が混じり、陰が濃くなる森の中。わたしは小さく膨らんだお腹を翼でさすり、下腹に溜まる熱をじっとやり過ごしていた。
木の上に拵えた巣にひんやりとした風が吹き抜け、汗の滲む肌を優しく撫でる。火照った身体を冷やす風が心地良い。熱の籠もった吐息を漏らし、ふと空を見上げれば梢の隙間から白い月が覗く。
軽く目を閉じ、木々のさざめきに耳を傾け、月の白さにお母さんの姿を思い出す。
うっとりした表情で白い羽根を震わせるお母さんの姿。震える声で鳴きながら、気持ち良さそうに卵を産んだ光景が今も目に焼き付いて離れない。
今のわたしは、あのときのお母さんそっくりだった。これから自分も卵を産むのだという予感とともに、お腹の奥で鈍い圧迫感が強まる。
深呼吸をして記憶の中のお母さんの姿を真似る。しゃがんで、脚を大きく開いて、尾羽を持ち上げる。おしっこのときよりも深く、お尻をぐっと突き出した。慣れない姿勢に身体がぐらりと揺れ、思わず倒れかける。脚の爪で巣の底を強く掴み、羽ばたいて体勢を立て直す。
危なかった。もしお腹から倒れていたら、卵は割れてしまったかもしれない。背筋を冷たいものが駆け、肌を伝う汗に冷や汗が混る。胸を撫で下ろし、ほうっと息を吐いた。
改めて姿勢を整え、お腹に意識を向ける。膨らんだお腹の奥で、とくん、とくんと脈打つような気がした。雄と交わったことはないから、仔が宿っているはずはない。そう分かっていても、鼓動と一緒に熱く重みを増していく卵には、本当に命が宿っているように思えた。
お腹の重さが増すたびにお尻の穴がヒクヒク疼き、温かい汁がとろりと垂れる。いつものおしっこやうんちとは違う、不思議な感覚に戸惑いながら、わたしの身体はその瞬間を待ちわびた。
夜空に浮かぶお月さまはすっかり高く昇り、暗闇を照らす灯りがわたしを晒し出す。なんだか覗き見られているみたいで恥ずかしいのに、背筋はゾクリと震え、白い羽毛がぞわぞわと逆立った。
お腹の奥がきゅっと締め付けられ、ふわりと解け甘く広がっていく。波のような快感に揺られるなかで、硬い卵が通り道をぐっと押し開いた。産まれる――その言葉を意識した途端、卵の形が頭の中に鮮明に浮かび上がる。
呼吸が荒くなり、汗が頬を伝う。苦しさにぎゅっと目を閉じ、お腹からの圧迫感に耐えた。お尻からは止めどなく汁が溢れて、生臭い匂いを漂わせ始める。本格的に始まった産卵の予兆に、苦痛と快楽は境目をなくし、喜びで羽根が震えた。
「あっ、たまご……♡うん、でようとしてるの……わかるよ……♡」
熱い塊が下りてくる。お腹の奥が開かれ、硬くて大きいものが内側をゾリゾリ削りながら通り抜けていく。芯まで衝撃に、わたしはじっと堪えることしかできなかった。
フーッ、フーッと息を吐き、湧き上がる脈動に身を委ねる。どれくらいの時間そうしていただろう、ぼんやりとしていた意識を引き戻すように、強烈な衝動が身体を貫いた。
「あ゛っあ、あ、ぐ……ぅ♡っ、ふぅぅゔゔゔゔーーーッ!!!」
卵が境界線を越え、ずるりと押し出される。快感が背筋を駆け上がり、蹲った身体は弓なりに反り返った。喉が塞がれてうまく息ができず、口が魚みたいにぱくぱくと動く。視界が明滅して涙が零れ落ちる。頭の中は白く染まり、もう何も考えられなかった。
身体を硬直させたまま空を仰いでいると、快楽で飛んでいた意識が少しずつ戻って来る。気がつくとお腹の奥から響く圧迫感がなくなっていた。「産卵がこんなにすごいなんて」そんなことを朧気に思いながら、余韻の中に身を沈めようとする。
だが、まだ終わりではなかった。
身体の奥から、お腹を掻き分けながら下りてくる。まるで卵が、自身の存在を思い出させるかのように。突然訪れた肉を抉るような感覚に、わたしはたまらず倒れ込み、前屈みになってお尻を突き上げる姿勢を取った。
「ぁ……はぁ……っ♡んっ……ごめんね、ちゃんと出してあげなきゃ♡」
お腹の奥を越えるときのような、狭い場所を押し開く苦しさはなかった。ただ、卵が柔らかな肉の壁をこすり、身体の中を進む感覚が気持ち良かった。
甘く蕩ける心地よさに身を委ねていると、卵はぴたりと動きを止める。出口にたどり着いたのだ。熱く重い塊が、わずかな隔たりを挟んで迫っていた。
内側からの圧に耐えきれず、穴がヒクヒクと蠢く。お尻にぐっと力を込めると、ざらりとした感触が一瞬顔を覗かせる。その感覚に驚いて反射的に穴を窄めると、卵は敏感な粘膜を勢いよくこすり、再び中へ押し戻された。
「はひゅ……っ♡い、いまの……すごい……♡」
思わず声が漏れる。ほんの少し出入りしただけでこれなのだ。もし全部通り抜けたら――。想像しただけで胸がざわめき、期待ではち切れそうになる。
夢中になって抽挿を繰り返し、少しずつ、少しずつ出口は広がっていく。穴を引き裂かれるような圧と、肉を削ぎ落とすような刺激が交互に押し寄せ、頭の芯まで蕩けていった。お尻から響く粘ついた音は次第に大きくなり、気分を昂らせる。
抽挿の間隔は次第に短くなり、ついにわたしの意思とは無関係に卵は押し出される。お尻の穴はみちみちと音を立てて広がり、引っ込まなくなった卵を弱々しく締め付ける。
止めようとしても止まらない。お腹の奥から突き上げる衝動はわたしを塗り潰し、産み落とすことしか考えられなくなっていた。
本能に突き動かされるまま、お腹に力を込めるが、途中で引っかかり出てこない。詰まった卵に肉がぐいぐい引っ張られる。もどかしさを振り払うように腰を揺らし、収縮に合わせて思い切りいきむ。
「ふぁ……でるっ♡でりゅっ♡あっ♡あっ♡んお゛っ♡んぐぅぅぅーー……っっ♡♡♡」
最後の一線を越え、卵がぐぷりと押し出される。
張り詰めていた全身の力が一気に解放され、意識が真っ白に弾け飛んだ。脚がガクガクと震え、気持ちよさが全身を駆け巡る。深い絶頂に飲み込まれ、言葉にならない鳴き声を上げ、快感に身を震わせることしかできなかった。
快楽の波が落ち着き、息を整える。力の抜けた身を起こし股下を覗き込むと、そこには大きな卵が転がっていた。粘液に濡れてぬらぬらと光る、わたしの卵。そこでようやく、軽くなったお腹に気がつく。へこんだお腹を見て、確かにわたしが産み落としたのだと実感が込み上げてきた。
濡れた卵を翼でそっと抱き寄せる。粘液に覆われた殻が肌に触れ、生ぬるい温もりが伝わってきた。その暖かさは卵のものではなく、わたしの自身の残り火だろう。それでも、この暖かさを胸に抱いていると、不思議と心に優しさが溢れてくる。
身を横たえ空を見上げる。さっきまでわたしを照らしていたお月さまはもう見えず、辺りは静かな闇に包まれていた。温もりの残る卵を胸に抱き、いつか仔を抱く姿を想いながら、静かに目を閉じた。