父が殺された。
大剣が父の胴を貫き、血が噴き出した。
口から赤を吐きながら、父は驚愕の眼でこちらを見た。
その顔は、苦痛でも恐怖でもなく――ただ泣いていた。
大粒の涙をこぼし、信じられぬと顔を歪める。
父が泣き顔を見せたのは、あの一度きりだった。
「……ぁ……れ……」
最後に口を動かし、父は息絶えた。
何を言い残そうとしたのか。今でも、わからない。
私は駆け寄ることさえできなかった。
足がすくみ、震えて力が入らない。
涙は勝手にあふれるのに、恐怖で動けない。
父が死ぬ――その理不尽が、ただただ怖かった。
「あ……あ、ぁ……」
喉は引きつって意味のない音を吐き出し、
体はぶるぶると震えて言うことを聞かなかった。
――そんな私を。
「お前が『夕日姫』か」
赤い髪、小麦色の肌、灼熱のような瞳。
その容姿から、人々は私を『夕日姫』と呼んだ。
その名は、敵国にまで届いていた。
男は馬上から見下ろし、
「さぁ、来い」
と言うと、軽々と私を抱き上げ、そのまま連れ去った。
名をリメン。黒い髪に浅黒い肌を持つ男だった。
――
シンガ大陸の中路地区は、遊牧民と定住民が暮らす土地。
かつて帝国の支配下にあったが、やがて帝国は内紛で崩れ、地区は束の間の自治を得た。
だがその平穏を破ったのが、リメンである。
リメンは元は帝国の王子だった。
だが叔父オルトが皇帝に即位すると、辺境へ追いやられる。
一見、狩りや祭りに耽り、享楽に溺れているように見せていたが、それは敵を欺く仮面だった。
わずかな兵を率いて城を脱出すると、北の中路地区へ進出。
馬術と剣技、そして統率力を武器に、次々と部族を討ち滅ぼしていった。
少数の兵はやがて膨れ上がり、各部族は降伏を余儀なくされる。
そして、リメンの矛先は――我がジゲルト族へ向いた。
男手の少ない部族は抵抗むなしく敗れ、滅ぼされた。
屈強で、無口で、それでも私には笑顔を向けてくれた父。
その父を斬り捨て、紙を裂くように命を奪っていくリメン。
私は、その男を、心底恐ろしいと思った。
生き残った者たちは、リメンの本拠地へと連れて行かれた。
そこは多くの人々と人種が入り混じり、活気に満ちた場所だった。
商人が店を構え、珍しい品々を並べ、見たことのない食べ物を売っている。
楽団の音楽が流れ、芸人や歌い手が観衆を沸かせる。
まるで国際都市のようだ――だが、ここまで賑わう場所は滅多にない。
草原で育った私にはすべてが珍しく、目移りしてばかりだった。
「興味があるようだな」
リメンがニヤリと笑ってこちらを見た。
私ははっとして視線を逸らす。
「俺は能力のある者を評価する。兵士、職人、商人、大工、芸人……。優れた者には、地位も名も与えてきた」
「なら……なんで父を殺したのよ!」
思わず声を張り上げていた。
「お前の父が俺に刃向かったからだ。逆らう者には死を与える。当然だろう」
「っ……」
「俺は、俺の邪魔をする者を許さん」
その眼差しには強い意志が宿っていた。
私は、その目が恐ろしくて仕方なかった。
「……私をどうする気なの」
「気に入った。お前を、俺の妻にする」
「……な、なに……!?」
思わず目を見開いた。
「私を……物扱いする気!? ふざけないで!」
怒りに任せて掴みかかる。だが逆に、腕を強く押さえ込まれた。
「今はまだ手は出さない。だが、いずれお前を抱く」
「なっ……」
その言葉に、背筋を冷たいものが走る。
リメンは顔を近づけ、低く告げた。
「俺に逆らうことは許さん。お前は、俺の物だ」
そして、唇を奪った。
「……っ!」
涙が溢れ、私は必死に彼を突き飛ばした。
震える手で唇を拭う。拭ったところで、感触は消えない。
リメンはその姿を見て、歪んだ笑みを浮かべた。
「そうだ……お前は俺の物だ」
――
その後、私は城へと連れて行かれた。
「今日からここがお前の住まう場所だ」
あてがわれたのは広い一室。
磨かれた床に豪奢な家具、綺麗な衣服、贅沢な食事、そして可愛らしいカーテンの付いた大きなベッド。
まるで物語に出てくる姫の部屋のようだった。
「それでは、ごゆるりと」
世話役のメイドが一礼し、部屋を去る。
私はベッドに身を投げた。
ふかふかの感触に、思考が一瞬、空白になる。
「……生きてる……」
まさか、ここまでの待遇を受けるとは思わなかった。
だがすぐに、父の姿が脳裏に浮かぶ。
草原の勇者と呼ばれた父。
大きな体に整った顔立ち、知恵も器量も群を抜き、困っている者には分け隔てなく手を差し伸べた。
家族の目から見ても、まさに英雄だった。
戦から帰ると、必ず私に土産をくれた。
異国の服や食べ物、宝石。
あるいは馬に私を乗せ、草原を駆け抜けてくれた。
父は、いつも私の憧れだった。
その父が、あんなにも簡単に……。
「私は……これから、どうなるんだろう」
リメンの物になる。
つまり――あの男に抱かれるということ。
「……うっ」
吐き気がこみ上げる。
「いや……いやよ」
あんな男に、私の体を好きにされるなんて。
何よりも、最愛の父を無残に殺した男の慰み者になるなど、死んでもごめんだった。
「……死のう」
声にしてみると、不思議なほど自然に思えた。
もう、私の望みはそれだけだった。
これ以上苦しみたくない。
幸せを奪われていくのを見たくない。
私は手元の短刀を手に取り、切っ先を胸に向ける。
リメンに奪われるくらいなら、自らの手で――。
「――っ」
その瞬間、父の最期の言葉が脳裏に蘇る。
『……生きろ……』
確かに、そう口を動かしたように見えた。
「父上……」
そうだ。私にはまだ、やるべきことがある。
復讐だ。リメンに。
命を賭けて、この草原に、そして父の無念に報いるために。
成し遂げてから死のう。
その機会を、必ず見定めて。
私が確実に死を遂げる方法――それは『男』であるリメンを討つこと。
決して容易ではない。だが、それでも覚悟を決めなければならない。
父の分まで、私は――。
そう胸に刻みながら、眠りへと落ちていった。
――
翌朝。
私は侍女に連れられ、城内を案内された。
「こちらが食堂でございます。お食事はこちらで」
一礼して去っていく侍女。
私は一人で食堂に入った。
長机の上にはすでに料理が並べられている。
肉とパン、温かなスープ、色鮮やかな果物――どれも美味しそうだ。
だが、喉を通らない。
「……食べないのですか?」
「いえ、いただきます」
いつの間にか傍らに立っていた侍女に答え、私はため息をつきながら、乱暴に食事をかき込んだ。
食事を終えると、再び案内される。
「こちらが王の居間です。夕日姫様がお食事を終えられたら、お連れするようにと」
扉が開かれ、中へと通される。
「来たか」
リメンがこちらを見て笑った。
その笑みに、背筋がゾクリと凍る。
「来い」
手招きするリメンを無視し、部屋の中央まで進んで正面から見据えた。
「……なんのつもり?」
「正式な通達だ。明日、お前と婚姻を結ぶ」
「な……っ」
絶句する私。
「明日、式を挙げる。用意をしておけ」
「ふ、ふざけないで!!」
思わず叫んでいた。
「誰が……あんたなんかと! 誰が結婚なんてするもんか!!」
「……ほう」
リメンが立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。
「お前の意志など関係ない。草原では強き者こそ正義。俺が王で、お前が姫である限り――従うしかない」
そう言って私の顎を掴み、強引に顔を向かせた。
「……っ」
「自分の立場を弁えるんだな」
手を離し、再び椅子に腰を下ろす。
「話は以上だ。下がれ」
怒りに震えながらも一礼し、私は部屋を出た。
自室に戻ると、そのままベッドに倒れ込み、枕に顔を埋める。
「……なんなのよ、あの男……!」
明日、婚姻を結ぶ? 冗談じゃない。
誰があんな男と――結婚なんてするものか!
あんな男の妻になるくらいなら、死んだ方がまし!!
だが――。
もし妻となれば、夜伽を強いられる。
その時、あいつの寝込みを襲えるのではないか。
「……だったら、寝首をかいてやる」
その時こそ、復讐を果たす。
それが、私に残された道だ。
翌日――。
婚姻の儀は盛大に執り行われた。
広間には数百の兵士と文官が並び、楽団と芸人が華やかに彩る。各国からの使者も列席し、視線はすべて祭壇へ注がれている。
「本日、新しき王と女王の婚姻を祝福いたします!」
司祭の声が高らかに響いた。
リメンは、いつもの黒衣ではなく、白地に金糸を散りばめた礼服を身に纏っていた。
私は白いドレスに包まれ、兵士に促されるまま前へ進む。祭壇の前に立ち、リメンを見上げると、彼は薄く笑んだ。その笑みに、背筋を冷たいものが走る。
「では、誓いの口付けを」
司祭の言葉と共に、リメンの手が私の肩を掴み、唇が重なった。
「……っ!」
思わず顔をそむける。
「おい」
低く鋭い声。睨みつけられ、その目に思わず怯んだ。
「お前は俺の妻だ」
「……っ」
「お前のすべては俺の物だ。忘れるな」
拳を握り締め、歯を食いしばるしかなかった。
やがて司祭が儀の終わりを告げ、私は正式にリメンの妻となった。
――
その夜。
私は伽のために寝所へと連れられた。
侍女が案内した部屋には、豪奢な天蓋付きのベッドが鎮座している。
「では、ごゆるりと」
一礼して去っていく侍女。
私はベッドに腰を下ろし、寝間着の内から短刀を取り出した。
「……絶対に、この男を殺してやる」
復讐のため、覚悟は決まっていた。
リメンが眠るところを刺す――それしかない。
「待たせたな」
扉の外から声。リメンだ。
私は短刀を隠し、深呼吸で心を鎮める。
大丈夫……必ず上手くいく……。
扉が開き、リメンが姿を現した。
彼の目が私を捉え、驚いたように見開かれる。
「その姿は……」
「どう? 似合うかしら」
私は白いドレスをまとい、髪を結い上げていた。侍女に頼み込み、特別に用意させたものだ。
少しでも女らしく見えれば――そう思って。
「だって、私はもう……あなたの妻なのですから」
リメンは無言のまま私を見つめる。
だが、次の瞬間、私の腕を掴み、短刀を奪い取った。
「あっ――」
取り返そうと伸ばした手より早く、リメンは刃を素手で握り締め、そのまま床へ投げ捨てる。
甲高い音を立てて転がる短刀。
「なっ……」
「ふん。下手な芝居だな」
「!?」
「急に女らしく振る舞った。白々しいにも程がある」
胸が激しく鼓動する。
「俺の寝首をかこうという魂胆だろうが……」
「っ!!」
思わず後ずさる私を見て、リメンは笑った。
「できもしないことを企むな。お前は黙って俺に従っていればいい」
「……くっ!」
悔しさに歯を噛みしめる。だが次の瞬間、リメンが腕を引き寄せ、私はベッドに押し倒された。
「あっ……」
馬乗りになり、冷たい瞳で私を見下ろす。
「お前が俺を殺そうとしていることなど、最初から分かっていた」
「……っ!?」
衝撃に目を見開く私。
そんな表情を見て、リメンは鼻で笑った。
「だが、俺は死なん。俺が死ぬのは――この大陸を統一した時だけだ」
「……っ!」
――その傲慢な言葉が、胸に深く突き刺さった。
リメンの目に宿る狂気を見て、私の背筋が凍った。恐怖に震えながら、彼の次の言葉を待つ。「俺を楽しませるぞ?」と、彼は低く囁き、首筋に舌を這わせた。
「ひぃっ!」思わず悲鳴を上げ、顔を逸らす。だが、リメンは私の顎を強く掴み、正面を向かせた。「逃げるな」と一言。鋭い声に抗えず、彼は私の唇を奪った。舌が侵入し、歯列や上顎を舐められると、寒気が背筋を走る。唇が離れた時、唾液の糸が引いた。
「はぁ、はぁ……」私は必死に呼吸を整えた。リメンはそんな私を見て、薄く笑みを浮かべる。「いい顔になってきたじゃないか」と言いながら、胸に触れた。体がビクリと震える。「や、やめて……」震える声で懇願するが、彼の手は止まらない。服を剥ぎ取られ、下着姿にされ、ブラジャーが外されると、胸が露わになった。
リメンは顔を近づけ、胸を口に含んだ。生暖かい感触にゾクリとする。「んっ」と声が漏れ、胸を揉まれ、乳首を吸われたり噛まれたりするたびに、体が震えた。やがて彼の手が下半身に伸び、足を閉じようとするが、間に割って入られ防がれる。ショーツの中に手が入り、秘部を撫でられた。
「あっ!?」突然の刺激に驚き、割れ目をなぞられると体が痙攣する。「あっ、やぁっ!」と叫ぶが、リメンは無視し、指を膣内に侵入させた。異物感に顔を顰めるが、さらに奥へと進む。「ひっ、ああっ!」指が二本になり、中で動くと、腰が浮くような感覚に襲われた。
「やっ!やめてぇっ!」必死に叫ぶが、彼は聞かず、指の動きが激しくなる。「ああんっ!だめっ、そこぉっ!」ある一点を掠められ、未知の感覚に体が震えた。「ここか?」リメンはニヤリと笑い、そこを執拗に攻める。嬌声が響き、限界が近づく。だが、突然指が引き抜かれた。
「え……?」物足りなさに声が漏れる。リメンは私の足を広げ、間に体を割り込ませた。ズボンを下ろし、大きな肉棒を取り出す。その大きさに息を飲む。彼はそれを秘部に押し当てた。「ま、まさか……」と呟くが、「お前の意思など関係ない」と一蹴され、ゆっくりと腰を突き出してきた。
「いやぁっ!」悲鳴を上げるが、無視され、挿入される。重厚な質量が奥へと進み、根元まで飲み込むと動きが止まった。「あ、ああ……っ」圧迫感に息が詰まる。リメンが動き出す。「ああんっ!やぁっ、だめぇ!」と叫ぶが、彼は止まる。
突然、優しく胸を舐め始めた。「うくぅ……っ」と声が漏れる。もう片方の胸を吸い、先端を強く摘まれると、体が跳ね上がる。一瞬の優しさに困惑しつつ、感じてしまう。「ふあっ!ダメっ、もう無理ぃ!」快楽の限界が迫る中、リメンが耳元で囁いた。「動くぞ。」
直後、激しい抽送が始まった。パンパンと肉がぶつかる音が響き、強烈な快楽に耐えきれず絶頂を迎える。膣内が痙攣し、「くっ……」とリメンが小さく声を漏らすと、熱い液体が注がれた。頭が真っ白になり、絶頂の余韻に浸る。
ずるりと引き抜かれ、秘部から精液が溢れ出す。「あ……っ」と呟きながら、意識が遠ざかる。薄れゆく中、リメンの声が聞こえた。「まずは満足したぞ、夕日。」
「……うぅ……」
目を覚ますと、見慣れぬ天井が目に映った。
「あ……私……」
そのとき、自分が裸であることに気づく。慌ててシーツを肩まで引き上げた。
――そうだ、私はリメンに犯されたのだ。けれど、不思議と痛みはなかった。むしろ……心地よかったような……。
そこまで考えて、私は激しく首を振る。
何を考えているの? 私は男なんて大嫌いなのに!
自分に言い聞かせていると、扉の開く音が響いた。
顔を向けると、そこに立っていたのはリメンだった。その姿を見た瞬間、昨夜の出来事が鮮明に蘇る。
「っ!」
思わず飛び起き、シーツで身を隠す。
「何をそんなに怯えている?」
「……女を犯して満足なの? この鬼畜……!」
私は睨みつけ、唇を噛みしめる。
「ふん。女を支配するのも王の務めだ」
リメンの冷ややかな声に、私は歯ぎしりした。
「まぁいい。これから毎日可愛がってやる。覚悟しておけ」
「……っ、鬼畜め!」
「悪いな。お前との子がどうしても必要なんだ」
「……私との、子供……?」
一瞬、思考が止まる。なぜ私と? 冗談じゃない。絶対に受け入れられない!
そう思った矢先、リメンが耳元に顔を寄せた。吐息がかかり、思わず体が震える。
「お前が俺の子を孕むまで、解放はしない。覚悟しておけ」
背筋がぞわりと粟立つ。
「い、嫌よ! そんなの……!」
「お前に拒否権はない。せいぜい俺を楽しませるんだな」
不敵に笑うと、リメンはそのまま部屋を後にした。
――私は呆然と立ち尽くす。
「なんてこと……あの男と子供を作るだなんて……」
思わず自分の腹に手を当てる。もし本当にあの男との間に子ができたら、どうすればいい? 考えれば考えるほど胸が塞がっていく。
リメンはやはり血も涙もない暴君だ。女を物としか思わず、多くの人間を殺めては嬲る。あの男が王となれば、この国の人々は皆、彼の玩具にされるだろう。
私だけではない。他の女たちも同じ目に遭わされるに違いない。
――それだけは、何としても阻止しなければ。
そのために私は生きる。ここで死ぬわけにはいかない。
強くそう心に刻み、決意を新たにした。
それからというもの、毎日リメンに体を求められる日々が続いた。
初めは嫌悪しかなかった。だが、何度も繰り返されるうちに――私は自分が、快感を覚えていることに愕然とする。
(なぜ……? どうして、こんな男に……)
私は女官に、リメンのことを尋ねてみた。
「きっとあの男は、私のように多くの女を襲っているのでしょうね」
女官は目を丸くして首を振った。
「まさか。陛下は非常にご清廉なお方。女性に無理を強いるなど、決してなさいません」
「……え?」
耳を疑った。だが女官は続ける。
「陛下は女性をとても大切にされる御方。ですから、お妃様である夕日様にも優しくされているのでしょう」
「そんな……」
信じられなかった。あのリメンが? 信じられない。だが……確かに、抱かれるときは優しさを感じることもあった気がする。
「他の女性を無理やり手籠めになさったことも、攫ったこともございません。陛下が抱かれたのは、夕日様が初めてです」
その言葉に、胸が締め付けられる。――まさか。本当に、あのリメンが?
否定したいのに、心に芽生えた疑念は消えない。
私はリメンについて調べることにした。
すると驚くべき事実が分かった。
リメンは国民、そして女性たちから絶大な支持を得ていた。
彼は傭兵を多く雇い、国民への負担を減らし、軍規も厳しく保ち、兵士が女を害することなど決して許さなかった。領地の内政も巧みに治め、とりわけ戦で夫や息子を失った未亡人を厚く保護し、生活が安定するまで面倒を見ているという。
さらにリメンの統治は公平で差別がなく、国民からは慕われていた。リメン自身も国民を第一に考え、その姿勢が広く支持されていたのだ。
(そんな……)
私は信じられなかった。あの暴君が? 本当に……?
「夕日様」
女官に声をかけられて顔を上げる。
「陛下はあなたをお后に迎えられ、大変お喜びでございます」
「え?」
「ふん、それは違うわ。どうせ私の体が欲しいだけでしょ」
思わず口をついて出た悪態。だが女官は困ったように微笑んだ。
「陛下は夕日様を妃として、心から大切にしておられます。その証拠に、夕日様のお体を何より気遣っておいでです」
「え……?」
思わず息をのむ。
「陛下は夕日様が召し上がる料理やお飲み物にまで気を配られています。夕日様のお口に合うものを故郷の土地から取り寄せ、お好きな果実や菓子もすぐに用意なさっています」
「どうして……そこまで?」
女官はやわらかく微笑んだ。
「陛下は、夕日様のお父上との約束を今も守っておられるのです」
「……約束?」
「はい。陛下は戦を始める前から、夕日様とのご婚約を望んでおられました。ですが利害の衝突や臣下の反対、外国勢力の思惑により、夕日様のお父上はやむなく宣戦布告をなさいました。
戦の果てにお父上は戦死されましたが、その最期に陛下へ『娘を頼む』と託されたのです。陛下はその約束を今も果たそうとしておられるのですよ」
「……」
私は知らなかった。リメンがそんな思いを抱いていたなんて。胸が締め付けられる。
けれど信じられなかった。父を殺したのは、ほかでもないリメンなのだ。
どうして――どうして、あの男を信じることなどできようか。
女官が去ると、私は再びリメンについて考え始めた。彼は本当に暴君なのだろうか? 私を無理やり抱くその男が、城中の者たちが口を揃えて語るような残酷な支配者だというのか。信じられなかった。女官の言葉を確かめるため、官吏や召使、他の女官たちに聞いて回ったが、皆同じことを繰り返した。リメンは冷酷な王、血に飢えた暴君だと。それでも、私の心は彼を信じきれずにいた。父を殺した理由――その真相を知りたいという思いが、胸の奥で燻っていた。
その夜、リメンが再び私の部屋に現れた。「来たぞ」と短く告げ、扉を閉める。私は無言で彼を見つめ、決意を固めた。殺すのはいつでもできる。だが、その前に、彼が父を殺した理由を知らねばならない。「どうした? 震えているぞ」とリメンが笑う。私は言葉を失い、唇を噛み締めるしかなかった。
「まぁいい」と彼は言い、私の首を掴んでベッドに押し倒した。服が乱暴に剥ぎ取られ、彼の体が覆いかぶさってくる。乳房を強く握られ、思わず声が漏れた。「あっ……」同時に、秘部を撫でられ、体が跳ねる。「んんっ!」痛みと共にある快感が走り、なぜかいつもより強く感じてしまう自分に戸惑った。
リメンは意地悪く微笑む。「いつもより感じているな?」私は答えられず、顔を背けた。だが、彼は私の顎を掴み、強引に自分の方へ向かせると、唇を重ねてきた。舌が口内に侵入し、熱い感覚に頭がぼうっとする。唇が離れ、私は息を整えようと喘いだ。だが、休む間もなく、彼は首筋に唇を這わせ、再び秘部に手を伸ばしてきた。
「や、やめてっ!」と叫ぶが、リメンは無視する。指が膣内に滑り込み、激しく動く。耐えきれず、体が快感に震え、絶頂に達してしまった。だが、彼は満足していないようだった。「休むな」と命じ、私を四つん這いにさせた。私は言われるまま体勢を変え、背後から彼が覆いかぶさる。突然、秘部に熱い質量が押し込まれ、「ああっ!」と悲鳴を上げた。
リメンは容赦なく腰を動かし始めた。秘部を押し広げられる感覚に悶えながら、必死に耐えようとする。だが、彼の動きが激しくなるにつれ、思考が溶けるように消えていった。「あっ、あぁっ!」無意識に腰が動き、彼の激しいピストンに応える。肌がぶつかり合う音が部屋に響き、快楽の波に飲み込まれる。やがて、限界を迎えた瞬間、熱い液体が注ぎ込まれ、同時に私も達した。
リメンが体を離すと、私は震える体を抱え、薄れゆく意識の中で彼の声を聞いた。「まずは満足したぞ、夕日。」その言葉に、胸の奥で何かが揺れた。体を重ねる中で分かったのだ。彼はただの暴君ではない。愛と優しさを持つ男だと。その愛情が、強く伝わってきた。
「夕日。」リメンが私の名を呼ぶ。ゆっくりと顔を上げると、彼は優しく微笑み、そっと唇を重ねてきた。そのキスは甘美で、心を落ち着かせるものだった。しばらく互いの唇を重ね、味わい合う。やがて、どちらともなく唇を離し、今度は深い口づけを交わした。
胸の奥から、抑えきれぬ感情が湧き上がる。この男に恋してしまったようだ。認めたくなかった。父を殺した男に心を奪われるなど、受け入れ難い事実だった。だが、リメンの愛おしさに気づいてしまった。彼には邪な考えなどなく、ただ純粋に私を愛している。その強い態度が、照れ隠しかもしれないと思うと、彼が愛おしくてたまらなかった。
私はリメンの背中に手を回し、強く抱きしめ返した。唇を重ね、再びキスを交わす。やがて私は彼の上に跨り、互いの体を重ねる行為に溺れた。「あぁ……はっ……」その行為は、ただ触れ合うだけで深い快感をもたらし、心を満たした。
絶頂が近づく瞬間、リメンは私の腰を掴み、一気に深く結びついた。衝撃的な感覚に体が震え、意識が遠のくほどの快楽が広がった。私は彼を離すまいと、両脚で彼の腰を強く挟み込んだ。リメンは呆れたような笑みを浮かべると、再び私を抱き寄せ、動きを再開した。「はぁ……あっ……」
彼が動き始めると、軽い波のような快感が押し寄せる。リメンの首に腕を回し、抱きつくように体を寄せた。「あぁんっ……!」切ない声が漏れ、激しい動きに耐えきれなくなる。「くく、いい声だ」とリメンが耳元で囁く。その言葉に心が震え、さらなる快感が押し寄せた。
「くっ……出すぞ」と彼が苦しげに呟き、私は彼にしがみつき、絶頂を迎えた。深い快感が体を貫き、互いの熱が溶け合う感覚に包まれた。「はぁ……はぁ……」荒い呼吸を繰り返し、ゆっくりと体を離すと、私はベッドに横たわった。
さすがのリメンも疲れたのか、私の隣で静かに横になった。彼の顔を見ると、穏やかな表情がそこにあった。私はそっと彼の頬に触れる。リメンは私の手を取り、優しく握り返した。その瞬間、父を殺した男への葛藤と、彼への愛おしさが胸の中で交錯した。だが、彼の温もりと優しさが、私の心を静かに満たしていくのだった。
だが、一つだけ気がかりなことがあった。私は意を決して口を開いた。「なぜ父を殺したの?」
リメンはしばらく黙り込み、考え込むように視線を落とした。やがて、静かに語り始めた。それは十年前の話だった。リメンは隣国である父の元で人質として暮らしていた。ある日、父に紹介された赤ん坊の私と母。リメンは私を妹のように可愛がり、父からは実の息子のように愛情を受けて育ったという。そして、父は約束した――私が成長したら、リメンの妻にすると。
だが、歴史は残酷だった。本国から反乱を命じられ、リメンは挙兵。父はリメン討伐を命じられ、激戦の末、リメンの手で命を落とした。その時、父から手紙を受け取ったという。リメンはその内容を語った。「リメン、お前のことは実の我が子のように愛していた。この手紙を読んでいる頃には、私たちは敵同士だろう。これも草原の運命だ。少ない水、少ない食料を奪い合い、身を削るのが戦だ。もしお前が勝つなら、私の娘、夕日を妻にしてくれ。」
「そ、そんな……」私は手紙の内容に愕然とした。父がリメンを認め、私を彼の妻にしようとしていたなんて。「なぜ教えてくれなかったの?」と声を震わせて問う。
リメンは自嘲するように笑った。「なんだろうな。お前の父を殺した贖罪かもしれない。お前に罵倒されて気を紛らわしたかったのかもな。」
私は理解した。彼が父を殺したのは事実だ。だが、彼の心には後悔も葛藤もあった。私はこの男を愛している。草原の勇者のように純粋で情熱的な男。父の愛を継ぐような、どこまでも追いかけてきてくれる男だと。「俺を殺すなら、そうするといい。強い者に死ぬのが、草原の掟だ。」リメンはそう言い、私の首筋にそっと指を当てた。
だが、私は怖くなかった。彼を愛する心は、彼のすべてを喜びで満たした。私は腕を彼の首に回し、抱きしめるように体を寄せた。そして、彼の顔を胸に埋めさせた。その瞬間、彼の目から涙が光ったように見えた。
「夕日……余は……」リメンが呟く。
「死んで。」私は静かに言った。「私がこの地で果てるまで、戦い続け、非難され続け、草原の男として死になさい。」
優しく微笑みながら、私は彼と口づけを交わした。
それから私はリメンと共に幾年月を過ごし、五人の子を授かった。その間にリメンは帝王としての地位を確かなものにし、私はその妃として君臨し続けた。
そして、リメンは最期の時まで私を守り、愛し続けた。彼の死は草原に新たな時代を迎えさせ、私はその歴史を見守る者として。
私はリメンの死体を見て、最後に復讐の言葉を送った。
……でも、私はあなたを愛している。来世でも、また出会い、また憎み、また愛するだろう。そうやって、私たちは永遠に離れないだろう」
その時、リメンの顔が少し笑ったように見えた。