この後『こんなの認めるしかないじゃん!』と言わんばかりに悪夢を見ることはなくなりました。

やっっっっっと書きあげました。リョウ喜多オメガバース。
去年の10月にぼ虹オメガバース(https://syosetu.org/novel/356729/1.html)を投稿して、リョウ喜多の話も書くと決めてはいましたが中々形に出来ずギリギリ1年経つ前に何とか書ききりました。
リョウが中々ダメ人間ですが、カッコいい完璧人間とかそんなんリョウじゃないよねと思い、むしろ誘惑に弱く意思も弱いのがリョウだと思いこの形になりました。
前作のぼ虹の話を読んでないとリョウが何故こんな状態なのか分からないので前作を既読前提になります。
それからぼざろを書き始めて遂に2年が経ちました。投稿のペースは落ちてしまってますが、それでも続けられてるのはぼ虹リョウ喜多愛だけではなく、皆様に読んで頂き、感想をいただけてる事が何より大きいです。いつもありがとうございます。
これからものんびり投稿していきますのでよろしくお願いいたします。

1 / 1
第1話

リョウSide

 

「えー、そういう訳で。私とぼっちちゃんは番になりました!」

「おめでとうございます伊地知先輩、ひとりちゃん!」

「おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

 

 ぼっちと虹夏のゴタゴタから数週間後、私と郁代は虹夏の部屋に呼び出され虹夏達から番になった報告を受けていた。

 

「ごめんね二人とも、色々面倒掛けちゃって」

「いえいえ! 普段お世話になってる伊地知先輩とバンドに戻る切っ掛けをくれたひとりちゃんの為ですから!」

「ぼっち、お礼に駅前のカレー奢って」

「あ、はい……」

「お前はブレないな」

 

 ふっ、何を今更。むしろ功労者たる私に感謝してほしいくらいだ。……まぁ虹夏にしたことを店長に知られたら比喩抜きで殺されそうだからあんま言わないけど。虹夏も元々の運命の番が私だってこともぼっちに伏せてるみたいだし。それに荒療治が必要だったとはいえ虹夏との仲が拗れてないのが奇跡レベルだ。気にしないようにしてくれてるんだろう。

 

「そういえば店長はどうだったの? ぼっちが念願の義妹になるから飛んで喜んだんじゃない?」

「店長さんひとりちゃんの事お気に入りですもんね!」

「あ、あー……。それがね、番になった事を伝えたら」

「すっっっっごく、怒られました……」

「え」

 

 マジか。盗撮する程お気に入りのぼっちLOVEなのに。

 

「いや、その、普通に考えたら当たり前なんですけど、番ってほぼ結婚みたいなもの、というか籍を入れるより重い誓いなので……」

「お姉ちゃんに、そんな大事な事を何で私やぼっちちゃんのご両親に話す前に決めるんだ!! って怒られたんだよね」

「あー……」

「り、両親にもすごく叱られて……。まだ高校生なのに番を結んだんだから怒られて当然なんですけど……」

 

 確かに番って結婚よりもはるかに重いもんね。籍を入れるのだって充分重い契りだろうけど取り返しがつかない訳じゃない。だけど番の契りは文字通り、特にΩにとっては肉体に刻む一生の契りだから本当にやり直しが効かない。

 それを何の話もせずに未成年の当人達だけで決めたらそりゃ怒られるのが普通か。

 

「もしかしてお二人が一緒になるのご両親や店長さんから反対されてたりするんですか……?」

「あ、いやいやそんなことはなくて。すごく叱られはしたけど最終的には認めて貰えたよ。反対自体は最初からされてないから」

「そうなんですね! よかったぁ……」

「今度ぼっちちゃんの家族とウチの家族とで一緒にお祝いしようって話にもなってるしね。流石にお父さんも来てくれるみたい」

「ぼっち、よくもうちの娘を傷物に、みたいなこと言われて殴られるんじゃない?」

「ひぎぃ!!」

「怖がらせんな!!」

 

 ぷぷぷ、だってこれこそぼっちを楽しむ醍醐味だし。

 

「う、うぅ……! で、でも、虹夏ちゃんと一緒にいたいので、殴られても認めてもらいます!」

「ふっ、言うじゃんぼっち」

「きゃー!! カッコいいわよひとりちゃん!!」

「いやそもそもお父さんそういう事言うタイプじゃないし。それにお姉ちゃんからもお父さんにぼっちちゃんなら大丈夫って話してもらってるから」

 

 とか冷静に言ってる割に顔が嬉しさを抑えきれずににやけてるし頭のアホ毛がブンブン振っててウケる。

 

「それと伊地知先輩! ずっと気になってたんですけどそのチョーカーが……!」

「あ、うん。番になった証のチョーカーだよ。……ぼっちちゃんと一緒に選んだんだ」

「へ、へへ。何時間もかけて何店舗も巡ってたくさん考えて選びました……」

 

 幸せそうにチョーカーを撫でる虹夏。ぼっちも締まりのない顔で嬉しそうにニヤニヤしてる。

 

「素敵……! 見せて貰ってもいいですか?」

「うん、良いよ」

 

 郁代が虹夏のチョーカーを目を輝かせながら虹夏の周りをグルグルしながらじっくり見る。郁代こういうの好きそうだもんね。

 

「もー喜多ちゃん、そんなに気になる?」

「はい! だって二人の愛の証ですよね。すごく素敵です! 写真撮っても良いですか!?」

「はいはいどうぞ」

 

 許可が出るとすぐさまスマホで写真を撮る郁代。虹夏も仕方ないなって態度だけどめっちゃ嬉しそう。

 

「あ、伊地知先輩。この歯形……」

「あ、うん。ぼっちちゃんに噛んでもらった跡だよ」

「うっすらとですけど残るんですね?」

「うん。こうやってじっくり見ないと分からないくらいだからあんまり気にならないけどね。それでも気になる人はカモフラージュ用のテープとかで隠すみたいだけど」

「伊地知先輩は隠さないんですか?」

「今のところはね。それにぼっちちゃんがさ、この噛み跡見るの好きなんだ」

「え、へへ。一生見てられます……」

 

 ぼっち、デレデレしすぎて顔の原型が無くなってきてるけど? やれやれ、また直さないと……。

 

「……良いなぁ」

 

 虹夏の番の証を見ていた郁代がポツリと呟いた。どうしたんだ?

 

「郁代? どうしたの?」

「え!? い、いえ。なんでもありません」

「そう?」

 

 なら良いんだけど。

 でもその後も虹夏のチョーカーを見ながら番になってからの話を羨ましそうに聞いてる郁代がやけに印象的だった・

 

 

 

 

 

 

 

 それから虹夏とぼっちに

 

「私とぼっちちゃんは番になった訳だけど、恋愛に現を抜かしてバンド活動を疎かには絶対しないから。ね、ぼっちちゃん」

「は、はい。それに虹夏ちゃんと一緒になる前から虹夏ちゃんの夢を絶対叶えるって決めてますから。な、なのでこれからもよろしくお願いします」

 

 と、表明を受けて私たちは虹夏の家を後にして帰路を歩いていた。

 

「幸せそうでしたねお二人とも」

「うん。それと多分最後の表明もしておきたかったんだろうね」

 

 別にぼっちと虹夏だから心配してなかったけど。あのバンド大好きな二人がバンドを疎かにするなんて欠片も想像つかないし。むしろ張り切り過ぎて二人の時間をちゃんと取るのかという心配すらある。

 

「でも何か言いそびれちゃったね。私達が付き合ったこと言うの」

 

 そう。あの日郁代と一線を越えた後、改めて私から告白して付き合うことになった。

 虹夏達が番になった報告だろうなって予想はしてたからそのまま報告しようと思ってたんだけど、郁代が2人の番の話に夢中になって言いそびれてしまった。

 

「えへへ、二人の幸せ空間に飲まれちゃいました」

 

 でも、本当に羨ましいな――。っと、風に吹かれて消えてしまいそうな程小さな声で呟く郁代。もしかして……。

 

「ねぇ郁代。もしかしてΩの番関係を羨ましがってるの?」

「え!? あ、う……、はい……」

「Ωって想像してるより大変だよ。毎月ヒートは来るし、酷いと抑えが効かなくて顔も知らないαと寝ることもあるし」

 

 私もそれで何人も声を掛けられたもんな。美味しく据え膳したけど。

 

「それは交流が広いのでそういう話も聞いた事があるので知ってはいるんですけど……」

 

 言いにくそうにモゴモゴする郁代。いつも言いたいことはスパッと言うのに珍しい。

 

「……そんなに羨ましいの?」

「羨ましい……、っていうのもあるんですけど。私がβなせいでリョウ先輩が番を作れないって思ったら、申し訳なくて……」

「別にαの全人類が番作らなきゃいけない訳じゃないし。気にしなくていいよ」

「でもリョウ先輩とお付き合いするようになって調べたんですけど、αも長期間番が出来ないと本能に苛まれるって……」

「それはそうなんだけど」

 

 個人差はあるけど特に支障が無いタイプと私生活に問題が出かねないタイプがいる。……私は正直言って後者だ。それも結構キツイ方。

 

「……今こんな話しても仕方ないしさ、その辺は追々考えることにしよう」

「そう、ですね。ごめんなさい変な話して。その、番になれないから別れたいとかそういう話じゃないので……!」

「分かってるって。あ、でもそれなら」

「はい?」

 

 看板にハートがあしらわれてる煌びやかなホテルに指を向ける。

 

「郁代の愛を全身で教えて欲しい」

「……リョウ先輩のエッチ」

 

 そしてこの日は郁代の愛を全身でたっぷり受け止めて私達も解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、またあの夢だ。

 あの日、結束バンドを組んで初めての夏休み。虹夏のヒートに当てられてしまった私が理性を失って虹夏を襲ってしまったあの日の事を。

 

「ふぅ、ふぅ……! 虹夏、虹夏……!」

「いや、リョウ……! 駄目……!」

 

 ベッドに押し倒されて、私に身体を弄られながら嫌だという虹夏の力は全然抵抗出来ていない。虹夏の服とブラを捲りあげて露わになった虹夏の乳房に吸い付く。

 

「あ、いや……! ふぁ……!」

 

 すごい、甘くさえ感じる。今まで抱いてきたΩとは全然違う。虹夏も私が触れる度、舐める度身体が歓喜に震えてる。

 この身体の相性の良さ。薄々感じてはいたけど、虹夏と私は『運命の番』なんだ。あんなの迷信だと思ってたけど今ここに、目の前に私の運命の番がいる。

 虹夏のスカートを捲ってショーツの中へ手を差し込み、既にグショグショになっている虹夏の膣内へ中指を根本まで挿入れて掻き回すと、

 

「あ!! イ、ク……! ふぁぁ!!」

 

 容易く虹夏が絶頂を迎える。

 私ももう我慢できない。ズボンを脱いではち切れそうになっている自分のを外気に晒す。

 すぐにでも虹夏の膣内を私の精液で満たして妊娠させてしまいたい。それで結束バンドが続けられなくなっても仕方無い。まだ始まったばかりのバンドだ。それよりも虹夏を私の物にする方が大切だ。

 イッてグッタリしている虹夏からショーツを引き抜いて両足を持ち上げて広げて、正常位の体勢で虹夏の入口へと宛てがって、狭い入口を押し広げて先端が挿入る感触。それだけで射精してしまいそうだったけど何とかイクのを堪えて、一気に奥まで挿入れて一つになろうとした。その瞬間。

 

「何でリョウが……、私をそんな目で見るの……?」

 

 組み伏せられて私を見上げる虹夏の瞳から涙がボロボロと零れ落ちる。

 この時私は虹夏を傷つけてしまった事実に急激に頭が冷えてヒートから覚めて虹夏から離れたんだ。

 だけど夢の中での私は……。

 

「知らないよそんなの……。虹夏のヒートの所為で、しょ……!」

「あ!! だめ、リョウ! だ、めぇ……!!」

 

 虹夏の脚を抑えて上からプレスする様に体重を掛けて虹夏の狭い膣を無理矢理こじ開けながら

 

「だめ、だめぇ……!」

「ふ……!!」

「あう!!」

 

虹夏の一番奥を、私のモノで貫いた。

 

「い、や……! 深、い……!!」

「ほら、休んでる暇なんかないよ」

「や! 待ってリョウ! や、あっ! 動か、ないで……!!」

 

 虹夏の静止を無視して虹夏の最奥を遠慮無しに突いていく。一突きごとに虹夏の膣内から愛液が滲みだし、言葉とは裏腹に離さないと言わんばかりに吸い付いてくる。

 

「あ! あ! 駄目……! そんなに動かれたら、わたし……!」

「はぁ……はぁ……! 駄目とか言っときながら、めっちゃ気持ち良さそうな顔してるじゃん……」

「いやぁ……! ああ!!」

 

 奥をゴツゴツと突く度に虹夏の喘ぎ声が大きくなる。そして私も虹夏を犯してる興奮も相まっていつもより早く限界が近かった。

 

「もう、出すよ……! 虹夏の腟内に、全部……!!」

「ま、待って! 待ってリョウ! それだけは、赤ちゃん出来ちゃうから!」

「その為にヤッてるんだから当たり前でしょ……! ほら、大人しくしてなよ……!」

 

 私を止めようと伸ばしてきた虹夏の手を取って逆に抑えつけ、虹夏の奥で果てる為にピストンを激しくする。

 

「だ、駄目!! お願いやめて! バンドが、夢が、終わっちゃう……!!」

「はぁ、はぁ、はぁ……!! 出る、出る……! イ、ク……!!」

 

 限界を迎えた私の先端から、確実に孕ませる為に今までに出たことの無い量の精子が虹夏の一番大切な部屋を埋め尽くしていく。

 

「あつ、い……! やだ……!」

 

 しばらく射精は続き、全てを注ぎ切ってから引き抜く。だけど私のαの象徴は全く治まっていなかった。

 

「まだ全然治まらないから続けるよ。ほら、お尻向けて」

「お願いだから、もう……。あ、うぅぅぅっ……!!」

 

 虹夏の体勢を変えて後ろから虹夏の奥深くまで挿入して遠慮無しに突き上げて、虹夏との肌がぶつかる音が私を更に興奮させる。

 

「う、あ! だめ、はげし……!」

「……そんな蕩けた顔で駄目とかいわれてもね。もっと奥突いてあげるよ」

「あ! や! あぁん!!」

「……ここか」

 

 虹夏の声が一際甲高くなった場所を何度も突き上げる。その度に虹夏の腰は、無意識に私が突きやすい高さまで上がっていき、そして虹夏の口から遂に、

 

「あ、あ! だめ、や……! きも、ち、いい……!」

 

 取り返せない快楽の言葉がこぼれ落ちた。

 はぁ、最高だ。適当なΩを抱いてた時には得られなかった充実感。待ち望んだ運命の番が私のモノが与える快楽に抗えずに喘いでる。これだ、山田リョウはこれが欲しかったんだ!

 

「ぐっ、全然保たない……! また、出すよ……! う、ぐ……!」

「やぁ……!」

 

 虹夏の腟内にまた射精をする。

 それからもまだ収まらない熱に身を任せて虹夏の口を、腟内を何度も何度も犯し、私の中の熱を一滴残さず虹夏の中に注ぎ続けた。虹夏に私の子種を宿すために。

 そして私のモノを口で綺麗にさせて、涙を流す虹夏を見下ろしながら私の夢は終わる……。

 

 

 

 

 

「う、ん……? ……あぁ、あの夢か……」

 

 最悪の気分で夜中に目を覚ます。

 ここ最近私はさっきみたいな悪夢に悩まされていた。大抵は夏休みの時や、虹夏を試す為に襲った時にそのまま虹夏を犯してしまう様な内容ばかり。

 私自身としては虹夏に対してそういう未練はもう無い。そう、『私』は。

 問題は私の中のαが騒ぎ立てている事だった。どうしてあの時無理矢理にでも運命の番を自分の物にしなかったんだと、どうして他のαに譲るような真似をしたんだと、そう責め立てるようにしょっちゅう私に悪夢を見せてくる。これが郁代も言っていたαの本能による番が出来ない私の症状だ。

 

「はぁ、気分悪……」

 

 想い人じゃ無くなっても虹夏が大切な事には今でも変わりないのに、それを私が無理矢理手籠めにする様な夢を見るなんて最悪以外の何物でもない。吐きそう。

 それに加えてこの夢を見ると異常に勃起してしまって、中々自分の手じゃ満足し切れないんだよな。

 以前は運命の番である虹夏が目の前にいながら手を出せない状況にイライラしてた時は私という優秀なαを求めてやってくるΩを抱いて発散させてたんだけど今はそうはいかない。私には今郁代っていう彼女がいるんだ。そんな裏切りはしたくない。

 だけどこんな状態で郁代を抱くのはただ郁代を性欲の捌け口にしてるだけだ。しかも虹夏の夢を見て。他人ならどうでもいいけど郁代をそんな風に使うような真似はしたくない。

 かと言って虹夏を犯す夢を思い出しながらシコるのも嫌だし……。

 

「しゃーない……」

 

 スマホを取って郁代とのハメ撮り動画を再生する。他のΩに浮気しない事を条件に(する気ないけど)一度だけ撮らしてもらったんだよね。こういう時に役立つ。

 こうすれば郁代に集中出来るし、郁代自身を虹夏の代わりにする様な真似にならないからギリギリセーフでしょ。

 

『あ、ああ!! リョウ先輩、あんまり激しくしないで……! 声、出ちゃう……! はず、かし……きゃうぅ……!!』

 

 スマホの中で撮られながら私の上で喘ぐ郁代。すぐにでも抱きたくなってしまう。郁代の痴態を見ながら自分のモノを扱く。

 はあ、郁代……。βなのにこんなにも私は郁代を求めてしまう……。

 だけどこのままじゃ駄目だ。ただでさえ郁代は自分がΩじゃない事に負い目を感じてる。αの私にはβの自分は相応しくないなんて考えてしまってる。

 そして私の中のαも確かにΩを求めてる。虹夏の夢を見せてくるのが何よりの証拠だ。これをどうにかしないと私が郁代に何を言っても説得力が無い。

 

『あ、あ、あ!! リョウ先輩、私、もう……! イク……! イッちゃうぅぅぅ!!』

「う、く……!」

 

 動画の中の郁代の絶頂と同時に私もイク。

 

「うわ、やっちゃった……」

 

 動画に集中するあまりティッシュを構えておくの忘れてたせいで手がベトベトだ。気持ち悪い。

 本当にどうにかしないと。いつか一緒になりたくても私がこの有様じゃとても一緒にはいられない。

 

 

 

 

 

 数日後、久しぶりに一人で休日を謳歌して楽器屋をめぐる。

 ここ最近はバンドの練習やバイトの時以外は郁代との時間を作ってたけど、私も元々一人で気楽に過ごすのが好きだからこういう時間も大切だもんね。郁代も友達が多いから他の友達と遊ぶ時間も欲しいだろうし。

 それから暫く適当に何店舗か楽器を見ていると、

 

「あれ? リョウじゃない。久しぶり」

 

 Ωのフェロモンを漂わせた女が近寄ってきた。……誰だっけ?

 

「……絶対その顔忘れてるでしょ。ほら、前にライブハウスで私がヒート起こした時に相手してもらった……」

 

 ……ああ、あの時のか。その後相手したお礼に色々ご飯奢ってもらったっけ。

 

「まぁリョウがそういう性格なのはあの一晩で充分分かってるからいいけどね」

「あ、そう」

 

 どうでも良い。助けるって言うか据え膳しただけだし。

 早く離れよう。Ωのフェロモンをこれだけ漂わせてるって事は。

 

「ねぇ。私今ヒートが軽く始まっててさ。良かったら相手してほしいなー……って」

 

 私の腕に胸を押し付けてくる。

 やっぱりヒートだったか。マジで最悪。郁代と付き合ってからΩの相手をするのやめて色々溜まって、しかもαの本能に頭がやられてるこのタイミングでこれはきつい。ヒートに当てられて頭がクラクラする。

 

「ね、良いでしょ? それに安全日と被っててさ、生でエッチしても良いよ」

 

 ……まぁ、ここらで一度Ωを相手しておけば私の悪夢も少しマシになるかもしれないし、それも一つの手か。……なんて自分を正当化する。

 

「良いよ、行こうか」

「やった! じゃあ早速ホテルに……」

「リョウ、先輩……?」

 

 え。

 聞き覚えのある、と言うか良く知っている声が聞こえて血の気が引いて固まる。振り向きたくないけど、声のした方へまるで錆びついた機械の様にゆっくりと振り向く。

 

「その人……、今、ホテルって……」

「いく、よ……」

 

 その声の主は、やっぱり郁代だった。

 最悪だ。こんなタイミングで出くわすなんて。……いや、最悪なのは正当化して誘いに乗った私か。

 

「わ、随分可愛い子ね。この子もリョウが手を出したΩの子?」

「ちょ、黙って!」

「うわ、どうしたの。大声出すなんて珍しい」

 

 そりゃ出すでしょ。だってそれはマズイ。ただでさえ郁代はβだって事気にしてるのにこのタイミングでそれは……!

 

「この子『も』って、その人Ωなんですか?」

「い、郁代。私の話を聞いて」

 

 女の腕を振りほどいて郁代に駆け寄って手を掴もうとする。だけど郁代は私の手を躱すように一歩引いて。

 

「や、やっぱり私じゃ、βじゃリョウ先輩を満足させてあげられてなかったんですね」

 

 郁代の瞳から涙が一筋零れる。

 

「ま、待って」

「ごめんなさい休日の邪魔して。さっつーごめん。私帰るね!」

「郁代待って!」

 

 呼び止めるけど構わず走り出してしまう郁代。もう追いかけた所で郁代の足に私が追いつけるはずもない。それに、追いついたとして何を話すんだ。この状況に何一つ誤解は無いのに。

 

「……もしかして本命だった?」

「本命とか言わないで。……彼女だよ」

「え。リョウに彼女?」

「なに。何か問題でもあるの」

 

 不機嫌をぶつける様に苛立ちを隠さずに話す。……でもこれも八つ当たりでしかない。だって誘ってきたのは確かにこの女だけど私に彼女がいるなんて知らなかっただろうし。何より、αの本能に負けて誘いに乗ったのは私自身だ。

 

「問題はないけど。リョウって頼めばΩを抱いてくれるすごく顔の良いαってこの辺じゃ有名だからさ。そのリョウが彼女、それもβの子って言うのが意外すぎて」

「……私そういう風に言われてたの」

 

 まぁ、事実だけど。

 

「ごめんけど、もうそういう気分じゃないから」

「そうだね。残念だけど私もこのままホテルに行こうなんて言えるほどノンデリじゃないし」

 

 じゃあまたね、と言ってΩの女がどこかへ行く。

 

「くっそ、最悪……」

 

 周囲の視線も鬱陶しいし、自分の意思の弱さに腹が立つ。それにあんな気軽に誘われたのも完全に身から出た錆だ。今まで誘われるままに適当に相手してからああなる。

 もうどうしようも無いんだろうか……。

 

「あのー」

「……え?」

 

 動く気力も無く自己嫌悪で立ち尽くしていると、緑髪のショートカットの女の子が話しかけてきた。誰?

 

「突然すみません。私さっきの喜多の友達の佐々木って言います」

 

 ……あぁ、そう言えばさっき郁代が走り去る時に『さっつーごめん』って謝ってたな。佐々木でさっつーって事か。それどころじゃなくて全然気付かなかったけど友達が一緒だったのか。

 

「ちょっと話したいんですけど、良いですか?」

「……悪いけどそれどころじゃないから」

 

 郁代の事で怒ってるんだろうけど、友達なんか一々気にしてられない。

 そう思って去ろうとするけど、腕を掴まれた。舌打ちをして振り向く。

 

「ちょっと……」

「あのさぁ、こっちは親友泣かされてんの。『それどころじゃない』で終われないんだよね」

 

 掴んでくる手に力が籠もる。

 

「親友、なの?」

「中学からの付き合いだよ。ずっと同じクラスでいつだって一緒だった」

「……そう」

 

 脳裏に似たような付き合いの親友が頭に浮かぶ。ただの友達なら無視したけど、きっと私も虹夏をあんな風に泣かされたら怒ると思う。だからこの腕は振り払えないし、振り払ったらいけない。

 

「ごめん、ちゃんと話を聞くよ」

「……そうっすか。じゃあそこのカフェでいいですか?」

「お金持ってない」

「あぁ……、本当に喜多から聞いてた通り万年金欠なんだ……」

 

 可哀想な物を見る目で見られる。失敬な。偶には持ってるよ。すぐ無くなるけど。

 

 それから佐々木さんの奢りでカフェで飲み物を注文して向かい合う。

 

「悪いね奢ってもらって」

「喜多から山田さんはお金持ってないって聞いてたんで、カフェに誘った時点でこうなるとは思ってましたから」

「郁代は私の事よく話すの?」

「ええ。喜多がバンドに入る前からよく聞いてましたよ。すごくカッコよくて、特別って感じの素敵な人がいるって毎日うるさいくらい言ってましたね」

「そう」

 

 そういえば郁代って元々はむきたす時代の私に憧れて入ってたもんな。その頃の私は当時のバンドメンバー以外だと虹夏としか交流なかったから郁代の事は全然知らなかった。

 まぁそこから結束バンドに加入したかと思えば初ライブ当日にバックレたりとか色々と昔から暴走してたな。

 

「そっからバンドに正式に加入して、山田さんの名前を聞くのが減るくらい本気でバンドして。かと思えば最近になって山田さんとお付き合いを始めたって幸せいっぱいの顔で報告してきて」

「うん」

「でも山田さんはずっと特別な上にαで、普通の人間な上にβの自分じゃ釣り合わないんじゃないかっていつも不安そうにしてて」

「……うん」

「そしたら今日、あんな場面を見せられて、喜多が泣いて……!」

 

 佐々木さんの私を見る目が鋭くなる。元々つり目なのを差し引いてもより鋭くなって、今にも射抜かれそう。

 

「……遊びだったんですか?」

「そ、そんな事ない。私はちゃんと郁代を……」

「バンドのリーダーで伊地知さんっているんですよね?」

「え? う、うん」

「喜多は、その人と似てるところがあるからもしかしたら代わりなのかもって言って」

「違う!!」

 

 テーブルを叩いて怒りのあまり立ち上がる。

 そんなんじゃない。そんなんじゃない!! 私が郁代を虹夏の代わりに見てる? ふざけるな!!

 

「私は一度だって郁代を虹夏の代わりになんてしたことない!」

「私は郁代を郁代として大事に想ってる!!」

「私は、私は……!!」

 

「はい、ちょいちょいストップ」

「なに!?」

「周り見て貰えます?」

「……え?」

 

 一度呼吸を整えて周りを見渡す。周りにはカフェのお客さんと店員さんが一人残らず私を見ていた。

 

「あ……が……!」

 

 急いで椅子に座って顔を机に突っ伏す。頭が熱くなって周りを全然見てなかった……! カフェの中でこんな事デカい声で言ったら見られて当たり前じゃん! 何やってるんだ私は……!

 

「ふっ、くく……!」

「笑わないでくれる……!?」

「ふ、ふふ……! す、すんません……!」

 

 謝ってるけど全然笑うの止まってないじゃん。くそう。

 

「いや、でも、何か安心しました」

「なにが?」

「喜多が山田さんはハッキリ言って自分勝手で、カッコつけで、金にがめつくて、クズで、嘘つきで」

 

 すごいボロカスに言われてる。

 

「自分以外の為に頑張れる相手はきっと伊地知さんだけだろうなって言ってたんです」

「だ、だからそれは」

「でも、そうやって周りが見えなくなるほどちゃんと喜多の事も本気で想ってくれてたんだなって分かって、少し安心しました」

 

 佐々木さんが伝票は持って立ち上がる。

 

「止めなかったらまだ何か言いたい事あったんですよね? それ、喜多にちゃんと言ってあげてください。そんで仲直りしてください。じゃないと喜多のキラキラしたSNSの裏側の面白写真が撮れないんで」

「なにそれ?」

「ちゃんと仲直りしたら見せてあげますよ。……ああ、それから。山田さんの事を自分勝手で、カッコつけで、金にがめつくて、クズで嘘つきって言ってましたけど」

 

「それでもいつも音楽に真剣に向き合って、音楽にだけは嘘をつかない山田さんの事が大好きだそうですよ」

 

 じゃ、と言って支払いをして出ていく佐々木さん。……折角ならご飯も奢ってほしかった。

 

 

 

 

 

 

 それから私も(お金が無いから)すぐにカフェを出て、今は本来運命の番であった虹夏の家の玄関の前に来ていた。

 郁代にちゃんと言葉にして気持ちを伝える。それも大事だけど今の私がその前に何とかしないといけないのは、毎夜私を悩ませるあの悪夢だ。私の中のαの本能を納得させない限り郁代に何を言っても説得力がない。

 ……とは言え虹夏に会ったところで何かこれをしたら解決が出来る、というのがある訳じゃない。試しておきたい事は勿論あるけどそれで解決出来るかは分からない。でも、もうこうなってしまった以上迷ってる時間はないんだ。

 意を決してチャイムを鳴らす。……が。

 

「あれ? 出ない」

 

 おかしいな。この時間帯はバイトやスタ連が無い時は普段晩ご飯の支度やらで家にいるのに。買い出しにでも言ってるのかな? 電話して聞いてみるか。

 電話帳から虹夏を選んで発信。中々出ずに暫くの間待っているとようやく虹夏が出る。

 

『あ、もしもしリョウ? ごめん、立て込んでて出れなかった』

「そうなんだ、ごめん。今家の前にいるんだけど出かけてる?」

『え!? じゃあさっきのチャイム……!』

「ん? 家にいるの?」

『あ、しま……! ちょ、ちょっと待ってね。すぐ出るから!』

 

 虹夏が慌てたように電話を切る。なんだ?

 それから待っていると玄関の向こう側からバタバタと慌ただしい物音と、『ぼっちちゃん髪の毛ボサボサだからちゃんと整えて……!』『に、虹夏ちゃんも首元隠さないと跡が……!』『だからする前にあんまり付けないでって……!』『で、でも途中から虹夏ちゃんもいっぱいつけてっておねだりして……!』の様な騒がしい声が聞こえてくる。あー、これは……。

 少しの間静かになって、顔を上気させた虹夏とその後ろから控えめにぼっちが出てきた。

 

「ま、待たせてごめん! ちょっと取り込んでたからさ……!」

「あーうん。……完全に邪魔したね。ごめん」

「な、何が!? 別に何もしてないけど!?」

 

 いやいや、明らかにナニかしてたでしょ。家の中にいたのに態々首元が隠れる様に上着着てるし。

 

「ねぇぼっち」

「は、ははははい!? な、何もしてません!!」

「ちゃんと避妊した?」

「あ、はい! 今日も5回ともちゃんとゴムを……」

「お前ら黙れえええええ!!」

 

 顔を真っ赤にした虹夏にぼっち共々ジャーマンスープレックスで沈められる。ふっ、5回か。流石ぼっち。それに私が来なかったらまだしてたんだろうな。あのぼっちんぽは伊達じゃなかったか。

 

 

 

 

 

 

「まったくまったく! いきなり来たと思ったら茶化してくるし! 用があったんじゃないの!?」

 

 それから虹夏に家の中に引きずり込まれ、リビングで顔を真っ赤にした虹夏に怒号を飛ばされていた。

 

「まぁそうなんだけど2人があからさま過ぎてつい」

「つい、でセクハラすな!」

「ところで何でリビング? いつもなら虹夏の部屋で話すのに」

「分かるだろ! 察しろ!!」

 

 勿論分かってるし察してる。虹夏の部屋から扇風機らしき音が聞こえるから全力で換気してるんだろうな。

 ちなみに虹夏のバイオレンスを受け慣れていないぼっちはまだグロッキー状態になってる。

 

「で? 本当になにか用? 何の連絡も無く来る辺り暇つぶしって訳じゃないんでしょ?」

「うん、まぁ」

「? 珍しく煮え切らないね。お金借りる時でさえ何の恥も感じないのに」

「それは今更だし」

「威張るな。それで?」

「うん。結論から言うとなんだけど、浮気しようとして郁代を泣かせた」

「は?」

「え?」

 

 あ、私の話の内容が衝撃過ぎたのかぼっちも意識が戻った。

 

「え、ちょっと待って。浮気? つまり……、喜多ちゃんとリョウって付き合ってるの?」

「うん」

「そ、そうだったんですか……!? き、喜多ちゃんからもそんな話聞かされてなかったので知りませんでした……」

「隠すつもりじゃなかったんだけど話すタイミング逃してまだ言えてなかったんだよね」

「いやそれも大概衝撃なんだけど。喜多ちゃんを、何? 浮気して泣かせた?」

 

 内容を理解し始めた虹夏の目に怒りが宿り始める。

 

「……うん。いや正確には未遂だったんだけど、Ωに誘われてホテルに行こうとした所を郁代に見られて、それで……」

「こいつ……!」

 

 テーブル越しに虹夏が乗り出して私の胸倉を掴む。

 

「に、虹夏ちゃん落ち着いてください! もしかしたらヒートに当てられて仕方なくかもしれませんし……!」

「……ごめんぼっち。虹夏は知ってるんだけど、私ヒートのΩとよく寝てたんだ。だからヒートの影響には結構慣れてる。今回も確かにヒート中だったけどそこまで理性を奪われた訳じゃない」

「あ、う……」

 

 ぼっちの悲しそうな目から視線を逸らす。ぼっちは郁代とはバンド仲間としてだけじゃなくて同じ学校で仲良くしてるから余計に複雑なんだろう。

 

「で、それで。喜多ちゃんは?」

「……現場を見られてどこかに行っちゃって、それっきり」

「リョウ!!」

 

 虹夏が胸倉を引っ張り上げたまま拳を振り上げる。顔面に来るであろう衝撃に備えて歯を食いしばる。……だけど虹夏の拳は私の顔には当たらずにギリギリで避けて顔面の横に逸れる。ああ、殴ってもらえないんだ。

 

「殴って良かったのに……」

「どうせ殴られる為に洗いざらい話したんでしょ? 普段のリョウなら都合の悪い事は隠すなり嘘つくしさ。こんな事私に話せばぶん殴られるのは分かってるだろうし」

 

 私の胸倉を掴んでいた手を虹夏が解く。

 はぁ、嫌だね。こういう時に理解の深い親友は。

 

「それに、リョウを殴ってる所なんて見せたらぼっちちゃんが泣いちゃうしさ」

「ああ、確かに……」

 

 てかもう瞳いっぱいにに涙溜まってるし。ぼっちの涙を指で拭う。

 

「ごめんぼっち」

「ぐすっ……。い、いえ。でも、その、どうして、なんですか? リョウさんって確かに良くない所は多いですけど、大切な人だけは傷付けない人って知ってるからどうしてそうなったのか分からなくて……」

 

 ……ここにも理解が深いのがいたか。ぼっちって人の事案外よく見てるもんな。

 

「いつから喜多ちゃんとは付き合ってたの?」

「……虹夏と『話し合い』をした日だよ」

「話し合い? ……あ」

 

 意味を理解した虹夏が瞬時に顔を赤くする。そう、虹夏を試すため。そして私自身にケリをつける為に虹夏に迫ったあの日だ。

 ぼっちは虹夏を見て怪訝そうな顔をしてる。ぼっちは知らないもんなあの事。

 

「じゃあぼっちちゃんと私が番になる前から……?」

「うん」

「でも本当になんで? ぼっちちゃんも言ってたけどリョウって誰かを傷付けたりとかはしないのに……」

「それは……」

 

 チラリとぼっちを見る。私の視線に気づいたぼっちが不思議そうな顔をする。

 

「ねぇ虹夏。ぼっちに話して良い?」

「何を?」

「私と、虹夏の事だよ」

「……え!? そ、それってどこまで……?」

「私と虹夏がどういう関係か。何があったかまで全部」

「そ、それは……」

「に、虹夏ちゃんどうしたんですか? 顔色が……」

 

 ぼっちが顔を青くした虹夏の手を握る。……聞かれたくないよね。私だって本当なら話したくはない。それでぼっちとの仲が拗れたりなんかしたら最悪だし。だけど。

 

「それは……、話さないといけないの?」

「……うん。私の今の状態の事を話すには、どうしても」

 

 虹夏が益々顔を伏せて考え込む。そして暫く逡巡した後、虹夏が覚悟を決めた表情で顔を上げた。

 

「……分かった。だけどそれは、私からぼっちちゃんに話させて。私から、ちゃんと話したいから」

「うん、分かった」

「えと、虹夏ちゃん……?」

 

 虹夏がぼっちの手を両手で握って向き合う。……手が少し震えてる様に見える。

 

「あの、ね。今からぼっちちゃんが絶対聞きたくない事を話すんだけどこれだけは信じてほしいの。私は本当に、本当にぼっちちゃんが好きで、私がこれまでも、これから先も一緒に生きていきたいのはぼっちちゃんだけだって……!」

「は、はい! 勿論信じてます!」

「……ありがとう。あのね、私達が番になった日さ、運命の番と一線を越えかけたって話したの覚えてる?」

「うぐっ……。お、覚えてます」

 

 思い出したくもない話を思い出して苦虫を潰したような表情になるぼっち。多少は話してたんだ。全く話してないものかと思ってたけど、虹夏の性格的に隠し事は出来るだけしたくないだろうしね。

 

「それで、その、その時の運命の番っていうのが、そこにいるリョウなの……」

「……え? え!? リョウさん!?」

 

 顔を青くしたり驚いたり溶かしたり崩れたりと百面相しながら私を見る。……まぁ複雑過ぎる様々な心境なのはよく伝わる。

 

「私が一線を越えそうになるまで上手く断れなかったのも運命の番だから身体が求めてたってだけじゃなくてリョウだからってのもあったの。リョウとは付き合いも長いし、……正直依存してる部分もあったから。だから、リョウが離れていくくらいなら身体を許してでも……、って思ったんだけど。前に話した通りぼっちちゃんが好きだから何とか跳ね除けたの」

 

 跳ね除けたと言うか張り倒されたと言うか。

 

「ごめんね、隠してて。この事を話してぼっちちゃんとリョウの間に変な溝が出来たら嫌だなって思って、それで……」

「い、いえ。それは仕方ないと思います。そ、それにリョウさんが運命の番って言うのは正直納得出来ますし……」

「そうなの?」

「は、はい。リョウさんと虹夏ちゃんって初めて会った時からすごく分かりあってて、一緒にいてすごく自然な感じでしたから。あ、後、運命の番がリョウさんで良かったなとも思ってて……」

「どういうこと?」

「えと、嫉妬しない訳じゃないですけどお二人の分かりあってる関係性は本当に憧れてて、番にしてもらえたのは私ですけど虹夏ちゃんが一緒にいて自然体でいられるのはリョウさんだから……。だ、だから全く知らない様な人じゃなくて良かったとも思うんです」

「ぼっちちゃん……」

 

 そう思ってくれてたんだぼっち。勿論思う所はあるみたいだけどそう言って貰えて本当に良かった。虹夏も安堵したのか目に涙を浮かべてる。

 

「ありがとねぼっちちゃん……。で、も! 番に『してもらえた』ってのはやめて。私はぼっちちゃんが好きで、ぼっちちゃんだけが好きだから番になったの。誰かと比べたとかじゃないから。それと普段ぼっちちゃんに甘えてる私も誰にも見せない自然体な私なんだからね。確かにリョウよりも分かり合えてない所もあるかもだけど、これから先時間をかけて誰よりも分かりあっていこうね」

「は、はい」

「ーーーーはぁぁぁ……、良かったぁぁぁぁ……」

 

 安堵しきった虹夏が握っていたぼっちの手を抱きしめて身体を丸める。

 

「虹夏、ありがとう。言いたくない事言わせてごめん」

「……良いよ。実際隠し事してるのも嫌だったからスッキリしたし。で? 何でこの話をするのが必要だったの?」

「うん。それなんだけど……」

 

 私は全部ぼっちに打ち明けてくれた虹夏に応えるために、虹夏を諦めた時からほぼ毎晩悪夢にうなされている事、そしてその原因が虹夏を求めているαの本能であることををありのまま打ち明けた。

 

「……まぁそういう訳で私は本当に虹夏にそういう未練は無いんだけど、私の中のαの本能が全然納得してないんだと思う」

「そうだったんだ……。ごめん、何か私一人だけ解決してて……」

「謝らなくて良いよ。私の中のが諦めが悪すぎるだけだから」

 

 本当ならとっくに終わってる筈の問題なのに、私自身がぼっちが虹夏の番であることにちゃんと納得してるのに私のαの部分だけが納得してないとか面倒にも程がある。勘弁してほしいよ本当に。

 

「で、でもそれ解決方法あるんでしょうか? それだけの事があったのにそうなってるんですよね?」

「うん。それなんだけどさ、ぼっち」

「あ、はい?」

 

「虹夏の事、やっぱり私にくれない?」

 

「……え?」

 

 私の言葉を全く理解出来ていないのか目をまん丸にして呆けているぼっち。……もう一回言うか。

 

「虹夏を私にちょうだい」

「ちょ……ちょっとリョウ! 何言ってるの!?」

「言葉のままの意味だよ」

「変な冗談は……!」

 

 虹夏の目をジッと見る。それだけで私に何か考えがあると虹夏は察してくれて、そのまま私の言葉を待った。

 そして脳がフリーズしていたぼっちが青ざめた顔で口を開いた。

 

「ど、どうしてそんな話に……?」

「さっきも言ったけど私の中のαが虹夏を求めてる。それを落ち着かせるなら虹夏を私の物にするしかない」

「で、でも虹夏ちゃんは私の番で……!」

「他のαの番になってもセックスは出来る。虹夏を抱けば満足すると思うよ」

「で、でも、でも……!!」

「お願いぼっち。正直毎晩あんな夢を見せられて頭がおかしくなりそうなんだ。私を助けると思って」

「あ、う……!」

 

 押し黙るぼっち。

 ぼっちは優しいし、困ってる人がいたら多少の無理をしてでも誰かを助ける。それがぼっちが何より大切に想ってくれてる結束バンドのメンバーなら尚更。普段のぼっちならそれが大事な物でも私の為に譲ってくれるだろう。

 だけど。

 

「だ、駄目です! 虹夏ちゃんは、虹夏ちゃんだけは駄目です! に、虹夏ちゃんは私の人生の全部で、もう虹夏ちゃんがいない人生は私の人生じゃありません!」

「……そう。それで私がこれから先も悪夢に苛まれ続けても?」

 

 少し詰まるぼっち。それでも私の目をまっすぐに見て。

 

「……はい! リ、リョウさんが虹夏ちゃんの運命の番だったんだとしても絶対に渡せません! 虹夏ちゃんは、虹夏ちゃんは私の番で……!」

 

「私の、運命の人です!!」

 

「……そっか」

 

 やっぱカッコいいな。ぼっち。

 どう? 私の中のα。こんな最高にロックでカッコいいαにこれでも勝つつもり? 私は到底勝てる気しないね。

 

「はぁ、はぁ……! ひぐっ、う、ううっ……!!」

 

 ぼっちの目から大粒の涙が零れる。

 

「ご、ごめんなさい……! リョウさんが困ってるのに、わ、私……!!」

「ごめんぼっち、大丈夫だから」

 

 ぼっちの頭を撫でる。

 

「本気でぼっちから奪おうなんて思ってないから」

「ぐすっ……。そ、そうなんですか?」

「うん。ちょっとぼっちのカッコいい所を私の中のに見せてやりたかっただけから。むしろ譲られたら困るところだよ」

 

 そんな頼まれたからって渡してしまう程度の気持ちなのかって私まで納得出来なくなっちゃうよ。

 もっとも、私が諦めて託してるんだからそんな心配はしてなかったけど。もしも僅かにでも可能性があるならこんな事はしなかったし。

 

「ちょっと、人の恋人泣かせないんで欲しいんだけど?」

「ごめん、お詫びに今日は晩ご飯食べてあげても良いよ」

「ブレーンバスターなら食らわせてあげるけど?」

「やめとく」

 

 ちっ、最近虹夏のご飯食べれてないからどさくさに紛れて食べようと思った私の作戦が失敗したか。

 

「で、どう? ぼっちちゃんのカッコいい所を見せて何か変化はありそう?」

「……どうだろう。正直ダメ元だし」

 

 元々虹夏の家に来たのも改めてちゃんと虹夏に告白して振ってもらおうって算段だったけどぼっちがいたから急遽作戦を変更したからな。こっちの方が効果ありそうだったし。

 

「うーん……、どうしたら良いんだろう? 私も無関係じゃないから力になりたいけど皆目見当もつかないし」

「当人の私ですらついてないんだからそりゃそうだよ」

「だよね。うーん……」

 

 虹夏がぐずるぼっちを抱きしめて背中を擦りながら考え込む。

 ……この場合、同じαのぼっちの方が何か分かるかな?

 

「ねぇ、ぼっちならどうする?」

「ぅえ? わ、私ですか?」

「うん。ぼっちの意見も聞いてみたい」

「そ、そうですね……」

 

 う〜ん……、と頭を悩ませるぼっち。……だんだん顔が崩れてきた。

 

「わ、分からないです……」

「まぁ、だよね」

 

 こんなの分かるわけ……

 

「で、でも」

「ん?」

「わ、私なんかが上手に考えようとしても上手くいきっこないので私なら多分、他の人なんか関係ない、私は虹夏ちゃんが、虹夏ちゃんだけが好きだ。って気持ちで突っ込んでいくと思います」

「突っ込んでいく?」

「は、はい。出来る事が無いなら虹夏ちゃんの事を好きって気持ちを貫くしかないんじゃないかって、私はバカだからきっとそんなことしか出来ないと、思います……」

 

 どんどん声が小さくなるぼっち。きっと自分の事じゃないのに何を無責任な事を言ってるんだ腹を切ってお詫びしないと、なんて思ってるんだろうな。

 ああ、でも。やっぱりカッコいいなぼっちは。

 思えばぼっちは最初からそうだった。虹夏がヒートで狂ってΩの本能のままに求められた時、そのままαの本能のままに虹夏を抱けば良かったのにぼっちは虹夏への想い一つだけで本能を抑え込んで見せた。私ならきっと耐えられなかった。

 私も、なれるだろうか。ぼっちの様にカッコよく。……いや、ならないと駄目なんだ。郁代の為にも。

 

「……ありがとうぼっち。お陰でやる事が分かったよ」

「え? そ、そうなんですか?」

「うん。……もし郁代と仲直り出来なかったらさ」

「は、はい」

「私の事抱いて慰めてくれる?」

「……はい!?」

「何言ってんの!?」

 

 いや曲がりなりにも女としてはぼっちの巨大なぼっちんぽはやっぱり魅力的と言うか、童貞はとっくの昔に捨てたけど処女はまだだしどうせならぼっちに貰ってもらうのが……、って言った辺りで虹夏にブレーンバスターを食らわされた。痛い。

 

「ほら、馬鹿なこと言ってないで喜多ちゃんのとこ行ってきなよ」

「虹夏のせいで満身創痍なんだけど」

「自業自得」

 

 ひどい。

 

「じゃあ行ってくるよ。邪魔してごめん」

「掘り返すな! ……絶対仲直りしてよ」

「うん。色恋沙汰でバンド解散なんて私もまっぴらごめんだしね」

「が、頑張ってください」

「うん。ぼっちもありがとね。……色々と」

 

 ぼっちじゃなかったら虹夏の事、こんなにもスッパリ諦めることは出来なかった。お陰で私は郁代の事だけを真っすぐ見ることが出来る。本当にありがとう、ぼっち。

 

 

 

 

 

郁代side

 

「はぁ……」

 

 夜になって暗くなった部屋で電気もつけずにベッドに丸まってため息をつく。ため息の原因は勿論リョウ先輩。

 分かってた事じゃない。リョウ先輩は優秀なαなんだから他のΩの人達が放っておくわけがない。βの私がリョウ先輩とお付き合いする事自体が間違ってるのよ。

 きっと只の気まぐれだったのよ。やっぱり最初から私は伊地知先輩の代わりで、私もそれでリョウ先輩の隣にいられるならそれでいいって自分に言い聞かせてたんだから。

 リョウ先輩にはきっと素敵な番が出来るんだからいつまでも私みたいな普通のβに構っていられないのよ。そんなの分かってた事よ。そんなの、そんな、の……!

 

「う、っ、うぅっ……!」

 

 分かってたけど、それでも好きだったのよ……!!

 

「リョウ、先輩……!!」

 

 溢れ出す涙が止められない。嗚咽が大きくなる。

 そしてお母さん達に泣き声が聞こえない様に枕に顔を埋めていると、スマホに一通のロインが届く。リョウ先輩からだ。

 

『大事な話がしたいからここに来てほしい』

 

 リョウ先輩らしい簡素なメッセージ。続けてマップ情報が送られてくる。……駅前か。

 きっと別れ話なんだろうな。行きたくないけど行かなきゃ。行ってリョウ先輩と後腐れない様にして、バンド活動に支障が出ない様に綺麗に別れないと。伊地知先輩の大切な結束バンドを駄目にする訳にはいかないもの。

 リョウ先輩に返信してから身だしなみを整えて、お母さんに声を掛けてリョウ先輩の元へと向かった。……本当に行きたくないな。

 

 

 

 

リョウSide

 

 郁代にマップ情報を送った後返信が来る。良かった、とりあえずは来てくれみたいだ。来るのも拒まれる可能性も充分あったから安心した。

 ……思えば本当にらしくないな。恋愛なんて面倒で、音楽以外どうでもよくて、ざ・はむきたすを抜けて虹夏と結束バンドを組んだ時はもう隣に虹夏さえ入ればそれでいいと思っていた。そんな私が郁代一人にこんなにかき乱されるなんてな。

 もしも郁代が初ライブで逃げたあの日、虹夏がぼっちを連れてこずに結束バンドが終わっていたとしても私は別にそれでも良かった。私の音楽の終わりが虹夏とならそれでも良いと思っていた。

 だから顔を真っ青にしてSTARRYを飛び出した虹夏を見送って私はライブハウスでぼんやりしていたんだ。……思えばあの時点で私が虹夏というΩの運命の番であっても、虹夏という人間の運命の人足り得なかった。だって知らなかったとはいえ私は最初から虹夏の夢を束ねる存在ではなかったんだから。

 

 郁代と初めて会った時はミーハーとしか思えず、ハッキリ言ってつまらない人間としか思ってなかった。ギターを弾かずにキャーキャー纏わりついてうるさいし、むしろ虹夏との時間を邪魔する存在と思っていた。

 挙句の果てに大切な初ライブで郁代は逃げて、もうあの日、郁代は私の中で死んだものとして扱っていた。怒りを覚えるような存在ですらないと思って。だから郁代がまた私の前に姿を現した時、私は線香を上げてたと言ったけどあれはあながち嘘ではなかった。まぁ線香をあげる価値も感じてなかったけど。

 だけど郁代が本当は頑張っていた事を知った時、もう一度だけ信じてみようと思った。最悪ノルマを分割だけでも出来れば良いとも考えたけど。

 でも郁代は本気だった。ぼっちに教わりメキメキ上達して、郁代の指の硬さを見た時短期間でかなりの硬さになっていた。並大抵の努力ではああはならない。

 そして文化祭ライブの直前。私にギターを教わりに来た時の郁代の目は、一人のギタリストの目になっていた。ただただうるさいだけのミーハーが、私好みの目になっていてあの時は本当に驚いた。

 それからも郁代はギタリストとして、ボーカリストとしてずっとずっと頑張り続けてきた。学生レベルとはいえ熟練者の集まりの中たった一人初心者として頑張って、私からしてみれば技量はまだまだな部分はあるけど必死に食らいついて。

 だけどそれでも郁代は人との繋がりも大事にしていた。練習時間をちゃんと取りながら学校の友達と遊んで、イソスタも本気でやって、私から見ても本当に眩しい存在だった。

 そんなどんな事もいつも全力疾走な郁代が面白くて、いつの間にか私は郁代から目が離せなくなっていた。

 郁代は自分の事を虹夏の代わりとして見てるんじゃないかって不安になってたって佐々木さんが言ってたけど、虹夏はあれで割とドライというか、結構線引きはしてるんだよな。

 だから虹夏と似てるって私からしてみれば、どこが? としか言いようがない。

 

「それだけは、絶対に否定しないとな」

 

 虹夏は郁代みたいなーー。

 

 

 

 

郁代side

 

 家を出て数十分後、私はリョウ先輩のいる待ち合わせ場所まで目前に来ていた。

 近づくたびにどんどん鼓動が早くなっていく。近づくたびに脚に痺れが走って止まりそうになる。だって着いた先に待っているのは別れ話。なのにそんな所、行きたくないって身体が叫ぶのは当たり前よ。

 だけど必死にそんな身体を押さえつけて必死にリョウ先輩の下へ向かう。

 

「……いた」

 

 リョウ先輩の姿が視界に入る。まだ距離はあるけど、見間違えたりなんてしない。ずっと、憧れ続けた人の姿。

 リョウ先輩も私に気付いたのか軽く手を上げて私の下へ近づいてくる。近づいてくるたびにもっと嫌な鼓動が早くなる。身体が固まって震えすらしなくなる。

 そしてリョウ先輩が私の前に来て、

 

「郁代」

 

 と、名前を呼んだ瞬間。

 

「ごめんなさい!!」

 

 私ははじき出されるようにその場を走り出した。

 

「郁代!?」

 

 後ろから慌てて私の嫌いな名前を叫ぶリョウ先輩。

 だって、だって! やっぱり聞きたくない! まだ心の準備が出来てない!! というかそんな心の準備出来る訳ない!!

 まだリョウ先輩と別れたくない! 伊地知先輩の代わりだとしても別れたくない! 私みたいな普通のβじゃ相手が務まらないとして別れたくない! だって、だって……。大好きなんだもん!!

 

「郁代!!」

 

 リョウ先輩の声が聞こえる。きっと追いかけてはないだろうけど大きな声で呼んでくれてるんだろうな。だって今日のお昼も私が逃げ出した時追いかけてこなかったもの。リョウ先輩じゃ私の足に追いついてこれないだろうし、体力だってもたないだろうし。

 

「郁代!!」

 

 ……結構離れたはずなのにまだ声が聞こえる。チラッと後ろを振り返ると。

 

「ぜぇっ、ぜえっ……! 郁代!!」

 

 必死の形相で息を切らしながら追いかけてるリョウ先輩の姿があった。

 

「な……!」

「ま、待って……!!」

 

 初めて見る、あんな姿。慌ててもすました顔してカッコつけてるあのリョウ先輩が、顔を真っ赤にして大きな声で息を切らしながら走ってる。

 

「お、追いかけないで下さい!!」

 

 だけど私はそれでも突き放した。何も聞きたくなくて。

 

「ぜぇっ、はぁっ……! や、やだ!!」

「な、なんで……!」

 

 普段こんな事、ぜっっっっったいしないのに!! 何で今……!

 

「わ、私にだって……、はぁっ、はぁっ……! 失いたくないもののために、っげほ! 頑張る時くらいある!!」

「何言って……!」

「好きだ!!!!」

「……!?」

「郁代が好き! 誰より好き!! ……おえっ、げほっ! だ、だから、ずっと、ずっと……」

 

「一生! 私の傍にいて!!」

 

 人目も憚らず、大きな声で私を好きだと叫ぶリョウ先輩。……後ろを振り返るとちゃんと前が見えてるのかも怪しく、もう明らかに限界を越えて走ってるリョウ先輩。

 もう、本当に、あの人は……、あの人は……!

 

 

 

 

リョウside

 

「ひゅっ……! ひゅっ……!! げほっ……!」

 

 肺が、心臓が爆発しそう。脚の筋肉が悲鳴をあげてる。今にももつれて転びそう。視界は完全に霞んでる。只でさえ走ってるのに叫んだせいでもう私の限界はとっくの昔に越えてしまってる。それでも郁代を追いかける事だけはやめない。

 本当はゆっくり郁代に伝えるはずだった私の気持ち。だけど郁代が走り出したことで伝えたい言葉の十分の一も言えなかった。だから私の気持ち全てを告白に込めた。

 返事を聞くまでは決して止まりはしない。ぼっちならきっと、こうする筈だから。

 顔を上げて、霞んでる視界で郁代の目立つ赤い髪を見る。決して見失わない為に。

 

「……?」

 

 あれ? 何だか赤い髪が、近づいて……。

 

「うぐ……!」

「どぅえ!?」

 

 誰かにぶつかった!? まずい、すぐに郁代を追いかけないと……!

 

「ひぐっ、ひぐっ……! う、うぅ……! リョ、ウ、先輩……!!」

 

 ……聞き覚えのある声だ。完全に酸欠になっている頭で必死に声の主を思い出す。

 

「い、く、よ……?」

「バカ……! リョウ先輩のバカ……!」

 

 郁代だ。郁代が私を抱きとめたんだ。郁代が、今、郁代の腕の中にいるんだ。

 

「い、く、……げほっ、げほっ! ぜぇっ、ひゅぅっ……!!」

「ぐすっ……。ゆっくり、呼吸してください。もう、逃げませんから……」

 

 郁代の温もりに包まれて、郁代に身体を預ける。ああ、郁代の匂いだ。Ωのフェロモンとは違う、私が好きな匂いだ。

 ……徐々に落ち着いてきた。郁代に肩を貸してもらって近くのベンチまで行き、自力で支えられない身体を郁代に預けながら一緒にベンチに座る。

 

「はぁ、はぁ……。ごめん。郁代、本当に私……」

「や、やっぱり、私じゃ駄目でしたか? 私じゃ、リョウ先輩を満足してあげられませんでしたか?」

「ち、違う。ごめん、郁代。ちゃんと全部話すから」

 

 それから私は、郁代と付き合うまでヒートのΩ相手に据え膳していた事、郁代の言っていたαの番を求める本能、そして本能が虹夏を求めていて苦しんでいたことを話した。

 

「郁代と付き合うようになってΩと寝たり、とかはしてなかったんだけど。あの時結構私ピークで、自分を甘やかして郁代を裏切ろうとしたの。本当にごめん!」

「……なんでそんなに辛い状態だって話してくれなかったんですか?」

「郁代に心配掛けたくなかったのもあったけど、郁代がβだって事気にしてるみたいだったから。そんな時にそんな状態だって話したらβじゃ駄目って郁代が思っちゃいそうだったから」

 

 それでも郁代を裏切っていい理由にはならない。もう一度誠心誠意謝る。

 

「……でもそれでΩのあの人と寝ようとしてたんなら、やっぱり私じゃ駄目って事なんじゃないんですか? 私じゃ、伊地知先輩の代わりにはなれないって事じゃ」

「代わりなんかじゃない!」

 

 郁代が驚いたのか、肩がビクッと跳ね上がる。

 

「私は、一度だって郁代を虹夏の代わりだなんて思ったことない」

「だ、だって、私と伊地知先輩って似て……」

「ぜんっぜん似てない。虹夏は……」

 

「郁代みたいな面白人間じゃない」

 

「お、おもしろ!?」

「そうだよ。虹夏は努力家だけどあれで結構現実的で、自分の身の丈にあったことしかしない。だけど郁代は私と一緒にいたいが為に出来もしないギターをやれるって嘘ついてバンドに入るし」

「うっ」

「虹夏は意外に冷めてるから全然SNS映えとかやらないけど、郁代は間違い探しみたいな写真を何枚も撮って人を待たせるし」

「うぐっ」

「考え無しに家出して他所の家に迷惑かけたりしない」

「そ、それはリョウ先輩に言われたくありません!」

 

 ぷんすこと怒る郁代。ぷぷっ、ウケる。でも私に言われたくないって何だろう。誰かに迷惑かけたっけ? はて?

 

「だからさ、二人とも確かに明るいけどそんなに似てるかって言われたら似てないよ」

「……でも、αの本能に苦しんじゃうのは変わらないじゃないですか。それは……」

「頑張る」

「え?」

「頑張るよ。どんだけきつくても、耐えて見せる」

 

 これが私の結論。もうこれしか無かった。これから先私の人生に番になるためのΩは必要ない。どれだけ私の優秀なαの遺伝子が騒ごうとも、私に必要な、私の隣にいるのはβの郁代だって、αの本能を根負けさせてやる。

 まだ力の入らない体に鞭を打って起こして郁代の手を握る。

 

「もしもこの先ぼっちと別れて虹夏がフリーになったとしても、私が虹夏を選ぶ事はもうない。だって、もう私の隣に一生いてほしい人は別にいるから」

「リョウ先輩……」

「だからさっきも言ったけど、これから先も一緒に私といて欲しい。私の傍に一生いてほしい」

 

「私と、結婚してほしい」

 

 郁代の目が驚きのあまり大きく開き、次の瞬間にはボロボロと大粒の涙が零れる。……知らなかった。郁代って、泣き顔も可愛いんだ。きっとまだ知らない表情があるんだろうな。もっと知っていきたい。

 

「ぐすっ……。で、でも、私番になれませんよ……? それでも……」

「そんなの関係ないってば。それでも気になるなら……」

 

 握っていた郁代の左手を取って、

 

「ちょっと我慢してね」

「え?」

 

 私は郁代の薬指の根元に強めに噛みついた。

 

「痛っ……! リョウ先輩……!?」

「……っぷあ」

 

 口を離した郁代の左手の薬指には私の噛んだ跡が、まるで指輪の様にくっきりとついていた。

 

「これ……」

「これがΩとαとは違う、私と郁代の番の証。すぐに消えちゃうような跡だけど、ずっと心に残し続けるよ」

 

 そしていつかここに、ちゃんと私から郁代に指輪を贈るから。

 

「……本当にリョウ先輩らしくないですね。いつからこんなロマンチックな事するようになったんですか?」

 

 目に涙を浮かべたまま微笑む郁代。

 

「初めてだよこんな事するの。ぼっちを真似てちょっとなりふり構わずにやってみようと思っただけ」

「あぁ、そういう事ですね」

「それで、返事は?」

「返事聞く前に跡つけといて聞くんですか?」

「あ」

 

 確かに。い、いやそれだけ郁代に離れてほしくなかったというか、なりふり構ってられなかったというか。

 

「ふふ、冗談です」

 

 郁代がふわりと微笑むと、私の胸に入ってくる。

 

「私の為に頑張ってくれるんですか?」

「頑張る」

「もう浮気しませんか?」

「絶対しない」

「私の事、好きですか?」

「好きだよ」

「もう一回」

「大好き」

「……えへへ、私もです!」

 

 郁代が身体を離す。

 

「私も、リョウ先輩が好きです」

「うん」

「リョウ先輩が辛い時、傍にいたいです」

「うん、ずっといて」

「私が辛い時、傍にいて欲しいです」

「うん、ずっといる」

「キス、してほしいです」

「私もしたい」

 

 郁代の頬に手を添えて、真っ直ぐに瞳を見つめる。そしてゆっくりと、優しく。

 

「ん……」

 

 郁代に、私の唇を重ねた。

 

「ぷは……」

「えへへ、嬉しいです……」

 

 私の胸にまた顔を埋める郁代。私も、郁代を優しく、強く、抱きしめた。もう決して離さない様に。

 

「私、本当に頑張るから」

「はい、信じてます。……さてと」

 

 郁代が身体を離す。……ちょっと、いやかなり名残惜しい。

 

「そろそろ周りの視線が痛いので移動しませんか? かなり騒いじゃいましたし」

「うん。そうしたいのは山々なんだけど」

 

 無理矢理立ち上がると、脚がプルプルと痙攣してまともに立っていられない。まださっきの全力疾走から脚が回復していなかった。

 

「まだこの有様なんだよね。そんなに歩けそうもない」

「小鹿みたいになってますね……」

「うん、だからさ。あそこでちょっと休憩していこうよ」

「休憩?」

 

 私が指を差した方向を郁代が向くとそこには、夜になって煌びやかにライトアップされた夜のお城があった。

 

「……疲れてるんじゃなかったんですか?」

「大丈夫。元気になるから」

「もう! リョウ先輩のエッチ!!」

 

 ……でも今は、私も愛してほしいです。と小声で小さく郁代が耳元で囁いて、危うくここで元気になりそうなのを何とか抑えて二人でホテルへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから郁代に肩を貸してもらいながら震える脚で歩いて何とかホテルに入り、部屋に着くなり疲労困憊の私はベッドに体を投げ出した。ふぅ、もう歩けん。

 

「もう限界」

「クタクタですねリョウ先輩。でも、それだと、その……、出来ませんか……?」

 

 頬を染めて不安そうに寝そべる私を見る郁代。……こんな顔されて出来ませんなんて言える訳ない。言うつもりも無いけど。出来ないのは我慢だけだ。

 

「そんな訳ないじゃん。ほら、おいで」

「……はい」

 

 仰向けになっている私に覆いかぶさる様に見下ろす郁代。普段は私からベッドに押し倒すのがいつもの流れだからなんか新鮮。

 そんな事を考えてながら郁代の顔を見つめていると郁代が私に身体を重ねて、そのまま唇を重ねた。

 

「ん……ふ……」

「あむ……ちゅ……」

 

 郁代の唇を味わうように貪る。次第により深く求めて自然と互いに舌を絡め合い、郁代の甘くて美味しい舌を伝って郁代の唾液が流れ込んでくる。……甘くて美味しい。人には散々飲ませてきたけど飲むのは思えば初めてかもしれない。人の唾液だなんて普通なら気持ち悪いだけなのに、郁代の背中と頭に手を回し、より深く舌を絡ませて郁代を味わう。

 

「はぁ……ん、……じゅる……」

 

 郁代の温もりを更に求めて、背中に回していた手を下に伸ばしてスカートを捲り、下着越しにお尻を撫でる。そしてそのまま郁代のショーツに手を入れて直に撫で回す。はぁ……、柔らかくて温かい……。

 

「ちゅぅ……れる……ぷぁ……。リョウ先輩……」

 

 息が苦しくなったのか郁代が唇を離す。……蕩けた郁代の顔、めっちゃエロイな。

 

「リョウ先輩疲れて動けませんよね……? そのまま横になってて下さい。全部私がしますから……」

 

 そう言うと郁代が私のシャツごとキャミソールを捲り、フロントホックを外した。

 

「脱がされるのって初めてかも……」

「恥ずかしいですか?」

「ちょっとね」

 

 嘘。かなり恥ずかしい。

 基本的に攻める方が好きだから今までリードして脱がせることはあっても脱がされることは無かった。フェラとかは好きだけど、『される』って言うよりは『させる』って感じだったし。だからこんな風に相手に身を委ねるのは郁代が初めてだ。

 

「えへへ、リョウ先輩可愛い……」

「あ、ちょ……」

 

 郁代が露わになった私の胸にそっと触れ、優しく揉みしだく。

 

「ん……は……」

 

 郁代が私の胸を楽しむ様にふにふにと揉み、指先で乳首を擦られ、ピリピリと甘い刺激を与えられて自分の口から甘い吐息が漏れてしまう。

 そして郁代が身体を少し下げて、顔を私の胸に近づける。肌に掛かる郁代の髪がくすぐったくて身体を捩らせてしまう。そのまま私の乳首を舌でなぞり、ぬるっとした郁代の熱い舌の感触に思わず身体が反応する。

 

「……っ……ぁ……、郁代……」

「気持ちいいですか……?」

「うん……、いいかも……」

「良かった……」

 

 私の答えに満足したのか郁代が私の乳首を食み、ちゅっ、ちゅっ、と音を立てながら強めに愛撫される。空いてる胸は手で優しく揉みしだかれ、左右の胸で真逆の責められ方をして私の身体がピクピクと反応する。

 次第に郁代が私の胸から離れ、お腹へ口付けしながら下っていき、ズボンのベルトへ手を掛ける。ベルトは外すと優しい声で

 

「少し腰を上げられますか?」

 

 と囁かれ、何とか腰を軽く浮かせる。

 郁代が腰を浮かせた私からズボンとパンツを下ろし、さっきの刺激で少し硬くなった私の陰部を曝け出す。

 

「リョウ先輩の、少し熱くなってますね……」

「気持ち良かったからね……」

「本当ですか? うれしい……」

 

 顔を赤くした郁代が私の陰茎にそっと手を伸ばし、優しく握る。……郁代の手、滑らかで触れられるだけで気持ちいいな。

 

「痛かったら言ってくださいね?」

 

 そう言うと郁代はゆっくりと私のを上下に擦り始める。温かく、滑らかな手の感触にあっという間に勃起して、根元からカリ首、亀頭まで優しくしごかれて夢心地になる。このまま永遠に擦られていたいと思わされてしまう。

 

「いい……」

「リョウ先輩の、すごく熱い……」

 

 熱を帯びた潤んだ瞳で私の陰茎を擦りながら物欲しそうに見つめていた郁代が、そのまま顔を寄せて私の陰茎を口で咥え、根元まで飲み込まれていく。

 

「ぅあ……」

 

 熱くて、ぬるりとした感覚がダイレクトに伝わり思わず声が漏れてしまう。

 郁代の口の中の熱さ、絡まる様に動く舌の感触に、思わず快感を求めて突き動かそうとする腰を何とか抑えて、誤魔化すように郁代の髪の毛を優しく撫でる。

 

「ちゅ……ちゅ……じゅる……」

 

 郁代の動きに熱が更に籠り、根元から先端まで味わうように私の陰茎に吸い付きながら上下する。時折郁代の舌が巻き付く様に亀頭をクルリと舐めて、無意識に腰が浮く。

 そのまま郁代の動きが徐々に早くなり、私の限界が近づいてくる。

 

「いくよ……、そろそろイキそう……!」

「ちゅ、じゅる……、じゅぽ、じゅぽ……」

 

 私の言葉を聞いた郁代の動きが更に早くなる。もう、出る……!

 

「う……ぐ……!」

「んむ……!」

 

 私の陰茎が爆発し、精液が郁代の口の中に流れ込み、射精の度に暴れる様に脈動する陰茎をそのまま受け止めてくれる。はぁ……、気持ち良すぎ……。

 

「んぐ、ごく……」

 

 そのまま郁代はドクドクと絶え間なく続く射精を口を離すことなく受け止めて、私の精液を飲み干してくれた。

 そして射精が収まった私の陰茎を綺麗にするように丁寧に舐めてくれてから郁代が口を離す。

 

「ふぁ……、すごく濃かった……」

「ありがとう郁代」

「いえ。気持ち良かったですか?」

「うん。最高だったよ」

「えへへ、良かったです」

 

 じゃあこのまま続きを……。と言って自分の服に手を掛けようとする郁代を、何とか身体を起こして手を掴んで止める。

 

「リョウ先輩どうしたんですか? 疲れちゃいましたか?」

「これ見てそう思う?」

 

 自分のまだビンビンになっているモノを指差して郁代に見せる。

 

「次は私から攻めたい」

「え。でもリョウ先輩動けないんじゃ」

「言ったでしょ、元気になるって。それに」

 

 郁代を優しく押し倒し、耳元に顔を寄せて囁く。

 

「愛してほしいんでしょ?」

「ひゃい……」

 

 郁代に身を委ねるのも悪くないけど、やっぱり私は可愛がる方が好き。

 

「今度は私が脱がせてあげるね」

「は、はい……」

 

 郁代のシャツのボタンに指をかけると郁代の身体がビクッと、震える。緊張している郁代が落ち着くのを少し待ってからボタンを外してそっとシャツを脱がせると、下には青のレースが付いたブラと、脱がされて恥ずかしいのか白い肌は薄くピンク色になっていた。

 

「まだ恥ずかしい?」

「あ、当たり前じゃないですか。リョウ先輩いつも楽しそうに脱がせてくれるから、変じゃないかなっていつもドキドキして……」

「そっか。でも、大丈夫だよ」

 

 郁代の背中に手を回してブラのホックを外す。

 

「綺麗だよ」

 

 郁代からブラを引き抜く。その下には郁代の慎ましい胸に、綺麗な桜色の乳首が映えていた。

 

「リョウ先輩……」

「郁代……」

 

 郁代の後頭部に手を添えて、優しくベッドに寝かせる。白いシーツに郁代の綺麗な赤い髪が広がって、一瞬バラが咲いてるのかと錯覚してしまった。

 そのまま郁代に柔らかくて、少し甘く感じる唇にキスをして、首筋、胸元にキスマークを残しながら唇を落としていく。

 

「リョウ先輩……、跡付いたら恥ずかしい……」

「郁代は可愛いんだから変なのが寄ってこない様にマーキングだよ」

「もう……。んっ……」

 

 強く首筋に吸い付くと身体をビクッと震わせる。

 そしてそのままキスをしながら下って、郁代の胸を愛でる様に撫でて、少し硬くなっている乳首へと吸い付く。

 

「んぅ……! リョウ先輩……」

 

 唇でそっと挟むようにしてゆっくりと舌先でなぞると、敏感な郁代はすぐに反応して、乳首を舌で転がせる度に身体をビクビクと震わせる。その反応が可愛くて、時折甘噛みして、味わうように強く吸い付く。

 

「はぁ……んんっ……。リョウ先輩……気持ち……いいです……」

「そう? ふふ、良かった」

 

 テクには自信があるけど郁代は素直に感じてくれるから可愛がり甲斐があるよ。

 そして郁代の胸を愛撫しながら手を下に滑らせて、郁代のスカートを捲ってショーツの中に手を差し込む。

 

「ひゃ……!」

「大丈夫?」

「は、はい。驚いただけですから……」

「そっか、ゆっくり触るから」

 

 郁代の手入れをされた秘部に触れ、郁代の割れ目を探る様に指を動かしてクリトリスを優しく撫でる様に刺激する。郁代の身体が反応して息が荒くなる。

 痛がっていないかを見定めて指の動きを変化させて、指先で優しく摘まみ、小さく振動を与えると郁代の身体が更に反応して身体を善がらせる。

 

「リョウ、先輩……! そ、こ……、ひぁう!」

「可愛いよ、郁代」

 

 堪らず郁代にキスをする。正直この時点で郁代と一つになりたくて下が痛いくらいになってるけど、もうちょっと解した方が良いかな?

 郁代の膣内に指を挿入れようと手を更に潜り込ませると、郁代が小さな声で。

 

「リョウ先輩、あの、下着汚れちゃいますから……」

 

 と、恥ずかしそうに呟いた。

 

「じゃあ脱がせてあげるね」

 

 ブラと同じ青色のショーツに指を掛けて、太もも、ふくらはぎ、足首からゆっくり引き抜いて、郁代の大切な場所を露わにする。さっきまで私に刺激されていたクリトリスは小さく主張して、私しか知らない郁代の綺麗なピンク色の入り口は既に愛液が滲みだしていた。

 

「郁代のって本当綺麗だよね」

「や……、恥ずかしい……」

「ふふ、美味しそう。ん……ちゅ……」

「あ、やぁ! リョ、リョウ先輩そんなとこ!」

 

 郁代の秘部に顔を近づけて、クリトリスに舌を這わせると郁代が大きく反応して身体が跳ねる。

 

「郁代もさっきフェラしてくれたでしょ。同じだよ」

「そ、それはそうですけど! あ、ああ!」

 

 ちゅ、じゅる、と音を立てながら郁代のクリトリスを舌で愛撫する。郁代が反射的に脚を閉じようとするけど手で郁代の膝を掴んで閉じさせないようにする。

 そして口を離して郁代がクタリとして、入り口に指を添える。

 

「指、入れるよ。力抜いててね」

「ふぁ、い……」

 

 すっかり蕩けてしまってる郁代。本当に可愛いな。

 そして充分に濡れている郁代の膣内に中指をゆっくりと挿入していく。

 

「ぃぅぅぅ……!」

 

 郁代の熱くて柔らかい膣内に挿入すると、優しく、強く指を締めつけてくる。……指でこれなんだよなぁ。ゴム無しで挿入れたらどれだけ気持ちいだろう。勿論郁代にそんな危ない事はしないけど。

 クリトリスを舐めながら郁代の弱い所を指で的確に刺激する。

 

「あ! あ!! そ、んな一緒に……!!」

 

 敏感な郁代の身体はビクビクと身体を痙攣させながら背が反っていく。

 郁代の膣内からは愛液がどんどん溢れ出し、指を出し入れする度にグチュグチュと愛液が攪拌される音が立つ。

 

「や、や! 音立てないで……!」

「郁代が濡れすぎなんだよ。ほらここ、気持ちいんでしょ」

「はぁん!!」

 

 指を曲げて郁代が一番感じる所をベースで硬くなった指先でゴシゴシと擦ると一際大きく反応して甘い声が漏れる郁代。

 

「あ、いぅっ……! リョ、ウ、先輩……! 私、もう……!!」

「うん、良いよ。イって」

 

 指を根元まで指し込んで郁代の弱い所を更に素早く刺激する。

 

「い、く……! イクイクイクイク……! いっ、~~~~~~~……!! ああ!!!」

 

 郁代の身体が一瞬硬直したかと思うと、身体をガクガクと痙攣させながら絶頂の波に飲まれた。私の指を食いしばる様に締め付けながら腰を浮かせて震えていた。

 

「はぁ……! はぁ……! あっ……!! んぅっ……!!」

 

 徐々に落ち着いてきた郁代の腰が着地して、膣内が少し落ち着いたのを見計らって指を引き抜く。

 

「ひぅっ……!」

 

 その引き抜かれる刺激にも敏感になっている郁代の身体が反応する。

 

「大丈夫?」

「あっ、はぁ……、は、い……」

 

 熱くなっている郁代の身体を抱きしめながら、優しく頭を撫でる。

 

「郁代、そろそろ……」

「……はい、私も、欲しいです」

 

 欲しい、なんてそんな言葉があの郁代から出た事に興奮して更に硬くなる。

 郁代に軽くキスをして身体を離し、ポーチからゴムを一つ取り出す。

 

「ちょっと待ってね。準備するから」

 

 そう言って包装紙を開けて、ゴムを着けようとすると郁代が私の手を握って止めた。

 

「郁代?」

「あ、あの……、ゴムは、大丈夫です。そのまま欲しいです」

 

 顔を真っ赤にしておねだりする郁代。え、マジ? やったぜ。……じゃなくて。

 

「そういう訳にもいかないよ。デキたりしたら洒落にならないし」

 

 それとも今日は安全日なのかな? でもそんなタイミングよく安全日だなんて事ある? 無い事も無いだろうけど。

 

「私実は今お薬を飲んでて……」

「薬? ……もしかして低用量ピル?」

「はい。その、リョウ先輩が番を作らずにβの私で満足してもらおうと思ったらこれくらいしかないと思って。それで前から飲み始めてて……」

「そっか」

 

 そこまでしてくれてたんだ。それなのに私は自分に言い訳してΩのフェロモンにまんまと乗って……。本当に情けない。

 でも、ピルかぁ……。

 

「郁代。さっきも言ったけど私は今度こそ裏切らないから。だからもうそんな事しないで。自分の身体を大事にしてほしい」

「……ありがとうございます。でも飲むようになってから生理痛も楽になりましたので」

「郁代が良いなら良いけど。でも私の為に、って考えはしないで。気持ちは嬉しいけど一番大事なのは郁代の身体だから」

「……はい。でも、今日は」

「うん。今日はこのまま、一つになろう」

 

 郁代と隔たり無しで一つになりたいのも本心だし、何より郁代がそれを望んでくれている。

 郁代のスカートを脱がせて、郁代の脚を優しく開く。恥ずかしそうに更に顔を赤く染める郁代を愛おしく感じながら、郁代の入り口に私の先端をあてがい、亀頭が飲み込まれるように郁代の中に挿入される。

 

「リョウ先輩、大好きです……」

「私も。好きだよ」

 

 そしてゆっくりと、郁代の奥へと腰を進めていく。

 

「あ! おっき……い……!」

「くっ……!」

 

 堪らない。初めての郁代とのゴム無しでの挿入。郁代の熱く、狭く、柔らかい膣内を押し開く度に郁代の身体が痙攣し、私の形に合わせて収縮する。いつも以上に狭く感じるのは、私のがいつもより興奮して大きくなってるからなのか、郁代がいつも以上に締めつけてるからなのか。それさえも分からない程に気持ちいい。

 何とか射精せずに奥まで一つになる。あまりの気持ち良さに、さっきフェラしてもらってなかったらすぐに射精してしまうところだった。

 

「入ったよ、郁代」

「は、い……。すごい……。リョウ先輩が、中で脈うってるのが分かる……」

 

 蕩けた表情で私のモノを全身で感じてる郁代。そんな事言われたら益々我慢できなくなる。

 

「動くよ、郁代」

「あっ!! んぅっ……!!」

 

 郁代の奥を軽く小突き、熱い愛液でぬるぬるの郁代の中を味わいながら奥をコツコツと突いていく。

 

「あ、あ、あ……! 声、出ちゃう……!」

「聴かせてよ、たくさん」

「ああ!」

 

 郁代の中が解れてきたのを感じ、強めに奥を突きあげると郁代が一際甘い嬌声をあげる。

 そのままリズムをあげて、郁代のを腰を持ち上げて弱い所に当たるように何度も擦る。

 

「あっ、ああ!! そこ、駄目……!」

「なんで駄目なの?」

「き、気持ち良すぎる、から……!」

「じゃあもっとしてあげる」

「い、意地悪……! ああ!! はぁん!!」

 

 意地悪、なんて言いながら無意識だろうけど郁代の腰も気持ちいい所に当たる様に動いてるんだよね。

 そして益々締まっていく郁代の膣内のあまりの気持ち良さに私も限界が近づき、ベッドが軋む程郁代を激しく、奥を強く突き上げる。

 

「あ! や!! あぁん! リョウ先輩!! わたし、もう……!!」

「郁代、私も、そろそろ……! 郁代、一緒に……!」

「はい……! 中に、出して……! 最後まで……、一緒に……!」

 

 最後に郁代を貪る様に無我夢中で腰を振り、郁代の奥の奥まで届く様に何度も最奥を突く。

 

「あっ、あっ、あっ!! ダメダメダメ!!! イっ…………――――!!!!」

「くぅっ……! 出る……!!」

 

 絶頂して私のモノを痙攣しながら強く締め付ける郁代の中に、全身を駆け巡る快感に任せて一番奥を満たすように大量に射精する。熱く脈動する度に一度出したとは思えない程に射精し、郁代の奥を私の精液で満たしていく。

 

「ああ……!! 熱、い……! リョウ先輩のがいっぱい……!」

「すごいよ、郁代……! まだ出る……」

 

 最後の一滴まで郁代の中に出し切る。

 そして射精が収まり、郁代の上に倒れ込む。

 

「はぁ、はぁ……、んっ……、リョウ先輩、気持ち良かったですか……?」

「うん、最高だったよ……、郁代は?」

「勿論、すごく幸せでした。……素敵でした」

 

 自然と導かれるように唇を重ね合わせる。

 ああ、幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、もう一回戦した後シャワーで一緒に汗やら何やらを洗い流してベッドに二人で腰かけ、郁代は私の肩に頭を預けながら左手の薬指を愛おしそうに撫でていた。

 

「……跡、消えちゃったね」

「Ωとαの番の証とは違いますから、仕方ないです」

「また噛もうか?」

「……んー、それも良いんですけど」

 

 郁代が私の左手を取る。……え、ちょ、まさか。

 

「あむ」

「いだだだだ!」

 

 痛い! 結構痛い! 嚙む力間違えてない!?

 そして郁代が口を離すと、私の薬指にくっきりと郁代の噛んだ跡がついていた。

 

「いたた……。噛むのは良いけど先に言ってよ」

「うふふ。ごめんなさい」

「てか、番の契りで証を刻むのはαの仕事なんだけど?」

「良いじゃないですか。だってこれはαとΩじゃなくて、私と先輩の番の契りなんですから」

「……あー、それもそうか」

 

 確かに、拘る事でもないか。むしろこれから先はその拘りは邪魔になるくらいか。

 

「ねぇ、リョウ先輩」

「ん? なに?」

「やっぱりもう一度噛んでくれませんか?」

 

 郁代が私に左手を差し出す。

 

「うん。良いよ」

 

 郁代の手を優しく取って、薬指に噛みつく。郁代が痛そうに顔を少し顰めるけど、跡が残るまでしっかり噛んでから口を離した。

 

「……ふふ、嬉しい」

「良かった」

 

 郁代が私に抱き着き、私も郁代を離さない様に抱きしめる。

 

「郁代」

「はい」

「私が高校を卒業してさ、郁代がその次の年に卒業したら」

 

「一緒に、暮らそうか」

 

「リョウ先輩……」

「駄目?」

「……そんな訳ありません! 喜んで!」

 

 郁代がより強く私に抱き着く。

 ……きっと、これからもまだ私はあの悪夢に苛まれるかもしれない。でも郁代がずっと私の側にいてくれるのなら、何も怖くはない。どれだけきつくても、絶対に乗り越えてみせる。

 

 このすぐに消える、私達の永遠の番の契りの証にかけて。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。