時期は銀砂糖師になったアンがペイジ工房にシャルを追っていき、シャルの羽が工房長に渡った辺りです。
「――おい」
不機嫌そうな声に振り返ると、シャル・フェン・シャルが立っていた。
「ん? ああ、シャルか。どうかした?」
彼から話しかけてくるなんて珍しいと思いながら、部屋に閉じこもった婚約者の元に向かうつもりだった足を止める。
「聞きたい事がある」
「今からブリジットのご機嫌を伺いに行くとこだったんだけど――ま、いっか。何かな? 俺に答えられる事?」
「お前は女慣れしていそうだから、意見が聞きたい」
「失礼な。俺、意外と一途で純情なのよ?」
「…………」
冷ややかな瞳と沈黙で“全く信じられない”と伝えてくる美貌の妖精に、わざとらしく溜め息を吐いてみせた。
「……はい、冗談ですよ。んで? 何の意見が聞きたいって?」
「昨晩の事だが――…」
寝相が悪い上に寝言のうるさいミスリル・リッド・ポットをつまみあげて客間のソファに置き、アンの寝室に戻る。
俺の自由の為にこんなところまで追いかけてきたあいつに、せめてよく眠れるようにしてやりたかった。
ドアノブをそっと回して物音を立てないように部屋に入ると、うなされているのかアンがベッドで小さく息を乱しながら何かを呟いている。
枕を抱き締めてモゾモゾと布団の下で身体を動かし、溜め息のような息遣いの合間に漏れる小さな声に、何ともいえない感情が込み上げてくるのを感じた。
「……シャル――シャル――…」
その口から洩れる呟きが自分の名前だと気付き、覗き込むように見下ろす。
「――呼んだか?」
ハッと目を見開いたアンが俺を見て、耳まで真っ赤になった。
「シャ、シャル!? いつからそこに!?」
「今来たところだが」
アンが枕に顔をうずめ、呻くように訊ねる。
「み……見た?」
「何をだ?」
“見た”が何を指すのかが分からずに聞くと、なぜか見られたと断定したアンは布団を被ってしまった。
「今見た事は忘れて!」
「だから何を?」
「いいから、忘れて!!」
「――という事があった」
「そ、そうなんだ……」
「あいつは何を怒っていたんだ? 今日も朝から俺を見るなり顔を赤くして逃げていくし」
「うん……」
どう答えたらいいのか判断できず、不機嫌そうな表情の中に困惑を滲ませる妖精に両手を上げてみせる。
「あのさ、ちょっとだけ考える時間もらえる?」
「? ……ああ」
くるりとシャルに背中を向け、心の中で盛大に叫んだ。
――えええええ!?
あんな娘でも自慰をするんだ、とか、それも妄想の相手はシャルらしい、とか、でも相手が妖精じゃ、とか、一気に浮かび上がる色々な感情をとりあえず脇に置き、大きく息を吸って、吐く。
何度か深呼吸をして心を落ち着け、考えをまとめた。
アンがシャルに惚れているのは周りからしてみればバレバレだったけれど、まさか“そういう対象”として見ていたとは思わなかった。
今後、二人の関係がどうなっていくのかは分からないが、互いに大切に思い合っている二人なら案外上手くやっていける気がする。人と妖精が結ばれるなんてそれこそおとぎ話だと、言って聞かせる事は誰でもできる。良識のあるものなら皆そうする。
けれど二人の気持ちを知っている者として、見守り、助言し手助けするのもまた、大人の役割というものだろう。
ここは大人の――人間の男性として、妖精である彼に色々教える場面なのだ。
咳払いをして彼に向き直る。
「ええっと、シャル。これから順を追って、人間の男として客観的に、且つ、学術的にアドバイスするが、ひとつだけ約束してほしい。これから言う事を“俺から聞いた”って、アンには絶対に言わない事。これ以上すれ違いたくなければ、これは絶対だからな」
「そうか。分かった」
頷く妖精と人目につかない辺りに移動し、適当な小枝を拾い上げてしゃがみ込んだ。
「まず、人間の男性と女性の大きな違いは性器だ」
「セイキ?」
「生殖行為に必要な器官の事だよ。男はこんな感じで……」
簡易的に人型を描き、男の股間に棒を足す。
「なんだ、これは」
「一応聞くけど、妖精にはない感じ?」
「ない。妖精に生殖行為は必要ないからな。お前にはあるのか?」
「あるよ、もちろん!」
「そうは見えないが」
地面の絵と俺の股間を見比べて真顔で言う妖精に、ちょっとムキになってしまう。
「普段は縮んでて、必要な時にこんな風に大きくなるの!」
「ふむ。そうなのか」
見せてみろ、と言い出さないか冷や冷やしながら、話を続ける。
「それで、女性はこんな感じ」
後ろめたさを感じながら、脚を広げた人型の股間に口のような図形を描いた。
――なんで簡単に描いたものなのに、こんなに卑猥な感じになるんだろう?
「妖精は生き物の見つめる視線から生まれるって言うけど、人は男性と女性が――その、なんだ――身体を交える事で子供が生まれる」
「そのくらいは知っている」
シャルは“知っている”と言うが、性器を知らない時点でおそらく具体的な事までは知らないと思い、一歩踏み込んだ説明をする。
「その“交わり”で、互いの性器を密着させる必要がある」
「密着?」
「やり方は色々あるけれど――」
オーソドックスな体位を地面に描いていくと、シャルが怪訝そうな表情になった。
「おい、男の方の棒はどうなった」
「今説明するよ!」
こちらは気恥ずかしさを押して話しているというのに、遠慮のない質問に少しヤケクソになりながら続ける。
「女性の“ここ”に、男の棒を挿入して気持ちよくなると、棒の先から精子を含んだ精液が勢いよく出る。女性は精液を子宮で受け止める事で子供ができる」
「そうだったのか。同じ床で寝れば、子供ができるのだと思っていた」
やっぱり勘違いしていた、と思いながら、一旦地面に描いたものを足で消した。
こんなものを工房の誰かに見られたら、何を言われるか分かったものではない。
「じゃあ次は、女性の性器について具体的に話していく」
「うん? ……ああ」
眉をひそめていたシャルが、頷いた。
たぶん俺の話が一見質問の意図から遠ざかっているように感じているが、とりあえず最後まで聞く事にした、というところだろう。
「一般的な女性の性感帯――気持ちいいと感じるところを教えるぞ。これは人によるから、相手の反応を見ながら慎重に触れる事。ただし、女性は大抵イイところも“イヤ”とか“ダメ”って言うから、見極めるのは難しいんだけど」
「そうなのか」
「顔、耳、首筋、乳房、乳首、太もも――それから性器だと――」
地面に女性器をさっきより少しだけ詳しく描いた。
――ああ、もう、思春期のガキじゃあるまいし……
卑猥な絵を描いている自分に、俺は一体何をやっているんだろうと一瞬冷静になりかけたが、これは父親が息子に、あるいは兄が弟に教える類いの教育なのだと言い聞かせる。
「さっき言った部分を愛撫してあげると、女の子の“ここ”が愛液で濡れてくる」
「濡れる……?」
はっきりと困惑を示すシャルに構わず、説明を続けた。
「それから性器の端に陰核が勃起してくるから、皮を剥いてあげる。ここは女の子の身体で一番敏感な部分だから、あくまで優しく、傷付けないよう指先を濡らして弄ってあげる事」
「…………」
「指では強過ぎるようなら、舌で舐めてあげてもいい。大抵の女の子は悦んでくれる。それでここにある穴からたっぷりと愛液が溢れてきたら、指を入れる。狭いから、最初は1本だぞ? そうやって慣らしてあげてから少しずつ指を増やす。3本は入るけど、初めてなら2本くらいにしておけ。絶対に無理はしないように」
下腹部を描き、膣と子宮を簡単に足す。
「……こんな風になっているのか……」
「うん、まあ、俺も医学者じゃないからこれが正しいのかは分かんないけど、こんな感じと思っておけばいい。それで中にも気持ちいいと感じられる場所があるから、それも教えておく。この辺の浅い部分の腹側と――奥の子宮口――」
小枝でその箇所にしるしをつけていく。
「――だけどこれは本当に人それぞれだから、触られても何も感じないって娘もいれば、時間をかけて開発すれば感じるようになる娘もいるし、最初っから凄く反応する娘もいる」
「そ、そうか」
一応頷いたシャルは、考え込むように黙ってから顔を上げた。
「……それで質問に戻るが、あいつの機嫌が悪かったのは何が原因だったんだ?」
「女の子も生殖本能によって欲求が抑えられなくなる時がある。相手がいない時は、自分でその欲求の処理をする。性感帯や性器を自分で愛撫して、快感を得る――それが自慰だ」
「自慰? それがあいつの昨日の様子の正体だと?」
「あまり他人に見られたいものじゃないからね。恥ずかしかったんだろ」
まして想う相手には――それを知ってか知らずか、シャルは「そうか、悪い事をしてしまったのだな」と口元を手で押さえた。
「後はお前次第だ、シャル」
「どういう意味だ?」
「アンは誰の名前を呼んでいた? 誰にそうされたいと思っているのか、分からないとは言わせないぞ」
「……………」
彼自身気付いてはいたのだろう、足元の絵を見つめてから自分の手を見る。
「シャル、お前はアンにどうしてやりたい?」
「どう……?」
「謝るなり見なかった事にするなり、今回の事が解決すればそれでお終いか? 違うだろ。お前たちの関係が続いていく限り、いつか必ずこの問題が立ち塞がる。お前はアンとどうなりたい? お前を妖精ではなくひとりの個として尊重するアンに、何をしてあげたい?」
「俺が、あいつに――…」
シャルは手の平を握り締めた。
「なんで俺が女の子の身体について説明したのか、もう分かっているんだろう?」
「……ああ。分かっている、と思う」
「なら男を見せてこい」
妖精相手に鼓舞する言葉がこれで合っているのか自信はないが、後はもう勢いだ。
「それにしっかりと絶頂させてあげられれば、次の日は頭も身体も凄くスッキリするから、アンの為にもなるはずだ」
「スッキリ……そうか」
「それから、くれぐれも言っておくけど、とにかく触る時は優しく、ゆっくりとだぞ。反応がよければ強弱をつけたり触り方を変えたりするのもいい。舐めたり、吸ったり、優しく噛むのもアリだ。他に指遣いだと、ここに触れる時はこんな感じやこんな感じ、ここなら――」
知っている事をあらかた伝える。
「ああ……参考にする」
そう言って屋敷に戻っていくシャルの後姿を見送りながら、地面に描いたものを足で消す。
「……アンにはペイジ工房を変える“最初の銀砂糖”になってもらわないといけないからな。ま、これも工房長代理の務めってやつだ」
少々おせっかいが過ぎたかもしれないが、自分の婚約者のせいで想い合う二人を引き離し、アンの気持ちを利用してここまで連れてきた、せめてもの償いになる事を切に祈った。
――どういう状況!?
昨日の夜の大失敗で、今日は一日シャルの顔をまともに見られなかったのに、なぜかシャルは眠りに落ちるまで見守ると言ってきかない。
仕方なく渋々承知すると、シャルはベッドに入ってきて私を抱き締めた。
「え!? ちょっと、シャル……!?」
嬉しいけど、なんで!?
どんな顔をすればいいのか分からなくなりながら彼の腕の中でもがいていると、シャルが静かに言った。
「昨日はすまなかった」
――そっか、昨晩は理由も話さずに部屋を追い出し、今日もずっとシャルの事を避けてしまったから――
「……うん。私の方こそあんなに怒ってごめんなさい。ちょっと、その、恥ずかしくてつい……」
「分かっている。何も言わなくていい」
「~~~~~…」
――分かっているって言った? 何を? 昨日私がしていた事を!?
もしかしたらシャルは私が何をしていたのかは分かっていないかも、と淡い期待をしていたのを打ち砕かれ、改めて赤面してしまう。
シャルが抱き締める腕に力を込めながら、耳元に囁いた。
「今度からは俺を使え」
「 “使う”だなんて――」
思わず眉をひそめると、シャルは小さく息を吐く。
「そうだな、言葉を間違えた。俺が“してやる”」
「してやるって何を?」
戸惑って見つめると、シャルの綺麗な顔が微かに微笑んだように感じた。
「いいから、お前は黙って、俺に身を委ねていろ」
寝巻の胸元のリボンをスルリと解くと、アンは「え? え?」と状況が理解できないように俺の手元を見下ろす。
――確か“濡れる”と言っていたな……
濡らしてしまったら乾くまで眠る事ができなくなるから脱がせた方がいいだろうと、寝巻の裾に手を掛けると、アンは慌てたように俺の腕を押さえた。
「な、何!? 何をする気なの、シャル!?」
「お前が自分で慰める必要のないよう、俺がしてやると言っている」
「へっ!?」
困惑し過ぎて固まっている隙に寝巻を脱がせると、アンは恥ずかしそうに身体を腕で隠す。
「これから濡れてしまうから、下着も脱がせるぞ」
「ええ!? 何言ってるの、シャル! 冗談やめて!」
「こら、暴れるな」
抵抗する手首を掴んで押し倒すと、キシ、とベッドが揺れて小さく軋んだ。
「俺はただ、お前を気持ちよくしてやりたいだけだ」
「気持ちよく? どうして?」
「昨日の晩、お前は俺の名を呼びながら、自慰をしていただろう?」
「ええぇ!? そ、そんな事してない! してません!!」
「なら何をしていたんだ?」
アンは真っ赤になりながら、素直に白状する。
「あれは――枕をシャルに見立てて、抱き締めてもらう想像をしてたというか、ここに来た夜にシャルに抱き締められた事を思い出して幸せな気持ちを思い出していたっていうか――」
「なんだ、そうだったのか」
あの軽薄男め、とんでもない勘違いを吹き込んでくれた。
「……悪かった。俺の勘違いだった。もう何もしないから、このまま眠れ」
「え……」
掴んでいた手を離し身体を起こすと、さっきまでの抵抗が嘘のようにアンの表情が残念そうに変わる。
「シャル……続き――しないの?」
「え? 誤解だったんだろう?」
「誤解だけど、誤解じゃない」
「どういう事だ?」
「私がシャルの事を好きって気持ちは、誤解じゃない」
「――――…」
「私……シャルならいいよ――ううん、シャルに、して欲しい。シャルじゃなきゃイヤ」
微かに震えながらも、潤んだ瞳が真っ直ぐにこちらを見つめる。
人は、子供だと思っていてもすぐに成長し、大人になり、俺の前から消えていく。
「……シャル?」
覗き込むように俺を伺うアンを抱き締め、囁いた。
「なら、してやる」
アンを再びベッドに横たわらせ、下着に手をかけるとピクリと反応したが、もう抵抗はしなかった。身に着けているものを全て脱がせ、生まれたままの姿にすると、俺の視線から逃れるようにアンは身を捩らせる。
「あ、あんまり見ないで……恥ずかしいから……」
月明りの青い光が満たす暗い部屋で、ほのかに光る白い肌が浮かび上がった。
「……綺麗だ」
思わず口から言葉がこぼれ、アンが唇を尖らせる。
「嘘。いつも私の事、“かかし”って言うくせに」
「いや……今、本当に綺麗だと思った」
驚いたように目を見開いたアンは泣き笑いみたいな表情になると、俺に向けて手を伸ばした。
「シャル、あのね――キス、してほしい」
素直にねだった後、急に我に返ったように慌てて言葉を継ぐ。
「あ、もちろんシャルがイヤじゃなければで――」
嫌ではなかった。むしろ自分から“したい”と思った。
初めての衝動に自分でも戸惑いながらアンに圧し掛かって、身体を寄せる。
と、怖気づいたのか、アンが俺を押し止めようと胸に手を突いた。
「あの、あのねシャル、本当に無理してない? 命令されたから仕方なくだったら無理にしなくてもいいから……!」
「お前は今、俺の羽を持っていないだろう」
「で、でも――」
「いいから、もう黙れ」
「シャ――」
唇を塞ぎ、それ以上言わせない。
「…………ん」
アンからはいつも甘い香りがしているが、唇まで甘いとは思わなかった。
“してやる”などと言っておきながら、気付けば俺の方が夢中になって甘い唇を貪っていた。
――そういえばキスにもバリエーションがあるのだったな
初めてなのか、上手く呼吸もできない様子のアンが口を開いた隙間に舌を差し込む。
「ぅむっ!? んんんっ!」
驚いたアンが反射的に顔を引こうとしたが、頭の後ろを押さえて逃がさない。
唾液を啜るように吸いながら舌で口内を舐め回してやると、やがてアンもおずおずと舌で応え始めた。
絡め合う舌のぬるぬると滑る感触が頭の中にまで浸食してきて、何も考えられなくなる。
妖精の身に肉欲の類いは無縁のはずなのに、目の前の少女が欲しくてたまらなかった。
――これは征服欲か、あるいは独占欲なのか――…
人間を冷めた目で見てきた自分にこんな感情が湧き上がる事が意外で、このままこの不思議な熱情に任せてしまいたくなる。
――違う……俺はこいつに――
唇を離すと、とろけそうな表情のアンの舌先にツッと糸が引いた。
「……不思議……シャルのキスって甘くて――ずっとしていたくなる……」
「――――…」
俺の感じていた事をそのまま言われ、愛おしさでどうにかなってしまいそうだ。
「触れるぞ」
「う、うん」
乳房に手を添わせると、アンが溜め息のような吐息を漏らす。
「っ――んっ……ぁ……」
いつまででも触れていたくなる柔らかな感触を楽しみながら愛撫を続けていると、手の中にコリッとした突起が当たり始めた。
――ここは敏感だから優しく、と言われたな……
胸元に顔を寄せ、乳首をそっと口に含む。
「ああぁぁっ♡」
初めて聞く甘い喘ぎ。
もっと聞きたくて、硬く尖る乳首に舌を這わせた。
「シャル……シャルぅ……♡」
初めての快楽にどうしていいのか分からないように、アンが俺の頭を掻き抱く。
「シャルの舌が擦れるとっ……背中がピリピリってして、お腹の奥がキュウッてなるのっ」
「気持ちいいか?」
「気持ちいいっ――気持ちいいの♡ シャルがしてくれてるって思うだけで、幸せで気持ちいい♡」
――腹の奥、か……
昼間見た絵を思い出しながら太ももの間に手を伸ばすと、アンは反射的に膝をギュッと締めた。
「こら、力を抜け」
「だ、だって――」
「見せるのが恥ずかしいというのなら、大丈夫だ。部屋が暗くてよく見えない」
「うん……」
ためらいながらも、アンは膝を緩めて脚を少し開く。
よく見えないというのは嘘だった。
少し強引に太ももを広げると、月明かりに照らされ、濡れて光る女性器が露わになる。
簡易的に描かれた絵とはかなり違う様子に軽く戸惑ったが、それでも予備知識のおかげで自分がどうするべきかは分かった。
「俺は感情の機微というものに疎い。痛かったり嫌だったらちゃんと言え」
「う、うん……」
――シャルが、私のあそこを舐め回してる……
現実感のない光景なのに、身体の芯が痺れるような快感はあまりに生々しくて、これは夢ではないのだと実感する。
好きなひとに抱き締められ、大人のキスをされ、優しく愛撫されて、気持ちよさでおかしくなってしまいそうだった。
人と妖精では、生きている時間も感覚も違う。生まれ方が違うから身体のつくりも違う。
例え心から愛し合っていてもこういう事はできないと思っていたのに、愛撫されているだけで身体は溶けてしまいそうになる。
「ひあっ♡ ……っあ♡ イッ――んんっ♡」
つい口から“イヤ”という言葉が出てしまいそうになるのを、必死に止めていた。
―― 一度でも口にしてしまえば、きっとシャルは、もうしてくれなくなる――…
初めての快楽に身体は逃げそうになるが、痛がっていると思われたらこの幸せな時間は終わってしまう。
ただひたすら素直に身体を預ける事しかできずに、シーツを握り締めて堪えていた。
「……凄いな。どんどん溢れてくる」
普段のぶっきらぼうな様子から想像もできないほど優しく秘部を舐め回され、愛撫を受け入れていると、シャルが顔を上げた。
愛液まみれになった綺麗な顔を見た瞬間、ゾクッとしてしまう。
こんなに幸せで気持ちのいい事があったなんて、自分はなんて世間知らずだったんだろう――…。
「シャル――シャル♡ 大好き、シャル――♡」
砂糖菓子のように甘い響きで、すがるように、求めるように名前を呼ばれるのはとても気持ちいい事だと初めて知った。
呼ばれるたびに、“もっと気持ちよくしてやりたい”という気持ちが湧き上がってくる。
アンは皮を剥いた陰核を舌先で擦るだけで甘く喘ぎ、指を差し入れれば身をくねらせて悦んだ。
何度か耐え切れないように身体を仰け反らせ、やがてビクッと身体を震わせて力が抜ける様子があったが、おそらくそれが“オーガズム”というやつだろう。
涙を流しているが、苦しい訳でも痛い訳でもないのはすぐに分かった。
強い快感は、涙や唾液や愛液を溢れて止まらなくさせてしまうらしい。
見た事のない顔――涙を浮かべた熱っぽい瞳や赤らめた顔、唾液をこぼすだらしのない口元に、嫌悪どころか心の奥を強く掻き立てられる。
――これが“そそられる”という事だろうか?
初めての感情を持て余しながら女性器の奥に指先で触れると、初めは指先がかするだけだったのがすぐに指の腹で弄れるように変わってきた。
――“感じると、下りてくる”と言っていたな
自分が相手を感じさせ、悦ばせている事に愉悦のような満足感を覚える。
アンがブルルッと身体を震わせた。
「シャル、そこ――なんだか変――変なの――♡」
「変?」
「シャルが触れるたびに腰が痺れて、頭がフワッてする――」
その反応は、昼間聞いたオーガズムの兆候だ。
「ダメ、ダメ、シャルっ――本当に変なの――ゾクゾクが奥から来て――」
「大丈夫だ。そのまま俺に身を任せていろ」
「さっき“ダメ”って言ったらやめるって言ったのに――」
「やめるなんて言っていない。それにお前の“ダメ”は“イイ”という意味なのだろう?」
コチュ、コチュ、と突き当りにある穴に指先を引っかけるように弄り回す。
「ここが、子を孕む部屋の入り口と聞いた。俺は孕ませてやる事はできないが――気持ちよくしてやる事ならできる」
口内のようにぬるぬると濡れた膣穴が指を愛おしそうに締め付け、奥へと誘うように痙攣した。
妖精の自分にもそれがとてもいやらしい動きだと分かり、おかしな気分になってくる。
――俺にも男の“棒”があれば、こいつをもっと悦ばせて―― 一緒に気持ちよくなれるのだろうか……?
浮かんだ埒もない考えを頭から追い払い、アンの腹の奥に集中する。
「あぁ、シャル――身体の奥がっ♡ 奥から何か―――んうぅぅッ♡♡♡」
ビクッと腰を浮かせたアンは、そのままブルブルと身体を震わせて仰け反った。奥から熱い体液がトプトプと溢れ出てきて、指に纏わりつく。
指を抜こうとすると、アンが「ま、待って――抜かないで……」と、手を押さえて止めた。
痙攣の止まらない中が、抱きすがるようにギュッと締め付ける。
先程までとは違うオーガズムの様子に、追い払ったはずの考えが再び頭をもたげた。
「……やはり、物足りなさそうだな」
「え……?」
「ここには、本当なら男性器を入れるのだろう?」
「えっと……う、うん、たぶん」
「俺の指だけでは物足りないだろう」
「そんな事ない――シャルが私にしてくれているというだけで、凄く幸せだもの……♡」
そう言って微笑むアンは本当に幸せそうだが、本能に基づく欲求は、心とは別のところから来る。
そしてその欲求が抑えられなくなった時、いつかこいつも俺以外の人間の男を求めるのだと考えた瞬間、自分でも驚くほど激しく動揺してしまっていた。
これまで一緒に過ごした時間、見てきた色々な表情、名を呼ぶ声――真っ直ぐで、真面目で、妖精相手に対等であろうとするお人好しで、吹けば飛んでしまいそうな華奢な身体つきをしているくせ、職人としての誇りを胸に信念を貫く強さも持っている。
銀砂糖のように甘くとろけたこの瞳と顔を、いつか他の男に向けるのだと思うと、胸が焼け付くようにひり付いた。
――何か――何かないだろうか? 俺にもこいつを満たしてやる方法――…
考えたところで妖精の自分にできるのは、剣を作り出す事くらいだ―――剣?
「……そうか」
「? どうしたの?」
手の平に集中し、剣を作り出す。
ただし柄のみで鍔より先はない。
「シャル?」
「男性器の代わりにこれを挿入する」
「え? ……え?」
一瞬、聞き間違いかと思って聞き返す。
――今から私、シャルがいつも私を守る為に振るってくれていた剣で貫かれちゃうの……!?
不思議な感情が湧き起こり、ゾクゾクと背中を震わせた。
「……こんなものではイヤか?」
これまで見た事のない自信のなさそうな表情に、胸だけでなくお腹の奥までキュンキュンと疼く。
――刃のない剣の柄が、シャルの精一杯の愛情の表れなんだ――…
身体を起こすと、シャルの手と柄を両手で包むように握ってかぶりを振った。
「イヤじゃない。シャルが私を思ってしてくれる事が、イヤなはずない――でもひとつだけ聞いてもいい?」
「ああ」
「シャルは私に、その――よ、欲情してくれているの?」
驚いたように目を見開いたシャルは、むしろ納得いったという感じに頷く。
「そうだな……妖精にそういった欲はないはずだが、この独占欲にも似た感情は、そう呼んでもいいかもしれない」
「……嬉しい」
思わず言葉が口から出てしまっていた。
「嬉しい?」
「好きなひとに欲情されるのは、女の子にとって嬉しい事なの!」
シャルの首に抱きついて言うと、愛おしそうに髪を撫でてくれる。
勢いで告白してしまったが、既に恋人のような事をしてしまっているので今更恥ずかしいとも思わなかった。
月の光にさざめくように光る羽が肩越しに目に入る。
「……ね、シャル……羽、触ってもいい……?」
「好きにして構わない」
「うん♡」
背中に回り、そっと羽に触れてキスをすると、シャルは溜め息のような吐息を漏らした。
ただ愛おしさを伝えたくて羽のあちこちに優しく唇を押しつける。
「羽に触られるの、イヤじゃない?」
「お前に触れられるのは、むしろ心地いい」
そんな言葉に気持ちが溢れ、勢い余って羽を舐めてしまった。
「ッ――」
明らかに、シャルがゾクゾクと震える。
――もしかして、シャルはこれが気持ちいいのかな?
シャルにもっと気持ちよくなってほしくて、傷付けないように気を付けながら羽に舌を這わせると、彼は艶っぽく息を乱す。
「シャル、気持ちいい?」
「変な感じだ……身体の奥から震えが起きるような……」
「もっとしても大丈夫?」
「あ、ああ」
――好き――シャルが好き――大好き――シャルとずっと一緒にいたい――…
この気持ちが羽を通して伝わればいいのにと思いながら付け根近くにキスをした時、シャルが「んうぅッ」と喘ぎ声を上げた。
「だ、大丈夫!? もしかして痛かった!?」
羽の付け根は特別に敏感だったのかもしれないと心配して聞くと、息を乱したシャルは首を横に振る。
「いや、何でもない――続けてくれ」
「でも……」
「お前にされると、妖精の俺にも“気持ちいい”が分かる気がする」
「そうなの?」
それが本当なら凄く嬉しい。
更に熱を込めて薄衣のように繊細な羽を唇と舌で愛撫すると、やはり羽の中でも付け根に近いほど敏感に反応しているように感じた。
「――ふっ……んっ――っ」
乱れた息遣いのシャルはなんだか凄く色っぽくて、いつもの静かで冷たい瞳からは考えられない熱っぽい目で喘ぐ様子に私までゾクゾクしてしまう。
「っ――うぁッ――…」
不意にシャルが大きく喘いで、羽を伸ばすように震わせながら身体を仰け反らせた。
ハッ、ハッ、と荒い息を吐くシャルが私を抱き寄せ、ギュッと抱き締める。
「すまない――少しだけこのままで――」
自分の状態に戸惑うように私に抱きついたシャルの様子に、胸に喜びが溢れた。
――もしかして、今のが妖精のオーガズム……?
シャルを気持ちよくできた事が嬉しくて、お腹の奥がキュンッと痛む。
「……ね、私にも、して」
「ん?」
「シャルのを、奥まで入れてほしい♡」
「……ああ、そのつもりだ」
息の整ったシャルは微笑むと、私をベッドに優しく押し倒して脚を広げた。
刃のない剣の柄を取り、鍔部分を掴んで柄の先端に嵌められた黒い石を膣口にあてがう。
「いくぞ」
「うん♡」
シャルの指でしっかりとほぐされ、たっぷりと濡れた穴は簡単に柄を飲み込んでいき、やがて奥にコツンと当たった。
初めてはとても痛いと聞いていたのに、硬い感触がお腹の奥を満たす充足感と好きなひとに貫かれる幸福感で全身が痺れるようだ。
「凄いな、こんなに奥まで―――えっ?」
ツッ、と柄を伝った赤い液体を見て、シャルが息を飲む。
「血が……!?」
慌てて抜き取ろうとするシャルの手を押さえた。
「いいの。大丈夫だから、続けて」
「いや、血が出て――」
「これはね、女の子が初めてを捧げた証」
「初めて……」
「ごめんね、シャルの剣、汚しちゃって……」
「そんな事は気にしなくていい。それよりも本当に大丈夫なのか?」
心配そうに見つめるシャルに微笑んでみせる。
「うん。怪我をした訳じゃないから、大丈夫。むしろシャルに初めてを捧げられて、嬉しい♡ だから続けて、シャル」
「分かった。だが無理はするな」
フッと息を吐いたシャルは覚悟を決めたように私に圧し掛かった。股間に鍔部分を当て、グイッと身体を引き寄せる。
「んんんううぅ♡」
シャルの股間で押し付けられた柄が奥へと押し込まれて、まるで本当に彼の陰茎に貫かれてしまったみたいだ。
ズリ、ズリ、とシャルが腰を動かす度に柄の先に嵌められていた黒い石が子宮口に当たり、まるでもっと奥へと入りたがっているように嵌り込む。
「んああぁぁっ♡ シャルのが奥に捻じ込まれちゃう♡ こじ開けられちゃうっ♡」
指で弄られた時よりも深くて重い気持ちよさが、身体の奥から湧き上がるように下半身を痺れさせる。
――ダメ――これダメなやつ……!!
「待って、待ってシャルっ――怖い! 怖いくらい気持ちいいのが奥から来るの―― !」
「ああ、奥で達した時のオーガズムは、とても深いそうだ」
シャルは下半身を密着させて奥を刺激しながら屈んで顔を近づけると、キスをした。
舌を絡ませる熱くてとろけそうな、甘いキス。
「うむっ♡ ――っんんんぅ♡ ―――ふぅッ♡♡♡」
口を塞がれ上手く息もできずに、私はシャルと上も下も繋がって絶頂を迎えた。
ビクッと腰を浮かせたまま深く痺れるオーガズムに仰け反って舌を突き出し喘いでいると、シャルがその舌を吸う。
快楽の余韻で暗い部屋に星がチカチカと瞬き、頭と身体がふわふわする。
奥の奥まで挿入された柄をシャルがゆっくりと引き抜くと、血の混じった白い愛液が噴き出すようにこぼれ落ちる。それを見たシャルは、なぜかポツリと謝った。
「……すまなかった」
「え?」
「乱れるお前の姿に興奮して、どうかしていた。大切な純潔を奪ったりして……」
「謝らないで」
瞳に後悔の色を滲ませるシャルの頬を、両手で包む。
「私、嬉しかった。シャルが私みたいな子供に欲情してくれて……それにシャルも気持ちよかった、でしょう?」
伺うように上目遣いで見上げると、シャルは照れくさそうに微笑んだ。
「ああ。長く生きてきたが、あんな感覚は初めてだった」
「よかった……」
シャルの胸に顔をうずめ、深く息をする。
「……シャル、待っていてね。この工房を立て直して、絶対にシャルの羽を取り戻すから」
「ああ、お前を信じて待つと約束したからな。俺にしてやれるのは、こんな事くらいだが――」
「ううん、充分だよ。シャルが傍にいてくれるだけで、私、頑張れるから」
軽そうに見えて意外と苦労人なエリオットさんが色々と気を回してます(;^ω^)
妖精なので”アレ”はないけど、羽を愛情込めて愛撫すると気持ちよくなっちゃう設定です。