君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
「ここなら誰もいないし、中で話そうか」
「……」
誰もいない空き教室。
まずはモモアが中に入る。
続いてリア。
静寂の中、僕は彼女たちの背をそっと押し、教室へと導いた。
リアは警戒した様子もなく、素直に教室へと入る。
僕は先にモモアの背にも触れていたので、不自然には見えなかっただろう。
僕は空き教室の扉を静かに閉めた。
―――僕はリアに触れる瞬間を狙っていた。
僕はリアの背中を押した刹那、彼女のスキルを奪い取った。
雷の皇女――リア・ヴォルデンベルクの持つ強力な雷の力が、僕の中へと流れ込む。
雷鳴が轟き稲光が大空を切り裂くようなイメージが脳裏を駆け巡り、指先が微かにしびれた。
―――これが……リアのスキルか。
あとは、知らぬふりをして会話を続ければいい。
リアは僕に気を向けることなく、モモアを鋭い目で見つめていた。
「聞かせてもらいましょうか、モモア。一体何があったんですか?」
「そ……それは……」
モモアは後の言葉が続かない。
チラチラと僕の顔色をうかがっている。
僕は満足げに微笑み、代わりに口を開いた。
「モモアからは言いにくいよ。だから僕から言うね。つまり……こういうことなんだ。」
僕はモモアの顎に手を添え、彼女の唇を奪った。
リアの目の前で。
「っ……!!」
リアの表情が凍りつく。
空き教室の中を再び静寂が支配する。
モモアはほんの一瞬、逃げようとする素振りをみせた。
だけど、僕の手に押さえられ、逃げることもできず、彼女はただ目を閉じたまま、身を委ねるしかなかった。
唇を離すと、モモアの顔は真っ赤に染まっていた。
目を伏せ、羞恥と屈辱に耐えるように震えている。
「え……モモア……!?」
リアの困惑した声が教室に響いた。
「つ、つまり……僕たちは付き合っているんだ。」
「なぜ?どうして……モモアは、無能のアルトのことをバカにしていたじゃないですか!?」
リアはモモアのことをよく知っている。
もしモモアが、男から無理やり迫られたら、よくて殴り飛ばすか蹴とばすか……場合によっては炎で焼き殺してしまうかもしれない。
それが、炎の王女 モモア・フレイム・アルトドルフ。
僕が七剣姫と初めて会ったスキル判定の会場でも、モモアが一番僕のことを馬鹿にしていた。
そのモモアが
無能のアルトにキスをされて
何も抵抗らしい抵抗をしない。
リアの瞳には大きな疑念と、激しい動揺が浮かんでいた。
僕はゆっくりと肩をすくめ、落ち着いた口調で言う。
「もしリアのスキルがなくなったら……リア自身が馬鹿にしていた”無能"になってしまったら……どう思う?」
「どう思うか……ですか。」
リアは真剣な顔つきで答えた。
「……多分、死んでしまいたいと思うでしょうね。」
「だよね。」
僕は笑みを浮かべた。
「スキルがなくなったら、今度はリアが馬鹿にされることになる。そんなこと耐えられない。死にたい。……でも、それを助けてくれる人がいたら、きっと感謝するよね?」
リアは僕の言葉の意味を測るように睨みつけてきた。
「……つまり?」
「モモアは一度、スキルがなくなったんだけど、幸い僕が助けてあげたんだ。」
僕はさらりと言ってのける。
「それに感謝して、僕に魅力を感じて――モモアが僕の恋人になりたいって言ってきたんだ。」
「な……っ!?」
リアの顔に、驚愕の色が広がる。
モモアは何も言わず、ただ目を伏せている。
沈黙。
リアの混乱が、教室の空気に染み込んでいく。
僕は、さらなる一言を放った。
「知ってる? 実は最近、スキルが無くなってしまう人が増えてるんだって」
「え……?」
リアの眉がピクリと動いた。
「病気なのかな? それとも呪いかな? 特に"人を無能だと馬鹿にしている人"によく起きる症状らしいよ。」
リアの表情が一瞬にして強張る。
自分も"無能"と馬鹿にしていた側の人間。
そして、さっきまで僕に対して見下した目を向けていたのに……。
リアの顔から、少しずつ血の気が引いていく。
「つまり……君のスキルも、そろそろ消えてしまうかもしれないね?」
静かな教室の中、僕の言葉が響き渡った。
リアの顔が強張った。
「そんなバカなことが起きるはずがありません!」
リアはすぐに否定する。
彼女にとって、スキルを失うなどありえないことなのだろう。
雷の皇女――クラウディア魔剣士学園の最強の一角と呼ばれる少女が、その力を失うなど、想像すらできないのだ。
「じゃあ試してみたら?」
僕は肩をすくめながら提案した。
「……当然です!」
リアは険しい表情を浮かべ、手をかざした。
雷魔法を使おうとする――が、何も起きない。
「え……?」
戸惑いがリアの顔に浮かぶ。
「そんなはずは……!」
今度はさらに力を込める。
指先に意識を集中し、雷のエネルギーを練り上げようとする。
だが――
何も起きない。
教室の中は、ただの静寂に包まれていた。