君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
学園の敷地はとにかく広い。
男子寮と女子寮はそれぞれ別の場所にある。
校舎がある本館は学園の敷地の中の北側の方。そのちょうど真ん中あたりに建っている。
男子寮は南西の端、女子寮は南東の端。
朝はそれぞれの寮から出た生徒たちが本館を目指して歩いていく。
僕もいつものように男子寮の門を出ると、まずはメインストリートに向かって歩き始める。
学園本館から真っすぐ伸びる道は大通りになっていて商店街のようになっている。
途中で女子寮からの道と合流するポイントがある。
そこは自然と待ち合わせ場所になってて、友達同士が声を掛け合ったり、一緒に登校したりする光景をよく見かける。
いつも朝は憂鬱だった。
学園に行っても周りから無視されるのはいい方。
剣術や魔術の実習の時は馬鹿にされる。
先生だってかばってくれるどころか、一緒に馬鹿にしてくることさえある。
女子からも相手にされない。
嫌なことばかりだった。
でも。
僕の生活は一変した。
いつもの通学路。
今朝の僕はモモア、そしてリアと一緒に登校することになっていた。
「おはよう、モモア、リア」
約束の待ち合わせ場所で、二人と合流する。
炎の王女・モモア。炎のような赤い長い髪が朝日に照らされて輝いて見える。
雷の皇女・リア。彼女は綺麗な金色の髪をいつもツインテールにしている。
「……おはよう」
モモアがそっぽを向きながら答える。
顔を見られたくないのか、視線を泳がせている。
モモアは……ツンツンしつつも、少しずつ態度が変わってきているように思えた。
僕が"愛の言葉"を囁きかけたくらいで動揺するくらいなので、どんどんと押していったら変わってくるかもしれない。
「……ふん」
リアは僕を睨みつけたまま、言葉も発さない。
まあ、想定内だ。
昨日のことを今も根に持っているのか、不機嫌そうな顔をしていた。
あれだけビリビリを喰らって、しかもスキルは戻らず。(僕が戻さなかった)
そして、『やっぱり僕と恋人らしいことを重ねていかないといけないね』と言われて、朝一緒に登校することになったのだ。
不機嫌にもなるって。
まあ、スキルは今から返してあげるつもりなんだけど。
「ねえ、リア。僕たち恋人になったんでしょ。ちゃんとそれっぽく振舞ってよ……そうでないと、スキルがもとに戻らないよ」
「……一体、何をしろというのですか?」
「キス……して欲しいな、ココに」
僕は自分の唇を指さす。
横にいるモモアも引いている。
でも、次はモモアにもしてもらうからな。
「……こ、こんなところでですか?」
リアの声は震えていた。
「だって、僕たち恋人なんだから。別に変なことじゃないでしょ?」
「でも……私たち王侯貴族は、人前でこういうことは決して……」
「僕は貴族じゃない。だから、僕の価値観に合わせて欲しいんだ」
「……っ」
僕に価値観を合わせろ。
そう言われてしまったら、何も言えない。
リアは真面目な分、モモアみたいなハチャメチャな言い逃れを考えられないようだ。
「……本当に、ここで……しないといけないのですか?」
「早くスキルが戻って欲しいと思うのならね」
リアは小さく息を吐くと、ゆっくりと顔を上げた。
その頬は真っ赤に染まっているが、瞳には決意の光が宿っていた。
「……わかりました。ですが、これっきりですからね」
そう言うと、リアはほんの一瞬だけモモアを横目で見た。
おそらく、彼女の前でこんなことをすること自体、屈辱なのだろう。
一般の生徒だってチラチラとこちらを見ている。
だが、それでも覚悟を決めた彼女は一歩、そしてもう一歩と近づいてきた。
「……いきますよ」
頬を赤く染め、瞳を閉じたリアの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
わずかに触れるだけの軽いキスだった。
それでも、キスはキスだ。
初めてのキスだ。
こんな美少女と。
「これで、いいでしょう?」
頬を赤く染め、目をそらしながらリアが言う。
「うん、大丈夫だよ……」
僕も目をそらしながら言う。
あ……うん、リアにスキルを返さないと。
無理やりだけど、キスまでさせたら、なんか恋人感が強まるよね。
「じゃあ……一回、リアのスキルを試してみて」
「分かりました」
指先に魔力を込めるリア。
―――バチッ
人差し指の先に小さな稲光が現れた。
「私のスキルが……戻っています!」
嬉しそうに微笑むリア。
その笑顔は、先ほどまでの戸惑いや不安をすっかり忘れてしまったかのように。
かわいい。
でも、そのまま終わらせるつもりはなかった。
「あ、念のため言っておくけど……」
僕はリアの目をじっと見つめた。
「僕と恋人らしいことをするのをやめたら、またスキルは消えるかもしれないからね」
「……っ!」
リアの笑顔が一瞬にして消えた。
「そんな……」
「だから、これからもよろしくね、リア」
「…………分かりました」
悔しそうに唇を噛むリア。
そして、隣に立っているモモアに視線を移す。
「じゃあ、次はモモアだね」
「……」
リアにキスをしてもらったんだから、モモアにもしてもらわないとね。