君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
隣に立っているモモアに視線を移す。
「じゃあ、次はモモアだね」
「……」
リアにキスをしてもらったんだから、モモアにもしてもらわないとね。
モモアは無言のまま僕を見つめていた。
その瞳には迷いの色はなく、むしろ挑戦的な光が宿っているように見えた。
剣術の試合で相手が一歩踏み込んだとき、迷わず応じる――そんな戦士としての本能が、今この場でも働いているようだった。
「モモア?」
僕が名前を呼んだ次の瞬間、彼女は一歩、そしてもう一歩と僕に向かって踏み込んできた。
「んっ……!」
気づいたときには、モモアの唇が僕の唇を塞いでいた。
リアのときとは違う。
これは決して触れるだけのものではなかった。
唇がしっかりと重なり、その熱が直に伝わってくる。
やがてモモアは唇を離し、静かに一歩後ろに下がった。
「これでいい?」
彼女の頬は赤く染まっていたが……。
「え、えっと……あの……」
言葉が出ない。
躊躇せずに僕にキスをした!?
いや、これはどうせしろと言われるなら、勢いでやってしまった方がいいと言う感覚か?
モモアは剣士としても達人レベル。
剣術の試合としての駆け引きも相当なモノ。
何て言うか、ここでこれだけ押されたら……。
僕が照れてしまうじゃないか!?
それを狙っていたなら相当なモノ。
……でも、まあいいじゃないか。
モモアも僕の恋人なんだから。
~~~~~
とにかく、学園へ向かおう。
僕は二人の手を取る。
右手にモモア、左手にリア。
「ちょっ、なに勝手に――」
「……っ!!」
二人とも一瞬驚いたような反応を見せるが、強く振り払うことはしなかった。
何かモモアもリアも不思議だな。
覚悟を決めて、僕にキスをしたかと思えば、こういうのはまだ恥ずかしがるんだよな。
「今日は三人で仲良く登校しよう」
そう言って、僕は二人の手を握ったまま歩き出す。
モモアは顔を赤くしつつも、視線を下げて何も言わない。
リアは悔しそうに口を噛みしめているが、手を振り払うことはしなかった。
――そして、学校へと続く通学路。
「……ちょっと待って。何かおかしな景色が見える」
「えっ……モモア様とリア様が?」
「なんか、誰か、男と、手を繋いでるんだけど!!」
僕たちが一緒に歩いているだけで、すれ違う生徒たちはざわめきを隠せない。
普段なら近寄ることすら許されない二人が、僕の隣に並び、しかも手を繋いでいるのだから当然だ。
「はぁ!? モモア様とリア様が?一体どういうこと!?」
「いやいやいや……あの男誰よ?」
「たしか無能のアルトだよ。昨日はモモア様と手を繋いでいたって聞いたが……」
「モモア様……モモア様ぁ……!! 目を覚ましてください!!」
「リア様……いや、ありえねぇ……何かの冗談だろ……」
「……いや、あの表情を見ろ。モモア様、ちょっと照れてる……」
「うそだろ……!!」
騒ぎはどんどん広がっていく。
面白い。
これが、"無能"が"英雄"の隣を歩いたときの反応か。
僕は微笑みながら、二人に囁く。
「みんな、僕たちのことを驚いてるみたいだね。モモアとリアみたいな美少女を連れて歩いてるから、うらやましいみたい」
「……あんた、そのうち袋叩きにされるんじゃない?」
……そうかもしれない。
――学園の門を抜け、校舎の廊下を歩く。
「あれ……? モモア様……?」
「リア様も……!? なんであんな奴と!?」
「……無能のアルトが、モモア様とリア様と一緒に登校してる……?」
男子生徒だけでなく、女子生徒たちの視線も痛いほど集まる。
「ありえない……こんなの、ありえない……」
「何かの取引が行われたの……? 無能って有力貴族でもない、平民だったよね」
「いや、でもあの距離感……完全にそういう"関係だよね……」
混乱と動揺が渦巻く中、僕たちはそのまま教室へと向かう。
――そして、教室に入る。
僕とモモアとリアが仲良く手を繋いで入ると、そこにいたクラスメイト全員が息を呑んだ。
「……え?」
「えっ……!? 何で……!?」
「マジかよ……」
「昨日はモモア様だけだったのに、今日はリア様まで……」
教室は一瞬静まり返った後、ざわめきが爆発する。
僕は二人の手を離し、それぞれ僕の隣に座らせる。
座ったのはララの席の近く。
ララは戸惑いながら僕を見た。
「おはよう、ララ」
「あ……おはようアルト君」
彼女は僕の隣に座るモモアとリアを見て、やはり驚いていた。
「あの……どうしてリアさんも……?」
「リアも、僕やララと仲良くしたいんだって? ねえ、リア」
「……はい、よろしくお願いします。ララ」
リアは少しぎこちなくも、ララに向かって挨拶をする。
僕にはツンツンしているけど、ララにまで邪険な対応をするわけではないらしい。
「え……あ、こちらこそよろしくお願いします」
少し戸惑いながらも、ララは挨拶を返した。
僕は微笑みながら言う。
「すごいね、僕たち、クラスカーストの上位グループみたいになったよ。ララが女子の頂点だね」
「そ……そんなことないよ。私なんて強くないし、お二人みたいに綺麗じゃないし……」
「人間の魅力って強さだけじゃないよ。それにララはかわいいと思うし」
「な……なに言ってるのアルト君……」
ララは顔を赤くしながら俯く。
「……でも、アルト君、どうやってリアさんとモモアさんと仲良くなったの?」
「僕は困っている人を放っておけない性格でね。二人の悩み事を聞いてあげたんだ」
「へえ、そうなんだ……」
クラスの生徒たちは、息を呑みながらこのやり取りを見つめている。
すでに、クラス全体が僕たちを中心として回り始めている。
クラス内での立場が劇的に変化していた。
ユノアも、僕たちのことを注意深く見ていた。
彼女はリアと違って、休憩時間になっても、僕たちに直接話しかけてくることはなかった。
モモアとリア、二人が僕の手に落ちているとあっては、うかつに動けないと思っているのかもしれない。
その判断は間違いではないけど、正解でもないよ。
ユノアは、すでに詰んでいる。
――さて、次の授業……魔術訓練での最中に、ユノアのスキルを奪おう。
リアとモモアが華麗に魔法を披露する中……。
ユノアだけが魔法を使えずに慌てふためく姿を、想像するだけで楽しくなってくる。