君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
放課後、僕はユノアと街の中心にある高級カフェにいた。
王立クラウディア魔剣士学園の近くには数多くの飲食店が立ち並んでいる。
中でもこの店は特に格式が高く、上流階級の学生たちが足を運ぶことで知られている。
窓際の席からは美しい噴水広場が見え、その近くのベンチにもやはり貴族の子女たちが上品に語らい合っている。
天井から吊るされたシャンデリアは魔石で出来ており、火でもないLEDでもない不思議な感じの淡い光を放っている。
磨き上げられた大理石の床には、通りかかったウェイトレスの姿が映り込むほど。
……もう一回通ってくれないかな。
きっとスカートの中が見える。
メニューを見たら、おしゃれで洗練されたメニューが並んでいる。
このお店はコーヒーや紅茶でも、一般のお店の三倍以上の値段。
あの……ユノア様、ここは割り勘ですか?
メニューには『デラックスジャンボパフェ』みたいなものは載っていない。
もちろん『唐揚げパフェ』なんてない。
知ってる? 京都の○らふね屋ってお店には、揚げ物系パフェを扱ってるんだよ。
……ごめん、どうでもいい話だったね。
僕にとってはここみたいな高級なお店は縁遠かったど、ユノアにとっては普段通りの場所なんだろう。
だけど、今の彼女は――"大地の公女"としてではなく、”貴族の子女”でもなく"スキルを失った少女"として、ここにいる。
「……ねえ、アルト。私どうしたらいいんだろう」
向かいの席に座るユノアが、小さな声で言った。
僕に問いかけるような、独り言のようなつぶやき。
彼女は、テーブルに置かれた紅茶に手を伸ばすこともせず、じっとカップの縁を見つめていた。
その表情は沈み、今朝までの誇り高き姿は見る影もない。
「……ユノア、大丈夫?」
僕は心配そうな顔をしながら、優しく問いかける。
ユノアはまた小さく息を吐くと、しばらく黙り込んでいた。
「……私、モモアやリアとは、子供の頃からずっと競い合ってきたの」
やがて、ぽつりと語り始める。
彼女は"天才"として名を馳せ、誰もがその強さを認めていた。
でも、やっぱりライバル意識とかがあったんだな。
「二人は天才だった。でも、私は……違う」
ユノアは苦笑する。
「 モモアは炎を操る王族で、リアは雷を司る皇族……二人とも、生まれながらにして"最強"の血を引いているの」
もちろん、知っている。
彼女たちはまさに"天賦の才"を持つ存在。
しかし、ユノアもまた、その二人と肩を並べてきた実績がある……と思うんだけど。
「でもね、私は違うの。父も母も、そこまで魔術の才能がある人じゃなかった。ただ、私が努力したの」
彼女の声には、静かな熱がこもっていた。
「リアやモモアは、簡単にできるのよ。魔法も、剣も、まるで息をするみたいに。でも、私は違った。私は、才能がなかったから……必死に頑張った」
ユノアは拳を握る。
「誰よりも早く起きて、誰よりも遅くまで鍛錬して……魔法の研究も、剣術の訓練も、全てを全力でこなしてきた」
きっと彼女の努力は、確かに並大抵のものではなかったのだろう。
「実戦形式の対戦成績ではね……リアにもモモアにも、私の方が勝ち越しているのよ?」
「……本当? そうだったんだ」
少し驚いたが、彼女が嘘をついているようには思えない。
それなら、なぜ彼女は"二人よりも劣る"という認識を持っているのか。
「でもね、結局――"評価"では、二人の方が上なの」
「……評価?」
僕が聞き返すと、ユノアは眉を寄せる。
「魔物討伐の実績、戦場での"派手さ"……そういう"見栄え"の問題ね。私は地道に勝ち続けてきたのに、それでも二人の方が"特別"で、"英雄"として持ち上げられる……どんなに努力してきた私よりも……!」
彼女の声には、悔しさが滲んでいた。
「それでも、私は諦めなかった。努力すれば、いつかきっと二人よりも認められる日が来るって……! それなのに……」
ユノアは、震える手をそっと開く。
「魔法が、使えなくなった……」
その言葉は、重く、痛々しかった。
彼女にとって、魔法を使えないということは――これまでの"努力の証"を、すべて否定されることに等しい。
「これからも、必死に努力するつもりだったのに……今までの努力が、無駄になったみたいで……」
ユノアの瞳から、涙が零れ落ちた。
――そんな彼女を、僕は"優しげな眼差し"で見つめる。
「ユノアに、そんな苦労や悩みがあったんだね……」
静かに言葉をかける。
ユノアは、小さく息を震わせた。
「……アルト、私、どうすればいいの……?」
ここで「スキルを返してあげる」とは言わない。
僕は、少し考えるふりをして、優しく微笑んだ。
「もしかしたら、ふと能力が戻ることもあるかもしれないよ?」
もちろん、そんなことはない。
僕がスキルを返さない限り、絶対に。
「それに、今は休憩する時期なのかもしれないね」
「休憩……?」
ユノアは呆然としたように呟く。
「うん。今までずっと頑張り続けてきたんだから、少し休んでもいいんじゃないかな」
「…………」
彼女は、静かに僕の言葉を噛みしめている。
そして、僕はわざと軽い口調で言った。
「また二人で気晴らしに話そうよ。遊ぼうよ」
「え……?」
ユノアの表情が、わずかに変わる。
「僕はユノアと話すの、楽しいよ。だからまた、こうして一緒に過ごしたいな」
「……っ」
彼女は驚いたように僕を見つめ――やがて、ゆっくりと、唇を噛んで、小さく頷いた。
「……うん……」
生まれて初めて吐いた弱音を、受け止めてくれた相手が僕だったからか。
ユノアは、素直に喜んでいた。
さて。
じっくりと、"無能"の味を味わってもらおう。