君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
クラウディア魔剣士学園における七剣姫の一人。
水属性最強の魔剣士である『水の聖女』。
またの名を『聖女の中の聖女』……そのように呼ばれる者がいる。
メルキア・アクアリス・アクイナス。
メルキアは女神を信仰する教会と深いつながりを持ち、聖なる加護を受けた存在。
彼女の持つ力は、ただの水を聖水へと変え、傷を癒す回復薬を生み出し、さらには悪霊を浄化する力をも備えていた。
聖女の称号を持つ者は他にもいるが、メルキアはその頂点に立つ者。
彼女の聖水は、どんな聖職者が生み出す物よりも強力で、彼女の回復魔法は一度の詠唱で致命傷すら癒す。
そして、死霊系の魔物との戦いにおいては、誰よりも無双の力を誇っていた。
彼女はまさに、この世に降臨した女神のような存在だった。
王国においては、女神信仰が非常に幅を利かせており、信徒も多い。
その関係で、国民が応援する七剣姫の中でもメルキアは非常に人気も高かった。
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僕たちが学園へ向かう道の途中に、美しい泉がある。
この泉は、古くから 「聖なる泉」 として知られていた。
透き通った水が湛えられ、周囲には四季折々色鮮やかな花たちが咲き誇る神秘的な場所だった。
鳥たちも、森の獣たちさえも水を飲みに訪れる。
しかし……。
今朝においては、その泉の様子が違った。
水の色が濁り、不気味な紫がかった波紋が広がっている。
周囲の草花も元気がなく、周囲一帯に異様な雰囲気を醸し出していた。
「やだ……この辺、くっさ~い。……うっ……気持ち悪い」
泉の縁に近づいたモモアは眉をひそめ、鼻をつまんだ。
腐ったような刺激臭が漂っていた。
「……魔力が乱れていますね」
リアが泉の水に手をかざしながら、険しい表情を浮かべる。
「これは……ただの汚染じゃないようです」
彼女の指先から微かな魔力の光が溢れ、泉へと流れ込んでいく。
すると……
「っ!」
リアが、すぐに手を引っ込めた。
「……やっぱり。何者かが、この泉を穢しているようです」
リアの表情が、わずかに強張る。
「何者か……?」
僕は、泉を覗き込みながら尋ねる。
「魔物か、それに類するものが……この泉に呪いを落として行ったのかもしれません」
リアの言葉に、モモアとユノアの表情が曇る。
「こんなところで呪詛なんて……ありえないわ」
モモアが呟く。
「このまま放っておくわけにはいけないわね。この泉は、学園の水源のひとつ。もし汚染が広がったら……」
水は、人の生活に欠かせないもの。
それが汚されるということは、ただの不快な現象では済まされない。
「……誰かが、浄化しないと」
僕がそう呟いた、その時だった。
「……神の御名において、穢れを祓わん」
透き通るような声が響いた。
泉の中央に、一人の少女が立っていた。
その姿は、神々しく輝いていた。
純白の衣に身を包み、風にたなびく青く長いの髪。
透き通る碧眼は泉を見つめ、両手を静かにかざしている。
水の聖女 メルキア。
彼女の周囲には、すでに多くの人々が集まっていた。
誰もが彼女にひれ伏して、敬意を表している。
「メルキア様、ありがとうございます!」
「まさに女神様だ……!」
「本当にお美しい……」
彼女は聖なる祈りの言葉を口にしながら、泉へと手を伸ばす。
次の瞬間……
泉全体が光った。
聖なる輝きが水面を駆け巡り、濁った水はたちまち透き通った青い色へと戻る。
悪臭は消え、異様な雰囲気は吹き飛び、清らかな泉が蘇ったのだった。
「これで大丈夫です。皆さんに女神のお導きがあらんことを……」
メルキアが微笑む。
笑顔もまるで朝日のような爽やかな輝きに満ちている。
「誰しもが女神様の恩恵を受けることができるのです」
人々は涙を流しながら感謝し、彼女の前に跪いた。
まさに聖女。
まさに奇跡。
だが……
「……あら?」
メルキアが僕たちの方を見た。
青い瞳が、まっすぐに僕を射抜く。
僕の横にいた三人も視界にとらえている様子。
メルキアは微笑みながら、静かに言った。
「一年生剣姫のお三人さん、ですね」
リア、モモア、ユノアの三人が、僅かに身構える。
「私、あなたたちには少しばかり期待していたのですけど……」
メルキアは小さくため息をついた。
「スキル無しと付き合っているなんて、ガッカリ……ですね」
その言葉が響いた瞬間、周囲の空気が変わった。
人々の視線が、一斉に僕へと向く。
ざわざわした不快な感情。
メルキアはさらに声を大きくして続ける。
「誰しもが女神の恩恵を受けることができます。しかし……」
彼女の瞳が鋭くなる。
「女神に愛されなかった無能には、お導きはありません」
周囲の人々が、僕を嘲笑するようにヒソヒソと囁き始める。
「……え? 今、メルキア様……無能がいるって言った?」
「スキル無し……? まさか、本当に?」
「いやいや、そんな奴がこの学園に入れるわけが――」
誰かがそう言いかけたが、すぐに別の信者が鼻で笑った。
「あるんだよなぁ、特例ってやつが」
「きっと貴族の七光りか何かで無理矢理入学したんだろ」
「あるいは、スキル持ちの女の子にすがりついてるだけじゃない?」
嘲笑が広がっていく。
七光りなんてもの、全くなかったわい!
「うわぁ……スキル無しで、剣姫と一緒にいるってどんな気持ちなんだよ?」
「まさかとは思うけど……剣姫に守られてる?」
「ははっ、男のくせに、みっともないなぁ」
うっせえわ。
信者たちの間に、くすくすとした笑い声が広がる。
「それにしても、剣姫様方もお優しいですねぇ」
「可哀想な無能を拾って面倒見てるんですか?」
「もしかして、ペットとか?」
「ペットはまだマシだろ。役に立たないお荷物でしかないだろうに……」
「剣姫に寄生するしか生きる術がないんだろうな」
「ははっ、哀れだねぇ」
信者たちが、肩を揺らしながら笑い合う。
それは、僕に向けられた嘲笑。
侮蔑、軽蔑、憐れみ、妬み。
彼らは口々に僕を笑い、値踏みし、まるで汚物を見るかのような目で見下していた。
メルキアの一言によって。
「……もしかして、この泉が汚染されたのって、あいつのせいじゃないか?」
くすくす、と笑う者もいれば、遠巻きに軽蔑する者もいる。
メルキアは満足そうに、優雅な足取りでその場を去って行った。
こんなに馬鹿にされたのは、スキル判定の会場の時以来だな。
その背中をモモア、リア、ユノアの三人は険しい目で睨みつけている。
「何様のつもりなの……?」
モモアが歯噛みする。
「……ひどいですね」
リアが悔しそうに拳を握る。
「アルト様を侮辱するなんて……絶対に許せません」
ユノアが静かに怒りを滲ませる。
「 無能はね、能力がないから無能なのよ。アルトに泉を汚せるだけの能力なんてあるわけないじゃない」
バッサリと切り捨てるモモア。
「もしスキルに頼らない毒物や呪術道具を使ったにしても……そもそも、アルトがこの規模の泉を汚せるだけの代物を調達する伝手もあるわけないでしょうに」
リアはきっぱりと言い切った。
えっ? ちょっと待って?
モモアもリアも、僕のことをかばっているようで、若干バカにしてない?
……まあ、いい。
あれだけメルキアにもメルキア信者からも馬鹿にされたって、僕は絶望を感じたりはしない。
腹の底から湧き上がってくるのは、復讐できる喜び。
「……次のスキルを奪う相手は決まったな」
水の聖女 メルキア・アクアリス・アクイナス。
僕の標的は、決まった。