君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
僕は言った。
唐突に。
「ねえ、リア。デートに行こうよ」
「……は?」
リアは怪訝そうな顔を浮かべる。
何だよ、その顔は。最高かよ。
美人が嫌そうな顔をしてるのって、どうしてこんなにもそそられるのだろう。
ただ女の子に全然縁がなくて、ただ嫌われているだけだったらツライだけだけど。
ここにおわすリア様は僕の恋人である。
ヴォルデンベルク帝国の第7皇女で、雷の皇女と呼ばれ、雷属性最強の魔剣士にして、とびっきりの美少女。
なくなったスキルを元に戻すためには僕の服従しないといけないとか言って、無理やりだったんだけど。
「そうだなぁ、うん。『大聖堂』に行こうか?」
「……だ、大聖堂?」
……おや?
何だかリアの雰囲気が変わったんだが。
大聖堂と言えば、クラウディア王国における女神教会の信仰の中心地でもある。
また王都クラウディアシュタットにおけるデートの定番スポットでもある。
「一体、何をしにいくんですか?」
「いや、だからデートだって……」
まあ、敵情視察の意味もあるんだけど。
水の聖女メルキアには散々馬鹿にされた。
彼女のスキルを奪って、絶望のどん底に落としたい。
どの瞬間に奪うのがいいだろう?
僕はリアに相談することにした。
デートをするついでに、話をしよう。
リアは僕のことを心の底では嫌っている。
でも僕に反抗的な態度を見せると、僕にスキルを奪われることが知っているから、露骨な態度は見せない。
でも、真面目で戦略眼も高い印象。
真剣な話であれば、しっかりと相談に乗ってくれそう。
―――――
次の休日。
ルルディ・ブルーメ広場。
時間はお昼過ぎ。
中央に噴水があり、大きな花の上に建つ『聖花の剣姫 ルルディ』の像がある。
恋人たち定番の待ち合わせ場所である。
僕が着いた時には、リアはすでに待っていた。
「ごめん、待った?」
待ち合わせ時間より5分ほど遅れて到着した僕。
この世界にはスマホがないから、ちょっと遅れるとかって前もって連絡できないんだよな。
「ええ。15分くらいしか待っていません」
「ご……ごめんね。怒ってる?」
「別に怒ってはいません。"無能"が時間を守れるなんて考えていませんから」
「悪かったってば……」
僕は剣姫の3人を服従させた。
反抗的な態度を取らない限り恋人として扱うと、僕はリアにもモモアにも言った。
今、『無能が……』なんてリアに馬鹿にされてはいるものの……これは時間に遅れた僕が悪いわけで。
何て言うか、時間に遅れたら怒る恋人だって世間にはたくさんいるでしょうし。
……。
「……何をニヤニヤしているんですか?」
「いや……そんなことないよ。ニヤニヤなんかしてないって」
すみません、こんなふうにデートみたいな、恋人みたいなことが出来るのが楽しくて仕方ないんです。
彼女から、ちょっとしたことで怒られるとか、嬉しいんです。
甘いものを食べさせて機嫌を直してくれたら100点なんだけどなあ。
「お詫びに……何か露店で甘い物でも買ってあげようか」
「いりません」
フラれた。
ショボン。
―――――
大聖堂は、ただ祈りを捧げる場所というだけではない。
王国の女性たちにとって、ここは「憧れの結婚式の舞台」でもある。
庶民の娘でも、高貴な家の令嬢でも、皆が一度は夢に見る。
『この大聖堂で、純白のドレスを身にまとい、赤い絨毯のバージンロードを歩きたい』と。
結婚式の日、大聖堂の大扉が開かれ、陽光が差し込む中で、新婦は純白のウェディングドレスを身にまとい、赤い絨毯のバージンロードをゆっくりと歩く。
その姿は、まるで天から遣わされた聖女のようだと称えられる。……まあそれが定番の誉め言葉ってやつです。
王国の女子たちはこの場所で結婚式を挙げることに憧れ、人生最高の夢でもあるのだ。
もちろん、実際にここで式を挙げるためには莫大な費用がかかる。
一般市民にとっては簡単に手が届くものではなく、王族や貴族、一部の裕福な商家の娘しか叶えられない夢でもある。
だが、それでも「いつかこの場所で」と願い続ける女子は多い。
そして、恋人同士のカップルがこの大聖堂を訪れると、いつの間にか結婚を意識するようになる。
そのため、大聖堂は自然と「カップルの聖地」にもなっている。
大聖堂とは女子の憧れで、結婚式を意識する場所……というのを僕が思い出したのは、リアとデートしていて最後の方になってからのことだった。
何て言うか、僕はこの世界においてもモテない系男子だったので、その辺のことは全然意識していなかった。
もちろん、大聖堂が定番のデートスポットだというのは知っていたけど。
リアも僕とこの場所に訪れて、……僕との結婚を意識している、なんてことはないよね?
戦略眼の高いリアのことだ。
僕と結婚する未来を描くより、スキルを奪われない方法を確立し、僕と別れるプランを描く方が容易いだろう。……と思うんだけど、どうなんだろう。
今、リアは買い食いをする気分ではないと解釈し、広場から大聖堂に向かって歩き始める。
広場から大聖堂までは大通りとなっていて、たくさんのお店が立ち並んでいる。
飲食店やおみやげ物屋、花屋、教会用品を扱う店、聖水や回復薬を扱うお店、神官の衣類や装備品を扱う店など。
それらを横目で見ながら、僕はリアに話しかけた。
「ねえ、リア」
「……何ですか?」
冷たい目をしているリア。
話しかけるだけでこれだよ。
モモアとユノアがいる時は、もう少しやわらかい表情をしているんだけど……。
「もしメルキアがスキルを失うことになるとするなら、どの瞬間にそうなるのが一番ショックが大きいと思う?」
リアは少し考えるそぶりを見せた。
「……彼女が最も力を誇示している時ではないでしょうか」
「最も力を誇示している時……ね」
戦っている時とかかな。
メルキアは死霊系の魔物討伐では大いに活躍をしている。
「自分こそが最も神聖で、最も強く、最も選ばれし存在であると信じて疑わない瞬間。そこでスキルを失えば……最も深い絶望を与えられるでしょうね」
「確かに……」
彼女が心の底から力を誇示し、自分こそが神の祝福を受けた存在であると信じて疑わない瞬間。
そのタイミングでスキルを奪い去ることで、最大限の衝撃を与えられるだろう。
魔物討伐の時に僕がついていけたらいいんだけど、もちろん部外者は同行できない。
モモア、リア、ユノアであれば、彼女のマネージャーですとか言って、ついていけるかもしれないけど。
「アルト」
「何?」
「あなたがなぜ私と大聖堂に行きたいのか疑問だったのですが。メルキア様の本拠地の様子を見に行きたかった……つまり、これは『デート』ではなく『敵情視察』なんですよね」
「違うよ。デートだよ。間違いなく」
「……そうですか」
こいつに何を言っても通じないんだろうな……って表情をされた。
リアは、モモアみたいにゴネてくれない分、やりにくいんだよな……。
でも、楽しいんだけど。