君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
白い石造りの巨大な建築物。
王都クラウディアシュタットのランドマークである大聖堂。
中に足を踏み入れた瞬間、僕はその荘厳な雰囲気に圧倒された。
明らかにデカい。
外から見てもデカイとは思っていたけど。
もしかすると東京ドーム10個分くらいの広さがあるかもしれない。
天井もかなり高く作られている。
天窓も大きく、そこから柔らかく降り注ぐ陽光が、色鮮やかなステンドグラスを透かして床に模様を落としている。
壁一面に装飾された彫刻や、柱に刻まれた緻密な装飾も、何て言うか『ハンパねえ!』って感じだった。
大聖堂の中央奥には広々とした礼拝堂があり、数え切れないほどの木製の椅子が整然と並んでいる。
そして、そこに座る信者たちは皆、一言一句を聞き漏らすまいと壇上を見つめていた。
壇上では、白と金の装飾が施された神官服を身に纏った司祭が、神話の物語を語っている。
高い天井に反響するその声は、僕の心に不思議な感覚をもたらす。
この空間にいるだけで、何か特別な力が宿るような気さえするほどだった。
……いや、宿らないな。僕、無能だし。
リアは僕の隣で静かに目を閉じ、信者たちと同じように耳を傾けていた。
意外と信心深いのかな。
大丈夫かな、メルキア戦の途中で裏切ったりしないかな。
話によるとメルキアも、ここに立つことがあるそうだ。
そのことを思い出し、僕はふと自分の能力のことを考えた。
僕は、相手のスキルを奪う能力を持っている。
だが、それには条件があった。
僕は相手に直接触れると、相手のスキルを奪うことが可能である。
もしくは、相手がスキルを発動する瞬間、僕が視認できる距離にいる場合なら、相手に触れなくてもスキルを奪える。
メルキアが壇上に立つことで、視認はできるだろう。けれど、触れることはできない。
また、彼女が信者たちの前で語るときにスキルを使うとは考えにくい。
今、司祭が神話の物語を語っているけど、仮に今すぐ司祭からスキルが消えてたとしよう。
でも、この場にいる信者は気付かないし、幻滅することもない。
つまり、現実問題ここでメルキアのスキルを奪うことはできないし、それを狙うのも効果的ではないということだ。
「……アルト」
隣からリアが小声で僕を呼んだ。
「え?」
「このままお話を最後まで聞いているつもりですか……?」
「いや、もういいかな……」
僕は少し苦笑しながら答える。
リアは肩をすくめ、「ふふ」と小さく笑った。
「アルトはそんなキャラじゃないですからね」
「うん、その通り。違う場所を見に行こうか」
僕たちは大聖堂の中の人気スポットに向かうことにした。
『聖花のステンドグラス』
大聖堂の奥の右翼廊には、美しいステンドグラスがはめ込まれている場所がある。
そこに描かれているのは、色とりどりの花々と、二人の人物——ルルディとサイモン。
この大聖堂で特に人気のあるステンドグラスの一つで、『聖花の剣姫ルルディ』の伝説をモチーフにしている。
伝説によると、ルルディは偉大な騎士だった。
彼女は国を守るため、戦場に立ち続けた。
ルルディと同じ騎士学校の出身であるサイモンは剣の才能がなく、文官の道へと進んだ。
二人は惹かれ合っていたけど結ばれることなく、ルルディは戦場で命を落としてしまう。
このステンドグラスは、そんな彼らが最後に語り合った時の姿を象ったものだった。
交差する剣、咲き乱れる花々、そして寄り添う二人の影。
「……アルト」
リアがぽつりと呟く。
「この場所で祈ると、女神様が願いを叶えてくれるそうですよ」
彼女の視線の先には、ステンドグラスから光が差し込み、床に浮かび上がる二人の影があった。
「この場所で誓った愛は、永遠に続く——そう言われています」
「……でも、この物語って悲恋の話でしょ?」
「ええ。でも、それでも皆、ここで愛を誓うのです」
リアは微笑んだ。
ここはカップルたちの間で有名な「誓いの地」。
この場所でキスをすると、二人の愛は永遠に続くとされている。
……さて、どうしたものかな。
やはり聖花のステンドグラスの前はたくさんのカップルが並んでいた。
男女がステンドグラスの影に立つ。祈りを捧げる。キスをする。去る。
延々繰り返しを見ていると……ちょっと萎えてくる。
でも、これは言わなければならない
「僕たちも、あそこでキ……」
「絶対にしません。」
言い終える前に、リアは僕の言葉を遮った。
予想通りだった。
「え、そんなに嫌?」
「絶対に嫌です。」
……そこまで断言されると、逆に気持ちがいいな。
この場にいるカップルたちは皆、仲睦まじく誓いを交わしているというのに。
「……じゃあ仕方ない、モモアかユノアを連れてまた来ようかな」
「やっぱり、行きましょう。」
リアの反応が一瞬で変わった。
「え?嫌なんじゃないの?」
「本当に嫌です。」
リアは真剣な表情のまま、強い口調で言う。
「でも、私の代わりに犠牲者が出るのは忍びないです。モモアもユノアも不憫でなりません。」
……そ、そうかな?
ユノアなんか、むしろ喜んでくれそうな気がするんだけど。
これは、ツンデレってやつなのか?
それとも単なる騎士道精神による自己犠牲なのか?
……よく分からないな。
でも、僕としてはリアが僕と恋人として一緒にいてくれるなら、それでいいんだけど。
―――――
僕たちは順番待ちの列に並んだ。
……だけど、その中でもとびきり熱烈なカップルがいた。
僕たちの前にいたカップルは、順番待ちの段階からずっとキスをしていた。
軽いキスじゃない。濃厚なヤツだ。べろちゅーだ。
男は女の乳を揉んでるし。女は男のお尻を触っている。っていうか、まるで尻の穴のほじくるかのように指を這わせている。
男は女の胸を服の上から触っているだけでは飽き足らなくなって、ついに女の服の中にまで手を入れてしまった。キスをしたままなので、嬌声はくぐもっていたが、女の乳首をつまみ上げたらしい。
お返しと言わんばかりに、女は男の股間を触り始める。今度は男の鼻息が荒くなってきた。フゴフゴ言ってる。
ねえ、ここって大聖堂の中だったよね。
誰も注意しないのかな。
「………………」
―――ビリッ。
わーお。静電気が来た。
もしかしてリア様、怒ってらっしゃる? 髪の毛が逆立っておられます。
リアは無言のまま、鋭い視線をそのカップルに向けていた。完全に睨んでいる。
彼女の冷たい視線を浴びていても、そのカップルは一切気にすることなく愛を囁き合い、唇を重ね続けていた。
この2人、そのままおっぱじめたりしないよな。
そこまでしたらリアの雷魔法が炸裂しそうだ。
「僕たちもあんな……」
「しませんよ」
デスヨネー。
―――――
順番が進んでいく中で、ある一組のカップルが、ステンドグラスの前に立った。
彼らはまず、伝統に則り、静かに祈りを捧げる。
そのあと——
男が女の前にひざまずいた。
指輪を差し出し、プロポーズの言葉を告げた。
「……僕と、一生を共にしてくれませんか?」
大聖堂の神聖な雰囲気の中で、求婚する。
憧れのシチュエーション。
大聖堂で結婚式を挙げるのは難しくても、プロポーズとかならできる。
「はい……もちろんです……!」
女は驚き、目に涙を浮かべながら、震える声で答えた。
良い思い出になるんだろうな。
そして、二人は強く抱き合い、熱くキスを交わした。
その瞬間、周囲にいた人々が一斉に拍手を送った。
この聖なる場所で生まれた、新たな誓いを祝福するように。
僕は隣にいる恋人のリア(僕のことを嫌っている)をそっと見た。
彼女は一緒になって拍手をしていた。
―――――
ついに、僕たちの番が来た。
リアと並んでステンドグラスの前に立つ。
色鮮やかなガラスを通った光が、僕たちの影を床に映し出した。
僕たちは、無言のまま祈りを捧げる。
そして……
「……」
リアが何も言わずに僕を見つめていた。
僕は、一歩、彼女に近づいた。
顔をそらすことなく、ただじっと僕を見つめている。
僕は、彼女の方へそっと手を伸ばし、肩に手を添える、
そして静かに
唇が重なった。
僕はリアの手を取った。
僕たちは手をつないだまま、静かにその場を後にした。
リアは、僕の手を振りほどかなかった。
「……このあと甘いものでも食べに行く?」
ふと、何気なく聞いてみる。
リアは、少しの間、考える素振りを見せ——
「……行きましょう。」
小さく頷いた。
さっきまでは、「アルトとカフェなんて行きたくない」と言わんばかりの態度だったのに。
今のリアは、なんだか素直になっている気がする。
これは、どういう心境の変化なんだろう?
この後も僕たちは大聖堂周辺デートを楽しんだのでした。