君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
私の名前はメルキア・アクアリス・アクイナス。
クラウディア魔剣士学園の二年生で、水属性最強の魔剣士。
そして、アルト様を信奉するメイドでございます。
いいえ、それだけではありません。
聖女としての務めを果たし、魔物を討伐し、そして……歌い、踊り、人々にいくばくかの救いをもたらす存在でございます。
私の使命、それはアルト様のご意志に従い、この世界に光をもたらすこと。
かつて私は、ただ己の聖なる血統と力を誇り、それだけで価値を持つと思い上がっておりました。
しかし、一度すべてを失ったことで知ったのです。
私を真に救い、導いてくださるのは神ではなく、アルト様なのだと。
「メルキア、お前の衣装を変える」
アルト様はそう仰いました。
それはまさに、私が新しい道を歩むための第一歩。
それまでの私は、白い長いローブに身を包み、荘厳な刺繍を施されたシスター服に、頭には女神様の加護を象徴する白銀の冠を戴いておりました。
その装いは確かに気品があり、聖女としての格式を示しておりましたが……
「ミニスカートにするぞ。もっと露出を増やせ」
「……は、恥ずかしいです……こんなの聖女らしくありません……」
思わず、かつての価値観のままに言葉がこぼれました。
ですが、それがどれほど愚かしいことであったか、すぐに思い知ることとなるのです。
「口答えするな。素直に命令を聞け」
そのお言葉は、私の心に深く響きました。
アルト様はいつでも正しい。
私は自分が誤っていたことを認め、心から服従することを決意いたしました。
そして、アルト様の導きのままに、新たな衣装へと袖を通したのです。
短く軽やかなスカート、裾には繊細なフリルと刺繍が施され、胸元は開き、肩や背中も大胆に露出するデザイン。
これまでの私ならば、決して身につけようとは思わなかったでしょう。
ですが、アルト様の命令であるならば、何も迷うことはありません。
「よし、よく似合ってるぞ」
アルト様のお言葉が、何よりの誇りでした。
ただ……私、同世代の女子と比べると……その……少しだけ胸が大きいんです。
「あの……アルト様、この衣装で戦闘をすると、胸がはだけてしまう可能性があると思うのですが……」
「かまわん」
「で、ですが……!」
アルト様は鋭い眼光で私を見つめました。
「聖女は、聖なる光を人々に示す存在だ。お前の体もまた、神の祝福を受けた聖なるもの。誇りを持て」
「そ、それは……そうかもしれませんが……」
戸惑う私に、アルト様はさらに言葉を重ねる。
「それに、これは戦術の一つでもある」
「戦術……ですか?」
「そうだ。魔物も男も、本能に弱いものだ。お前がその姿で堂々と戦えば、味方の士気は上がり、敵は動揺し、隙が生まれる。そこを狙えばいい」
「そ、そんな……」
私は思わず胸元を押さえてしまいます。
確かに、理屈は通っているのかもしれませんが、こんなに大胆な衣装で戦うなんて……。
「お前はもう古い価値観に縛られるな」
アルト様の言葉に、私はハッとしました。
……そう。
私はアルト様に救われたのです。
ならば、アルト様の言葉に従うのが私の役目。
アルト様を信じずに一体誰を信じると言うのでしょう。
「……わかりました、アルト様。私は、アルト様のお言葉に従います」
結局のところ。
やはり、戦闘の時に私は『ポロリ』をしてしまいました。
しかし、流石はアルト様……と言わざるをえません。
おっしゃる通り、味方の兵士の士気が異常に爆上がりしました。
普段は私が先頭に立って戦って倒さないといけないような凶悪な魔物に、誰しもが率先して立ち向かっていきます。
その光景を見て、私はますますアルト様の言うことを信じるしかなくなりました。
兵士たちが私を追い越す際に、みんな私の方をチラチラと見ておりましたが……。
恥ずかしい……。
戦闘の最中に着替える余裕も、胸を隠す余裕もありません。
勇敢な兵士たちが私の動揺を感じ取り、代わりに前に出てくれているのです。
……あの……その……私は……同世代の女子と比べると少しだけ胸が大きいんですが……。
……同世代の女子と比べて、乳輪が大きいのがコンプレックスなのですが……。
私が前線に再び立たないと、兵士たちがどんどんと倒れていくことになります。
恥ずかしさを堪えて、胸を隠さず私は必死に戦いました。
その姿を見て、兵士たちは『女神がいた……』と感涙していたそうです。
(例の戦闘の後、衣装は簡単にポロリしてしまわないように修繕いたしましたが)
新たな装いのまま、私は聖女として様々な務めを果たしていきました。
魔物を討伐し、人々に癒しを与え、そして……
「メルキア、お前は歌えるだろう?」
「はい。常日頃より信徒と共に『神を讃える歌』を歌っておりますが……」
「なら、もっと幅を広げろ。大衆受けするアップテンポの曲も覚えろ。振り付けもだ」
アルト様の命令のままに、私は新たな才能を磨きました。
最初は戸惑いもありましたが、やがて気づいたのです。
―――私は、人々を魅了することができる。
魔物討伐の凱旋後、私は大聖堂の前で歌い、踊りました。
荘厳でゆったりとした『神を讃える歌』や『女神の物語の歌』ではありません。
明るく、楽しく、心が弾むような旋律。
そして、それに合わせた華やかなダンス。
最初は驚いていた聴衆も、次第に手拍子を打ち、歓声を上げるようになりました。
「メルキア様、かわいい!」
「メルキア様、最高!」
「歌も踊りも素敵!覚えたい!」
それは、かつて聖女であった頃とは違う、人々の心からの喝采でした。
私も最初は恥ずかしかったのですが、このあたりから『楽しい』と感じるようになっておりました。
さらにアルト様は、私に新たな使命を与えました。
「写真集を作るぞ」
「しゃ、写真集……?」
私の姿を収めた一冊の本。
最初は戸惑いましたが、アルト様が考えてくださることに間違いはありません。
すぐに行動へと移し、撮影に臨みました。
神秘的な雰囲気の中で祈る姿、美しい湖のほとりで微笑む姿、そして……大胆な衣装をまとった魅惑的なポーズ。
その写真集は、瞬く間に話題となりました。
王国中の書店で飛ぶように売れ、人々はこぞって手に入れようとしたのです。
「新しいメルキア様の写真集買った?」
「当たり前だろ! この写真、マジで美人すぎる!」
「メルキア様のサイン会に行きたい!」
「俺の人生の推しはメルキア様だけ!」
「そういやさ、ちょっと前にメルキア様のことを無能だとか騒いで叩いているやつとかいなかった?」
「何でもゾンビにボコボコにされて、しかも『メルキアはスキルも持っていない』なんて根も葉もない噂だろ」
「ああ、あったよなそんな噂。もし今そんなこと言うやつがいたら、袋叩きにされるよな」
かつて地に落ちた聖女は、アルト様の手によって、新たな伝説……のようになったのです。
私は『最高位聖女』の地位におりましたが、以前の失態により後釜を据えられることが決定的になっておりました。
正式にはまだ私は『最高位聖女』のままの状態。
当初、教会側は私の変化に反発するかと思われましたが、意外と無反応。
『どうせ次の聖女が決まっているし、別にアイツが何やっててもいいんじゃね?』
そんな感じでした。
しかし、教会が私のことを放置していたら……
どんどんと国民人気が高まっていきました。
まさかそんなに人気がある私を『最高位聖女』から外すなんてことに発表したなら、反発が大きいことは想像に難くありません。
そうなると、聖女の立ち位置というものを考え直さないといけなくなります。
教会の偉い人たちは頭を悩ませました。
『仕方あるまい。メルキアの影響力はもはや無視できん……』
私の討伐の成果、人々の支持、そしてアルト様の知略。
すべてが組み合わさった結果、教会はついに決断を下しました。
『メルキアを【特別聖女】として任命する。また【最高位聖女】の座はしばらく空位とする』
特別聖女——それは、従来の伝統や制約に縛られない、唯一無二の存在。
すなわち、私はアルト様の意のままに行動することを許されたのです。
街では、人々が私の名を口にします。
「メルキア様最高!」
「可愛すぎる!」
「付き合いてえ!」
「嫁にしたい!」
「結婚したい!」
「私、大きくなったらメルキア様みたいになりたい!」
「ねえ、聞いて! 週末のパーティーでメルキア様のコスプレするの!」
「待って! 私もそれ思ってたのに!」
「お……お嬢ちゃんたちメルキア様のコスプレをするんだね。じゃあ、ポロリもしないと」
「おじさん誰!?こ……ここに変態がいます!誰か衛兵さんを呼んで!!」
若い男子たちは、写真集を見ながら熱く語り合い、女子たちは私の衣装を真似ていました。
私はもはや、ただの聖女ではありません。
私はアルト様のメイドであり、特別聖女であり、王国の象徴なのです。
私は誓います。
この身のすべてを捧げると。
アルト様の望むままに生きると。
「メルキア、これからも僕の言うことを聞けよ」
「はい、アルト様。すべては、あなたのために」
それこそが、私の存在する理由。
私のすべては、アルト様のものでございます。