君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
メルキア・アクアリス・アクイナス。
女神を信仰する教会の特別聖女にして、王国の七剣姫の一人『水の聖女』。
クラウディア魔剣士学園の二年生であり、王国中の誰もが憧れ、尊敬し、崇拝する少女。
そんな彼女は、僕のメイドをやっている。
普通の人なら信じられない話だろう。
だけど、現実としてメルキアは僕のために動いているのだ。
なぜこうなったのか?
無能の僕を侮辱したメルキア。
一度ならず二度も。
報復として僕は彼女のスキルを奪った。
スキルを失った彼女は一時的に聖女としての権威を失い、僕に忠誠を誓わざるを得なくなった。
その後、僕がスキルを返してたんだけど、ついでに彼女を『新たなる聖女』としてプロデュースした結果……。
以前よりも大人気になってしまった。
……そんなつもりはなかったんだけどな。
実はメルキアは想像にアイドルの才能があった、というべきか。
あまりにも仕事で忙しい身の上になってしまった。
メイドにしたのに、思ったよりもメイドらしいことをしてもらえていないのが現状だった。
~~~~~~
メルキアの朝は早い。
彼女が目を覚ますのは、まだ夜が明けきらない時間。
まず彼女が向かうのは大聖堂。
誰もいない静寂の中、女神へと祈りを捧げる。
その後、聖水の祝福や回復薬の作成を行う。
さらに、病気や怪我で苦しむ人々を癒す。
これだけでも相当な仕事量だと思うのに、これはまだ朝のルーティンの一部に過ぎない。
彼女が僕の部屋へ来るのは、それらの仕事を終えた後。
とはいえ、それでもまだ世間的には早朝の時間帯だ。
「ご主人様、おはようございます」
透き通るように美しい彼女の声が室内に響く。
移動中に着替えたのであろう。聖女の装いではなく、メイド服のメルキアが静かに扉を開け部屋の中に入ってくる。
「……ん……」
半覚醒のまま僕が顔を上げると、メイド服の美少女がいる。
最高だ。
「お目覚めのお時間です。朝の支度を整えましょう」
メルキアは布団をそっと引き剥がし、僕の寝巻きを脱がせていく。
僕の着替えを手際よく進め、すぐに朝食の時間となる。
朝食……それは彼女の手料理ではない。今の彼女が料理に割ける時間なんてない。
だから、料理人が用意したものを食べさせてくれる。
「ほら、アルト様。もう少し大きく口を開けてください」
「……あ~ん。……ありがとう、あとは自分で食べるよ?」
「いえ、これは私のメイドとしての役目ですので」
「いやいや、さすがに……」
「ほら、あーん」
……逆らえなかった。
彼女は一見すると穏やかで冷静だけど、決めたことに対しては一切の妥協をしない。
結果、僕はメルキアに最初から最後まで朝食を食べさせてもらうという状況になる。
飲み物を飲ませてくれるんだけど、呼吸が合わないとよくこぼしてしまう。
……これって介護かな?
と、そんなことを考えてしまうのも無理はない。
次回は小さい急須みたいな道具を用意してくるかもしれない。(「吸い飲み」で画像検索して)
「それでは行ってらっしゃいませ、ご主人様」
メルキアはそう言うが、先に部屋を出ていくのは彼女の方だ。
僕が登校するまでにはまだ時間がある。
一年生の剣姫の誰かを呼ぼうかなと……。
でも、早朝に呼び出すのはさすがに気が引ける……。
~~~~~
さてメルキアなんだけど。
学園の授業にはほとんど出席できていないが、移動中の隙間時間で自主学習を続けているらしい。
さらに、回復魔法の勉強、剣姫としての訓練、魔力の鍛錬も欠かさない。
そして、それだけでは終わらない。
・講演会――という名の『新しい聖女』コンサート&握手会
・新しい商業施設の開店式典に立ち会う
・穢れた溜池の浄化を行う
・畑の豊作祈願、祝福を行う
・貴族の家に生まれた赤ちゃんを抱っこし、祝福する
・新しいジュースの発売に伴った宣伝の手伝い
・馬車で移動中に雑誌のインタビューを受ける
ゆっくり食事をしている暇もない、分刻みのスケジュールだ。
……聖女って何だっけ?
~~~~~
学校が終わって僕が寮の部屋に戻ると、メルキアがお出迎えしてくれる。
最高だ。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
メルキアはまるで掃除をしている途中だった……かのような動きをしている。
だが、実際のところ、僕の部屋は既に他のスタッフが掃除を済ませている。
「お食事の準備ができていますよ」
そう言って、メルキアが料理を運んでくれるが、作ったのはもちろん料理人である。
「さ、ご主人様、あーん♡」
晩ご飯も美味しくいただきました。
そして、食後は……。
「今日はどんな遊びをしましょうか?」
メルキアが僕の相手をしてくれる。
僕はメイドさんといえばクラシック派なんだけど、この時間においてはメイド喫茶のメイドさんスタイルを求めている。
もちろんこの世界にメイド喫茶はない。
だから説明するのが難しかった。メルキアもハウスメイドというものなら理解が出来るんだけど。
『子守りを任されているメイドが、わがままなお坊ちゃんが寝てくれないので、寝るまで仕方なくゲームに付き合う設定でお願いします』と言った。
カードゲームやボードゲーム、立体パズルなどを一緒にやる。
メルキアはこういったものに疎かったのだが……まあ、これはこれで楽しい。
さらに、就寝時間になると——
「それでは、失礼しますね……」
最後に、添い寝をしてくれる。
しかし、メルキアは僕が眠った後、すぐさま自宅へ帰り、その後も仕事をしているらしい。
写真集や色紙のサイン、新しい歌や振り付けの練習。
……いや、僕はここまで彼女を忙しくするつもりはなかったんだけど?
一年生剣姫の3人もアイドル化すれば、人気が分散してメルキアも楽になるんじゃないか?
ちょっと……考えてみるか。