君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
朝の澄んだ空気の中。
クラウディア魔剣士学園へと続く通学路の途中に三人の少女の姿があった。
炎の王女・モモア、雷の皇女・リア、大地の公女・ユノア。
彼女たちは、いつものように待ち合わせ場所で、雑談を交わしていた。
モモアが昨晩読んだ小説の話をすると、ユノアがそれに興味を示す。
リアが「あなたは本なんて読むんですか?」と少し意外そうな声を上げる。
穏やかな朝のひととき。
……だったのだが。
リアが何かを見つけた。
彼女の視線はモモアのカバンに向けられている。
モモアのカバンの端には、キラキラした何かが輝いている。
「ちょっとモモア……あなた、そのカバンに何をつけているんですか?」
リアの声には明らかに不満が混じっていた。
モモアはリアの視線に気づき、カバンを軽く持ち上げる。
「ん? これ?」
クルリと回されたカバン。
そこにはメルキアのキーホルダーがぶら下がっていた。
輝く装飾が施されたプレートの中央には、メルキアの美しい笑顔が刻まれている。
穏やかで慈愛に満ちた微笑みを浮かべるメルキアの背後には淡い光の演出。
まさに聖女のような雰囲気。
「……は?」
リアの表情が強張る。
「ちょっと待ってください、モモア。なぜあなたがメルキア様のファンになっているのですか!?」
「え? だって、メルキア様、素敵じゃん?」
「はぁ!?」
リアが思わず声を荒げた。
「あなた、正気ですか!? 私たちはメルキア様より先にアルトに忠誠を誓った、いわば先輩ですよ!? それに、メルキア様はアルトと共に私たちのことまで馬鹿にしたんですよ!」
「そうだったね」
モモアはあっさり頷く。
「そのあとメルキア様はゾンビに取り囲まれてボコボコにされて、泥まみれのゾンビまみれになって……泣いてアルトに謝ったんですよ」
「そうだったね」
モモアは再び頷く。
「なのに、どうしてメルキア様のファンになっているんですか!? 」
「だって、メルキア様キレイだし、歌もうまいし、ダンスも素敵だし」
リアは頭を抱えた。
「理解不能です……!」
その時、横で控えめに手を挙げたのはユノアだった。
「……あの……私も写真集、買っちゃいました……」
「…………え?」
リアが呆然とする。
「マジで?ユノア、やる~! どれどれ、私にも見せて!」
モモアが目を輝かせた。
「う、うん……。 すごく綺麗なんだよ」
そう言うと、ユノアはカバンから大切そうに包まれた本を取り出す。
特別装丁の豪華なハードカバー。
金箔が施されたタイトル。
表紙には、戦場で凛と立つメルキアの姿。
その姿は剣士でありながら、聖女のような気品もあり、アイドルのような華やかさもあった。
「うわ~! これ、めっちゃいいじゃん!」
モモアが興奮しながらページをめくる。
「でしょ? 特にこのページの写真がすごくいいんだよ!」
ユノアが指差したのは、聖なる泉の前で微笑むメルキア。
白い衣装を身に纏い、光が差し込む中で微笑む彼女は、まるで女神そのものだった。
「おお……これはすごい……」
モモアが感動したように頷く。
リアは最初、頑なに見ないようにしていたが……
「……わ、私にも見せてください!!」
バッと写真集を引き寄せ、勢いよくページをめくる。
「こ、このメルキア様……! すごく素敵じゃないですか!!」
リアの目が輝き始める。
「こ、これどこで買ったんですか!? 私も欲しいです!」
「えっ? それなら学園の購買部で売ってたよ?」
「な、なぜ今まで気づかなかったのでしょう……! 私も買いに行かないと……!」
「お、リアもついにメルキア様ファンになっちゃう?」
モモアがニヤリと笑う。
「べ、別に、ファンになったわけじゃありません!!」
「じゃあ、写真集買わないの?」
「そ、それは……っ!!」
リアの顔がさらに赤くなった。
「……買います。それは……ただ、メルキア様のプロデュースにはアルトも関わっているので、一応確認したい、というだけです!」
「やっぱ買うんじゃん」
モモアは笑っていた。
「でも、メルキア様すごいね。あんなに大人気になって。あんな格好とか、あんなに忙しいのとかは嫌だけど……でもちょっとうらやましいかな」
ユノアが言った。
「確かに。私も歌ったり踊ったりして、みんなにキャーキャー言われたい」
モモアが頷く。
「アルトに頼んでみたらどうですか。一度ゾンビに噛まれてからなら、アイドルとしてプロデュースしてもいいぞ、とか言われるかもしれませんが」
リアが冷静に返す。
「それは絶対嫌!!!」
モモアが即答した。
「はは……」
ユノアが小さく笑う。
リアは思っていた。
(私もあんな素敵な写真集を作ってもらいたい。アルトにお願いしてみよう……)
モモアは思っていた。
(私も素敵なダンスを覚えてみんなの前で披露したい。アルトにお願いしてみよう……)
ユノアは思っていた。
(私もメルキア様みたいに人気者になりたい。アルト様にお願いしてみよう……)