君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
モモア、リア、ユノアの三人は完全に息を切らし、額から汗を滴らせながら、地面に手をついていた。
レティシアによる猛攻に耐え続けたせいで、全身は打ち身だらけ。
木剣を握る手も震えていて、まるで今にも崩れ落ちそうだった。
「……休憩を取るぞ」
レティシアの一言で、一時的に訓練が中断された。
三人はへたり込み、肩で息をしながら水を口に運ぶ。
僕はそんな三人の様子を見ながら、ゆっくりとレティシアに近づいた。
……ここだ。
このタイミングしかない。
そう思って、僕は一歩踏み出した。
「レティシア様、実は……僕、レティシア様の大ファンなんです」
そう言った瞬間、レティシアの眉がピクリと動いた。
「……」
何も言わず、じっと僕のことを見てくる。
でも、すぐに僕の言葉を吟味するような表情に変わった。
「さっきも好きで好きで仕方なくて……すみません。熱い目線を向けていたので、変に思われていたのかもしれませんね。こんなタイミングでお伝えしてすみません」
「……そうか」
少し間を置いて、レティシアは腕を組んだまま答えた。
「まぁ、私のファンは多いからな」
……あれ?
まんざらでもない表情してるんだけど。
「そうですよね。レティシア様ほどのお方です。たくさんファンがいて当然ですし、気持ち悪いファンもいるでしょうから、警戒されるのもごもっともだと思います」
僕がそう言うと、レティシアの口角がわずかに上がった。
……もしかして、こういうのに弱いのか?
「……あの、レティシア様。僕と握手していただけませんか?」
「あぁ、かまわないぞ」
意外だった。
さっきまで僕のわずかな殺気を感じ取って、即座に木剣を喉元に突きつけてきたというのに。
「うれしいです」
「サインもしてやろうか?」
……え、ノリノリだな、レティシア。
まぁいい。
とにかく、彼女に触れることができれば――。
僕は手を差し出す。
レティシアもためらうことなく、手を差し出してきた。
……手と手が触れる。
……握る。
―――スキル強奪、発動。
一瞬、レティシアの身体がビクッと震えた。
そして……
「……っ! お前、今何をした!?」
次の瞬間、レティシアは僕の手を振り払い、拳を振り上げた。
―――バキッ!
「いてえ!!」
頬に鋭い痛みが走る。
レティシアの拳が僕の顔面を殴りつけた。
僕は尻もちをついた。
衝撃で視界が揺れる。
でも……
死ぬほどではない。
耐えられないほどではない。
……そうだ。
スキルを奪った後だから、レティシアの能力は下がっている。
「……殴るなんてひどいじゃないですか? 僕は何もしていませんよ」
「何もしていないだと……嘘を言うな……変な雰囲気を発しただろ……あれ?」
レティシアの表情が変わる。
訓練中、僕が遠くに立っていた時ですら殺気を拾い上げたレティシア。
異常なまでの勘の鋭さを誇る彼女が、今は僕の「違和感」を探ろうとしながらも、それが何なのかわからずに困惑していた。
「……?」
首を傾げながら、自分の手を握ったり開いたりしている。
気づけないのか。
スキルを所持していた時の「感覚」がなくなったせいで、今まで自然に察知できていたものが何もわからなくなっている。
「ほら、勘違いですよ。僕はレティシア様が好きだから……変な熱意を向けちゃって、それを感じたんじゃないですか?」
「……そうだろうか……」
レティシアは少し考え込んでいたが、やがて僕の言葉を受け入れたようだった。
「……いや、殴ってすまなかった」
「別にいいんですよ。そろそろ訓練を再開されては?」
「……ああ、そうだな」
僕はこっそり、モモア、ユノア、リアにサインを送った。
三人は疲れ切っていたはずなのに、僕の意図を察して、小さく頷いた。
……ここからが本番だ。
「……あれれ? レティシア様、どうされたんですか?」
モモアが不敵な笑みを浮かべながら、木剣を構える。
「……くっ」
「全然に力が入っていませんよ? もしかしてお疲れですか?」
リアが鋭い視線を向ける。
「……そんなことはない」
「私たちが弱すぎるからって、手加減しないでいいんですよ?」
ユノアが煽るように言うと、レティシアの顔が少し引きつった。
「……調子に乗るな」
レティシアが剣を振るう。
……でも
先ほどまでの圧倒的な速さも鋭さもない。
木剣が明らかに鈍っている。
「ふっ!」
―――ガッ!
モモアの木剣が、レティシアの肩に当たる。
「はっ!」
―――ビシッ!
リアの木剣が、レティシアの手を打つ。
「……!」
―――バシュッ!!
ユノアの木剣が、レティシアの胴を打ち抜いた。
「よ、よくやった。きょ……今日の訓練はここまでだ」
レティシアが息を切らしながら、苦しそうに言う。
「え? もう終わり? さすがに拍子抜けなんですけど」
モモアがわざとらしく肩をすくめる。
「今日の訓練はいつもの三倍するとか言ってませんでした?」
リアが冷静に突っ込む。
「……やはり、今日は私が調子が悪いのだ」
レティシアが苦し紛れに言い訳をする。
「戦場に立つ者が言い訳なんてできないって、いつも言ってませんでしたっけ?」
ユノアがニヤリと笑う。
「ほ……本当に今日は調子が悪くて……」
「レティシア様、剣を拾ってくださいよ。ほら、立って」
「う……」
こうして、今度はレティシアの地獄の訓練が始まった。