君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
レティシアが膝をついたまま、荒い息をしている。
顔には汗が滲み、目には戸惑いと悔しさが浮かんでいた。
レティシアは手を開いたり、握ったりする動作を繰り返していた。
その指先が微かに震えている。
――力が入らない。
そんなふうに戸惑っているのが、彼女の表情からも見て取れた。
今までこんなことは一度もなかったのだろう。
さて……
「ねえ、レティシア様。何かおかしいと思いませんか?」
僕は何気ない調子で問いかけた。
「……何が言いたい?」
レティシアの目が鋭く細められる。だが、その中には不安の色があった。
「剣技を発動してみてくださいよ。得意の光属性の奥義を打ってみてください。調整が効かないとか別に気にしなくていいです。僕を巻き込むつもりでいいですよ」
僕がそう言うと、レティシアはふっと鼻を鳴らした。
「……お前たち、死んでも知らんからな。覚悟しろよ」
レティシアは剣を握りしめ、魔力を練り始める。
彼女は魔剣士……魔法と剣技の集大成たる存在だ。
魔力を剣に込め、奥義を放とうとする。
……だが。
何も起こらなかった。
レティシアの剣に、光は宿らない。
魔力を練ることができない。
何も生み出されない。
「……なぜ」
レティシアの表情は、明らかな愕然としたものになった。
「僕がレティシア様のスキルを奪ったんですよ」
静かに告げると、レティシアの目が大きく見開かれる。
「何だと……!? そんなことが……」
彼女は一瞬前の記憶をたどるように、宙を見つめた。
「……そう言えば、先ほどの違和感は」
「ああ、そうです。レティシア様と握手した瞬間……僕のものにしました」
僕は軽く手を上げ、指を鳴らした。
すると、僕の身体が淡く光り始める。
レティシアの持つ、光の剣技の魔力が、今は僕のものになっている。
「私のスキルを奪っただと……返せ!」
レティシアは怒りに燃え、僕に掴みかかる。
だが……
僕は軽く身を翻し、その手をひょいっと躱した。
「じゃあ、剣の訓練の続きをしてくださいよ」
「……は?」
レティシアが困惑したように眉を寄せる。
「いつもの訓練の三倍するんですよね?」
僕は肩をすくめてみせる。
「モモアも、リアも、ユノアも、待っていますよ?」
「いや……待て。お前が私のスキルを奪ったんだろう? じゃあ訓練なんて何の意味が……」
「戦場に立つ者に言い訳は不要……って言っているんでしたっけ?」
レティシアの顔が、はっきりと引きつる。
「お前……!」
「スキルがなかったら光の神姫様は何もできませんか?」
「くっ……!」
そのやり取りを見ていたモモア、リア、ユノアが、ニヤリと笑いながら剣を構えた。
「レティシア様、行きますよ?」
そして……
3人の木剣が、レティシアへと襲いかかる。
「ぐっ……!」
レティシアは防戦一方だった。
「うわぁ、反応遅っ! いつものレティシア様だったら避けてたのに?」
「痛かったら痛いって言っていいんですよ? それでも、私たち遠慮なんてしませんから」
「うわ~……こんなにレティシア様に攻撃を当てられるなんて超気持ちいい」
「……くっ……!」
レティシアは、苦しそうに歯を食いしばった。
だが、明らかに先ほどまでの気迫はなかった。
スキルが無くなったせいか、彼女の精神的な強さまでが失われたかのようだ。
あれだけ気高く、誇り高かったレティシアが……。
「悪かった……」
今は、弱々しく謝罪していた。
「私が謝る……もう、許してくれ……」
木剣を何度も打ち込まれ、膝をつきながらレティシアは呟く。
「私たちだけじゃないでしょ?」
モモアが冷たく言う。
レティシアは苦しげに顔を上げた。
「……無能だと、馬鹿にして悪かった……許して欲しい……」
そして、僕を見つめる。
「スキルを返してほしい……」
僕はその言葉を聞いて、軽く首を傾げた。
うーん……圧倒的に優位なままレティシアをただ屈服させるのも、面白くない。
僕は彼女をじっくりと眺めた。
気高く、美しく、それでいてプライドが高く、誰にも屈しない……
そんなレティシアを、自分のものにしたい。
「……分かりました。スキルを返します」
「……!」
レティシアが驚いたように僕を見る。
「ただし、条件があります」
「……何だ?」
「光の神姫の武装して、僕の前に出てきてください。」
レティシアの表情が曇る。
「それで僕に謝罪し、忠誠を誓い、僕の言うことは何でも聞くと宣言してください」
レティシアはギリッと歯を食いしばりながらも、頷いた。
「……分かった」