君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
僕はレティシアを連れて男子寮の自室へ向かうことにした。
訓練場から寮までの道を並んで歩く。
他の生徒たちが行き交っているが、誰も僕たちの関係に気づくことはない。
もちろんレティシアは周囲の注目を集める。
しかも完全に武装した状態。
見た目パッとしない男子生徒が、誰もが憧れる剣姫と一緒にいる。
まさか、あのレティシアが僕の言いなりになっているなんて、誰が想像するだろうか。
『レティシア様、学園内に魔物の姿を見ました!』
『……すぐに案内しろ』
そんなやりとりがあったのでは、と思われるのが関の山だろう。
誰も、この関係の真実を知らない。
それがたまらない優越感を生み出す。気持ちがいい。
そして、僕たちは部屋にたどり着いた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
部屋に入った瞬間、そんな声が響いた。
あ……メルキアがいること忘れてた。
「な……なぜメルキアがメイドの格好をしてここにいる!?」
「それは私がご主人様のメイドだからです」
さらりとした言葉が返ってくる。
僕の隣でレティシアは非常に戸惑っていた。
「レティシアさんこそ、なぜここに?」
「そ、それは……」
言葉に詰まる。
そりゃあ、知り合いに答えずらいよな。
スキルを奪われ、後輩三人にボコボコにされ、何でも言うことを聞きますと言って謝ったうえ、これからこの男にいいようにされます……なんて言えるわけがない。
まあ、メルキアもほぼ同じ経緯でここにいるんだけど。
「えっと……今日は僕とレティシアが夜遅くまで遊ぶつもりなんだ。」
それを聞いて、メルキアがニヤリと笑う。
「ふふ、なるほど、そうですか……」
穏やかそうに怪しげな笑顔を浮かべてる……。
そういえば、この二人って仲がいい……と思っていたんだけど。
学園の二年生で同じ剣姫だし、七剣姫が合同で魔物討伐へと出陣する際などはペアになっていることが多かった。
「それよりもメルキア。貴殿は最近えらく人気取りのようなことをしているらしいな。まあ私よりも人気者になるなんて考えられないが」
「何をおっしゃいますか? 今月の剣姫グッズの売り上げはダントツで『水の聖女 メルキア』でしたよ」
「ミーハーなファンが一時的な気の迷いで買っているだけだ。どうせ、みんなすぐに買わなくなる」
「どうでしょうね? 私、来月も写真集を発売する予定ですよ」
「なんだと卑怯だぞ!!騎士らしくない」
「私は聖女ですので」
「聖女が写真集って、その方がおかしいだろ」
……完全にバチバチなんだけど、これ。
二人ってもしかして仲悪かったのか……?
まあ、そんなことはどうでもいい。
僕はレティシアと、この後のことを進めたいんだから。
「あの……メルキア、今日は帰っていいよ」
「嫌です」
「命令拒否!?」
即答だった。
「メイドはご主人様がお休みになるまでおそばにいるものでございます」
僕の抗議はあっさりと却下された。
「あの、僕はこれからレティシアと、あれやこれや……しようと思うんだけど。」
「睦(むつみ)ごとをされるにしても、貴族であれば部屋にお付きの者がいるのは常識でございます」
「僕、貴族じゃないんだけど?」
「七剣姫のハーレムを築くようなお方がただの平民だなんて、そんな理屈は通りませんよ」
僕が何を言っても、メルキアはニコニコと笑顔を崩さない。
「それに、これから仲良くされるにあたって、レティシアさんは鎧を身にまとっておられますが……」
メルキアがレティシアの鎧に目を向ける。
「ご主人様は、どうやってお脱がせになるおつもりで?」
「え? どうやって?」
「やはりご存じでなかったのですね。」
メルキアは微笑みながら、優雅に手を広げた。
「この鎧は、一人で着ることができません。もちろん、一人で脱ぐこともできません。」
「え? そうなの……?」
僕が驚いてレティシアを見ると、彼女は小さく頷いた。
「……私の鎧は、戦場で簡単に脱げるような仕様にはなっていない。だから、着脱には基本的には誰かの手を借りないと……」
「……マジか。」
剣姫専用の訓練場……と言っても、管理や手入れをする人もいるし、スタッフもいるんだよな。
僕が会っていなかっただけで、レティシアはこの鎧を誰かに着せてもらっていたんだな。
これは完全に想定外だった。
輝く鎧姿のレティシアを愛でたいと思っていたけど、最終的には脱がせないとチョメチョメはできないのだ。
「決してお二人の邪魔はいたしません。気配を消して、おそばにおりますので……」
メルキアは微笑みながら言う。
僕は頭を抱えた。
せめて隣の部屋で控えておいてくれないかな……と思うのだが。
仕方ない。メルキアには、ここにいておいてもらおう。
とにもかくにもおっぱじめよう。
「レティシア」
「……アルト殿」
彼女の自分のことを呼ばれた意味が分かっているのだろう。
銀色に輝く鎧を身に纏った彼女が僕の部屋にいるなんて。
まるでポスターの中から出てきたようだ。
澄んだの瞳が、まっすぐ僕を見つめていた。