※この作品はR-18です。

君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん   作:鳥稲のね

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第48話

 

ここはクラウディア王国にある王立クラウディア魔剣士学園。

 

 

春の訪れを告げるこの日は、どこか甘い香りに包まれている。

 

男子たちは朝からソワソワと落ち着きがなく、女子たちも内心ドキドキを隠しきれない。

 

 

『聖花の日』

 

 

現代日本で言うなら、バレンタインデーに似た日。

 

ただし、この世界では少し違う。

 

男子が女子に「一輪の花」を贈り、自らの想いを伝える日なのだ。

 

 

そして、もし女子がその男子に興味を持てば、後日デートの誘いをする。

 

男子にとっては、一世一代の勝負の日。

 

女子にとっても、何本花をもらうかで、その「格」が決まると言われている。

 

 

花を一輪でももらえれば、それは大きな喜び。

 

もらった女子はその一輪を大切に一輪挿しに飾り、贈ってくれた男子のことを何度も思い返し、甘酸っぱい想いに浸る。

 

二輪、三輪と増えれば、それだけ自分の魅力が認められている証。

 

学園内での「勝ち組」になった気分を味わえる。

 

 

だが……

 

 

この学園には、「桁外れ」の存在がいる。

 

もはや花を数えるのが意味をなさない者もいるのだ。

 

例えば……癒しの巫女トア・フェルディナント。

 

 

おっとりとした見た目と圧倒的な美貌、そして豊満な胸元から、男子たちの憧れを一身に受けている。

 

彼女の前には、花束が山のように積み上げられる。

 

一人一人の名前なんて覚えていない。いや、覚える気もない。

 

ラブレターは読まずに破り捨て、告白には容赦なく心をへし折る言葉を浴びせる。

 

 

 

もう一人……この学園で「別の意味」で恐れられている美少女がいる。

 

 

 

闇の竜姫 ロザリア・ドラグライオス。

 

トアと同じく三年生。

 

 

 

その存在感は、トアとはまったく異なる。

 

トアが甘い癒しの雰囲気をまとっているのに対し、ロザリアはまるで漆黒の刃。

 

鋭く冷たい眼差しは、見る者の心を一瞬で射抜く。

 

長く艶やかな黒髪は、まるで夜の闇そのもの。

 

透き通るような白い肌は儚げで、まるで触れれば消えてしまいそうだが……。

 

その全身から放たれる威圧感は、誰もが本能的に「この人には逆らえない」と感じさせる。

 

 

ロザリアは無口で冷酷。

 

普段は誰も寄せつけず、話しかけられても無視。

 

機嫌が悪い時は、近づいただけで「……死ね」と吐き捨てられることもある。

 

 

それでも彼女は「この上なく美しい」。

 

だからこそ、男子たちは恐れながらも惹かれてしまうのだ。

 

 

―――いつかロザリア様に振り向いてもらえたら……!

 

 

そんな淡い期待を抱く者も少なくない。

 

 

しかし、無情な現実は厳しい。

 

ロザリアに告白して好意的な返答をもらえた男子は、この学園には一人も存在しない。

 

 

……だが、『聖花の日』だけは、違った。

 

ロザリアが他人に心を許す……ように見える唯一の日だったのだ。

 

 

その朝、学園の中庭はすでに多くの男子でごった返していた。

 

皆がそれぞれの想いを抱え、意中の女子……ロザリアに花を贈ろうと意気込んでいる。

 

 

その中で、ひときわ緊張した面持ちの男子生徒がいた。

 

彼はまだ一年生。

 

入学式の時に初めて見たロザリアにずっと憧れを抱いていた。

 

 

「ロ、ロザリア様に……この花を……渡すんだ!」

 

 

彼は震える手で一輪の花を持っていた。

 

淡いピンク色の可憐な薔薇。

 

 

「大丈夫……今日なら、ロザリア様は優しいって先輩が言ってた……」

 

 

そう、誰もが知っている。

 

普段は冷酷無比なロザリアが、この日だけは花を受け取ってくれる。

 

 

男子生徒は震える足で歩き出す。

 

一番最初に花を差し出したが彼だった。

 

 

―――ロザリア様……。

 

 

無表情だが美しい。

 

神秘的で近寄りがたい雰囲気は、今日も変わらない。

 

 

「ロザリア様、この花を受け取ってください……!」

 

「……ありがとう。」

 

 

――モシャモシャモシャ。

 

 

男子生徒の目が見開かれる。

 

ロザリアは、差し出された花を受け取るや否や、口に運んで食べていた。

 

 

「え……ええっ!? た、食べてる!?」

 

 

驚愕する男子生徒。

 

しかし、周囲の先輩男子たちは慣れた様子でため息をつく。

 

 

「お前、知らないのか……?」

 

「ロザリア様は、花が好きなんだよ……食べるのが」

 

「え……!」

 

「だから俺たちは、毎年甘い蜜を含んだ花を選んで持ってくるんだ。ロザリア様は甘いものが好きだからな。」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

 

彼は自分の持ってきた花を見て青ざめた。

 

しかし、もう遅い。

 

次の瞬間。

 

 

「……まずい」

 

 

ロザリアの眉が、ピクリと動いた。

 

 

そして……。

 

 

―――ペッ。

 

 

彼女は口の中の花びらを吐き出した。

 

 

「……!?」

 

「……不味ぞ。私のことなめてるのか?」

 

 

そう言うと、手に残った薔薇の茎部分を彼に投げつけた。

 

 

「ぎゃああああっ!」

 

 

顔面に直撃。

 

茎についているトゲが刺さり、痛さのあまり悶絶。

 

彼は泣きながら逃げ去った。

 

その後ろ姿を見送るロザリアは、もう次の「獲物」に目を向けていた。

 

 

「……次。」

 

 

ロザリアはいつも通りの無表情で、差し出された花を無言で受け取った。

 

 

――シャキシャキとした歯ごたえ……。

 

――噛むたびに広がる、瑞々しい甘み。

 

――これは、おそらく山百合の一種か。少しほろ苦いが、それがかえって食欲をそそる。

 

 

無表情だけど、ロザリアの心の中では、グルメレポートが繰り広げられていた。

 

 

「……」

 

 

一輪を食べ終えたロザリアは、満足そうに目を細めると、次の男子へと視線を向ける。

 

 

「ロ、ロザリア様! この花をどうぞ!」

 

 

差し出されたのは、淡いピンク色の花だった。

 

ロザリアはそれを受け取り、再び口へと運ぶ。

 

 

はむ……モシャモシャ……。

 

 

――おお……これはなかなか。

 

――柔らかな花びらが舌の上でとろける……。

 

――甘みと酸味のバランスが絶妙。おそらく、蜜がたっぷり含まれた金剛花。

 

 

「……悪くない」

 

 

ポツリと呟く。

 

男子生徒は、それだけで歓喜に震えた。

 

ロザリアからの評価を得ることは、学園の男子にとってある種の栄誉だった。

 

 

「ロザリア様! これをどうぞ!」

 

 

次に渡されたのは、紫色のアネモネ。

 

ロザリアは、それを受け取ると――ぱくりと齧る。

 

 

「……」

 

 

一瞬、動きが止まる。

 

 

カリッ……カリカリ……。

 

 

――……ん?

 

――なんだこの妙な食感は。

 

――水分が少なく、妙に繊維質……。

 

――香りはいいが、口の中がパサつく。

 

 

「……まずい」

 

 

ロザリアの眉が、ピクリと動いた。

 

 

そして――

 

 

ペッ。

 

彼女は、噛み砕いた花びらを、遠慮なく吐き出した。

 

 

「えっ……!?」

 

 

渡した男子生徒は、顔を真っ青にする。

 

 

「……不味い花を持ってくるな」

 

 

そう言い捨てると、手に持っている茎部分を棒手裏剣のように投げつけた。

 

 

「いだああああっ!」

 

 

茎が目に刺さる。

 

男子生徒は、のたうち回っていた。

 

 

 

 

 

 

さて、七剣姫の中で最も多くの花を受け取る者は誰か。

 

 

……それは、このロザリアだった。

 

 

 

 

通常であれば、聖花の日には男子が女子に一輪の花を贈る。

 

同性同士で花を贈ることはほとんどない。

 

 

……だが、ロザリアだけは違った。

 

彼女のもとには、男子だけでなく、女子までもが次々と花を贈りに来るのだ。

 

 

「ロザリア先輩、これもらってください!」

 

「ああ……ありがとう」

 

 

―――モシャモシャモシャ

 

 

「ロザリアさん、どうぞ」

 

「……ふむ、なかなか甘いな」

 

 

―――シャクシャク

 

 

「ロザちゃん、はい、食べて!」

 

「……」

 

 

―――ハムッ……モグ……

 

 

渡した女子生徒たちは、満面の笑みを浮かべる。

 

その光景は、まるでかわいい動物を餌付けしているかのようだった。

 

 

普段は冷たく、近寄りがたい雰囲気を持つロザリアだが、この日ばかりは違う。

 

女子たちが差し出す花を素直に受け取る。

 

そして、何も言わずに美味しそうに食べるのだ。

 

 

その仕草が、妙に愛らしい。

 

 

口元に花びらをくわえ、じっくりと味わう様子。

 

たまに首を傾げながら、食感を確かめるように咀嚼する姿。

 

美味しい花に当たった時に、ほんの少しだけ満足そうな表情を浮かべる、その一瞬の変化……。

 

 

それらすべてが、普段の冷徹なロザリアのイメージとは違い、まるで人懐っこい小動物のような可愛さを醸し出していた。

 

そして、それを見た女子たちは、嬉しそうに次々と新しい花を差し出す。

 

 

「ロザリア先輩、これも美味しいですよ!」

 

「この花、甘いんです! ぜひ食べてください!」

 

「ロザちゃん、もっと食べて!」

 

「……」

 

 

―――モシャモシャモシャ……

 

 

この日、ロザリアは朝から晩まで黙々と花を食べ続けた。

 

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