※この作品はR-18です。

君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん   作:鳥稲のね

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第52話

 

聖花の日の翌日。

 

 

クラウディア魔剣士学園の朝は、昨日までの熱気が嘘のように静けさを取り戻していた。

 

とあるの教室で話をしていたのは、三年生の剣姫の二人。

 

癒しの巫女 トア・フェルディナントと、闇の竜姫 ロザリア・ドラグライオスだった。

 

 

トアはいつも通りのおっとりとした微笑みを浮かべている。

 

一方、ロザリアは漆黒の長い髪をなびかせ、無表情のまま窓際に座っている。

 

紅い瞳はどこか遠くを見つめ、話しかけるなと言わんばかりの冷たい空気を放っていた。

 

……だが、トアはそんなロザリアに怯むことなく、にこやかに近づいていった。

 

 

「おはようございます、ロザリアさん♪」

 

 

ロザリアはチラリと視線を向けたものの、言葉を返すことはしなかった。

 

 

沈黙。

 

 

しかし、そんなことは気にせず、トアはロザリアの隣に腰を下ろす。

 

 

「ふふっ、昨日の『聖花の日』は……やっぱり大変でしたね?」

 

 

ロザリアはほんの少しだけ瞬きをして、再びあさっての方向を見つめる。

 

 

「……」

 

「あらあら、相変わらず無口ですね♪」

 

 

トアは小さくクスクスと笑いながら、ロザリアに問いかける。

 

 

「ねえ、ロザリアさんは……昨日、気になる男性はいましたか?」

 

「……?」

 

 

首をわずかに傾げるだけで、答えは返ってこない。

 

 

「ああ、ごめんなさい。そうですよね……」

 

 

トアは苦笑いを浮かべた。

 

ロザリアにとって、気になる男性など存在するはずがない。

 

 

彼女にとって聖花の日は、周りの人間は自分に花を捧げてくれるの日なのだから。

 

そこに愛だの恋だのは存在しない。

 

あるのはただ、花とそれを食べる自分だけ。

 

 

ロザリアは決してなつかない野生の獣。

 

エサを持って近づく者に対してすら、何の興味も示さない。

 

彼女にとって、人間はエサを運ぶ存在でしかないのだ。

 

 

「……昨日は、お腹いっぱいになった」

 

 

ぽつりと呟くロザリア。

 

その言葉に、トアは目を丸くして、そしてすぐにクスクスと笑い出した。

 

 

「まあまあ、ロザリアさんったら……ふふっ。でも、なんだか満足そうなお顔ですわ?」

 

「……」

 

 

ロザリアは答えない。

 

ただ、昨日食べた甘い花々の味をひそかに思い返していた。

 

 

――甘く、ジューシーで……酸味とのバランスが絶妙な花。

 

――シャキシャキとした食感が心地よく、蜜の滴る花びら。

 

――苦みが少なく、爽やかな後味の一輪。

 

 

思い返せば、昨日は至福のひとときだった。

 

 

「私は……」

 

 

トアがふっと小さなため息をついた。

 

 

「気になる男性から、お花をもらえなかったの……」

 

「……」

 

 

その言葉に、ロザリアは一瞬だけトアを見た。

 

しかし、言葉はかけない。

 

 

「まあ、私が誰を気にしているかなんて……誰も知らないでしょうし、当然といえば当然なんですけれど♪ でも、ほんの少しだけ期待していたんですのよ?」

 

 

トアは微笑んでいるものの、その声はどこか寂しげだった。

 

ロザリアは興味がなさそうに窓の外を見続けている。

 

会話をしているようで、実際にはトアが一方的に話しているだけ。

 

ロザリアは相槌すら打たない。

 

しかし、トアはそれも承知の上で話し続ける。

 

 

「無能のアルト。……無能なら、私を敬い、尊敬するべきではなくって?」

 

 

トアの口元は笑っているのに、瞳はわずかに冷たい光を宿していた。

 

 

「それなのに……私に花を持ってきませんでしたのよ?」

 

 

ロザリアは依然として無言。

 

ただ、脳内では昨日食べた花の味を思い出し、グルメレポートを続けていた。

 

 

――あの花は少し苦かった。

 

――あの蜜は口の中に甘さが広がって……

 

――あれは渋かった……次はない。

 

 

そんなことを考えているロザリアを横目に、トアは続ける。

 

 

「無能でありながら、剣姫を三人も従わせている男……」

 

 

トアは口元に手を添え、クスクスと笑う。

 

 

「これは……いじめがいが……もとい、鍛えがいがありそうですわね?」

 

 

何がおかしいんだろうか。

 

興味を示しているわけでもないのだが、トアのことをを見て少し不思議に思う。

 

 

「ねえ、ロザリアさん」

 

 

彼女は紅い瞳に視線を送り、ふわりと笑う。

 

 

「もし、あなたよりも強い……かもしれない男がいたら、戦いたいですか?」

 

 

その瞬間……。

 

ロザリアの紅い瞳が、僅かに大きく見開かれた。

 

 

「……?」

 

 

無表情だった顔に、力が入る。

 

 

食べることと、戦うこと――。

 

 

それがロザリア・ドラグライオスの“生きる意味”だった。

 

血を燃やし、己の肉を裂き、骨が砕けるほどの戦いの果てにだけ、彼女は生の実感を得られる。

 

そして今、“自分より強いかもしれない男”という言葉が耳に届いたのだ。

 

トアはその反応を見て、さらに甘い声で続けた。

 

 

「ふふっ……それが一年生のアルトという男子生徒ですわ」

 

「……アルト?」

 

 

ロザリアの小さな唇が、その名を呟く。

 

 

「そう、一年生の剣姫三人にも勝ったらしいですよ?」

 

 

その言葉が落ちると同時に、ロザリアの中で何かが弾けた。

 

紅い瞳に鋭い光が宿り、長い黒髪がわずかに浮き上がる。

 

 

「……どこにいる?」

 

 

ロザリアの声は低く、冷たく、そして熱を帯びていた。

 

戦いの匂いを嗅ぎつけた獣の目。

 

それはまさに“狩り”を前にした捕食者の瞳だった。

 

 

「ふふっ……一年のAクラスですわ」

 

 

トアは口元に手を添え、楽しげに笑う。

 

 

「……行ってくる」

 

 

ロザリアはそれだけを告げると、すぐに廊下を歩き出す。

 

その小さな背中が遠ざかっていくのを見送りながら、トアはさらにクスクスと笑った。

 

 

「本当にロザリアさんは一直線ですわね」

 

 

その瞳の奥で、何か企むような光を輝かせながら。

 

 

―――さて。……まさかは思いますが、ロザリアさんまで従わせることができたなら

 

 

トアの心が小さく震える。

 

 

もし、あの“無能”アルトが、あのロザリア・ドラグライオスをも屈服させるような存在なら……。

 

 

「そんな男は……私でも少しばかり苦戦しそうですわね?」

 

 

トアは微笑みながら、窓の外を見下ろした。

 

風に揺れる花々。

 

昨日、彼女がもらえなかった花のことを、ふと頭の片隅で思い出す。

 

 

「でも……」

 

 

その微笑みは、少しずつ冷たい笑みに変わっていく。

 

 

「そんな男を私が打ちのめしたら……」

 

 

その瞬間、トアの心に広がるのは圧倒的な支配欲。

 

 

「……どれだけ愉しいでしょう?」

 

 

トアは一人、窓から空を見上げて静かに笑い続けていた……。

 

 

 

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