※この作品はR-18です。

君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん   作:鳥稲のね

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第57話

 

「……ロザリアさんが……無能のアルトに負けるなんて……」

 

 

七剣姫の中で最も圧倒的な力を持つ ―――闇の竜姫 ロザリア・ドラグライオス。

 

涙を流し、彼の胸に抱き着いて、許しを請う……その光景が脳裏から離れない。

 

あの冷酷無比で誰も寄せ付けないロザリアが、あんなにも無防備な少女のような姿を晒していたのだ。

 

 

なぜ……?

 

 

一年生でありながら、七剣姫を次々と下し、従えていく無能と呼ばれている少年。

 

最初は誰もが彼を見下していた。

 

剣技の才能もなく、魔力も並以下。

 

それなのに、なぜ彼は次々と最強の少女たちを屈服させていくのか……。

 

 

「……まずは、情報を集めなくては」

 

 

トアは決意を固めた。

 

無策で動くことほど愚かなことはない。

 

どんな戦いにおいても情報を制する者が勝利を掴むのだ。

 

 

「容姿平凡、成績最低、スキル無し……ただの一年生男子、アルト・ラーベバウア。」

 

王都近郊の農家の三男。

 

地元では比較的剣術が得意だったため魔剣士学園に入学。

 

入学後のスキル判定で『無能』の判定が下される。

 

 

アルトに関する情報は簡単に揃った。

 

不自然な点は何もない。

 

だが、剣姫を従わせているという結果だけが、常識を覆す異質な存在としてそこにある。

 

 

どうやって剣姫を従わせるに至ったのかが分からない。

 

 

モモアファンの証言

 

「……ト、トア様!?た、確かに俺はモモア様のファンですがトア様のことも推しているんですよ……へへ。 え? モモア様が無能のアルトに従っているいる理由……?ファンの間でも話題にはなっているんですけど、詳細を知る者はいないですね。」

 

 

リアファンの証言

 

「え?アルトのことを聞きたい?……なぜアルトとリア様が仲がいいか?そんなの、アルトがリア様の弱みを握っているからに違いないです。じゃないと気高いリア様があるとに従うわけがないじゃないですか。」

 

 

ユノアファンの証言

 

「噂ではユノア様が告白してアルトが受け入れたとか……。くっ……悔しいけど、ユノア様が決めたことなら俺たちは何も言えない」

 

 

 

生徒たちから得られる情報は、どれも要領を得ない。

 

ある瞬間から突然、彼女たちはアルトに従っていた。

 

誰もその決定的な瞬間を見ていないのだ。

 

 

トアは苛立ちを隠せなかった。

 

 

――何かがおかしい。

 

 

アルトがいかなる手段で彼女たちを屈服させたのか、誰も知らない。

 

それは偶然かもしれないが、トアは偶然を信じる性格ではなかった。

 

 

「……ロザリアさんも、急にアルトに従いましたわね……」

 

 

冷たく輝く瞳で、トアは思索を巡らせる。

 

ロザリアは竜の血を引く存在。

 

力で屈服させるなど、普通なら不可能だ。

 

あの時、ロザリアは何を見たのだろう?

 

 

トアは必死に考えるが、その答えはどこにも見つからなかった。

 

 

「一年生の剣姫たちは……もう完全にアルト側……」

 

 

モモア、リア、ユノア――。

 

彼女たちに情報を求めても、正直に答えるはずがない。

 

 

「ならば……」

 

 

トアは、ふと一人の人物を思い出す。

 

 

――水の聖女 メルキア・アクアリス・アクイナス

 

 

二年生でありながら、豊富な知識と冷徹なまでの判断力の持ち主。

 

メルキアなら、何かを知っているかもしれない。

 

 

「……メルキアさんに話を聞きましょう」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

トアが訪れたのは大聖堂。

 

誰もいない静寂の中、女神へと祈りを捧げている。

 

淡い水色の髪を背で一つにまとめ、氷のように澄んだ瞳。

 

ステンドグラスから差し込む光を浴びる姿は、まるで彫刻のように美しかった。

 

 

「……まあ、トア様。これは珍しいお客様ですわね」

 

 

顔を上げたメルキアは、穏やかな微笑みを浮かべた。

 

しかし、その瞳は冷ややかで、何を考えているのか一切読み取れない。

 

 

「お邪魔しますわ、メルキアさん。少し、聞きたいことがあって」

 

「……無能のアルトのこと、ですわね?」

 

「っ……!」

 

 

予想していたとはいえ、いきなり本題を見抜かれたことで、トアの胸がわずかにざわつく。

 

 

「ええ、そうですわ。……あなたなら、何かご存じでしょう?」

 

 

メルキアは薄く笑った。

 

その笑みは、どこか挑発的ですらあった。

 

 

「無能のクセに最近、傲慢な態度が目立っているようですね。まあ、トア様ならば負けるはずがありません。自身の立場を思い知らせてやってくださいませ」

 

「……」

 

 

その言葉に、トアは一瞬で悟った。

 

 

――メルキアも、もうアルトの側についている。

 

 

久々に話したので気づかなかったが、メルキアの言葉の選び方が自然すぎるのだ。

 

アルトの秘密を明かさず、トアを無策のままアルトにぶつけようとしている。

 

言葉巧みに、トアを罠に嵌めようとしていた。

 

 

「……ありがとう、メルキアさん」

 

 

冷静を装い、トアは微笑む。

 

しかし、その心は氷のように冷たかった。

 

 

まさかメルキアも、アルトに下っているなんて……。

 

この衝撃は、トアにとって耐え難いものだった。

 

 

「……なぜ? いつの間に?」

 

 

メルキアならば、そう簡単に誰かに従うはずがない。

 

それが無能と呼ばれる一年生であれば、なおさら。

 

 

さらに、もう一人の剣姫

 

光の神姫 レティシア・ルーメンシュタインも同様だった。

 

 

「無能のアルトに身の程を知らしめてやるためには……あなたが単独で挑むしかありえない。トア様」

 

 

レティシアもまた、アルトの秘密を決して語らず、トアに決闘をけしかける。

 

その意図は明白だった。

 

 

――単独でアルトに挑むのは、自殺行為。

 

 

トアは、その罠を見抜いた。

 

 

「……ここまで苦戦を強いられるなんて……」

 

 

トアは、初めて己が不利を背負った戦いに追い込まれていることを痛感する。

 

 

「……メルキアさんとレティシアさんに相談したのは……失敗でしたわね」

 

 

トアは奥歯を噛みしめ、指先を震わせた。

 

あの二人からは有益な情報”は何も得られなかったどころか……

 

 

――アルトに手を下す意志を、相手に知らせる結果となってしまった。

 

 

情報戦での隙を見せたことが、彼女の中で最大の失態だった。

 

今、アルトは確実にトアの動きを警戒している。

 

先に手を打たなければ……。

 

 

「……アルト側から、私を攻めてくる可能性もありますわね」

 

 

恐ろしいことに、もう悠長に構えている時間はなかった。

 

待っていれば、彼の力が牙を剥いてくる。

 

 

「……ならば、先に動くしかありませんわね」

 

 

冷ややかな瞳で、トアは決断を下した。

 

 

「……アルトのことを良く思っていない生徒は多い……」

 

 

無能であるはずの少年が、最強と呼ばれる少女たちを侍らせている。

 

その事実だけで、嫉妬や反感を買うのは必然だった。

 

 

「……力のある男子生徒をけしかけるべきか……?」

 

 

しかし、もし失敗したなら?

 

アルトは確実に、その裏に自分がいることを察知するだろう。

 

 

「……それは、最悪ですわね」

 

 

ならば――。

 

 

「……外部の力を利用するしかありませんわ」

 

 

闇ギルド。

 

王国内で決して公には語られることのない裏の組織を使うことは、トアのプライドが許さない方法だった。

 

しかし、背に腹は代えられない。

 

 

「メルキアさんであれば……それを読んでいる可能性もありますわね」

 

 

トアは頭を抱えた。

 

だが、もう選択肢は限られている。

 

策の“質”よりも、“速さ”が求められる局面だ。

 

 

「……ならば、七人の剣姫全員の手が取られるような、複雑な任務を作り出し、その隙にアルトを……!」

 

 

七剣姫が“同時に動かざるを得ない”状況を作り出し、その混乱の中でアルトを拘束する。

 

それが唯一の勝機だった。

 

 

――作戦はこうだ。

 

 

『学園内に潜む魔族側の集団が、時限式の爆破装置を仕掛けた』との情報を流す。

 

この情報が流れれば、学園は大混乱に陥る。

 

七剣姫は学園の守護者である以上、その爆破装置を回収する任務から逃れることはできない。

 

そして、その最中に――

 

 

「アルトが一人になった隙を狙い、拘束する」

 

 

スキルを持たない無能である以上、拘束してしまえばどうということはないはず。

 

戦えないことこそ、アルトの最大の弱点なのだから。

 

 

「……これしかありませんわね」

 

 

トアは立ち上がった。

 

彼女の決断が、学園を混沌へと導いていく。

 

 

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