君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
翌朝。
いつも通りの時間に目は覚めているんだけど、体が起きたくないと言っている。
うぅ……昨日の疲れが抜けない。
人のふんどしで相撲を取る……じゃないけど、人のスキルでハッスルしたら、こんなにも体が悲鳴をあげるんだな……。
「おはようございます、ご主人様」
聞き慣れた優しい声がする。
目を開ければ、そこにはメルキアがいた。
「……おはよう」
「大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」
そう言うや否や、彼女の体がキラキラと光る。
その光がふわふわと飛んできて僕を包み込んでくる。
重かった体が軽くなった。
どうやらメルキアが回復魔法をかけてくれたようだ。
「ありがとうメルキア」
「とんでもございません」
朝日を浴びて微笑む彼女はまるで聖女だった。
そういや本物の聖女だったな。
僕のメイドだけど。
そしてアイドルもしているけど。
……肩書が渋滞してるな。
しかし、何か……いつもと少し雰囲気が違う。
なぜか今日の彼女は、いつもの黒いクラシックなメイド服ではなかった。
学園の白の制服に身を包んでおり、腰にはしっかりと帯刀していた。
「今日はどうしたの?」
「今日はアイドルの仕事はお休みなのです。なのでご主人様と一緒に登校したいと思いまして」
「ふーん、そうなんだ」
僕がプロデュースしたのはいいんだけど、彼女は最近忙し過ぎた。
休みも必要だろう。
「……そうそう、ご主人様」
メルキアは少し前のめりになりながら、不思議な表情で問いかけてきた。
「ご主人様は巨乳はお好きですか?」
「……それ、どういう質問?」
あまりにも唐突で、朝から思考が追いつかない。
しかし、メルキアの表情は真剣そのものだ。
「どうかなと思いまして」
メルキアもそれなりにおっぱいが大きな方だ。
十分だと思うんだけど、もし僕が巨乳が好きと言ったら豊胸手術とかやりかねない。
うーん……一応、真面目に答えておいた方がいいのだろうか。
「大きいのは……そりゃ嫌いじゃないけど、絶対に大きくないとイヤってわけでもないよ」
「なるほど、承知しました」
何が「なるほど」なのかは分からなかったが、深く追求するのはやめておいた。
そのままいつものようにメルキアに手伝ってもらい身支度を整えた。
二人で寮を出て、通学路の途中にあるいつもの待ち合わせ場所へと向かう。
すると、すでにいつもの三人……モモア、リア、ユノアが並んで立っていた。
しかし、それだけではなかった。
その三人の横に、銀髪の剣姫……レティシアの姿もあった。
「アルト殿、おはようございます」
その声音は柔らかいが、どこか張り詰めた空気がにじみ出ている。
メルキアに視線を向けると、彼女はにっこりと微笑んでいたが、やはり手は柄に軽く添えられており、何かを警戒しているのが分かる。
ユノアたちも、軽く挨拶はしたものの、どこか視線が鋭く、全体としてただならぬ緊張感が走っていた。
「今日はどうしたの? レティシア」
「私もアルト殿の恋人の一人のはず。一緒に登校してもいいのでは?」
「そりゃあ、別に構わないけど……」
いつもの三人の中でさえ、誰と手をつなぐかを巡って揉めがちなのに、そこにさらに二人も追加とは。
このまま何事もなく登校できるのだろうか……。
「おはようアルト!」
―――ドンッ!
「ぐふっ!」
勢いよく突撃してきた小柄な少女の肩が、僕の腹部に突き刺さるように当たった。
僕にタックをぶちかましてきたのは……。
「ろ、ロザリア……?」
「ん? そうだぞ。アルトの妾の一人のロザリアだ」
子供のように笑うロザリアが、平然と立っていた。
「まさかだけど、ロザリアも僕と一緒に登校するつもり?」
「もちろんだ。一日中一緒にいるつもりだ」
「それはやめて。授業中は自分の教室にいて。そうじゃないと、こわ~い先輩の妾たちがいい顔をしないぞ……」
「うっ……それは……できる限りの中でアルトと共に過ごすことにする」
うん。
多少、自重できるようになってエライぞ。
そんなことを思っていた、その瞬間だった。
僕の背後で、わずかな風切り音が走った。
……何?
一瞬の抜刀でレティシアが飛んできた飛来物を切り落とした。
真っ二つになったナイフが地面に落ちる。
「蚊が飛んでいたようです。」
「いや、それナイフじゃない?」
僕が訝しんでいると、メルキアが僕の腕を取って自らの腕と絡ませた。
「まあいいじゃないですか、行きましょう」
「待て!なぜおまえが先にアルト殿の腕を取る?」
そう言ってレティシアが反対側の腕を掴んできた。
「むう……アルトよ。こやつらはロザよりも妾の中の位は上なのか?」
「え……」
めんどくさいことを聞いてくる。
「うん……そうかな」
「なら仕方ない」
……納得するんだ。
後ろの三人は全然納得していない表情をしている。
七剣姫のうち六人を引き連れての登校。
いつも以上に注目を浴びていた。
僕たちは歩き出す。
七剣姫のうち六人を連れての登校するなんて、前代未聞の異様な光景だ。
登校する生徒たちの視線が突き刺さってくる。
そりゃあ見るのも仕方ないだろう。
しかし、今までは何であいつが剣姫と一緒に登校しているんだ?
訝しむ感じ、嫉妬という感じだったけど。
この状況は、アイツやばい。無能と言われているけど、絶対に何かある。
絡んだらマズイ……みたいな視線を感じる。
誰も、僕たちの進行を止める者はいない。
むしろ、生徒たちは自然と道を空け、僕たちを遠巻きに見守るように立ち尽くしていた。
僕たちは学園に到着した。
学園の正門をくぐった、その瞬間……。
ビービービーッ!!
けたたましい警報音が、空気を裂くように鳴り響いた。
耳をつんざくサイレンに、あたりの生徒たちが顔を上げ、次の瞬間にはパニックの渦が広がっていく。
続いて流れてきたのは、緊迫した声のアナウンスだった。
「《警告》……過激派集団が、学園内に時限式の爆破装置を仕掛けた、との情報が入りました。生徒の皆さんは速やかに学園の外へ避難してください……繰り返します……」
どよめきが広がる。
誰もが顔を見合わせ、何が起きているのか把握しきれずにいる中、さらなるアナウンスが重ねられた。
「《指令》……七剣姫の皆様は、直ちに廃校舎へ向かってください。繰り返します……七剣姫の皆様、直ちに廃校舎へ……」
ざわめく生徒たちの中にあって、七剣姫の六人と僕は、無言で顔を見合わせていた。
「では、廃校舎に向かいましょうか?」
先に口を開いたのは、隣を歩いていたメルキアだった。
いつものように柔らかな微笑みを浮かべたまま。