君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
学園一いや……王国一のママみを感じる少女。
それが、癒しの巫女トアだった。
彼女の微笑みひとつ、手を差し伸べる仕草ひとつで、その場が聖域になり、母なる胎内になる。
彼女を見ると男子生徒たちの誰もが一度は夢想する……「オギャりたい」と。
男子だけではない、女子だってあの豊満な胸に抱かれたいと願う。
ある種の願望を完璧に体現する存在。
その包容力、慈愛、優しさ、すべてが母性の権化。
そして、そのバブみこそが、トアをして七剣姫のリーダーたらしめた……とまで言われるほどだった。
王国からは『癒しの聖母』としての称号を与えられそうになったとか。それは噂だけど。
つまり……え~と……
僕は別に『赤ちゃんプレイ』が好きといった性癖の持ち主じゃない。
断じて違う。
……たぶん。
だけど、今目の前にいるトアは、柔らかい空気と静かな慈しみをまとう雰囲気で、オギャれるものならオギャってみたい……という夢を実現できるような存在感を放っていた。
スキルを奪われた状態でこれなんだから、やっぱり彼女の“ママみ”は生まれ持った才能なんだと思う。
そんな彼女に、僕は言った。
「オギャらせろ」
その瞬間、部屋に走る沈黙。
六人の剣姫が、それぞれ異なる表情でこちらを見ていた。
「……あの、意味がわからないです」
トアが困惑した顔で首を傾げる。
その様子がまた可愛くて、なんというか……ちょっと、うん、マズい感情が芽生える。
「まあ、僕を甘やかせろってことかな」
「……はあ。具体的には?」
トアは慎重に聞き返してくる。
その声にもバブみを感じてしまう。
「膝枕して、よしよしして、あと……哺乳瓶でミルクを飲ませてくれたらいい」
言ってしまった。
言葉に出した瞬間、自分でも恥ずかしくなってきた。
でも、もう後には引けない。
だって僕は、六人の剣姫に見守られながら、癒しの巫女トアを更生させようとしてるんだから。
僕は赤ちゃんプレイで、トアは羞恥プレイ。
これは、王国の未来のためだ。
うん、そうなのだ。
「……え? いやです。そんな恥ずかしいこと」
はっきりと拒否された。
え? なんで?
君、状況分かってる?
自分の立場、理解してる?
僕を殺そうと企ててたよね?
僕が学園に報告する内容次第で、トアを生かすも殺すもこちらの胸三寸だよ。
僕の心証をよくしたいと思わないの?
「どうする? ロザも意味が分からないが。 アルトのいうことを聞けないというのなら……トアを畑の肥料にしたらいいか?」
静かに、淡々と。
ロザリアが物騒な提案を口にする。
「そんな蛮族みたいなことしないってば!」
僕は慌てて止めたけど、ロザリアならやりかねない。
何の迷いもなく畑に埋めそう。
『死ぬまでここ土を癒し続けろ。でないと殺す』みたいな。
いや、マジで。
「お……お願いですから、畑の肥料にするのだけは許してください……」
トアの声が震えていた。
効いている。
脅しが。
……いや、やり方としてどうなんだって話だけど、効果は抜群だった。
トアはしばらく口ごもったあと、静かに僕の前に膝をついた。
「……あの、じゃあ、膝枕をしたらいいんですね」
「うん、お願いします。それで……よしよししてほしい」
「……わかりました」
「思いつく限り、僕のことを褒めて欲しい」
「……善処します」
トアの膝に頭を乗せた瞬間――ふわりと香る、柔らかなフローラルな香り。
それだけで、脳がとろけそうになった。
優しい手が、僕の髪をなでる。
ごしごしじゃない。
ふわり、ふわり、羽毛のように柔らかく。
そして、耳元で囁くように。
「よしよし、アルト様……頑張りましたね……えらいです……」
その声が、僕の脳内に響き渡り、思わず身震いをした。
これは
まるで
A
S
M
R
!
破壊力がすごい。
いや、これ、魔法だろ。
むしろ呪いかもしれない。
「無能と馬鹿にされながら七剣姫全員を従えるなんてすごいです……」
スキルを奪う力をもらえたおかげに他ならないんだけど……。
でも、褒められるってこんなにも気持ちがいいんだ。
もっと耳元でささやいて欲しい。
もっと僕を肯定して欲しい。
あぁ、ダメ人間になりそう……。