君が無能くん?魔剣士学園に入学したのに『スキル無し』?ねぇ今どんな気持ち?努力したって報われないのに希望とかあるの?普通の青春を送りたい?あはっ! 無能には無理に決まってるじゃん 作:鳥稲のね
七剣姫は、最後の最後まで戦っていた。
黒い巨人の周囲を埋め尽くしていたデーモンたちは、彼女たちによって一掃された。
そのまま踏み込んだ死の間合い。
けれど、そこから先は……もう、どうしようもなかった。
攻撃は通らない。
魔法も刃も、まるで空気に触れたように消えていく。
近づくだけで体力が削れていく……そんな異常な領域だった。
信じたくなかった。
けれど、目の前の光景は紛れもない現実だった。
一人、また一人と――七剣姫が崩れ落ちていく。
まず、モモアが血を吐き、膝をついた。
リアが倒れ、ユノアが、メルキアが、レティシアが、ロザリアが……次々と地に臥す。
後方で必死に回復魔法を続けていたトアでさえ、その光を繋ぐ力が尽き、静かに崩れ落ちていた。
僕が彼女たちに追いついたのは、その最悪の光景の真ん中だった。
「……無能なんかが来たって……アイツに勝てるわけないでしょ……バカじゃないの……」
僕を見て、最後の力で吐き捨てるように言ったモモアは、それっきり動かなくなった。
七剣姫――王国最強の少女たち。
その全員が、倒れている。
立ち上がる者は、一人もいなかった。
胸が締め付けられる。
息ができない。
苦しい。
それでも僕は震える足を前へと進めた。
倒れた少女たちに手を伸ばし、その力を――スキルを、奪おうと。
目の前で消えかける命。
その最後の輝きを、せめて自分の中に残すために。
《スキル強奪 発動》
光が走る。
しかし
……奪えなかった。
《死属性のスキルのみ奪うことができます》
「……は?」
今まで、一度も言われたことのない制限だった。
まるでゲームのシステムメッセージのような文字列。
この世界はゲームのようだとは思っていたけど、ここにきてそんな演出が入るのか?
僕は視線を上げる。
そこに立っていたのは、黒い災厄そのものだった。
地面は溶け、空気は腐り、遠く離れた者でさえ瘴気に触れれば倒れる異常空間。
けれど
なぜか僕だけは無傷だった。
「……なんでだよ……」
わからない。
けれど、理由がわからなくても構わなかった。
七剣姫が命を懸けて開けてくれた道を、止まる理由はどこにもない。
視界にまた文字が浮かぶ。
《魔大帝ベルゼビュート》
《死属性:支配・腐食・呪詛・即死・瘴気》
《レベル:???》
《HP:∞?》
黒い巨影。
瘴気で形が歪み、存在そのものが世界を腐らせる『死の主』。
だが――そいつは、僕を攻撃してこない。
まるで、待っているかのように、その場でただ立っている。
《スキル強奪 発動可能:対象 魔大帝ベルゼビュート》
表示が切り替わった。
「……今だ」
僕は右手を掲げる。
《スキル強奪 発動》
右手から迸る黒い光。
空間を裂くように伸び、魔王の胸へと突き刺さる。
一秒。
二秒。
三秒。
そして……。
《死属性スキル群 奪取成功》
《新たなスキルを獲得しました》
《・支配》
《・腐食》
《・呪詛》
《・即死》
《・瘴気》
《魔大帝ベルゼビュートを取り込みました》
世界そのものが砕けるような轟音とともに、魔王が膝をついた。
黒い瘴気は渦を巻き、僕の周囲に跪くように沈んでいく。
地面の中に溶けていくように、朝靄のように消えていった。
世界が、静寂に包まれた。
風が止まり、空が凍り、死の王の息吹すら消える。
沈黙だけが残った空間で、僕はただ立ち尽くしていた。
無能だった少年が、死を統べる力を手に入れた今、彼の物語は、終わりを迎える。
世界に黒い幕が下りる。