百花繚乱紛争調停委員会の問題を解決し、その作戦参謀である桐生キキョウとの業務提携の話で共に仕事をする機会が増えた先生。いつも通りの善意100%で彼女と接していた先生だったが、度々近くなる彼女との距離に、先生の心臓の鼓動は次第に高まる。
……これって、もしかして…………?
桐生キキョウ、いいですよね。何もかも見透かしてくれそうで。
身も心も、全て彼女の手の平の上で転がされたいなーとか、思います。
今回は、奥手な先生がキキョウの拷問によって告白させられるお話。
篭絡され、理解され、支配されたい貴方に。
“じゃあ、今日は一日ゆっくり休んでもらおうかな。”
「……え?」
背もたれに身を預け、頭の中にスッと浮かんだ言葉をそのまま口に出す。よほど予想外の返答だったのか、少女は理解するのに時間を要していた。
「だから今日は、あんたに借りを返しに来たの。」
「百花繚乱の参謀担当、桐生キキョウがあんたの仕事を手伝ってあげる。」
桐生キキョウ。百鬼夜行連合学院の二年生。彼女が発した通り、当学院の治安維持組織、百花繚乱紛争調停委員会の作戦参謀として活動している。
廃部寸前であった百花繚乱が無事復興し始めたすぐ後のこと。今後のシャーレとの業務提携についての話し合いで百花繚乱の調停室に呼び出された際、なんやかんやで浮き彫りになった調停室の老朽化問題の解決にキキョウと奔走したことがあった。
『これはあくまで私たち百花繚乱の事情。先生が気にする必要はない。』
何食わぬ顔でそう言う彼女だったが、先生として見過ごせる案件ではなかった。百花繚乱設立と同時期に使われた歴史ある建物とはいえ、天井が崩れ落ち、床が抜けるような部屋では生徒にどのような実害が生じてしまうか分かったものではない。一人の”先生”として、調停室の補修を行った。作業は日の暮れ方まで続いた。
『……変な人。』
呆れているのか困惑しているのか分からないが、そんな言葉を投げかけつつ、キキョウは補修を終えた私に手料理を振る舞ってくれた。日も落ちて夜闇の冷たさに包み込まれる疲れた肌に、温かい味噌汁が染み渡った。機会があればまた食べたいものだ。
本題に戻るが、彼女は『借りを返す』と言った。そもそも生徒に対して損得や貸し借りなど関係ないのだが、私としては手料理で十分返してもらっている。なんなら久々の肉体労働でリフレッシュできたため、こちらに借りがあると言えるほどだ。かといって、無下にもできない。彼女は損得勘定等々を大切にするタイプなのだろう。
そこで私の出した答えが、
“じゃあ、今日は一日ゆっくり休んでもらおうかな。”
だったわけだ。
「ちょっと待って、それは何の冗談? ちゃんと聞いてた?私を『利用』できるチャンスだって言ったはずだけど。」
“ううん、承知の上で『利用』してるだけだよ。作戦参謀なら、休息の重要性を知ってるでしょ?”
「そ、それくらい分かってるけど!」
声色に動揺が乗っているのが伺えた。年相応の少女らしさが垣間見え、つい温かい笑みが零れそうになる。
「……呆れた。理解できない。いいよ、それがあんたの望みなら──」
“う、うわっ! キキョウさん……!?”
突如、彼女が急にこちらに近づき、腕を伸ばしてきた。少女然とした甘い香りと共に伸びてきた腕は座っている私の左肩の上を通過する。結果的にキキョウに見下ろされる状態、つまりこれではいわゆる壁ド──
「……今のは、あんたの後ろにある本を取っただけ。」
“それはつまり……?”
「あんたのお願いに付き合ってあげる。……今日は一日、おとなしくしてるわよ。」
若干納得いっていないのか、譲歩のような言い方だが……どうにか、受け入れてもらえたようだ。心の中でそっと胸をなで下ろす。……なで下ろせない。心臓がバクバク言っている。
「どうしたの? 顔、赤いけど。」
“えっ? あ、いや、これは別に……。”
そんなに顔に出ていたのだろうか。思わぬ指摘に全身が強張る。今度は顔が熱くなるのがよく分かった。
「休息が必要なの、あんたの方じゃない? ……まあいい。しばらくの間、この本とソファ借りるから。いいでしょう?」
“あ、うん! そうだ、キキョウもコーヒーでいいかな?”
「……うん。」
声色に動揺が乗ってしまうのは、こちらも同じだった。
キキョウに入れ立てのコーヒーを渡し、デスクでの作業に戻る。が、思うように手につかない。自分より一回り小さな少女に覆われるかのような格好。下から見上げる彼女の冷ややかで端正な、氷のような顔。見つめられるだけで背筋が強張りそうな目付き。先程の光景が脳裏に焼き付き、書類との格闘どころではなかった。
「…………変な人。」
それからも、彼女と一緒に仕事をすることは増えていった。
「たしか……キキョウさん、だったか。的確に指示を出す姿が印象的で覚えていますよ。」
「キキョウさんに用事があったのかって? ん~前に助けてもらったからお礼がしたくて。」
「仕入れてきたばかりの新鮮な魚をやろう!二匹渡すから、お嬢ちゃんと一緒に食べてくれ!」
百鬼夜行を訪れた時に住民達から百花繚乱、キキョウの活躍を多く耳にし、彼女の頑張りが表れているということを実感する。しかし百鬼夜行の復興においては直面する問題が多く、仕事は忙しくなる一方だった。休息の重要性を説きはしたが、真面目で責任感の強いキキョウは手を抜けなかったようで……。
「はあ……はあ……」
“キキョウ!?”
彼女は過労で身体を壊してしまった。ちょうど百鬼夜行の他のメンバーは出払っていたいたので、一人でできる限りの看病を施した。幸い救護騎士団や救急医学部の助けが必要な事態ではなく、容態はすぐに落ち着いた。
“もし頼りづらかったら……”
“都合の良いように使ってもらっても構わないよ。”
「……。変な人。」
「……本当に。…………変な人。」
そうして過労による弊害を経験した彼女は、渋々ではなく適度に休息を取るようになった。……その代わりと言ってはなんだが、休息の重要性を説いた者として休息の手伝いをすることになってしまっている。
「部屋の掃除と、緑茶を一杯、お願いできるかな。」
「自分で言い出したことでしょう? 断ったりしないよね。」
でも、私を相手にしつつ休憩する彼女の表情は、今まで見た中でも一層楽しそうだった。
ーーーーーーーーーー
「先生。さっき商店街で美味しそうなお茶菓子を貰ったの。よかったらどうかな。」
“お、いいね。”
それからというもの。キキョウはすっかり甘え上手になった。……いや、しなかっただけで元来そうだったのかもしれない。
「今日も緑茶をお願いできるかな。」
“はーい。”
クールで気品のあるキキョウの休息を手伝うのはまるで召使いのような気分だった。第三者に見られたら苦言を呈されそうだが、こちらとしては悪い気はしない。……一つ、どうも気になる点が一つあるが。
「先生、肩を揉んでもらえる?」
”えっ?あぁ、もちろん。”
この頃、キキョウの距離が妙に近い気がする。
「そこの本取ってもらえる?先生の後ろの棚……あ、いい。やっぱり自分で取りに行く。」
“あ、うん。待ってね、今どくから……”
「動かなくていいよ。どかなくても届くから。」
“へ?ちょっと、ま……”
有無を言わさず、また私の左肩の上を彼女の腕が通過する。急接近されると動揺を隠せないので、勘弁してほしいものだ。
「……あんた、また顔赤いよ?」
嘲るような目でこちらを見るキキョウ。顔が熱くなるのは確かに自分でも感じていた。
……やっぱり、日に日に彼女との距離が近づいている。この壁ドンじみた体勢を始め、二人で仕事をする時に隣に座ってきたり、顔を近づけてこちらを見つめたり。「私の隣に座って」なんて言われることもあれば、肩揉みのようなスキンシップを求められることも。それに異論なく従うこちらもこちらではあるのだが。
「先生、結構恥ずかしがり?」
“そんなことはないと思うけど……。”
「でもあんた、私が見る時大体顔赤いよ?」
“…………。”
図星。常に距離が近いのだから無理もないだろう。自分からならともかく、女の子からのアプローチにはどうにも慣れないのだ。……なんて、何か言いたげに口を噤むこちらを見て、ふふっと笑う声が聞こえた。
「変な人。面白いね、あんたって。」
“お、面白い……?”
思わぬ形容詞に呆然とした顔を彼女に向けてしまう。その先。
普段の冷ややかな表情とは違う何か。うすら笑みを浮かべる口元。ほっそりとしているのに不思議と生暖かい目。その表情に妙に魅入られ、思わず身震いする。身体中に電流が走ったようだった。
「……耳まで真っ赤だよ。」
“え、嘘!?”
「ほんと。鏡でも見てきたら? ……もっとも、顔の火照りも治まるかもしれないけど。」
見透かしている。全て分かっている。そう言わんばかりだった。
これだけ顔が熱いのだ。それはそれは顔は赤かったのだろうが、しかし耳までだとは思わなかった。自分の分かりやすさに辟易してしまう。
この赤さ、熱さの理由はとっくに分かっている。いや、分かろうとしていなかったが、騒ぎ立てる心臓が無理やりにも認めさせようとしてくる。
キキョウにドキドキしている。
涼しくもしっとりした声色。見られるだけで背筋が凍りつくような目。少女然とした、花のような甘い香り。そして、そんな等身大の少女に全てを見透かされている感覚。
キキョウの、その全てが、脳内を埋めつくし、全身の筋肉を強ばらせる。
心臓が苦しい。気持ちいい。身体が熱い。見つめられたくない。恥ずかしい。見つめられたい。息が詰まる。くすぐったい。身体が硬い。顔が上がらない。
「……せい。」
「…………先生? 大丈夫?」
“うわぁぁ!?”
「うわっ」
心配というより若干戸惑いの混ざった声色で、耳元の空気を震わせてくる。ぞわっとした感覚が全身を駆け巡り、硬直した筋肉を無理に震わせる。身体の緊張は次第に強くなり、情けないほどに身体を小さく縮こまらせた。
「ちょっとあんた、本当に大丈夫? もしかして本当に……。先生、自分で立てる?」
初めてみる様子に万が一を感じたのか、心配の言葉を掛けてくる。両手を両肩に乗せてくる。その一言は甘い毒のように脳を蕩かす。その両手は電極のように、緊張の飽和を無視して細胞を痺れさせる。……これ以上は、どんな醜態を晒すか分からない。どんな恥辱を受けることになるか分からない。
…………それも、いいかも。
「先生……。お願いだから気分が悪いなら言って? せめて、私に顔を見せて……」
困惑が心配へと変わるのを感じ、理性が急に帰ってきた。大事な生徒に余計な心配は掛けられない。せめて早急にこの場から離れろと、理性に強く語りかけられた。
強ばる身体に鞭打って、椅子のキャスターを使い距離を取る。顔を見ないように身体を捻り勢いよく立ち上がり、出入口へ向けて全力で地面を蹴った。
「ちょ、先生!?」
流石に脅かしすぎたかもしれない。せめて心配は掛けないように……
“ご、ごめん! さっきまでずっと我慢しててさ!! 御手洗行ってくるよ!!! じゃあね!!!!”
「は!?」
……かなり無理があったと思う。
全速力で執務室から遠ざかる。自覚してはならない心臓の拍動を、誤魔化せる気がしたから。でも、ただの動悸ではない。呼吸は苦しかったが、それ以上に、全身が切なさを感じていた。
恋情への恐怖。彼女への興奮。自身への失望。ごちゃ混ぜになった感情が、喉の奥で胎動する。口が乾く。
走馬灯のように彼女と出会ってからの日々が脳内を駆け巡る。彼女が徐々に心を開いてくれていること、肉体的な距離感が次第に狭まっていること。それに伴う緊張の高まり。今まででも距離感の近い生徒やスキンシップの激しい生徒はいたが、笑って流せるほどの心の余裕はあった。「恋をした」という事実が、心の臓に刻みつけられる。
あってはならない、ときめき。
そう、あってはならないのだ。
そっと、蓋を閉じる。
それから、しばらくキキョウを当番に呼ぶことはなかった。
無意味だった。
脳裏に。瞼の裏に。夢の中に。モモトークにも定期的に業務連絡。キキョウのことを頭から遠ざけるなど、できるはずがなかった。
ノアやチヒロといった仕事に私情を持ち込まない生徒に当番を頼めば多少のことは気にしないでいてくれるとも思ったが、症状は私が思う以上に深刻だったらしい。溜息を吐きすぎと心配された。下手なはぐらかしでなんとかしているが、彼女達にバレるのもそう遠くないだろう。というかもうバレていそうだ。
会いたい。会ってはならない。変えてはいけない。恋しい。私は大人だ。切ない。苦しい。……その苦しさが、心地いい。
自制心が、理性が、為す術なく蹂躙されていく。
──キキョウに、会いたい。
一色に染まる脳内。もはや前すら見えていない。彼女のことを考える度に愛しくなる。その度「たりない」と、全身が疼く。
抱きしめたい。打ち明けたい。いや、もはや手を繋ぐだけでも満たされてしまいそうだった。その想いが独りよがりなことなど、考えられるはずもない。
ぴこん、と、モモトークの通知音が妙にはっきりと聞こえた。食いつくように内容を確認する。
【先生、仕事の話なんだけど】
【渡しておきたいものがある。】
【調停室で待ってる。】
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桜並木を抜け、川の土手を走る。体裁なんてもはやどうでもいいと言わんばかりに、一心不乱に。
道のりは、とても短く感じた。
百花繚乱、調停室。既に何度か訪れた故、見慣れた景色。そのはずだった。
心臓がいやに早い。辿り着き、立ち止まったからだろうか。冷静さを取り戻している。「これからキキョウに会うのだ」、と、再認識した。
刹那。再び全身に緊張が走った。勢いに任せてここまで走って来たが、しばらく顔を見せなかったことを怒ってはいないだろうか。心配かけて、悲しませてはいないだろうか。……彼女を、直視できるだろうか。
しかしその緊張が、もう後戻りはできないということを教えてくれた。なるようになれ。いっそ砕けてしまえ。そう言い聞かせ、縁側へと足を進める。足が重くてもはや忍び足だったが、それでも1歩1歩、着実に。砂利を踏みしめ、呼吸を抑え、いつでも顔を出せるとこまで。着いた。深呼吸。自然体で。流れに身を任せて。
“キキョウ、来たよ。”
その声は部屋中に行き渡った。
誰の鼓膜にも吸収されずに。
もぬけの殻だった。ものの見事に、誰もいない。
──時計を見る。約束の時間20分前。少し早く来すぎてしまったのだろうか? とにかく、まだここにキキョウはいない。それなら落ち着ける。一先ず高鳴る心臓を鎮めるために、大きく息を吸い込み、
「先生。」
思いっきり詰まらせた。背後。その声を聞き間違えるはずがない。若干低めのトーンだったが、間違いなく声の主はキキョウだった。息が上手く吐けない。砂利を踏む雪駄の音が徐々に近づいてくる。とにかく落ち着くことを、冷静になることを最優先に、口をきゅっと紡ぎゆっくりと鼻から息を……
出す前に。体が大きくバランスを崩す。右手を、否、右腕を引かれていた。転けないようにどうにか地に足をつけ、戸惑いながらも足並みを彼女に従わせる。すると急に立ち止まったので再びバランスを崩してしまった。
「靴、脱いで。」
“あっ、はい。”
彼女の剣幕に思わず敬語で返す。靴を脱いで縁側を上がったところでまた腕を引かれた。
“あの、キキョウさん……?”
大きな机を周り、廊下の近くまで連れてこられる。そこで彼女はくるりと回り、腕を掴んでいた右腕を引く。その体躯に似合わぬ強い力で彼女の方に身体が傾いたところで、腕を左腕に掴み直され、無防備な背中に彼女の右手が添えられる。それを認識する前に、不安定となった足が何かに押され、地面が傾くような感覚を覚える。
“ちょ、ちょっと!?”
そして、為す術もなく全身を畳へと預けさせられた。背中に添えられた手のおかげか、強い衝撃を受けることはなかった。というか、痛みを認識する余裕など存在するはずがなかった。
「相変わらず警戒心が足りてないよ、先生。ここのとこ呼び出しても断ってばっかりだったのに。そんなに私に会いたくなったの?」
彼女に覆いかぶされる形。右手首はがっちりと捕らえられ、横腹を両足に挟まれ……吐息が掛かるほどに顔が近づけられている。つまるところ、
キキョウに、押し倒されている。
壁ドンですら動揺を隠せない男の脳をパンクさせるには、あまりにも十分過ぎる状況。しかし、ここまで来ると一周回って冷静になりうるのが人間だった。
「先生。私が何を言いたいか、分かるよね?」
明らかに怒っている。そして、この状況。誰かに見られようものなら勘違いされないはずがない。せめて抜け出さなければ、と、押さえられた右腕にぐっと力を込める。
「抵抗は無駄だよ。」
ビクともしない。
その訳は考えるまでもなかった。銃弾一発掠めようが痛いで済むキヴォトスの学生と、それすら致命傷になりかねないただの人間。たとえ外見が女学生と成人男性だろうと、その力の差には関係ない。
抗える余地は存在しない。拘束から抜け出せるような力は、どこにもない。
そうこうしているうちに、背中に添えられた右手は自由だった左手首の自由を奪っていた。
「どうしたの、先生? 生徒の問い詰めから逃げるなんて、らしくない。」
“違う、逃げるとか、そういうんじゃなくて……!”
胴体と両腕を拘束された今は脚をバタつかせるのがせいぜいで、その行為が余計に今の自分が何もできない状態にあることを感じさせる。それを知覚した瞬間。全身に電流が流れたかのような感覚を覚える。冷静さや恐怖とは全く違う、プラスの感情に近しい別の何か。
「じゃあ、私が言いたいことも分かる? 私の追求に、本当のことを答えられるの?」
きっと、しばらく顔を合わせなかったことを怒っている。その理由を打ち明ける、ということは……。なんてことを考えたら、意識がキキョウそのものに向くのは自明であった。
顔が、近い。端正な顔立ちの少女が、色の薄い表情でこちらを見下ろしている。薄く影に包まれた顔から、ナイフのような鋭い目が妖しく光っているのが分かる。
恥ずかしい。
想いを寄せる相手にこれほどの至近距離で見つめられて、耐えられるはずがない。顔が赤くなっているのは嫌でも分かるし、あちら側にはより分かりやすく映っていることだろう。赤くなっていることがバレているのが恥ずかしくて赤くなる、そんな無限ループに襲われる前に、慌てて彼女から顔を逸らす。
「目、逸らさないで。」
腕の拘束を解いた彼女の右手により、顔を即座に向き直させられた。無理やり顔を向けられて、再び全身に、いや、身体のあちこちに電流が走った。背筋に。脳に。心臓に。鼠径部に。そのはっきりした感覚で、自分の抱き始めたプラスの感情の正体を理解する。
興奮。
想いを寄せる相手に力で抑えられ、顔を近づけられ、自身が無力であり、何をされても抵抗できないことを理解させられる。
そんな追い詰められた状況に、本来なら抱かないであろう興奮を抱く。異常だった。しかし、その自身の異常さを知覚などできるはずもなかった。
「あんた、私が言ったこと忘れた?」
局所的な緊張をよそに、抵抗の意志を見せていた腕の筋肉が完全に弛緩する。上手く力が入らない。
「私、いつも言ってるよね。体温の伝わる距離にいて、って。」
あらゆる負の感情が蹂躙される。キャパシティを超えた息が詰まるほどの興奮で、目が潤むのを感じた。
「あんたが忙しい人気者だってことはよく分かってる。でも、一緒に仕事をしなくなるのは違うよね。」
少しずつ、追い詰められる。皮膚から心臓へゆっくりと、彼女の声が染み渡っていくようだ。
「絶対に約束を違えないあんたが、何で私との約束を破ったか……。言えるよね?先生。」
おびただしく拍動する心臓に、彼女の声が突き刺さる。限界を超え、今にも皮膚を破って飛び出しそうなくらいだった。
“…………ご、ごめ……”
「ごめんじゃないでしょ。」
潰れそうな肺から絞り出した答えは、「間違ってる」と跳ね除けられる。建前なんてものはいらない、と、彼女の瞳が訴えかける。
「ほら。あんたの口から言わせないと気が済まないから。」
立場は捨てろ。プライドも捨てろ。全部委ねろ。正直になれ。素直になれ。諦めろ。認めろ。言え。言え。言え。言え。負けろ。負けろ、負けろ♡負けろ……♡
その目線は毒となり、脳を甘く蕩かしていく。下腹部全体のむず痒い感覚だけがはっきりしている。無意識に口が開き、言語能力も完全に溶けきっていた。
「……はぁ、もういい。強情なのは知ってたけど、まさかこんなとこまで強情だなんて。」
呆れた顔で拘束を解き、自身の身体を起こす。突如遠ざかった彼女からは腰辺りにのしかかっている重みしか感じることができなくて、口から思わず「あ」、と切なげな声が漏れてしまった。が、杞憂であった。
「いい、先生?これから私がすることは全部、『私がやりたいこと』。今までのお礼とか、義務感のあるものじゃない。」
“ひぁっ……?”
突如再び身体を倒し頭を両手で捕まえ、顔をこちらの耳元へ近づける。耳の奥を直接つつかれるような感覚に、全身が震えた。
「あんたが立場上負い目を感じるようなことは何もない。……これでもまだ感じるなら、奥手なあんた自身を恨んで。」
“……はぇ…………?”
何も理解できないまま、文字の羅列を咀嚼する。全身が期待に震え、これから何をされるのかに思いを馳せることしかできなかった。
僅かながら、息を呑む音が耳に入った。
「今からあんたのこと、たっぷり可愛がってあげるから。」
ーーーーーーーーーー
可愛がる。歳下の異性からともなると、屈辱を伴いかねない行為である。しかし、諸々の感情が爆発し何も考えられないこの身には、恥はあれど尊厳はなかった。いや、尊厳を踏みにじられることすらも興奮を手助けするものとなった。
「早速だけど先生。あんた、耳弱いよね?」
“……はい……。”
いきなり弱点を看破される。元より隠そうとも隠せるとも思っていなかったが、それでも今の立場を突きつけられたかのような感覚を覚える。
「耳元で話すだけですぐビクつくし。あんたちょっと近づくだけですごい動揺するから面白いんだよね。」
「そう。面白い。私の一挙手一投足にいちいち顔を赤くするんだもの。今までよくやってこれたね。ほんと可愛いよ、あんた。」
「だから顔逸らさない。何? 可愛いって言われるの嫌だった?……恥ずかしい?だと思った。……さぁ?なんでだと思う?」
「でもあんた、恥ずかしいのも好きなんでしょ。さっきからずっと図星突かれる度にうーうー呻いて。可愛い可愛いって言われる度にビクビク震えて。でも、顔を逸らすのは我慢してるね。私の言うこと聞けて偉いよ?」
矢継ぎ早に飛び出すあらゆる言葉が、破裂しそうな心臓を撫で回す。緊張、恥辱、ときめき。心臓の締まるような全ての感覚が、ぐちゃぐちゃになった脳に興奮として解釈されていた。
「で、実際どうなの?自分よりか弱いはずの女の子に押し倒されて、言われて恥ずかしいこと全部言われて、あんたが隠してること全部バラされて……。どんな気持ち?」
分かってるくせに。
「あんたの思ってることは全部分かってる」と言わんばかりに言葉を次々に発し、人の心を丸裸にし、辱め。そして、その心を自らうち開けろ、と。
でも、それを「言わされる」恥辱も、例外なく興奮へと成り代わっていく。今はこちらの立場が下だ。どんなに恥ずかしいことでも、心を差し出すべきだ……。主人に命令された従者のように、自分が自分自身の感情を否定する。恥ずかしさで詰まる肺に息を送り込み、キュッと絞る口をこじ開け、
"興奮、する……。"
「うん、全部知ってる。」
"なっ……、なんで、聞いたの……。"
「先生が面白いからかな。」
一言であしらわれた。こちらが必死になってなんとか発した言葉を、たった一言で。しかも、既に相手の知っている、発する必要のないことを。「面白いから」という理由で。
完全に弄ばれている。これでもかというほど、何度も何度も、今の立場を刷り込まれる。
「でもよく言えたね。えらいよ、先生?顔真っ赤にしながら『私にいいようにされて興奮してる』って頑張って口にしてるの、可愛かった。」
"また言う……。"
「でも多分、可愛いって言われるのも好きでしょ?恥ずかしいから。」
私は、恥ずかしいことが、好き。
「お前はそうだ」と認めさせてくる。心の中で必死に否定しても、上の立場の人間に刷り込まれる。とっくのとうに勃起しているソレも、自身の性癖を物語っている。「恥ずかしいことが好き」という性癖を持っているという恥ずかしさから、今や恥辱と興奮の無限ループに陥っていた。
「今だってあんた、可愛い顔してるよ?恥ずかしいのか切ないのか分からないけど、真っ赤な顔に涙目で、捨てられた仔犬みたいにこっちを見てる。」
"仔犬って……。"
「そう、仔犬。あんまり可愛いから飼ってあげたくなるよ。」
とうとう彼女の口から、「今は私が主人だ」とでも言うかのような文言が飛び出した。また、刷り込まれる。キキョウに従え、服従しろ、と。
それでも。どうしても。「しばらくキキョウに会わなかった理由」だけは、口から発することはできなかった。"先生"という立場における最終防衛ライン故か、はたまたただ勇気がないだけか。今にも口から飛び出しそうな言葉を、出させようとする自分と留めようとする自分。息が詰まるような"快感"が、心臓を襲う。
「よしよし。……なんて頭撫でたりしたら、本当に犬になっちゃうね。でも、ちゃんと言えたからにはご褒美をあげないと。そうだよね、先生?」
ご褒美。
今の私には、あまりにも甘美な響き。迷うことなく、ゆっくりと首を縦に振った。
「うん。ずっと期待した目をしてるから、早く可愛がりたくて仕方なかったんだ。」
こちらを、可愛がりたくて、仕方ない。先程は動揺で理解できていなかったが、確かに彼女は「私を可愛がる」ということを「やりたいこと」と称していた。決して一方通行ではない、いくらかの好意を向けられていることを実感し、胸の鼓動がさらに早まる。一杯のコップに水滴を落とされ、涙が零れた。しかし直後、そんな感動と幸福は一瞬でぞわぞわとした何かに埋め尽くされる。
「……もしかして先生、"初めて"?」
彼女は一切体勢を変えていない。身体を密着させ、耳元で空気を震わせている。何も変わっていないはずなのに、膝から内腿、鼠径部にかけて、撫で回されるような感触。
「まあその感じで経験があったらびっくりするけど。ちょっと触るだけですごいビクビクするんだもの。本当、分かりやすいね。」
間違いなく、彼女が手も足も使わず私の脚に触れている。つまり、
「尻尾。便利でしょ? これなら、耳も下半身も、押し倒したまま可愛がれる。」
ふわふわとした尻尾が、太腿を優しく撫でていた。布越しではあれど、その様子すら艶めかしくて、興奮を誘う。
「すごいね。これだけでそんな反応するんだ。じゃあこれ以上のことをしたら、あんたどうなっちゃうんだろうね?」
これ以上のこと。たとえ未経験であろうと、想像するのは難くない。
「このまま耳可愛がりながらスラックスも下着も全部脱がして、素肌の際どいところをいっぱい、優しく、延々と撫で回し続けて。今でこれだけ反応するなら、そこまでされたらもうグズグズだろうね?」
しっとりとした声が耳の中で響き渡り、その光景を鮮明に想像させる。……間違いなく、あっさりとどろどろに溶かされるだろう。
「でも私は、まだ撫で回すのをやめないであげる。何を言っても、どんなに苦しくても、壊れそうでも、絶対に。」
"だめ、キキョウ……おかしく、なる……。"
「そうだね。おかしくなるね。でもよく聞いて、先生。」
「今から私は、あんたをおかしくする。」
彼女の瞳には、一切の曇りがなかった。
「そうやって焦らして焦らして、グズグズになっておかしくなったところで、ソレ、ぎゅってしてあげたら……。」
「あんた、壊れちゃうかな?」
壊される。物騒な響きとは裏腹に、未知の快感への期待に胸を躍らせてしまう。彼女に植え付けられた想像から屹立したソレへとその快感がフィードバックされ、全身がブルリと震えた。
“こわれる……。”
「っふふ、何その期待しきった目。ほとんど耳元で喋ってるだけなのに、もうとろとろだよ? もう破裂しそう。先生、予想以上に弱いんだね……。」
“だって……キキョウの……。”
「ん? 私がどうかした?」
柔らかい笑みでこちらの瞳を覗き込む。……キキョウの声が好きだから。思わず零しそうになった本音は、詰まった胸に抑えつけられた。
“キ、キキョウの言葉選びが……上手いから……。”
「それだけ?」
“うぅ……。”
「まあ、いいよ。あとで教えてもらうから。ほら、腰持ち上げて?」
したり顔の彼女が顔の近くから離れ、腰辺りへ腕が伸びていく。視界の端から聞こえるベルトの金具のカチャカチャという音が、妙にいやらしく耳に残った。その音に混じって聞こえた「ほら、腰持ち上げて?」という声にもつい異議なく従ってしまう。
「ありがとう先生。……すごいね、これ。普段からこんなのぶら下げてるんだ。」
目線が刺さる。彼女の顔は今見えていない……もとい見てられないが、その目線が早く可愛がってくれと主張するソレをチクチクとつついてくるような感覚を覚える。
「でもあんたのそれは、支配の象徴じゃない。既に陥落して、本来優位に立つべき相手にやられたい放題。」
"うっ!?"
突如上半身が、重力とは逆の方向に引っ張られる。ネクタイを引っ張られ、上体を無理矢理起こされた。こちらの太ももに手を添えている彼女と、不可抗力で目が合ってしまう。
「ほら見て? もう降参ですって言わんばかりに、下着にシミなんか作っちゃってる。耳元で喋ってただけなのに。ね?」
お前はこの程度で私に屈服した。愛おしむような、嘲笑うような目だった。
「先生。よく見てなよ?」
"え……?"
彼女の、細く白い指。両の5本の指の爪先が、膝上からすーっと内腿を登ってくる。若干のくすぐったさはあったが、それよりも、一番触ってほしいところを優しく撫でる空気の流れが妙にはっきり感じられて、むず痒い。ギリギリ触れそうで触れないくらいを通過する手が、目に映っていた。
「釘付けだね、先生? 私の方は見てくれないのに。」
"それは……訳が違うよ……。"
「いいよ。そのまま見てれば? あんたの考えてることなんて大体分かるから。」
そう言って、両手を鼠径部に添える。指の腹が優しく、内腿と股間の付け根を撫で回す。触れてほしくてぴくぴく震えるソレを煽るかのように、くるくる、くるくる。
"っふぅ…………ふ、ぅ………………っ……!"
「よかった。私の選択は間違ってなかったみたいだね。」
"っ…………?どういう、こと…………っ?"
「知ってる? 人間、五感がどれか効かなくなると、他の感覚がはっきりするんだって。」
"聞いたことは……。"
「あんたを寝かせたまま、視界の外で可愛がってもよかったんだけど……今のあんたは何されてるか見えてる方が興奮するみたいだよ?」
その認識に間違いはない。確かに今、彼女の手が触れるか触れないかの瀬戸際を漂っているこの状況に、溢れんばかりの期待とスリルを感じている。それを全て見透かしている彼女は、今度は右手をCの形に変え、股間の中心に添える。
"えっ……………………!?"
握られる。高まった期待に反し、想像もつかない快感に少し身構える。
……が、またも触れられることはない。下腹部に5本の指が添えられ、筒のような形の手は中の空気を揺らすだけ。
「もう忘れたの? 先生。私はあんたをおかしくするために、いっぱい焦らすつもりなんだよ?」
"……いじわる…………。"
「好きなくせに。」
そうクスリと笑って、手をゆっくりと上下させる。艶かしい指の動き。空気による焦らし。手淫のようなその行為に強い快感が伴っていない違和感が、下腹部の切なさを加速させる。
「あ、ほら見て。シミ、広がってるよ?」
"なっ……!? え、なんで…………っ!?"
直接的な快感は伴っていないのに。彼女の手による手淫"もどき"により、ぬるりとした液体が先走る。身体はそれを行為と勘違いしたまま、言うことを聞かなくなっていた。
「これじゃあ、本当に私がしごいてるみたいだね?」
"もう……いっそ楽にして…………。"
「へぇ、そんなにこれ"好き"なんだ?」
"せめて……恥ずかしいって言ってくれないか、な…っ……。"
「同じことでしょ?」
"違うよ……。"
「同じだよね。」
"…………はい……。"
逆らえない。このものの十数分で、完全に分からされていた。
「ああ、そうだ。"こっち"もちゃんと可愛がってあげないと可哀想だよね。放置しちゃってごめんね?」
突如そう言って、身体をこちらへと密着させてくる。甘い香りが鼻腔をくすぐると同時に、女の子特有の柔らかい身体が、女性慣れしていない身体に襲い掛かる。
右腕に、むにゅりと、一際柔らかい何か。
経験が無くても、その正体を理解するのは何ら難しくない。その極上の感触に、「触れるべきではない」「もっと触れていたい」と、理性と欲望がせめぎ合い、腕を離し、くっつけ、離し……気持ち程度に接触させる。
「へえ……。あんた、女の子の身体にも興味津々?」
"ひゃぁっ!?"
急に耳元に、ぼわっと生暖かい空気が流れ込んでくる。男の夢とも言わんばかりの感覚に気を取られ、耳元に彼女の顔が近づいていることに気づくことができなかった。
「それならいいこと教えてあげる。女の子の下着に入ってるカップって、思ったより固いんだよ。」
"…………つ、つまり……。"
「そう。今日、私は下着をつけていない。」
そう暴露し、再び手を下腹部に添えて、上下させ始める。
"〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!"
「こういうのでも興奮するんだ。あんたほんと、どうしようもないね。」
"なんで、そんなこと……っ!"
「答えないと分からない?」
"それは…………。"
分からないはずはない。しかし、それを確固たるものと認めるのは、自身の理性に阻まれてしまう。
私を呼び出して、力づくで抑え込んで、籠絡して……。
それをそんな格好で。それは、もう…………。
「私は今日、最初から、あんたとこうするつもりだったよ?」
耳元でこそこそと発される、「性的対象」宣言。
そんなことを、好きな人に、こんなにも近い距離で。
初めて、言われた。
心臓が、張り裂けそうだった。
指になぞられているだけの下腹部ですら、性感帯のような快感を感じる。
"ぁ…………っ、あ、まって…………っ!!"
「待たない。まだこれからなんだから。」
"これ、ほんと、に……っ、おかしく……なるっ!"
「そう、あんたはおかしくなる。まだ性感帯を触られてもいないのに。どうしようもない変態だから。それらしい"焦らし"だけで。」
"やだ……へん、たいじゃ…………ない…………!"
「そうだよね。あんたは認めるより、認めさせられる方が好き。そうやって意地張ってたらいいよ。ね、変態?」
"……………………くぅ………っ………!"
理性とは裏腹に、「変態」であることを認めようとする本能が、彼女の言葉に呼応する。自身の本能を抑えつけ、我慢しようと、全身が力む。
"んうぅっ!?"
あまりにも、愚策だった。
股間の筋肉にも当然力が入る。我慢に震えていたソレが持ち上がり、高速で動くキキョウの手を掠めた。呆れるほど焦らされたモノには、それすらも天上の快楽となる。
「先生? 何勝手に気持ちよくなってるの?」
"こ、れは……ちが…………。"
「何も違わないよね? 変態であることは認めないくせに、私に黙って勝手に私の手に擦り付けるんだ?」
"ご……ごめん、なさい……。"
「別にいいよ?それだけじゃ絶対にイかせないから。」
そう言って、手の動きを早める。
「ほら。手は動かしててあげるから。好きにしたら? 変態。」
ぴくっ。
見え見えの煽動。でも、抗えない。一瞬でもその快楽を知ってしまったから。
「それがどれだけ気持ちよくても、あんたは絶対に絶頂できない。か弱い女の子に負けてる変態がどれだけ頑張っても、生殺しになるだけ。」
ぴくっ。ぴくっ。
「やっぱり、それでもあんたはやめないんだ。あとあと苦しむのは自分なのに。生殺しになるだけなのに。……でも、それすらあんたは楽しみなのかな。変態だもんね。」
ぴくぴくっ。
きもちいい。きもちいい。きもちいい。きもちいい。
最早、この後自分がどうなるかなんて考えられない。一瞬の快楽を求めるために必死に下腹部に力を込め、情けなくキキョウの手に擦り付けることで頭がいっぱいだった。
「気持ちいい? 気持ちいいよね。あれだけ焦らしたんだから。」
「私の手が気持ちいいんだよね。……ふふっ、可愛いよ、今のあんた。」
「ぺちぺち、ぺちぺち……。すごく必死。目の前の人参追いかける馬みたい。」
「……私の手のひら、先生のせいでぬるぬるしてるんだけど。変態。」
次から次へと、プライドが踏みにじられていく。でも、「歳下の女の子に可愛がられて屈服させられる情けない自分」というこの状況が、たまらなく心地よかった。
「ほら先生、口開いてる。ぺちぺちするのに必死になるのはいいけど、だらしないのはかっこ悪いよ?」
"んっ…………。"
さっと口を噤む。たとえプライドを投げ捨てても、キキョウにかっこ悪いと思われるのだけは嫌だった。
「……ふふっ。やっぱり、私にかっこ悪いところは見せたくない? でもそれ、いつまでもつのかな?」
さらに手の動きが早まる。
「早く私に先生の情けないとこ見せて? かっこ悪くなるのも私に遊ばれてるからだよ? 情けなくていい。可愛いところ、もっと見せて?」
ぎゅっと、下腹部に力と熱が籠る。
「我慢したって辛いだけ。私の身体の感触をあんたの身体に刻み込んで。私の声を一生忘れないようにして。私の手じゃないとダメになって。」
脳がバチバチと痺れて、麻痺する。
「私の声一つで屈服する情けない人でいい。私に蕩かされて女の子みたいに喘ぐ人でもいい。気持ちいいのに夢中になるような変態でもいい。どんなあんたでも、桐生キキョウは受け入れる。」
込み上げたものがそこまで来て、まただらしなく口が開く。
「だからほら、我慢しないで。ここまで溜め込んだ分、いっぱい出して。出して、出して、出して、出して……。」
しゅっ、しゅっしゅっしゅっ。
ぴくぴくっ、ぴくっ、ぴくっ。
"……はっ、はぁっ…………ぁ…………ぃ゙っ……♡"
びくっ。
ぱっ。
「ストップ。」
突如、鼓膜から脳へ命令が送り込まれた。ぎゅうと下腹部に、堰き止めるような大きな力が掛かる。上ってきたソレのほとんどは出口を失い、じわりじわりと下りていく。絶頂寸前の切なさだけが、下腹部にじんじんと残った。
あと1回。あと1回擦れれば。そのタイミングで。彼女の手が身体を離れた。泣きそうな顔で彼女に訴えかけるしかできなかった。
「そんな顔しないで、先生。あんたそんなに忘れっぽかった? ……まだそれ、ぎゅってしてあげてないよ。」
ぎゅっとする。そんな、抽象的で幼稚な表現。それでも、その感触に思いを馳せるのは十分すぎた。それに、
「いっぱい我慢した方が、気持ちよくなれると思うよ?」
同じことを、考えていた。
「でもあんた、もう相当ぐずぐずだね。それはそうか。耳元で囁くだけで既にだったし。私の手相手に必死になってたし。」
"いちいち……言わないで……。"
「本当のことだよ?」
また。己の弱さを刷り込まれる。その恥辱のせいで、そろそろ負け癖がついてしまいそうだった。
「先生の堪え性のなさはよく分かった。これだけ弱いならいつ暴発してもおかしくないよね。それじゃあもったいない。」
私の傍を離れ、脚と脚の間にするりと入り込む。両の手が、下着のゴムに添えられた。それが何を意味するのかは……分かりきっていた。
「先生の一番恥ずかしいところ……見せてもらうね?」
"ぁ…………。"
ーーーーーーーーーー
両手が、私の両脚に沿って下っていく。下着の中で今にもはち切れそうにしていたソレは、ゴムで締められた窮屈な布に引っかかる。詰まりながらも少しずつ下りていく布地に先っぽが擦れ、思わず声が漏れる。
「……へぇ……。」
その様子から全て見抜いた彼女は、わざとらしく手の速度を落とす。自身の体液でぬめっている布が、ゆっくりと敏感な部分を撫でる。気持ちいい。その感覚がじわじわと染み込み、下腹部から内腿へ、鼠径部へ、あちこちに広がっていく。ちらりと下着から顔を覗かせたソレが透明な粘性の液体を垂らしており、今の状況を自身にありありと見せつける。
全身に弱い電流を流され続けているような感覚を嫌というほど味わったその後。わざとゆっくり動いていた彼女の手が、一気に下ろされる。
"ひぐっ!?"
一際大きな刺激と共に、精巧な人体には似つかわしくないグロテスクな陰茎が、その姿を顕にした。ボロン、と擬音が聞こえてきそうなほど痛々しいくらいに勃起した肉棒が体液を分泌しているのが、彼女の目にも映る。
「へえ……。あんた、情けない性癖の割に意外とそんなに小さくないんだ。ぴくぴく震えて……ちょっと可愛いんじゃない?」
"ぅ…………う、あぁ……………………。"
自分以外の手によって、性感帯を露出させられた。性器を優しく撫でる少しひんやりとした外気が、その状況を余計に強調している。まさに、顔から火が出るようだった。
「でも、面白いね。血管が浮き出るくらいビンビンに張っててこんなに強そうなのに……この子自体は、早く触って骨抜きにして欲しがってるんだ。……あんたと一緒だよ、先生?」
"やだ……こっち……みない、でぇ…………。"
突如声を掛けられ、咄嗟に右腕で顔を隠す。しかしその弱々しい抵抗も、何も意味をなさなかった。
「先生? 私、顔隠していいって言った?」
"ぃ、言ってない……。"
「じゃあ、隠してもいい?」
"よく……、ない……。"
「そうだよね。じゃあほら、顔。見せて?」
身体が、キキョウの言う通りに動く。震える腕は下り、今にも泣きそうで爆発しそうな真っ赤な顔を、彼女へ向ける。
「素直で可愛いね、あんた。私の言うこと聞いてくれたから……どうしようか。」
"ごほうび……?"
「そういうことはちゃんと覚えてるんだ。正直だね。じゃあ……はい。」
そう言って彼女は弱々しく震えるこちらの右腕を掴み…………自身の左胸へと押し付けた。
男の身体にはない、柔らかな感触。制服特有の滑らかな肌触りの中にある、はっきり分かるはずのない突起の存在感。一際柔らかい、程よい大きさの胸。先程は腕に触れる程度にしか感じられなかったそれを、手のひらで。
興奮しながらもそれ以上に動揺し、思わず手を引こうとした矢先。彼女が顔をずいとこちらに近づけてくる。必然的に、捕まった手のひらに胸が押し付けられる形となる。
こちらの手首から手を離し、見上げるような形で、ゆっくりと口を開いた。
「ほら、先生。私のこと、好きにしていいよ。」
"…………っ!!"
「好きにしていい」。こんなにも、魅力的な言葉があるだろうか。
その言葉に唆されるままに、そっと、手のひらを閉じる。
やわらかい。
広げた手のひらにすっぽり収まる丁度いいサイズ感に、僅かな支配欲が刺激される。
「……ん………………。」
その丸みを確かめるために、輪郭を撫でる。その重みを確かめるために、手の甲でそっと持ち上げる。今そこにあることを確かめるために、間に手を添わせる。
「……先生、触り方が、やらしいよ……?」
吐息混じりのその声に、雄としての本能が帰ってくる。その柔らかさを一頻り確かめ、触られるのを待ち望んでいるかのように半勃起した乳首に指の腹をあて……
やわらかくもチクッとした感触が、突如身体を襲った。
「……あんたやっぱり、根っこが受けの変態だね。」
触られるのを待ち望んでいた、ガチガチの肉棒が、彼女の指の爪でつつかれていた。
「私は『好きにしていい』って言ったのに。胸を揉むことに集中して、生意気な生徒を押し倒してやり返したりもしないんだ。」
"…………キキョウ……!"
煽られるがままに、地面を着いていた左手を彼女の肩に起き、胸から手を離す。
離れない。抵抗の意志を見せた右手はまた、彼女の胸に押し付けられる。左の手首も捕まって、一切動かせない。
「私が抵抗しないとは一言も言ってないよ? そうしたら、"生意気な"あんたに今はどっちが上なのかを改めて教えてあげるだけだから。」
今は、キキョウが、上。身体的にも精神的にも、今は優位に立たれていることを再認識し、抵抗の意思が掻き消える。
「にしてもあんた、普段より全然力入ってないよ?」
"え、嘘…………。"
「本当。いつもならもう少し男らしい。私に可愛がられて、力入らなくなったのかな?」
間違いない。手は震え、指先にも力は入らない。弱々しく、手のひらいっぱいの柔肉に沈んでいる。必死に手を震わせる私を見てクスクス笑い、両手の拘束を解く。でも、私の右手はキキョウの胸に吸い付くようにして離れなかった。
「ふふ、可愛い。そんなに気に入った?」
"やわら、かい……きもちい…………。"
「すっかり素直になったね、あんた。そういうの、嫌いじゃないよ。でも……」
"でも…………?"
胸に張り付いた手を引き剥がされる。唐突なおあずけに、思わずショックを受ける。そんな私を「悲しそうな顔。」と笑いながら、
「こっちじゃなくていいのかな。」
セーラー服の裾を少しだけ裏返す。雪のように白く艶やかな肌が、ちらりと顔を出す。あまりにも魅力的な誘いを前に、脳を介して行動する暇などなかった。
"キキョウ……ッ!!"
「いいよ、おいで。」
餌に飛びつく犬のように、勢いよく裾へ手を突っ込む。
柔肌。少しほっそりとした、滑らかで心地いい腹部。じんわり汗の滲む肋骨。そして、汗ばんだ手のひらに吸い付く、生の乳房。布越しとは違う、本物の柔らかさ。
「いい、先生? これが私の身体。」
"キキョウの、身体……。"
「そう。今まで色んな身体を見てきただろうけど、あんたがその中で唯一味わった身体。」
"……キキョウ……だけ…………。"
再び、太腿に人一人分の重みが掛かる。私の首の後ろでキキョウの腕が組まれ、身体がお互い真正面で近づく。彼女の顔が、また、耳元に。
「しっかりあんたの身体に刻み込んで。手の中の感触。匂い。温度。いつでも鮮明に思い出せるように。」
"覚える……。キキョウの……キキョウの身体、好き…………。"
「…………。そうだよ。あんたは私の身体を覚えることに集中して。忘れないように、気持ちいいのと一緒に結びつけてあげるから。」
下腹部にちくちくと、若干くすぐったい気持ちよさが襲いかかる。片腕を首に掛けたまま、もう片腕の5本の指を器用に動かし、陰茎をつついていた。
視覚が、嗅覚が、聴覚が、触覚が、悦んでいる。
「気持ちいいね。女の子に抱きつかれて、胸揉みながら、気持ちいいとこつつかれて……。気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい……。」
"きもちい……きもちい……。"
オウム返しのように繰り返す。発する度言霊のように、身体が昂っていくのを感じる。
"あった、かい……。匂い、も……っ、好き……。"
「…………へぇ。」
すすすすっ。
"ひぅっ……!?"
温かいものにつつかれる感触から一変、ぞわぞわとした寒気のような快感が身体を掛ける。
「私の匂いと身体が好きなんだ?」
"すき…………。すきぃ…………。"
「ふうん……。」
つー。
"はぅ…………っ!"
キキョウの指が、裏筋をとらえていた。背中をなぞられたようにぞわぞわとした感触がせり上がり、そのまま亀頭へと伝わる。
「それだけ?」
かりっ。かりっ。
"こえ……っ!こえもすきっ!"
「他は?」
ずーり……ずーり……。
"めもすきぃ……っ!ほそくて、きれいで…………っ!"
「次。」
頭の中で何かが溶けるようだった。秘めていたものが口から次々と零れる。
……それでも、まだ。
「……そういうとこは強情なんだね。」
そう吐き捨て、右手で震える愚息を包み込む。非常に浅い包み込みだが、所々にあたる指の腹の感触が、程よい刺激を生み出していた。
「私のことが好きすぎる先生は、責任持って気持ちよくしてあげないとね?」
トーンを落として若干冷たく言い放ち、ゆっくりさするように手を動かす。そんな僅かな変化に気付くことなく、強くなった刺激に意識が向いた。
「手止まってるよ、先生?」
"ん…………っ!"
胸を揉むように促すその積極さに、より強い興奮を得る。
「内股になってる。腰も浮かせて。感じてるのが全部丸わかり。」
手に強い摩擦が掛からないのをいいことに、少しずつ、少しずつスピードを上げていく。じんじんと疼いていた下腹部が待っていたかのように急激に熱くなり、ぐつぐつと迫り上がるものを感じる。
"あ゙っ、……はっ、は、はぁ……っ、ぁ……。"
「さっきは寸前だったから、凄く敏感になってるんじゃない? 一気に呼吸が浅くなって。あんた、本当に分かりやすいね。」
先程とは違う、やや低めのトーンでの責め立て。こちらの顔の側を離れた彼女の目に今までの愛玩動物を見るような愛おしみはなく、冷ややかな目線が突き刺さっている。背筋が凍りつくような感覚に思わず身震いしたが、同時に下腹部がきゅっと締まるような感触がそこにあった。
「自分がどんな状況か分かってる? 抱き着かれて興奮してだらしなく口開けたまま歳下の女の子の胸を揉みしだいて、挙句ソレちょっと擦られるだけで私に逆らえなくなって。今のあんた、どうしようもない変態だよ?」
既にほぼ無くなっていた尊厳が、容赦なく粉々に砕かれる。しかしそれにすら応えるように、浅く握られた陰茎が快感に震える。
「また大きくなった。本当になんでもありだね。恥ずかしくないの?」
"はず…かし、い…………っ……。"
「そうだね。でもあんたはそれが好き。そうだよね、先生?」
何も考えられないまま、首を縦に振った。
それを皮切りに、スパートを掛けるように加速する。
「先に言っておくね、先生。まだ射精させないから。」
"ぇ…………?"
「先生はまだ、射精するに値しない。」
言っていることが分からない。ただ、「まだ射精できない」ということだけ理解する。悲しさと切なさに喘ぐ心臓に反し、今度こそ飛び出さんとするソレが、もうそこまで迫っていた。
"やだ、やだ…………。キキョウの手で………………っあ゙……!"
下腹部にぎゅっと力が入り、
ぱっ。
また、身体が勝手にそれを堰き止める。
快感を必死に抑え込もうと、背中が丸まる。
絶頂を抑え込む力が、身体の震えとなって漏れ出す。
"〜〜〜〜っあ゙…………!"
「ちゃんと我慢できたんだ。えらいよ? 先生。」
そう言い放つ彼女の目には、少し温かみが戻る。それを認識する間に、彼女は軽く開いていた手を優しく握り込む。
"ひぁ゙っ…………!?"
全身の痒いところを全て同時に掻くような、ピリッとした快楽。先程まで生殺しのような弱い刺激で追い込まれ、敏感な絶頂前で止められて震える性器には、強すぎる感覚。肌と肌が今までより強く擦れ、絶頂の一歩手前で帰っていく精液が無理やり引き戻され、再び腰がガクガクと震え出す。
"むりむりむりむり……っ!"
しゅっ。しゅこ。しゅこちゅこちゅこちゅこ。
ぴくぴく。ぶるっ。がくがくがくっ。びくっ。
ぱっ。
またも、遮られる。絶頂手前の切なさがまた、積み重なる。
震える身体で言われた通りに我慢する私を見て、彼女はまた笑う。
「あんた、すっかり私のワンちゃんだね?」
"え…………?"
「射精するな」と言われたからその通りにしているだけ。我慢に神経を注ぐ今の私には、理解が困難だった。
「私の言ったことなんて無視して出せばいいのに、毎回律儀に従うんだ。可愛いね、先生?」
びくっ。
自身が完全に陥落させられていることを認識。それすらも、今にも爆発しそうな肉棒を優しく撫でる。
「そうだよ。今のあんたは、役に立たないしぶとい理性に羞恥を浴びせながら、本能に従って私の言いなりになる犬。」
先生と生徒。秩序に縛られたその間柄は今この場においては存在しない。餌を前に"待て"させられる、躾のなった犬。ただ純粋に、純朴に、キキョウの命令に従うだけ。
「さて、じゃあ先生。そろそろ自分が何したらイかせてもらえるか、教えてあげようか。」
無意識に期待した目を彼女に向けてしまったのが自分でも分かる。目を細め、クスクスと笑われてしまう。
「……ふふ。そんなに期待してるなら、言えるよね?」
「なんでここしばらく呼び出しても私に会いに来なかったの?」
「それなのになんで今日、急に会いに来たの?」
「答えて。」
また、彼女の顔から笑みが消える。
その質問に答えるというのは、つまりそういうことで。
そう思うと、声を発しようとしても、息が詰まってしまう。
「……主人の言うこと、聞けないんだ? いや、その様子だと……緊張で声も出せないかな?」
例の如く全てを見抜かれる。もはや、隠し事は無意味な気すらする。
でも。既に越えてはいけない線をいくつも越えていたとしても。
その一線だけは、越える勇気はなかった。
「やっぱり無理なんだ。意気地無しすぎて癪だけど、これも想定内。……先生、一つ教えてあげるね。」
斜め下から浅く見上げる形で、鋭い目をこちらに向ける。
「これが『私がやりたいこと』。奥手なくせに強情なあんたを焦らして焦らして焦らして、苦しくて限界を迎えてもまだ焦らして、口を割る。一種の尋問。……まあ、あんたを可愛がるのも楽しかったけど。」
「悪いけど、逃がさないからね。」
獲物を狩る目だった。自身が既に皿の上の餌であることを刻み込まれる。快楽の暴力を振るわれるという恐れに反し、その悪寒による震えがまた興奮を助長する。そして、その震えそのものも。
「……あんたが意地っ張りの悪い子だからいけないんだよ?」
"〜〜〜〜っぁ゙……!"
ぎゅ、と肉棒を握られた感触で、全てが快感へと変わる。
手が上下する度に、腰の奥を直接つつくような感覚が襲いかかる。脳が痺れ、心臓が締まり、苦しそうに拍動する。
「ほら。今まで焦らしてた分、思いっきり気持ちよくしてあげる。」
ちゅこちゅこちゅこちゅこ。
ちゅこちゅこちゅこちゅこ。
「すごいね。我慢汁だらだら垂らして。私の手、もうぬるぬるする。」
自身による手淫とは全く違う感覚。手のひらの熱が伝わる、今までにない快感に、湧水のようにとぷとぷと、艶やかな液体を垂れ流していた。
「ほら、聞こえる? あんたがいっぱいこんなの出すから、なんか変わった音がする。」
ちゅこっちゅこっぬちっちゅこっぬちっぬちっ。
耳を澄ますまでもない。静寂に包まれた部屋に、彼女の手の動きに合わせて水音が響く。「すごくきもちいいです」、と、大々的に意思表示をしているかのようで。
ぶるぶるっ……ぴく……ぴくぴくぴくびくっ。
ぱっ。
絶頂の手前まで、一瞬だった。
歯を食いしばり、快感を縮こまらせ、足を踏ん張る。
ちゅこちゅこちゅこちゅこっ!
"お゙っ………………!?"
突如、水面下で保たれていた均衡が崩れる。射精直前の力んだ陰茎に、暴力的とも言える激しい手淫。ただでさえギリギリの我慢に、更に負荷をかけて耐えられるはずもなく……
「出すな。」
そう冷たく言い放たれ、我慢する力が強まる。尿道で暴れ回る精液が、半ば無理やり抑え込まれ、下腹部にさらにびりびりとした痺れが積み重なった。
「よく我慢できたね。いい子だよ、先生。」
"ひ……ひ、どい…………。"
「ひどい? それ、先生が言う?」
「情けない先生のことだから、自分に優しい甘々な寸止め自慰しかできないんじゃないかと思ってやってみたんだけど……。嫌だった?」
余りにも暴力的だった。苦しくて苦しくて仕方ない。……でも、「今に壊される」という初めての感覚。癖になりそうだった。
"びっくり……、しただけ……。"
「そっか。びっくりさせてごめんね。ひどいことしちゃったからソレ、労わってあげないと。」
"ひっ…………あ゙、!?"
すーっ。しーこ、しーこ、しーーーこ♡
先程とは真反対のフェザータッチ。優しく握ってのスローストローク。またも焦らすような甘い刺激。しかし、何度も繰り返された寸止めで敏感になっていた肉棒には、その優しくじわじわと広がる快感すらも暴力的に感じられる。
がくっ。がくがくがくっ。
「びっくりしたね。痛くなかった? いい子いい子。」
さわさわ。すーりすーり。ちこちこ。
あまりにも敏感な今この甘い刺激は、逆に激しいストロークよりもこちらを苦しめるものだった。「出せ、出せ……♡」と、精液を無理やり絞り出す手淫とは違う、「気持ちよくなって♡」と、精液を押し上げるかのような優しい手淫。
腰全体が快感に包まれる。いきり立つそれを嘲笑うような手淫に、腰が勝手にがくがく震えだす。
「よしよし。私の手、気持ちいいね? いいんだよ。そのまま気持ちいいの全身で受け止めて。」
すりすり。しゅーこ、しゅーこ……。
がく……がくがくっ……ぶるっ。
ぱっ。
またも、寸前で。
しかしらじわじわと高められた快感が、今度は収まらない。下限が引き上げられたかのように、快感と切なさが昂ったまま戻らない。
つん。つん。
"〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!"
射精に耐える局部に、細々としたつつくような刺激。その快感がどれほどか、もはや言うまでもない。上限スレスレを維持するような、苦しい快感。
そんな不安定な均衡など、保てる余裕は存在しておらず。
つん。
びくびくっ。
…………。
また。
その様子を見て、キキョウの口角がうっすらと上がる。
さわっ。すーり。すーり。
再び、フェザータッチに切り替える。優しく握りもしない、ただ、撫でるだけ。手淫どころかもはや刺激とすら言えない、緩やかな愛撫。未だ残る激しい手淫によるじんじんとした感覚を宥めるような、快感の山をなだらかにするような愛撫。
繰り返される寸止めに、我慢の下限と上限の幅はほぼ無くなりかけていた。
すーりすーりすり。すーりすーり。すーり。
がくがくっ。がくがくがくっ。ぶるっ。
ぱっ。
「すごいね先生。もうこんな優しいのでイけるようになったんだ?」
"むりっ…………もうむり………………っ♡"
「じゃあ言える? まだ言えないよね。」
すりすり。すーりすり。すーり。
びくっ。がくがく。びくびくっ。
ぱっ。
すーりすりすり。
ぴく。びくっ。
ぱっ。
すりすり。
ぶるっ。
ぱっ。
気が狂いそうだった。触られれば1秒も経たず射精しそうな状態を延々と維持させられて。出すか出さないかはキキョウの裁量で、完全に支配下におかれている状態。
寸前でこらえるのももう癖になっていたが、「射精したい、射精したい、射精したい……♡」と、その一心が上回り脳を埋めつくしていく。
「あんた、そろそろ我慢の限界じゃない? イきたい、イきたいって、顔に描いてある。」
"イ……きたい…………。"
「あんたが素直になれば気持ちよくなれるんだよ。本当に言えない?」
射精欲求に苛まれても、そこはどうしても踏み切れない。既に色々超えてしまっているのに、それでもなお、それだけは。快感に震える陰茎に反し、ぎゅっと胸が締め付けられ、苦しい。相反する理性と本能に喘ぎ、情けなく涙を零す。
すると。
私の身体は、少女の細い腕に包み込まれた。
「先生、よく聞いて。」
「あんたは、たしかに先生だ。でも、その前に1人の人間なんだよ。」
「先生としての責務を背負うのも重要だけど、あんた自身にもしたいことを選ぶ権利がある。」
でも。大人として、それは認められない。
「先生が私に休息の重要性を説いたように、教えてあげる。……あんたは、あんたとして生きることの重要性を理解するべきだよ。」
"私、として…………?"
「そう。あんたはいくらなんでも背負いすぎ。代わりに背負うとは言わないけど、背負うあんたぐらい、私に支えさせてよ……。」
彼女の声が、震えている。その彼女の健気さに胸が締め付けられ、その温かさに涙が零れる。胸のつっかえが、そっと、外される。
"いい……の……?キキョウのこと……すきになって、いい…………?"
「いい。あんたがそうしたいと思ったなら、そうすればいい。イくの我慢してる、情けない告白でいいから。あんたの言葉で、伝えて。」
そう言って、また、背中に回していた右手を陰茎に添え、包み込む。ゆっくりと、優しく、でも適度に握りながら、動かし始める。
「教えて。あんたの言いたいこと、我慢してること、全部。」
しーこ。しーこ。しーこ。しーこ。
興奮と緊張とときめき、全てが綯い交ぜになってよく分からないまま。緊張で肺が潰れそうになりながら、喉まで出かかっている言葉を絞り出す。
"キキョウ…………。"
「……………なに?」
しーこしーこしーこしーこ。
"すき…………。"
「それだけ?」
しこ、しこ、しこ、しこ。
"すき……! キキョウ、だいすき……!"
「もっと。」
しこっ、しこっ、しこっ、しこっ。
"キキョウのものになりたい……、わたしのものにしたい……っ!"
しこしこしこしこ。
"キキョウを、あいしたい……っ! キキョウ、に……あいされたいっ!"
しこしこしこしこっ。
"だいすき…………っ!"
熱くなり、脈打つ陰茎の爆発に耐えながら、情けない声で、想いの丈をぶつける。言ってしまったことに後悔はないが、恥ずかしさで今にも消えてしまいそうだった。
言葉を全て聞き終えて、抱きしめるのをやめるキキョウ。こちらの顔を見つめる彼女の顔はうっすらと赤く染まっており、少し涙が浮かんでいた。
それを認識してすぐに頭が前へと引っ張られ、視界が暗闇に包まれた。
「────知ってる。」
柔らかく、いい匂い。私の頭は、彼女の左手によって胸元に収められていた。服越しでもあたたかくて、やわらかくて。既に限界を迎えそうな肉棒を、さらに張り詰めさせられる。
「よく言えたね。よく我慢したね。先生。」
びくびくっ。がくがくがくがくっ。
「私も、あんたのことが好き。……知ってた?」
がくっ。ぶるぶるっ。きゅぅ。
「うん、もう我慢しなくていいよ。」
「イけ……………………♡」
びゅるっ。びゅるるるっ。ぴゅっ。ぴゅっ。とぷぷぷぷっ。とろっ。
視界と頭の中が真っ白に染まる。今まで溜め込んだものを一気に吐き出す、ぎゅっと絞り出すような射精感。恥じらいもなく、頭の中は「きもちいい」一色に塗り潰される。
しゅっしゅっしゅっしゅっ。
とろとろ。とぷとぷとぷ……。
手の動きに合わせて、奥から絞り出すかのように精液が溢れてくる。鼻腔を擽る甘い匂いと、「キキョウに射精させられた」という興奮が、留まらない射精を維持させる。
脳の痺れが止まらない。下腹部をぐりぐり押し込まれるような快感。一滴残らず、無くなっても、まだ出そうと身体が頑張ろうとする。
しゅっ、しゅっ、しゅっ、しゅーこ、しゅーこ……。
快感をしゃぶり尽くさせるように、少しずつ手を緩める。
「いっぱい出たね……。色んなもの我慢した分、気持ちよかったんじゃない?」
胸元から顔を離される。紺色のスカートと綺麗な指が、どろどろした精液に汚されていて。言いようのない背徳感と、少しの罪悪感が、背筋を駆けた。
"きもち、よかった…………。"
「ふふふっ、やっぱり可愛いよ、あんた。……で、どうしよっか、先生?」
"…………どうする、って……?"
「それはもちろん……私達、付き合う?って話。」
"……えぇ!?"
息切れになりながら、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。いくらなんでも、先生や大人どころか、男としてあまりにも情けないところを見せてしまっている。それなのに、彼女の横に立つというのは、なんとも。
「心配しなくていいよ。先生の格好良いとこは、普段から見せてもらってる。」
「こういう場だけ恥ずかしいくらい弱くても、いいんじゃない?」
そう言い放つキキョウの顔を見て、恥ずかしさが蘇ってくる。手解きされ、口説かれ、思い出したと言わんばかりに帰ってきた尊厳が、出会い頭につつかれる。顔に呆れるほど熱が籠るのを感じながら、ゆっくりと口を開く。
"うん……。"
短いながらも出しづらい言葉を、目を見て、乾ききった口でどうにか絞り出す。
"キキョウ……、私と、付き合ってほしい。"
熱い。今にも顔が弾け飛びそうで。すぐにでも逃げてしまいたかった。……でも、顔は逸らさずに。動きそうな顔を必死に押さえて、見つめる。
ひと時の、静寂。
また彼女は、うっすら赤い顔で、フッと笑い。胸板に頭を載せ、体重を預けてきた。
「……もちろん。ずっと、私の傍にいて。」
"……うん。"
ゆっくりと日が落ちており、補修された和室が紅く染まっていた。
でも、二人とも赤かった。
夕陽の熱が、愛し合う二人の熱をより一層高める。
想いを伝えあった二人に、カラスの鳴き声が一日の終わりを告げていた。
「……先生。とりあえず一旦、身体洗ってこない?」
"あっ"
日が落ち、空が冷え始めた頃。お互いの体温を確かめ合うように、強く、強く、両の腕で抱きしめあった。
ーーーーーーーーーー
D.U.区から大きく離れた外郭地区のビル。シャーレの一室で、私は今日も書類の山と格闘する。気が滅入るような業務だが、ふと目をやった時に分かる書類の量の変化は、見ていて妙に気持ちがいい。今日の仕事も勢いがついてきた。今日の仕事は早いところ片付けて、制作途中のKAITEN FX MK.∞ vs巨大ペロロジラのジオラマを……
「先生、そろそろ休憩したら?」
と、なんとも子供らしい自身への鼓舞は凛とした一声に遮られる。声の先に目をやると、
「さっきの休憩から1時間半は経ってると思うけど。」
湯呑みを載せたお盆を持った桐生キキョウが、いつもの鋭い目でこちらを見ていた。
"……そうだね。ありがとう。"
「よかった。あんたがここで休もうとしなかったらどうしようかと。」
当然、キキョウに休息の重要性を説いた者として、ここで「休まない」という選択は取れない。彼女の為にも、休息は取らなければ。
湯呑みに入った緑茶はほんのり冷たく、ヒートアップし始めた身体を休ませるには丁度よかった。
"いやぁ、キキョウがいてくれて助かるよ。"
「疲れって案外自分では気付けないものだから。これくらい当然。」
事実然とし淡々と話すのが、なんとも彼女らしい。
「やりたいことがあるんでしょう? 休憩のあとで私も手伝ってあげるから、ちゃんと休んで。」
"あはは、まさかキキョウにそれを言われちゃうとは。"
「……どういう意味?」
充足感があった。寄り添ってくれる唯一無二の大切な人と、たわいも無いやり取り。そんな人が今隣にいること、想ってくれていること、このやり取りすらも、妙にむず痒く……愛おしくて。
"……キキョウ。"
「何、先生?」
"好きだよ。"
「……急にどうしたの?」
"キキョウの鋭い目が好き。匂いが好き。クールに振る舞うけど周りを気遣わずにいられない優しさが好き。常に冷静なかっこよさと、それでもたまに見せる動揺が好き。キキョウの声が好き。"
「……知ってる。ほんと、急にどうかした?」
"まあその……告白がアレだと、締まらないし……。"
「ふふっ。律儀だね、先生。でも……、ありがとう、言葉にしてくれて。」
その柔らかい微笑みが、またも私の胸をときめかせる。何も言わず、そっと、抱きしめた。
「ん……。」
キキョウの熱を全身に感じる。心が幸せで満たされていくのが分かった。
「……ほら、休憩はそろそろ終わり。仕事に戻るよ。」
一瞬で切り替え、やれやれ顔で立ち上がるキキョウ。その温もりが急に身体を離れ、少しの寂しさを覚える。
「……先生。全部顔に出てる。」
"え、嘘!?"
「ほんと。面白いね。」
"面白いって……!"
恥ずかしさから、思わず慌てて取り繕おうとする。その行為が彼女には一切無意味であると知りながら。そんな私を見て、彼女は嘲るようにクスクスと笑う。そして、撫でられ待ちの仔犬に近づくように顔を寄せる。
「仕事が終わったら、いくらでも抱きしめてあげるから。」
その距離の近さ、そしてポジショニング。思わずあの歪な上下関係を思い出してしまいそうになり、つい、顔を背けた。そんな中、視界外で彼女の顔が動いたのを感じ取る。
「ふ〜〜〜♡」
"〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?"
横を向いて無防備になったその右耳に、生暖かい息が掛かる。不意の刺激に耳を塞いで再び顔を前に向けると、したり顔でこちらを見ているキキョウと目が合った。耳への刺激もまた、私に何かを思い出させる。反射的にもう一度を顔を背ける。
が、私の顔はキキョウの両手に挟まれ、自由を失い、彼女と目が合ってしまう。その力の差が、「抵抗は無駄だ」と宣告するかのようだった。
抵抗を諦めたことを両手から感じ取ると、左手で私の後頭部を掴み、胸元へ抱き寄せる。唐突なやわらかさと好きな匂いの襲撃に、全身の力が抜ける。自身の左耳を塞いでいた左手も、力無く彼女の右手に取り除かれる。
「ほんと一々動揺して。可愛いね、あんた。」
つーーー。かりっ、かりっ。
ぴくっ。ぴくっ。
「……ふふっ。気持ちいいね?」
"んむ……っ!!むふっ…………んむ…………!"
露わになった耳元で、恥ずかしいことを囁かれながら。好きな人の胸元に顔を埋めながら。とっくのとうに屹立していたソレを、右手の人差し指で、優しく引っかかれる。
完成に籠絡されて抵抗する気も失せていた私の身体は、その快楽を真正面から全て受け止めてしまう。
「ほら先生、しっかりして?」
頭をポンポンと叩かれ、理性が主導権を取り戻す。頭の拘束をやめ、再び抱きしめる。そっと耳元に口を近づけ……
「……そっちの"休憩"は、仕事が終わったあとだよ。」
「後で可愛がってあげる」宣言。
私一人堕とすには、それだけで十分だった。
「あんたがしてほしいようにしてあげたら、疲れて仕事なんてできないから。」
そう言って、今度こそこちらから離れる。
してほしいこと。
つい、先日の壊れるような快楽を思い出し、呆れる程顔が熱くなった。
このままでは仕事が手につかなさそうだと思いながら、再びデスクへと戻る。
意外と、仕事は早く片付いた。
自身も休憩を終え、先生の仕事を手伝うキキョウ。
休憩前よりもスピードアップした先生の仕事を見て、
また、笑った。
「…………面白い人。」
いかがでしたでしょうか。
キキョウにしてほしいこと全部やってもらった結果、先生のパンツが脱がされるまでに15000文字掛かりました。おろかですね。
感想等、お待ちしております。