先生に恋したミヨは顔ボコ断髪の刑で恋愛小説家に向いてないことを教えてあげる話 作:roborobo
原作:ブルーアーカイブ
タグ:R-18 ブルーアーカイブ リョナ 尊厳破壊 断髪 顔面崩壊 pixivと同時投稿 R-18G
※支部と同時投稿
『好き』と『得意』は違う事だと気づいたのは、いつのころだろう。この言葉の意味を噛みしめるようになったのは、文章の羅列を物語として紡げることに気づいたあの時に違いない。
自分の中にある衝動を形にするのが好きだった。胸の内にある物語を一つの文脈に載せて、物語としての体を成した感触を得られた経験は、たとえ拙くても私の手の中に残りづつけていた。
指と手のひらにある達成感が、じんわりと残る。テーブルの上にある紙面には、私の頭の中にしかない単語の羅列をストーリーとして綴られて、文章の上で踊っている。
――綴られるのは、愛の物語。
この物語の主役は、少しだけ年が離れている男女の二人組。年齢も立場も違う二人は、不器用ながらも互いの気持ちを抱え合う中ですり減らしながら想いを探り合っていく。爽やかさの中に一抹の後ろめたさを孕んだ、恋と呼ぶには大人びた一面を持つ青春の甘さと酸いをつづられている。
挑戦的な内容と言えた。少なくとも、私は自分の読書傾向を振り返ってみれば、このような内容に踏み切ることは考えられないことだった。
作家とは、人生の中で自分が書きたいと思った物を書く者たちだ。取り入れたモノを吐き出すために、取り入れたモノを無意識のうちに模倣してそのまま吐き出してしまう。そんな私も、先人たちを見習うかのように、彼らの文脈の羅列を追う形で模倣品を作り出そうとしていた。
それは、なんら悪いことではない。私のように比較的若い作家が作品に着手すると言うのであれば、そういった形で作品が出力されるのはよくある事。経験を積み重ねながら自身の内面性を積み上げて、作品にオリジナリティを反映できるようになるのは技量以上に年を重ねなければ出来るはずがないのだ。
だから、本当に。年が離れた男女というのは、私にとって手に取ってみたいと言うジャンルじゃなかった。
今まで目にしてきた恋物語は、そのすべてが学園と言う中で納まる年の近い男女の恋模様。同じ箱庭の中に詰められた若者たちが、胸の内を重ね合いながら共に心を通わせる心理的な仕組みが、昔の私の目には鮮やかに映っていた。
一種の共感性と感情移入から成せる気持ちが、自分の心のどこかに深くハマったのかもしれない。先人が連ねる恋の話は、新たに文語を文脈として繋ぎ、物語としての調整されたそれらを世に公開するたびに、私は自分で経験したことすらないのに、甘く高鳴る恋物語の沼に深く落ちたのだ。
だけど、私は彼らの描く青春の物語における主役になろうとも、なりたいとも思わなかった。
焦がれたのは、恋ではなく恋の世界。紙面と言う文章を俯瞰で見下ろす読者として、彼らの恋模様を覗くことで得られる充足感こそが私の立場だと思っている。そこに、私はいらない。
恋の物語は、そこに立つにふさわしい主役がいる。きれいで、美しくて、心の清らかなヒロインこそがそこに立つべきなのだ。
少なくとも、恋の物語を描くのに私は適していない。相応しくない。それも、悪しき手口を想いつくような私なんて。
だから、私はこれからも俯瞰する者でいい。彼らと、先人と同じように物語を俯瞰し、描く者に成りたい。私の描く作品は、胸の内を満たす疑似体験のための恋だけで十分なんだと――そう思えなくなってしまったのは、私が当事者になってしまったからだろうと、振り返ってしまう。
現実が、私を変えた。私の物語は、『あの人』との出会いで、私の求めていたモノから大きく外れた。
『好き』と『得意』は違う。私が描けることも、得意なことも、人の心を引き付けてやまないシナリオは、すべて巧妙なる手口によって善と法に唾を吐く愚か者の話しか描けない。描けなかった。
その気持ちが、たった一つの出会いで変えてくれた。叶えたいと思った恋情が、たとえ苦手でも、拙くても、書き続けるべきだと私の胸の中が背中を押してくれた。
私の作品は、きっと評価されないだろう。心血を注ぎ、心を込めた文章の羅列に、どのていどの想いを形に出来たかなんて私にはわからない。こればっかりは、伝わらなきゃ本当に完成しないからだ。
あぁ、だから。会いに行こう。会いに行って、このこの作品に一つのピリオドを打たせるんだ。
――だから、先生。感想、お待ちしておりますね。絶対に、ぜったいに――
破裂。空を切る音と共に、空気を含んだ啼き声が鳴った。
鈍い感触が鼻先にじんわりと残り、豚のごとき悲鳴が漏れた。くぐもった声が口の端からわずかに溢れて、「ぴぃぃぃ~~」と流れたのがわかる。だって、これは私の口から溢れたものだから。
痛い、のかもしれない。いくらでも叩き込まれてきたから、もう感覚すら鈍くなってきてるから何とも言えない。痛みと言うのは過剰に与えれば与えるほど、かえって頭を冷静にさせると言うのは、初めての体験だ。
「……? あれ、ミヨちゃーん? もしかして起きたかなぁ?」
かろうじて開いた瞼が、かすんだ瞳でもって眼前の情報を拾い上げてくれる。腰を落としながらちらりと覗き込んでくるのは、年の近い男子生徒らしく、不思議そうな表情でちらりと見つめてくる。そんな数が、数えてみるに十人近く。この時点で、暴力的なこの人たちを相手に、自分は逃げられないのだと悟った。
状況は、把握すればするほど絶望的だと思い知らされた。
体中は痛みに苛まれ、服は上半身は制服を纏っているが下半身はパンツすらない。むき出しの関心を秘部すらも露出させて、無機質なコンクリートの上で座らせたままどこぞのビルの壁に体を寄りかかる体勢にさせられている……らしい。
薄汚い裏路地の、その道路の端っこで。このような暴行を天下の往来で行うあたり、ここはブラックマーケットか、ほかの自治区による手が届かない場所なのだろう。それすなわち、ヴァルキューレの助けが及ぶかも怪しい。
つまり、『詰み』。才能があるからなどと思われ、いや、むしろあるからこそわかってしまう。もう、この状況では抵抗も逃走も無意味で終わるだろうと。
「んー、よーかった。さっすがに無反応だとつまらなくってっ……さっ!」
――ぱきゅっ゛……
鼻が、潰れた。『また』、つぶされた。
スニーカーかシューズか、どちらにせよ目の前にいる彼の立派な一足が、人一人の顔にめがけて渾身の一撃が振舞われた。
空を切るスピード感はサッカーボールを相手にするかのように、そうでありながら、人の顔面を蹴り伏せるなどと言う暴力的な行為に一切の躊躇を挟む気はさらさらなく、私の顔は容易く力のままに叩き潰されてしまった。
空気の籠った豚の悲鳴が、「ぷきぃぃ」と私の口から溢れる。血と涙に塗れた破裂音がぷしゅぷしゅっと噴き溢れて、痛みに悶えられる暇もないほどにあえぐしかできない。
痛い、本当に、痛い。年ごろの男子生徒たちによる、何の加減もない力任せの暴力行為。目一杯のフルパワーから繰り出される一撃は、私のような女子の力では到底勝つことはできない。
どろどろ、どろどろと。涙と鼻血が、とめどなく溢れてくる。痛くて痛くて、死にそうになる。
痛みが頭をナカをかけていく。走り抜けていく感情に、疑問が心の中へと取り残された。
どうして、こんな目に合ってるんだろう。
「なっ゛……ぺ、でっ゛……」
「あ~? あー……そろそろ理由とか聞きたい感じ? ん~~~~……? まぁ、ね。じゃあ、ちょっとこっちみよっか」
乾いた笑いを浮かべている人たちが、期待感を込めた瞳のままにバッグの中を探り出した。
私のではない。彼らの持っていた通学用のバッグだ。それほど大きくないそれは、普段であればBDを再生したり専用の筆記用具と言った物を詰めているはずが、ただ一枚の板っきれが取り出されてきた。
鏡、だ。トイレや洗面台、お風呂場などでよく見られる一枚の鏡。ホームセンターなどやデパートへ行けば、これよりもコンパクトで購入しやすい物があるのに、どうしてわざわざそんなものを買う必要があるのだろうと、この時の私は鼻血まみれの顔で眺めていたに違いない。
にっこりと、彼らが私に笑顔を向ける。その笑顔が底意地の悪い物だという事に――鏡を見てから、気づかされた。
「は、はへっ゛…………?? ぁ、へぇぇぇ~~っ゛…………???」
あれ、なにこれ。
そういいたい、そんなふうに、声を出したい。
でも、言えない。言い出すことができない。自分が思っているよりも顔のダメージがひどすぎて、口がまともに開かない。口内の肉と歯がぐちゃぐちゃにされて、きっとまともな状態じゃないのは、この時点で分かった。
――だから、そんな酷いと思っていた自分の顔は、形容しがたいほどにぐちゃぐちゃになっていたんだと、やっと気づけた。
まるで、切り崩されたボコボコの岩肌みたいに顔の肉が盛り上がっている。意識を失っている間も、どれだけ凌辱と痛みの中へと襲われていたのだろう。青あざや血にまみれているとかそんな表現では済まされず、原型すらも残らないほどに変形した私の顔は肉が膨れ上がって目元が埋もれてしまうほど。かろうじて目のあたりから流れる雫が、痛みによって溢れてきた涙だと理解できた。
パッと見ただけで全体がコレ。細かい部分は、挙げればきりがない。豚のようなつぶれ鼻、うっ血した膨らんだタラコ唇、頭部のほうも見て見れば頭の中心部を縦長に剃り上げられて、見るも無残な素肌が露出してしまっていた。残された側面の頭髪が、余計に私の惨めさを演出しているようで――
高らかに、周囲から笑い声が巻き起こった。
「あはははははははは!! ッべぇ~~~~~!! すっげぇ美人じゃん!!」
げらげらげらげらと。
「ど~~~~よ俺たちのテクニックはさぁ! 恋物語、大好きなんでしょ? よかったね~~~これでヒロインになれるヨ!!」
げらげらげらげらと。
「これで出れる作品て何だよwwwwwコメディ系としてもだいぶきびしくねぇwwww」
げらげらげらげらと。
何が面白いんだろうと、なにが楽しいんだろうと、何をやりたいのと。
潰され尽くした顔と無惨な姿へと追い込んだ彼らの姿が、まるで自分とは違う生き物のように思えてくる。人一人の人間をここまで追い込んでしまう同学年の少年たちを、一種の化物か何かかとしか思えなくて、潰れて腫れた私の目尻から、熱い涙が溢れてしまった。
どうして。どうして、こんなことをするの。なんで、こんなことをするの。
唇が開く。ぱっくりと裂けて痛みが走る口元を動かしながらも、今の私の気持ちを言葉にしたい。ぶつけたいと言う気持ちが、湧き上がってくる。
それを聞いてくれたのか、理解してくれたのか。彼らのグループの内の一人が、口を開いた。
「んーま、聞きたいよなぁ。そりゃ……じゃ、ご本人に聞いてみましょっか! はい、どーぞ~!」
……ご本人?
「――やっ、ミヨ。いやぁ、すごい恰好しているね」
気さくに振ってくる手に、感情を読み取れないはずの私の顔が歪んだ気がした。
話しかけてきた彼は、気さくを絵に描いたような人だった。人当たりの良い笑顔は、向けられたものの気持ちをほぐし、近くにいることを許すに違いない。
だって、私の書く恋物語には彼がいるのだから。私をヒロインとして描かれる物語には、彼がいたのだから。
「――ぇ、んへぇ……?」
切れた口元がたどたどしく言葉を紡ぐ。口内から溢れる血の痛みが邪魔をして来るのに、押し出されるように溢れた言葉が形になることを止められない。
せんせぇ、せんせぇ。聞き苦しいフレーズが、切れた唇から紡がれた。そんな私の姿のどこがおかしいのか、周囲からワッと笑顔があふれ出した。
「はははっ!! いやぁ~、ミヨちゃんさぁ……聞いたよ? なんでも先生と自分をモデルにした恋愛小説……あれ順調らしいじゃない?」
笑顔を向けてくる男子生徒が、くいと顎を余所へと向ける。それが、私のバッグに向けているモノだと気づき、私物が入っていたモノが無惨にもさかさまにされた途端、大事に抱えていたモノが衆目に晒される形となってしまう。
ニタついた彼らの笑みが、楽し気に歪む。どれがどれだか分からないと言った表情だが、どれが本物であるかを知っている人に教えてもらったのか、すぐにわかったようだ。
その時の、汚いものを見るかのような彼の目元が――閉じたくても閉じることができない、醜く歪んだ目元がはっきりと捉えてしまっていた。
「いやきっつ~~~!! 実在する人物との恋愛小説とかまーじっすかミヨちゃんさんwwww」
「うわうわうわ……wこれとか見ろよちょっとした濡れ場とかあんじゃん……w」
「地の文とかすっげぇ丁寧だね。これ、内容ちょっと変えればそれなりにいけそうじゃなぁい?」
絡みだした者たちが、曝け出したモノを囲い込むように嗤いだしていく。絶え間なく溢れる冷笑と嘲笑に塗れた聞き苦しい笑いの渦が、逃げ場を奪い去り、袋叩きにしていく。
笑いが、起こる。私が紡いできた物語が、彼らの冷笑によって泥を塗られていく。
笑みが浮かぶ。私が心の琴線に触れられるようにと、丁寧に繋がれた文章が彼らの顔を喜色で歪ませる。
笑い声がどこまでも起きる。まるで最高の喜劇を前にして、腹を抱えるように。胸の心を疼かせる、恋情の物語として絶対に求められていないリアクションがここにはあった。
「ぁ゛……ぁ、ぁぅ……っ」
笑って、嗤って、わらいつづけて。やがては、その場でポイ捨てされるようにして放り投げられる。乱雑に、捲り上げられたままくしゃくしゃになったソレは、もはや最初のころの面影は形もなくなっていた。
瞳が、ぼやけていく。光を宿していたはずの私の目が、滲んでいくのが自分でもわかる。
こんな、殴られていたころに比べられたら耐えられた。絶え間ない屈辱を与えられても、平気でいられた。
だけど、こんなのは耐えられない。心を注いだ私の物語が、ただの笑いものにされて彼らの中で消化された。体の痛み以上に残るキズが、残りカスの私の心を砕いた。
「――ミヨ」
優し気に語り掛けてくれる彼の声が、耳に届く。
私を、私の物語を笑い話にする人たちの中で、その人はジッと地面の上にある本を眺めているだけだった。
何の感情も興味も示さない彼は、私が心を込めて作っているのだと知っているはずの本に視線を落としているだけだった。
だから、あぁ、だから。お願いだから、それ以上は何も言わないで。
みんなが、これだけのことをしてきたのに。ただでさえ、先生からもそういわれたら――
「ごめん、はっきり言ってさ――すっごい気持ち悪かったよ、アレを見せられてさ」
耐えられない。
「元々さ、前々から危ないと思ってたんだよね。ミヨみたいな小説家よりも犯罪者としての才能がある子って、下手をすればどんな情報を抜かれるか分かったもんじゃないからさ。最近は信頼も信用も全然してなかったんだよ。気づいてた?」
耐えられない。
「だからさぁ、ちょっと徹底的にやっておこうと思ったわけ。あの手、この手でワイルドハントから外出しようとしてたでしょ? ……だからま、そこら辺を突けばそっちの責任に出来るだろうなぁとは思ってたからさ。ま、そこは信頼できる生徒に任せておくよ」
耐えられない。
「っていう事だから……とっとと片づけて早く帰りなよ。そのゴミ……あぁ、感想だっけ。はい、じゃあコレね」
耐えられない。
彼の中で私は信頼できない犯罪者であり、そもそも彼の人生におけるヒロインに立てていなかったことが。
耐えられない。
この人の中では、小説家としての実力なんて一かけらもないとそう思われていたことに。
耐えられない。
感想とは名ばかりに――くしゃくしゃになって、踏みにじられて靴跡まみれのページに唾を吐きつけて、背中を向けていることに。
「はい、じゃみなさんお疲れさーん。じゃ、これから焼き肉行く人ー!」
「ひゅーーー! さっすがせんせーぃ!」
一人の大人が指を空に突き立てながら、男子たちはワッと盛り上がった。それだけで、彼らの物語は楽し気なものに満ち溢れ始めた。
そこには、確かな物語があった。人の心を満たし、楽しませ、胸を躍らせる物語が。丁寧につづられた世界には、きらきらとまばゆい物で満たされていた。
ただ、そこに私はいない。あの人の隣に、私はいない。ただ、それだけでした。
「ぁ、……ぁ゛……ま、っで……いが、ないで……せ、んせ……っ゛せんせ゛……」
遠ざかっていくあの人の背中を見守りながら、潰れた顔で禿げ頭を抱えながら下半身を露出する私。見るも滑稽で惨めなその姿は、先ほどまで物語のヒロインを夢見ていた者とは思えないほどに、薄汚くて見苦しい者へと成り果てていました。
……『好き』と『得意』はきっと違う。好きであったとしても、それが得意とは限らない。それでも、好きであるのならば私は貫き続けたいと、あの人と出会えてそう思えました。
思っている、だけでした。やりたいと思いながらも、出来ないことに手を出そうとした罰なのでしょう。分部不相応な人間には、今のままがお似合いなのでしょう。
だから、行かないで、行かないでと。そんなことを言う資格もないのに、私の口は勝手に動き続けてしまう。彼の背中が、見えなくなっても。
靴跡と唾に塗れた自作の小説に目を向けることなく、私は気持ちも視線も向けられることすらなかった彼に手を伸ばし続けた。