その日、喜多川海夢は五条新菜の家に泊まることになった。
もちろん部屋は別々。
しかし胸の形の良さがわかるぴっちりしたヘソ出しTシャツにスパッツという寝間着姿の海夢は、どう見ても夜這いを誘っているようにしか見えなかった。しかもノーブラだった。
内心海夢は新菜が来ることを期待していた。新菜と一つになることを夢見ていた。胸の鼓動が高まって抑えられない。眠れそうに無い。
そんな状態で布団を被っている海夢の部屋に
「・・・喜多川さん、・・・起きてますか・・・」
新菜が来た。
跳ね起きる海夢。
「お、起きてるよ五条くん、なっ何かな?」
興奮状態で答える海夢は部屋に入ってきた新菜の様子がおかしいことに気がつかなかった。片手に何か長いものを持っていることにも特に気にとめなかった。
「・・・喜多川さん、俺、どうしても我慢できなくて・・・、それで・・・」
ついにその時が来たんだ。自分は五条くんと大人になるんだ・・・
興奮する海夢と違い、陰鬱な様子の新菜。そして、
「・・・ごめん。」
手に持った長いもので海夢のくびれた腹の真ん中を貫いた。
新菜が持っていたのは日本刀だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」
海夢は自分の状況が理解できなかった。貫かれた自分の腹と背中から血が噴き出し、強烈な痛みが襲ってくるまでは。
「くぁぁぁぁぁぁ!!!!いたい、痛い!ごじょ、く・・ん、なん・・・で・・・」
新菜は海夢の問いに答えず、無言で刺した刀をねじる。海夢の腹の肉がちぎれ、内臓がねじれていく音が聞こえる。
「かっ!がはっ!ごじょうくん、やめでぇぇ!ごふっ!」
口から鮮血が溢れる海夢。だが彼女は新菜を責める事は無かった。
「・・・謝るから!私が酷いことしたなら謝るから!お願いだから、いつもの五条くんに戻ってよぉ!」
涙を流しながら叫ぶ海夢。
海夢は自分の痛みより新菜の豹変が辛かった。優しい新菜がこんな事をしているのが辛かった。
・・・・・・・元に戻ってくれるなら死んでもいいとさえ思った。
しかし新菜は返答せず刀を前後に、刺す、抜くを繰り返していた。
「あぐっ、ぐうっ!ん、くぅ、あぁぁぁぁぁぁ!!」
自分の腹が中で滅茶苦茶に千切られてるのを感じる海夢。・・・もう自分は助からないと実感したとき、
海夢は刀がめり込んでいくのを承知で新菜を抱きしめていた。
「・・・五条くん、好きだよ!大好きなんだよ!・・・私の命ならあげるから!・・・だから自分の手を血に染めるのはやめて・・・、お願い・・・。」
その言葉に反応したのか、刀を海夢の腹から引き抜く新菜。それと同時に崩れるように倒れる海夢。
「あ・・・・、か・・・・・」
全身の震えが止まらない海夢。そんな海夢の左胸の膨らみに刀の狙いを定める新菜。
「・・・五条くん・・・・」
海夢の言葉と新菜が海夢の左胸を突き刺すのは同時だった。
胸を突き刺した刀は、そのまま肺と心臓を貫き、背中を貫通し、下の畳まで突き抜けていた。
ごふぅぅぅぅぅぅ・・・
大量の吐血をする海夢。
その時、
「・・・やっちまいやがったか・・・」
新菜の祖父、薫が入ってきた。薫は入るなり海夢に土下座する。
「・・・すまねぇ・・・、すまねぇ・・・」
そして土下座したまま説明する。
新菜は幼少の頃から、好きなものを殺す性を持っていたこと。
そして、両親が亡くなった真相は新菜が殺害していたこと。
それを聞いた海夢は、
「・・・良かった・・・私、嫌われてたんじゃなかったんだね・・・」
安堵の気持ちに包まれていた。
海夢は、「もう自分は狂っているのかもしれない」と感じていた。でも、死ぬのだったらせめてこの幸福な狂気に身を委ねよう。そう感じていた。
海夢は新菜の手を取り、刀を深く、胸に刀の鍔が当たるまでめり込ませる。
「・・・五条くん、思っていたのと違うけど、これで私たち一つになれたよ・・・」
海夢は本当に、本当に幸せそうな笑顔で呟いた。
新菜は海夢の胸から刀を引き抜き呆然と立ち尽くす。
そんな新菜に海夢は、
「・・・五条くん・・・、最後に・・・お願いが・・・あるの・・・」
そう言って自分の両腕を広げる。
「・・・私の心臓・・・もうすぐ動かなくなるから・・・、最後の音を・・・聞いて・・・欲しいんだ・・・」
新菜は倒れた海夢に近づく。海夢は片手で新菜の背中を、もう片方の手で新菜の頭に触れて自分の左胸に新菜の頭を触れさせる。
ドクン・・・ドクン・・・
「・・・五条くん・・・世界には、楽しいことが沢山あるんだよ・・・・」
新菜の頭をなでながら海夢は呟く。まるで母親のように。
ドクン・・・ド・・・クン・・・
「・・・五条くん・・・、私が・・・いなくなっても・・・生きることを・・・楽しんで・・・」
トク・・・ン・・・・・・・・・・・トク・・・・ン・・・・
「・・・五条くん・・・ねぇ・・・五条くん・・・・」
トク・・・・・、 ト・・・・・・・・・
「・・・愛してる・・・」
その言葉を最後に、海夢の腕は新菜から離れ、永遠に動くことは無かった。
「あ・・・、あああああああああああああああああ!!!!!!!!」
絶叫する新菜。狂気に支配されていた心がやっと元の新菜の心に戻った。
そして、取り返しの付かない、償っても償いきれないことをしてしまった事実に新菜の心はズタズタに切り刻まれていた。
薫が呟く。
「・・・新菜。海夢ちゃんには悪いが・・・俺たちもう生きてちゃいけねぇよ・・・。地獄に落ちるべきなんだよ・・・」
祖父の言葉に頷く新菜。
そして
警察は五条家で発見された3人の遺体の検分をしていた。
喜多川海夢は五条新菜に刺され死亡。
その両脇に正座したまま死亡していた五条新菜と五条薫は割腹自殺をしたものと結論づけた。
警察が唯一疑問だったのは海夢の死に顔で、血にまみれた惨殺死体だったにもかかわらず、本当に幸せそうに微笑んでいたことだった。