羂索と両面宿儺との戦いが終わり、日本が復興してきた頃、釘崎野薔薇は呪術高専周辺の森の中で一人の少年に出会った。
「よぉ。」
その少年はマントのような布きれをまとっている以外は普通の中学生くらいの少年に見えたが野薔薇は直感で、
(・・・・・・・・やべぇ・・・・・)
と感じた。
かつて宿儺に共鳴りを打ち込んだ野薔薇だったが、その時に感じた宿儺の気配より遙かに危険なものを感じる。
野薔薇はとっさに金槌と釘を出し臨戦態勢に入っていた。
「そんなにおびえるなよ。僕の名前はハオ。・・・神だ。」
「・・・ハッ、イカレてんのか、クソガキ。病院行けよ。」
そう言いながら野薔薇は釘を投擲。ハオは避けることもせず釘に当たり、野薔薇は間髪入れず呪力を送る。
「ちっちぇえな」
(・・・やっぱり効かねぇか)
野薔薇は次の攻撃に移る。黒閃。野薔薇にとっては博打のような技だがなりふり構ってはいられない。
やらなきゃ殺される。確実に。
ハオに接近し
「黒・・・閃!」
命中した。野薔薇の黒閃の威力は凄まじく、周囲の木、十数本をなぎ倒した。
しかし、
「なぁ、退屈すぎるんだけど。」
ハオは無傷だった。
野薔薇は必死で思考を巡らせる。逃げられるか?無理だ。せめて奴の身体の一部があれば共鳴りが使える。しかし、攻撃が効かないので、それ以前の問題だ。
「色々考えているところ悪いけど、僕の話を聞いてくれるかな?」
ハオが野薔薇の思考を遮る。
「僕はこの世界とは別の世界から来た。君たちの世界とは似てるけど、術や呪いの形態はまるで異なる世界だ。」
「・・・流行りの異世界転生って奴か?じゃあ速攻で自分の世界に帰ってくれよ、今すぐ」
野薔薇が毒づく。
「まぁ聞いてくれよ。僕の世界ではこれから大きな戦いが始まりそうでね。その戦いに備えて強い魂を求めてる。」
「で、私が強い魂ってか?お前に傷一つ付けられないんでお断りします。かーえーれ!かーえーれ!」
「・・・魂は死と再生、苦痛とその耐性により強くなる。だから」
ドガッ!
「がっ!」
野薔薇は全身に灼熱の熱さを感じた。自分の身体を見ていると3本の巨大な指のようなもので身体を貫かれている。
「いっぺん死んでくれよ」
一つは背中から腹を貫通し、一つは臀部から股座を貫き、最後の一本は太ももの内側の肉を消滅させていた。
野薔薇は後ろを振り向く。背後にはいつの間にか炎でできた巨人が立っていた。その巨人の左手の指に貫かれている。
「そいつの名前はスピリット・オブ・ファイア。君たちの世界で言う特級呪霊のようなものだ。・・・今は僕のものじゃないけど勝手に借りてきた。」
「ぐ・・・・、なんでそんなものがいつの間に現れた・・・。いくら何でもわかるはず・・・・ぐぅううう!」
「そいつは酸素を媒介にしている。だから何処にでも出現させられる。君ももっと使いやすい術を身につけた方がいいよ。・・・こうして死ぬことになるから。」
野薔薇は自分の身体が焼ける臭いを嗅ぎながら、
(・・・ここで終わるのかよ、くそったれ・・・)
唇を噛んでいた。血が出るほど。激痛と悔しさの両方の理由で。
「チャンスをあげようか。」
ハオはそう言うと、自分の左手首を簡単に切断した。
「共鳴りと言う技には相手の身体の一部が必要なんだろう?だからあげるよ僕の手を。」
切断した手首を放り投げるハオ。それを掴んだ野薔薇は間髪入れず手首に藁人形を重ねて
「死ねっ!」
共鳴りを使った。
ハオには何の効果もなかった。
「なん、でだ・・よ・・。何でだよ!」
「僕は昔から数多くの人間に恨まれていて、同じような技を幾度もかけられてきた。・・・全て呪詛返しで殺したけどね。でも君の技は効かなかったけど、返すことはできなかった。誇るといい。」
野薔薇は中指を立てる。
「・・・ざけんな、乙女の大事な部分を貫いてる変態野郎が!私が死んでも仲間がきっとテメェを殺してくれる。あの世でテメェの死に様見て笑ってやるよ!」
「だからさっき言っただろう?強い魂を求めてるって。君をあの世などに逃がしはしない。」
ハオは切断した手首を自身の術で再生させると再生した手の指で印を結び、
「領域展開」
野薔薇とハオは一瞬で別の空間にいた。そこは焼け焦げた髑髏が重なり合ってできたさながら地獄のような場所。
「がはぁっ!」
野薔薇は髑髏でできた地面に倒れ伏す。スピリット・オブ・ファイアはいつの間にか消えており、腹と股座に空いた大穴と太ももから血が噴き出す。
「ぐ・・・、あ・・・・」
「いやぁ、見よう見まねでやってみたけど、できるもんだね。領域展開。」
「・・・まね・・・だと・・・。何処までも舐めやがって・・・。」
「名前を付けるとしたら『再炎那由他』かな。ちなみにこの領域の特徴は、『ここでは魂の消滅ができず、死んでも生き返り、傷もすぐ再生する。』」
「な・・・」
野薔薇は自分の身体の異変に気がつく。貫かれた傷がいつの間にか再生している。それどころか渋谷事変で欠けた左目や頭蓋の一部すら再生している。
「そしてこの領域のもう一つの特徴。『僕以外の存在は一千度の炎で焼かれ続ける。』」
次の瞬間、野薔薇の全身を灼熱の炎が包み込む。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
形容できない苦しみが野薔薇を襲う。野薔薇の制服は燃えてなくなり成熟した裸体が露わになる。その裸体もボロボロの炭になり崩れ落ち、
すぐに再生していく。それが繰り返される。
「殺せ!ころせぇぇぇぇぇぇぇ!!!くぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
あまりの苦痛に死を願う野薔薇。しかしハオが応じる筈もなく、
「言っただろう?魂は死と再生、苦痛とその耐性により強くなると。君にはここで地獄の責め苦を受けてもらう。僕の世界の戦いが始まるその時までね。」
「ち・・・く・・しょう・・・、ちく・・・しょ・・う・・・」
悔し涙が止まらない野薔薇。その涙も頬を伝う前に蒸発する。
「そうだ、君の友人、虎杖悠仁、伏黒恵、禪院真希にもこの領域に来てもらう。同じように炎で焼かれる責め苦を受けてね。」
「えっ・・・・」
「彼らも強い魂の候補だ。僕の手駒は多い方がいい。」
「やめろぉぉぉぉぉ!!真希さんを!虎杖達を巻き込むのはやめろ!私には何をしてもいいから!それだけは!」
「・・・責め苦が足りないようだね。領域の設定を追加する。『僕以外の存在は二千度の炎の槍で身体を貫かれ続ける。』」
領域の変更という誰もできないことを平然と言うハオ。しかしそれは現実のものとなり野薔薇の胸や腹、腕や脚が炎の槍で貫かれ続ける。
「うがぁっ!ごはっ!ぐふっ!あぐっはっ!」
苦しみもがく野薔薇。死んでも生き返り、魂の消滅もできない。意識を失うことも狂うこともできない。
・・・あまりの苦痛に思考ができないことがせめてもの幸いだったのかもしれない。
野薔薇は、いつのまにか尊敬する先輩が、大切な友人達が、自分の声と同調して苦痛にもだえ苦しんでいる事実に気がつくことが当面無かったから。