ダメ人間の愛しかたのヒズミさんの包丁による無理心中というか、自分だけ死亡します。この作品の二次創作が少なくて寂しいですね。

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ダメ人間の愛しかたのヒズミさんリョナ短編

ヒズミさんから腕時計をもらった。

僕のアルバイト代では何ヶ月かかっても買えなさそうな腕時計。

「キミは時間の感覚がわからないダメ人間だから、この腕時計を肌身離さず付けているといいよ。まさか目覚ましの様に鳴らないから遅刻したなんて言い訳を今後言うことはないよね。はは。」

と言われて貰った大切な時計。

その時計を僕は、たった1日で半グレ集団から奪われてしまった。

自宅に帰った僕はヒズミさんに一部始終を説明した。

半グレ集団が去って行った後の後ろ姿をスマホでこっそり撮影した写真を見せて。

「証拠を取るなんて何もできないキミにしては上出来だよ。生まれて数ヶ月の赤ん坊がハイハイを覚えた位の進歩だね。」

なんて言わなかった。ヒズミさんは何も言わなかった。

ヒズミさんは何も言わず僕の服を脱がせ、傷だらけ痣だらけの僕の身体に消毒液や包帯を巻いてくれた。今まで見たこともない凍り付いた表情で。

僕の治療を終えたヒズミさんは外行きの服に着替えて

「これから数時間出かけてくるけど、留守番をお願いね、シンバ君。冷蔵庫にキミと一緒に食べる予定だった料理が入っているから電子レンジで温めて食べてね。電子レンジの使い方もわからないほどキミは愚かじゃないと思うけど火傷にだけは気をつけてね。」

そう言ってヒズミさんは出て行った。

 

数時間後、血に染まった服でヒズミさんは帰ってきた。

僕はヒズミさんが怪我をしたんじゃないかと思って涙ぐみながら駆け寄ると、ヒズミさんは

「大丈夫。返り血だから。」

と言って浴槽へと向かっていった。

浴槽から出てきたヒズミさんは、裸だった。

僕は慌ててヒズミさんから目をそらして「服を来て下さい!」と言った。

ヒズミさんは僕の言葉を無視して、僕の両肩を押さえてベッドまで連れて行き、僕を押し倒した。

ヒズミさんは僕の身体に胸を、全身を押しつけながら

「ねぇ、シンバ君。私が外で何をしてきたと思う?」と言った。

頭の悪い僕の脳みそに恐ろしいイメージが浮かんだ。でもそんなことはあり得ない、いくら何でもヒズミさんが、女の人が、そんな恐ろしいことをするなんて。

ヒズミさんは、僕の腕に奪われたはずの腕時計を付けてくれて、

「キミを傷つけた害虫共を殺してきたんだ。5人くらいいたかな?全部殺した。」

僕の恐ろしいイメージは当たった。

「ねぇ、シンバ君。キミは知らないだろうけど、法律だと2人以上殺害した場合、死刑になる可能性が高いんだって。私は確実に死刑だね。はは。でもね、私は誰かに殺されるなんて嫌。正確にはキミ以外に殺されるなんて嫌。だからね。」

 

「私と一緒に死んでくれないかな?」

ヒズミさんの言葉に僕は無意識に頷いていた。

 

ヒズミさんの指示で、僕がヒズミさんの身体に跨がるような態勢になった。

ヒズミさんは、僕に「私の首を絞めて」と言った。

僕は動けなかった。そんな僕の両手を取ってヒズミさんは、

「キミを今まで馬鹿にしてきた人たちを思い出して。キミを虐めてきた同級生。キミをクビにした仕事の上司。はは。思い当たることが多すぎるよね。キミは矮小で無力な存在なりに頑張ってきたのに酷すぎるよね。その悔しい思いを全部受け止めてあげるから。だから。」

ヒズミさんは、僕の両手を自分の首に持っていき、

「思いをぶつけて。」と言った。

(お前はダメだ。ダメ人間なんだ。何もできない臆病者。一緒に死んでくれる人間がいて幸運じゃないか。早く死ねよ。早くこの世からいなくなれ。)

僕の頭の中で、また嫌な言葉が反芻する。何でそんなことを言われなきゃならないんだ。殺してやる。殺してやる。

気がついたとき僕は、ヒズミさんの首を絞めていた。

「く・・・あ・・・が・・・、・・か・・・」

ヒズミさんの苦しむ声は美しかった。

「・・・だめ・・、シンバくん・・・、これじゃ死なない・・・。もっと・・・もっと・・・力を込めて・・・。私を恨んで・・・。」

ヒズミさんが僕に要求する。僕は、もっと力を込めて・・・

 

できなかった。僕はヒズミさんの首から手を離して子供のように泣いた。

ヒズミさんは、ゴホゴホと咳き込みながら泣いている僕の頭をなでて、

「・・・ごめんね。辛いことを思い出させちゃったね・・・。」と優しく声をかけた。

「僕はダメです・・・。ヒズミさんの願い一つも叶えられない駄目な奴なんです・・・。」

僕の言葉にヒズミさんは何も応えず、跨がっている僕からするりと抜けて別の部屋に行き、長い包丁を持ってきた。

「シンバ君、これは私の我が儘なんだよ。キミが私を殺せないなら。」

そのまま包丁を僕の腹に刺した。

「私が殺してあげる。」

 

痛い、痛い、痛い。僕は叫び声を上げた。

ヒズミさんは僕から包丁を引き抜くと、

「ねぇシンバ君。悪口を言われて悔しくても憎くても何もできないシンバ君。私は、そんなキミを私だけが傷つけていい様にしていくつもりだったんだ。他の誰にもキミを傷つけさせない。私だけがキミを傷つけていい。でも今日キミは、私以外の奴らに傷つけられた。許せなかった。憎くて憎くてたまらなかった。はは。ダメなのはどちらだったのかな?」

ヒズミさんは、ベッドの僕の隣に座り、包丁の刃先を自分の腹に向けて、

「私は」

ヒズミさんは、包丁の柄を握っている自分の両手を僕の前に差し出した。僕は無意識でヒズミさんの両手を握っていた。そして、

「私は自分を許せない。」

ヒズミさんはそのまま自分の腹を刺した。僕の傷とは比べものにならないくらい深々と。

包丁の刃は全てヒズミさんの腹の中に入ってしまい、華奢なヒズミさんの身体には収まりきらず背中まで突き抜けていた。

ヒズミさんはそのまま刃を前後に動かし、捻っていく。僕はヒズミさんの手を握りながら、何も考えられなくなっていた。

「うっ!ぐふっ!あ・・ふ・・・ぐぅぅぅぅぅぅ!」

相変わらずヒズミさんの声は美しかった。

やがて、ヒズミさんは包丁の刃を引き抜いた。

「うぐっ!・・・ハァハァハァ・・・。はは。ダメだね。これじゃ死なない。人間って意外と頑丈なんだね。それとも私は人間じゃなかったりするのかな?」

そう言いながらヒズミさんは、今度は包丁の刃先を大きな胸の方に向けた。

「・・・心臓を貫けば、流石に死ぬよね。」

「・・・もうやめて下さい。ヒズミさん・・・」

僕はかすれるような声で言った。

「はは。何を言ってるの、シンバ君・・・。私はキミを刺したんだよ。・・・もっと憎んでよ・・・。私は今までキミを散々馬鹿にしてきた・・・。恨んでよ・・・。後は、このまま私の手に合わせて私の心臓を突き刺せば終わる。どんな簡単な仕事もこなせない不器用で哀れなキミでもできる楽な作業だよ。・・・だから」

「哀れなのはどっちですか!」

僕は叫んでいた。

「・・・一緒に死ぬなんて嘘ですよ。最初からヒズミさんは自分だけ死ぬつもりだったんですよ・・・。僕を刺したのは正当防衛に見せるため。僕だってそのくらい知っています。僕は自首します。だから、ヒズミさんも罪を償って、」

「それだけは駄目!」

初めてヒズミさんの叫び声を聞いた。

「・・・キミが私なんかのために罪を償うなんて耐えられない。これは単なる私の我が儘。キミを暴行したクズたちを殺した後、オロチにこの事を任せた。馬鹿だ何だ言われたけど、あいつには警察へのコネがあるから、キミが罪に問われる事は絶対に無い。キミは私が死んだ後オロチに全て任せて・・・、やることがあるとしたら・・・私のことを忘れて欲しい。」

「忘れることなんてできるわけ無いじゃないですか!」

僕は叫んだ。泣きながら。

「ヒズミさんと映画館で出会ったこと、カラオケに行ったこと、デートしたこと、海へ行ったこと、キスをしたこと、一緒に寝たこと。全部全部憶えています!生まれてから、なんで自分が生まれたのか意味がわからない僕にとっては全部幸せすぎる出来事でした!僕はもうヒズミさんがいなくちゃ生きられない!だから・・・生きて下さい・・・。お願いします・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・シンバ君。」

ヒズミさんは優しく微笑んで、

「ごめんね。」

自分の胸を深々と突き刺した。

「・・・はぅ・・くあ・・は、あ・・・あ・・・」

ヒズミさんは苦しそうで、やはり美しい声を出した後、ベッドに仰向けに倒れた。

 

「・・・ねぇ、シンバ君。」

心臓を突き刺しても、ヒズミさんにはまだ意識があった。

「何故自分が生まれたのか意味がわからないって言ったよね・・・。そんなの、誰にもわからないよ・・・。でもね、それがわからなくても生きていくのが人生なんだと思うよ・・・。私もね、生まれてからずっと自分のことが大嫌いだった。でも、シンバ君と出会えて・・・一緒にいて・・・キミのことを考えてるとき、生きてるって実感してた・・・。幸せだと思った。こんな人の気持ちを弄んで幸せを感じるダメ人間の私には勿体ないほど幸せだった・・・。・・・ありがとう、シンバ君。これからも幸せになってね・・・。はは。」

その言葉を最後に、ヒズミさんは動かなくなった。

 

その後、

ヒズミさんは半グレ集団5人を殺害した後、僕と無理心中しようとして、僕に殺害されたとして被疑者死亡で書類送検となり、僕もオロチさんのコネが大きいけれど正当防衛として無罪になった。

僕は正社員としてオロチさんの所で働くようになって、やっぱり仕事は失敗ばかりだけど、なんとか仕事を続けている。ちなみにヒズミさんの腕時計はずっと付けている。

もし仮に僕に新しく好きな人ができたとしても、ヒズミさんはもう許してくれると思う。あの人は僕の幸せを誰よりも願っていたから。


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