犬にされたムーンブルク王女の悲劇

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第1話

 

「キャインっ! ギャウン、ギャウン!!」

 

 やっと出会えたローレシアとサマルトリアの王子二人のまえで私は犬と交尾していた。

 まったくの不意打ちで、いつの間にか背後に近づかれているのに気が付いた瞬間にはもう、ことは始まってしまっていた。

 

 貫かれる激痛と、腰の上にのしかかられる重み。

 ゆっさゆっさと前後に揺れる身体。

 

 必死で逃げようとした。

 首を振って届くところに噛みつこうと、全身をよじってねじって全力で。

 

 でも自分より二回りも大きい黒犬には全く敵わない。

 私にとってこんな不慣れな四つ足の肉体だったんだから当然でもあったろう。

 

 いつしか碌に抵抗するそぶりもできずに、されるがままに。

 もはや身体を襲う感覚にひたすら耐えて、早く終わることを祈り続けるしかない状態に。

 

 ローレシア王子は微笑ましいものを見るように朗らかな眼差しをしていた。

 サマルトリア王子は滑稽で浅ましいものを見るように指をさして笑っていた。

 

「キューン、キューン! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!」

 

 私は犬の鳴き声と息遣いしか出せない。

 どれだけ助けを求めようとも言葉にはならない。

 

「ヘッ! ヘッ! ヘッ! ヘッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!」

 

 黒犬の凄まじい本能の衝動を受け止め続ける。

 いつしか支配的になっていく名状しがたい感覚。

 

 ああ、見られている。

 こんな姿をすべて。

 一分も隠し通すこともできずに。

 私を貫く二人の視線。

 黒犬の動き。

 生まれては消えていく感覚と情動。

 

 やがてローレシア王子が手を伸ばしてきて。

 私の頭にやさしくふれて撫でてきた。

 とてもゆっくりと穏やかな、心地よい感触。

 

 黒犬から与えられ続けている強く荒々しく激しいものと彼の齎すものが私の中で溶けて混ざって一つになった。

 まったく新しい何かが生まれてはじけた。

 

 気が付いた時にはもう終わっていた。

 黒犬から解放されて、二人の王子の姿もない空き地に私は一匹、ぽつねんと蹲っていた。

 ラーの鏡で呪いが解かれたのはそれから数日後のことである。

 

 姿が戻った瞬間のサマルトリア王子の顔と眼差しを私は生涯忘れることはないだろう。

 そして一切を気にすることなく受け入れたローレシア王子の対照的な態度も。

 

 私があの時垣間見たものがなんだったのか。

 はっきりと知るのは遥か後の事。

 あのにっくき邪教崇拝の大神官と降臨した邪神を死闘の末に倒し、世界に平和をもたらしてから。

 

 互いに愛し合うようになったローレシア王子と夜を共にするたびに私は思い知った。

 あの四つん這いの恰好になった瞬間、猛然とこみ上げて突き上げてくる衝動に我を忘れた。

 

 これだったんだと。

 

 彼は何も言わなかった。

 薄々感づいているだろうに、あえて見ぬふり気づかぬふりをしているのは明らかだった。

 二人ともお互い無言で了解し合いながら夜ごとに陥る獣の交わり。

 雄たけびを上げて乱れ狂う私をただただ受け入れて抱擁してくれる愛しい人。

 

 そうして決して消えることは無い深い傷を今日も慰めあうのだった。

 

 

 

 

 了 


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