全てを抜き去る転生者 ~TS痴女のルサンチマンは過酷な栄光を掴み取る~ 作:信頼できる語り手
友情! 努力! >突然の死<
「こんなに沢山、覚え切れないわ」
サリファ・ビーストリンクは元から細い目を完全に閉じ、ぐでっと僕の膝の上に倒れ込む。
「参ったね。連携に必要な基礎知識を覚えるのに何日もかかるとは思わなかった」
「サリファ様は物覚えが悪いのですね」
「私は普通よ。お姉様達の頭が良過ぎるの」
黒髪の執事『
「そもそも、私達の母国は完全にダンジョンに呑み込まれてるのよ? 『これ』以外の事を学ぶ機会なんてなかったわ」
サリファは右手に嵌めた指輪を触る。アバター召喚の指輪。原理は不明だが、僕達が供献者の才能に目覚めた時、それはいつの間にか手元に出現していた。
ああ、だからと言って、指輪を目印に供献者だと特定される心配はないよ。何せ、現代人のほとんどは似たような外見の指輪を携帯してるから。
アバターや供物の研究によって、地球の
自身のデータを管理する『指輪』と3Dモデルを改造した『もう1人の自分』くらい、現代人なら誰もが持っている。
僕達が今やっているVR勉強会のように、現実での素性を隠したまま『直接触れ合って仲を深める』事も容易い。
仮想空間での身体操縦に慣れれば現実の肉体と遜色ない体験ができる。いや、空間設計の自由度を考えると現実以上の刺激を経験する事まで可能だった。
「そもそも、低等級の供物なんて細かく暗記して意味があるのかしら? 等級の高い供物だけ使えば問題ないでしょ」
仮想空間に飾られた本物そっくりの供物模型を指差し、サリファは嫌そうに言う。
「
「幻像供物は?」
供物の等級は基本的にF~Aまでだが、たまに『チェーホフの銃』のような特殊な一点物も発見される。それが『幻像供物』。
幻像供物は非常に特殊で、効果の強さと
「愚かですね。あんなモノを乱用していたら、ダンジョンの楔に辿り着く前に負担で力尽きてしまいます。あと、命が惜しければ早急に
「嫌よ。お姉様の膝枕は私の指定席なの」
「……『シヴァルリク・オース』に加入するつもりならば、序列を弁えなさい」
「いけないわ。子犬が虎に歯向かうなんて」
じゃれ合う2人を見て、ふと思う。前世でも今世でも僕は末っ子だったが、もしかしてこれが妹を見るような気持ちなのだろうか。
「おほほ、貴方の心をグサッと串刺し! 串刺し聖母『ハロー・セレナ』、降臨ですわ!」
……明亜かサリファのどちらか、この兄とトレードできないだろうか。
「久し振りだね、セレナ君」
突然VR空間に侵入してきた黒いワンピース姿の金髪美女……いや、美青年に精一杯の作り笑顔を向ける。
「セレナ……。ダンジョンで戦って以来ね」
「そう身構えなくて良くってよ。徒に他人を傷付けなければ、わたくしが神罰を下す事もありませんわ」
勿論、僕も兄さんも現実世界での家族関係を公開するつもりはない。だから、事情を知らないサリファがいるここでは、あくまで顔見知りの供献者として話すべきだ。
「フレネミー君の言っていた『合同攻略』の件で来たのかい? 君の探索スタイルに事前の打ち合わせは無意味だと思うけど」
セレナが予定通りに動くのなんて精々10回に1回程度。連携を考えるだけ無駄である。
「合同攻……ああ、そんな話もありましたわね。いえ、今回は単純に貴女達の無事を確認しに来ただけですわ。日本が大変な状況になっていると聞いて、心配で、心配で……」
口振りからして、どうやら兄さんは国外にいるらしい。いや、感情と行動が直結してるこの人の事だから、今まさに日本に向かっている最中ってところか。
「首都圏が『神のダンジョン』に呑み込まれてしまったのでしょう? 失業者や難民の数も激増して、治安が悪化していると聞きましたわ」
まあ、それは事実だ。通信にも大きな障害が出ているので、僕と明亜は
「それと、混乱に乗じて『ダンジョン外』に不徳の種を撒こうとする供献者もいるとか」
「確かに、現実世界でアバターを使った犯罪が多発してるね。裏で糸を引いてる人間でもいるのか、統率が取れていて足取りを追えないらしいよ」
「馬鹿ね。
元奪献者のサリファがせせら笑った。
「
僕達は常に多数の視聴者から観賞され、その視線を糧にアバターは成長していく。見られる事を恐れた時点で、ダンジョンの中に居場所はなくなるのだ。
「僕も一般人に被害を出す供献者は、あまり好きじゃないな」
理由は単純。
「僕の栄光を目撃する
いずれ供献者の頂点に立った時、僕を称える
「そうね。全て、お姉様の言う通り」
「感服いたしました。正しく、氷頭様こそが頂点に相応しい器の持ち主でございます」
2人の反応を見たセレナが真剣な表情になり、珍しく素の男声で僕に質問してきた。
「……教祖とかやってる?」
やってないよ。
先程は他人事のように言ったが、アバター犯罪者の逮捕は大切な仕事だ。こうした事件を解決する事で、僕は
保安局は超法規的組織だが、特別捜査官は更に強い特権を持つ。
例えば、僕と僕が指名した協力者は、捜査を目的とした市街地でのアバター顕現が許可されている。これは銃の所持なんかとは比べ物にならない優遇だ。
さて、ここで問題を1つ。古今東西に共通する最も効果的な特権の活かし方が何か、君は分かるかい?
それはね。
(──使わない事、だ)
着慣れない黒いドレスの前で組まれた手には、アバター召喚の指輪が嵌まっていない。この建物に入る際にボディチェックを受け、あらゆる私物を没収される代わりに貸し衣装を渡された。
勿論、下着も脱がされたよ。物を隠しやすい場所だからね。今は素肌にドレスだけを纏った格好だ。
(まあ、元男の僕はノーブラくらいで動揺しないけど。このドレスに内蔵されてる機能で、胸の形が崩れたりもしないみたいだし。細かいところまで金がかかってるね)
指輪の提出。本来、それは供献者にとって最大級の罰に相当する。大なり小なり選民思想を抱えている彼らは、自らの特別性と自衛手段を失う事に堪えられないわけだ。
だから、没収ルールのある社交場に客として入り浸る供献者は少ない。保安局の特別捜査官が丸腰になってまで潜入するとは、誰も予想していないはずだ。
「……供物関連事業は狙い目じゃないのかい? 国は参入障壁を下げる方針のようだし、有事の備えとして回復系の供物は需要が高まりそうだけど」
「厳しいですなぁ。参入が容易になれば競合が増える。競合が増えれば……最終的に
押したら転がりそうな丸さの肥満男性が、ポンポンと自分の腹を叩く。彼は世界を牛耳る『十大企業』の1つ、『イッサカル資源』の重役だ。
「そこを何とかするのが、商才ってモノだろう」
「ごはは! 若くして『懇親会』の招待状を貰えるような女傑には分からんでしょうな! あっしら商売人の世界は『個人の才覚』ではどうにもならんっちゅう事でさぁ」
男性が風船のような体を反転させて、権力者の集うパーティー会場に目を向ける。各界を代表する大物達による商談と談合。その顔触れは滅多に変わらない。
「これが現実でやす。自由競争とは名ばかりの『勝者』が勝ち続ける為の出来レース。供物関連の利権は既に満席で、新人が成り上がろうとしても潰されるだけでござんすな」
この『懇親会』ではあらゆるモノが
「だったら、
「……麗しい
「とりあえず、さり気なく揉まれた胸の分は有益な情報をくれるまで離さないよ」
「ごはは! 手厳しい! ……あっしの商売勘で語るのなら、供献者への投資はアツいんじゃないですかい? 最近どうにも、ダンジョンの常識が崩れる予感がするんでさぁ」
根拠もありやす、と右左原は言った。
「先日、とあるアバターが『決闘』でとんでもない下克上を果たしやしてね。前から個人的に注目してた供献者っちゅう事で、一足早く情報に辿り着けたのは幸運でござんした」
「へえ、それは面白い」
彼はアバター名こそ出さないものの、おそらく『氷頭』について
「ありゃあ凡百の供献者とは違う。……停滞していたダンジョン界隈に激動の時代が来やすぜ」
ふむ、悪くない気分だ。僕はこういう純粋な称賛や憧れに弱い。今なら、ファンサービスで軽いキスくらいはしてあげても良いよ。
「ご歓談中、失礼します。『シズリ・ラウンドノーズ』様ですね」
僕達の会話に割り込むように、如何にも有能秘書っぽい雰囲気の女性が話しかけてきた。
「ファゾム代表がお呼びです」
「ああ、すぐ行く。右左原君、悪いけど……」
「あっしの事はお気になさらず。供物の
引き際の見極めと何処か憎めない態度は、流石と言うべきか。のそのそと遠ざかる丸い背中に手を振っておく。
さて、僕の方はここからが本番だね。
「ひさしぶり! シズリおねえちゃん!」
最先端の防音処理が施された個室で僕を迎えたのは、
その傍らには赤髪の女性が無言で跪いている。……膝を折っていても分かるほどに身長が高い。僕も男性並みの長身ではあるけど、彼女は2メートルを越えてるんじゃないか?
「あ、コレがきになる?」
少年……『ファゾム』は女性の首の後ろを掴み、新種のカブトムシを自慢する子供のように見せびらかしてきた。
「オコヅカイをためて、あたらしくかったんだよ! かえるバショがないんだって!」
ダンジョン難民か。世界有数の御曹司に拾われたというのに、彼女の顔からは怯えと諦めの気持ちしか感じ取れない。
「ノドがつぶれてしゃべれないけど、ちゃんとオシゴトはできるんだ。ほら」
ファゾムが高級そうな仕立てのズボンを脱ぐ。彼の股間では、幼い外見とはかけ離れた巨根が反り返っていた。
「シズリおねえちゃんをみたら、ボッキしちゃった。はやくショリして」
ファゾムの陰茎は膨張率が凄まじい。普段はどうにか下着に収まる程度のサイズなのだが、勃起すると衣服で誤魔化せないほどの凶器に変わる。
故に、彼は専属の『
「コエがだせないとしずかでいいね。シゴトのアイマにグチいったり、コウハイをいじめたりするドレイもおおいんだよ」
ファゾムの指が赤い髪を撫でた。優しい手付きにも関わらず、女性は鞭で叩かれたようにガタガタと震え、命乞いにも似たフェラチオを加速させる。
「おれはオトナだからグチはスルーしてあげるけど、フキゲンをかくせないのはヒトとしてムノウだよね。そうおもわない?」
「僕に訊かれても困るよ」
肩を竦めるしかない。
「君にとっては好都合だろう? 逆らえない相手に不機嫌をぶつけるなんて、人の上に立つ器じゃない事は確かだけど……奴隷にして飼うなら
「でも、それじゃおもしろくないもん。おれはシズリおねえちゃんみたいな、オウジャのソシツをもったメスがほしいの」
彼はティッシュを使うくらいの気軽さで、女性の口内に精液を放出した。縮んだ陰茎を服の中に戻し、僕の方へと近付いてくる。
……そろそろか。
「ねえ、キョウはナニしてあそぼっか?」
ファゾムは『娯楽』に飢えている。
彼は個室に招待した客に『ゲーム』を強要し、足掻く姿を眺める趣味を持っていた。得体の知れない絶大な権力を有する彼には、資産家も政治家も逆らえない。
ただし、彼はあくまで『過程』にこだわる。権力を使えば大抵のモノは手に入るとしても、本当に気に入った獲物は自力で勝ち取りたいらしい。
「あそぶマエに、すきなケイヒンをえらんでね」
だから、こうしてゲームの相手にもメリットを提示する。僕がゲームで勝利した場合の報酬。彼に何を賭けさせるか、自由に指定できるのだ。
当然、価値ある物品を望むほど、こちらも釣り合いの取れるモノを賭けなくてはならない。そして、ゲームの内容はファゾムの一存で決められてしまう。ハイリスクな博打だ。
「じゃあ、その子を貰おうかな」
ダンジョン難民の長身女性を指差す。喋れない彼女は無言で目を丸くしていた。
「釣り合う対価は何だい?」
「んー。……おねえちゃんがまけたら、おれのコドモをはらんで」
「良いよ」
「……あはは、ジョウダンだよ! おねえちゃんをリョウジョクするときは、もっとゴウカなゲームをヨウイしないと!」
ファゾムが無邪気に笑いながら手を叩く。
「『ゲンゾウクモツ』ひとつでゆるしてあげる。もってるでしょ?」
「まあね」
僕が景品に赤髪の女性を選んだ理由は幾つかあった。
マナの流れを見て、彼女が供献者だと確信した事。身寄りのない境遇にある事。そして何より、僕の求めている人材かもしれない事。
だって、あれだけビクビクと怯えた様子にも関わらず……僕が個室に入ってきた時、彼女は全く反応しなかった。
(どういう理屈かはまだ分からないけど、彼女は既に『判断』を終えていたんだ。僕が自身に危害を加える存在ではないと)
その証拠に、ほら。今の彼女は僕を凝視しているじゃないか。
未知への畏怖を孕んだ瞳で。
「コンカイのゲームはカンタン! 10ビョウイナイに、おれをたのしませて! シズリおねえちゃんなら、できるよね?」
随分と抽象的で曖昧なゲームだな。しかし、罰則と褒賞は本物だ。ついでに言うと、ファゾムはゲームにおいて、自分贔屓の詰まらない判定などはしない。
「じゅーう、きゅーう……」
僕はカウントが始まると同時に口を開いた。
「『神』は」
ダンジョンで遭遇した冷却の化身を思い出す。僕が今持っている情報の中で、最もファゾムの期待を越えられそうなネタ。
彼がダンジョンの秘密を知っているかは賭けだったが、表情から察するに第一関門は突破したと言えるだろう。
そして、ここからが
「──『別の世界』から来た存在だ」
10秒。
「邪魔です。『懐剣』」
明亜が短剣の供物を捧げ、植物状のモンスターを伐採していく。
彼女の殲滅速度は凄まじい。
そうして、充分に敵を引き寄せたところに。
「まとめて弾き飛ばしなさい!
強靭な枝を携えた樹木が乱入する。この密林ダンジョンで捕まえたばかりの、サリファが支配しているモンスターだ。
「問題なく回るじゃないか、新生『シヴァルリク・オース』。やっぱり、
「神のダンジョンで
サリファは不服そうにぼやく。
「それよりも、フレネミー様の『お友達』はいつ来るのでしょうか?」
明亜が指輪に記録された地図画像を空中に映し出す。何者かは知らないが、この辺りが待ち合わせ場所で間違いない。ちなみに、セレナからは遅れてくると事前連絡があった。
「密林で遭難してるとか?」
「まさか……」
「ハロー! ちょっと、お伺いシヴァース!」
ガサガサと木々を掻き分け、赤髪の女性アバターが僕達の前に姿を現す。
「『シヴァルリク・オース』の方ジェスカー?」
「そうだね。僕が氷頭だ。君はフレネミー君の言ってた合同攻略の相手かな?」
「オー、イエスイエス! ビンゴ!!」
女性はギザ歯を剥き出しにして笑った。
「アタシは『チルチェリー・オンオン・ベルマン』ジェース! よろしくお願いシヴァース!!」
「よろしく、チル君」
「歓迎します、チルチェリー様」
「お姉様に尽くしなさい、チル」
それにしても、彼女はフレネミーから『見れば分かる』と言われたのが納得の外見をしている。
まず、背が異様に高い。そして、腕が多い。
「複腕……お兄様と同じ、亜人系のアバターね。腕前には期待して良いのかしら?」
「勿論ジェース!」
チルチェリーは全ての手の親指を立てる。彼女の纏う奴隷服のような粗末な布には、多数の腕を通す為の穴が空いていた。
「レッツゴー!!」
さて、彼女の実力がどれほどのものか。お手並み拝見と行こう。
「で、見付かったかい?」
「いえ、全く……」
「何処に行ったのよ、あの多腕女」
チルチェリーの姿を見失ってから、それなりの時間が経過した。歩幅が違い過ぎる上に連帯行動に慣れていないようで、少し嫌な予感はしていたが……。
「迷子?」
「迷子ですね」
「何しに来たのかしら」
しかし、ヴァルドと同じ亜人種なら基礎スペックは高いはず。それほど焦って捜す必要もないかもしれない。
「へループ……! ヘルプ、ミー……!!」
そんな僕達の希望的観測をぶち壊す盛大な悲鳴が響き渡る。あと、サリファの溜め息も。
僕は
「お、見えた見えた」
「如何でしょうか、氷頭様?」
「野生の
「そう、残念ね」
サリファが明るい声で答える。
「少し待って。直ぐに別の道を探すわ」
「流石にこの流れで助けに行かないのは、人道的に不味いと思うのですが……」
明亜だけが唯一の良心だった。
活躍を期待するトップランカー人気投票
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①世界1位『@』
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②中衛代表『オクシモロン』
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③後衛代表『ミスター・エチケット』
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④前衛代表『差分』
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⑤女性最強『フレネミー』