女の子の鼠径部フェチのレズ風俗嬢が理想のあそこを持つ恋人と出会うまで 作:喋家月餅太
「Mちゃん、ちょっといいかな?」
いつもの通り、仕事を終えてラウンジで他のセラピストと談笑しているとTさんに呼ばれた。
「何だろ?」
初めての事なので戸惑って同僚に呟く。
「予約したお客さんの確認事項じゃないかな。変わった要望とかあるお客さんとかいるから。あんまり難しそうなら断れるから大丈夫」
同僚はそう言うとウィンクして「行っておいでよ」と言う。
あたしは不安になりながらTさんの方に小走りで行く。
数メートルなので小走りになる必要もないのだが、待たせないつもりを演出するために無意識にしてしまう癖だ。
場合によっては危ないので気をつけた方がいいかもしれないとは思う。
「ごめんね、さっき予約もらったんだけどMちゃんに受けられるか聞く必要があってね」
そう言うとTさんはあたしを面談室に入るよう促し、お互いが中に入るとドアを閉めた。
さっき写真を撮ったばかりなのだが、その時にTさんは面談室に事務仕事があると言って残ったのであたしが出た時のままパソコンが備え付けのディスプレイに繋がれていた。
「ごめんね、来週の予約なんだけど今日帰る前に聞いておいた方がいいと思って」
「どんなお客さんなんですか?」
「トランス男性なの」
「トランス男性って、その……」
「身体的には女性だけど、心は男性っていう人ね。FTMとも言うけど」
意外なお客さんだった。
トランス男性というのは知ってる。
知り合いにはいないけどビアンの知り合いの中にはトランス男性と付き合ってた人もいる。
そのトランス男性がレズ風俗であるこのお店を利用するという事に驚くとともにここに入店した頃に受けた説明を思い出した。
「説明、しなかったっけ?」
Tさんは恐る恐るといった感じで聞く。
ただ明らかにポーズであり棘が立たずに入店時の説明をやり直すための導入としての口調だろう。
「たしか、系列の団体か何かの……」
あたしはついさっきまで忘れていた事を思い出しながら言う。
「覚えててくれた?」
「はい、そういうのがあるってだけは」
「そうか、念のためもう一回説明するから座ってくれるかな?」
Tさんがそう言うとあたしは促されるままに席に着く。
しばらくキーボードを操作するとTさんはPCの繋がったディスプレイにウェブサイトを表示した。
「うちの社長、こういうのやっててね」
そう言ってTさんは説明を始めた。
あたしが働いている——雇用されてるわけじゃないので契約しているという言い方が正しいのかもしれない——この店には系列のお店と団体がある。
それは男性向け風俗店、それからトランスジェンダー支援の団体。
その団体からの委託という形で今回、あたしに仕事をもらっているという事だった。
その団体というのはトランスジェンダーの性に関する支援を行う団体。
安全なセックスの知識の普及やパートナーを得るための出会いの場を作ったり、当事者同士の横のつながりを作ったりなど色々だ。
トランスジェンダーは性行為に関しては同性愛者と事情が近いが、パートナーを得る機会やセックスに関する知識を得る機会が同性愛者よりも少ない。
それに身体を変えたら男女どちらとも事情が異なる。
そういった人が風俗を利用できるように代表者が同じこの店とその団体が「提携」という形で経由してトランスジェンダーからの依頼を受けるという事をしているらしい。
団体は交渉を手伝い、その依頼者が直接お店に予約するという事ではあるらしいが。
「Mちゃん、系列の男性のお客さんはNGだったでしょ? こっちはどうかなと思って。もちろん断るのはアリだよ」
Tさんは物腰柔らかく言う。
このお店はホワイトなのかこう言う時は強制を意味しない。きちんと断れる。今回もそうだろう。
正直言えば不安なので断ろうと思った。
あたしは男性に恋愛感情を持った事があるとはいえレズビアンだ。
男性の性のお相手というのは抵抗がある。
だけど、二つ頭をよぎった事があたしを迷わせた。
一つはあたしは男性の身体に魅力を感じないのだが、トランス男性は身体的にあたしがどちらに感じるのだろうとという疑問。
もう一つはこの仕事を始めた頃に担当した恋愛経験がなくレズビアンがどんな存在か分からず男になろうとした経験のあるお客さんだ。
あのお客さんはレズビアンという存在が何なのかを考えるきっかけになって、いろんな事情を抱えたお客さんに対応できる柔軟さを身につけられた。
自らが何者なのかというアイデンティティで悩んでいる同性愛者はとても多い。
多分、トランスジェンダーは同性愛者の比じゃないのでは無いだろうか。
それにここの系列には男性向け風俗店があるがそちらではなくレズビアン向け風俗店であるこちらに依頼が来るという事は女性に近い人なのかもしれない。
「まず、話を聞くだけってできますか?」
あたしは具体的にどんな人の相手をするのかを知る事にした。
あたし自身はトランス男性と関わった事がない。
知人の彼氏がそうだって話を聞いた事があるくらいだ。
その中での想像での判断は間違った結論になりかねない。
「もちろん。できれば断るにしても話を聞いてからの方がありがたいわ」
そう言うとTさんは今回の案件について話し始めた。
まず、お金の面。
特殊な仕事なのでこのお店に来る女性のお客さんよりも高かった。
特別オプションをつけてるという建て付けらしい。
それからトランス男性がどの程度身体を変えているかの種類について説明された。
どの段階の人まであたしが受け入れられるかをあらかじめ決めてそれから今回のお客さんを受けられるか、今後はどうなのかを決めていいとのことだ。
トランス男性は知っての通り女性の身体を持ちながら心は男性という人たちだ。
心というより脳という方が正しいのか、自己の性別に対する認識が身体と食い違っている人の事だ。
彼らは何かしらの手段で男性に近い外見や身体を手に入れるために自身の身体に手を加える事が多い。
それには段階があってどこまでしているかは大人によって大きく異なる。きく異なる
段階としては大まかに以下のものらしい。
・ 身体を変えることなく男装のみの人
・ 男性ホルモンの定期的な投与を行い筋力、声、体毛などを男性に近づけている人
・ 乳房を切除し男性のような胸に上半身を変えた人
・ 子宮と卵巣を切除して女性としての生殖機能、特に生理を無くした人
・ 膣を塞いで女性としての性行為や性的興奮、つまり濡れる事を無くした人
・ ペニスを形成し外観は完全に男性のものになった人
上から順番に人数が多く、とこでとどまる人の人数も多いらしい。
どこまで行っても男性としての機能は手に入らないが、他人から男性として見られる事や自分の身体に対する違和感を軽減する事が目的なのでその人次第だがどの段階かで満足は可能だそうだ。
「トランス男性の身体の状態は今話した通りなんだけど、Mちゃんとしてはどの段階まで大丈夫かな? もちろん全部駄目というのもありだよ。ビアンで女性相手の風俗で働いてるんだからそこは織り込み済みだから」
あたしは考えた。
自分のパートナーシップにおけるセクシャリティは性の対象としては女性しか対象にできない。
恋愛感情は条件さえ揃えば男性に対しても持つことは可能だしその実績はある。
となると、トランス男性を「そういう」対象として見ることは可能なんじゃないかという気はする。
これは恋人ではなくビジネスとしてセックスをする相手の話だ。
あたし自身が興奮するかどうかは重要じゃない。
だけど、あたしも楽しいと思えなければ十分なサービスはできない。
となるとある程度、男性になりすぎていない段階ならばお相手出来るんじゃないか。
あと、割増料金があってこちらが受け取るギャラも女性相手より多いというのも魅力的だ。
だけど、どの段階か。
以前のあたしなら胸を取っていない人までと考えただろう。
今のあたしはこの風俗嬢という仕事に対して楽しみがある。
その楽しみを得られる相手ならいけるかもしれない。
股間がちょんちょんのままのトランス男性ならば。
そして、興奮のバロメーターがクリトリスの勃起だけだとさすがに分かりづらすぎる。
だから濡れる人の方がいい。となるとあたしの線引は一つだ。
「あの、下半身は手術してない人だといいです。膣がない人は興奮してるか分からないし」
「なるほどね。まぁ、確かにそうだね。子宮の有無は?」
「それってセックスしてて違うものですか?」
「取っちゃった人は感じ方がより男性に近くなるかな。というかほとんど男性。女の快感って子宮が担っている部分も多いから」
Tさんははっきり言った。
ずいぶんと実感がこもっているように感じる。
ビアンかどうかは気になっていたけどトランス男性と関係を持った事があるのだろうか。
「引き受けてくれるって事でいいのかな?」
「あ、はい」
あたしはTさんの言葉に驚いて返事をする?
尋ねるに尋ねられないTさんの恋愛事情の事を想像して短時間、上の空になっていた。
「本当に大丈夫そう?」
「正直、やってみないと分からないです。でも、下が女性なら出来そうかなって」
本音を言えば股間がちんちんじゃなくちょんちょんの男性を見てみたい好奇心もあった。
そして男性を恋愛対象として見たこともあるあたしがその身体にどう感じるかも。
「それじゃあ、依頼者の情報を共有するね。個人を特定できるものは省いて依頼に必要な内容だけだけどね」
Tさんが言うのはお店のシステムのあたしのアカウントにお客さんの情報の閲覧権限を付与したと言う意味だ。
それと同時にこの面談室のディスプレイにも表示する。
「とりあえず、今日は依頼者の情報を見てもう一度本当に引き受けるか確認させてもらうね。実際のさっきはトランス男性全体に対して、これはその依頼者に対して」
「わかりました」
画面に描いている身体の状態やセクシャリティ、性経験の申告内容を見ながらあたしはTさんから味方の説明を受けた。
「とりあえず大丈夫だと思います。初めての事なので自信はあまりないですけど」
「よかった。先方には引き受けると伝えていいかな?」
「はい」
「不安そうだね」
「経験がないのでこれまでのお客さんのようにできるか……」
「それは初めてならそういうものだよ。約束の日には一週間あるからしっかり予習しよう。他のお客さんの予約もあるから大変だろうけど」
「はい」
「わたしたちもサポートするからね」
多分、「わたしたち」はTさんと店長のことだろう。
他にも関係者がいるのかもしれないけど。さっき言ってたトランスジェンダーの団体の人とか。
断る選択肢もあったけど、話を聞いていてやってみたい案件だと思った。
男性に性的興味はないがセラピストという仕事の役割の意義のようなものは感じるし、お金のために短期間やるだけでも何かの役に立ちたいという気持ちもこの頃出てきた。
レズビアンとして問題を抱える人の相手をしてきて役に立ちたい気持ちを持つようになったのだ。
依頼者のプロフィールを見てあたしはこの一週間でどこまで準備ができるか、エンジニアとして培った問題解決の考え方が興味を掻き立てていた。
ただデリケートな事なので気を抜かないようにとは思う。