煩わしかった。
窓の縁は肘をつくには窮屈で、私は両手を膝に下ろした。
右手と左手が触れあうことは気分が良くないけれど、今日はいているスカートの生地はひんやり気持ちが良くて少し満足する。今日は人に会うつもりもなかったから、黒いスカートに黒のトップスを重ねた。私は猫より狐の方が好きだけど、黒い狐はいるのだろうか。あまり媚びるつもりはない。
窓の外はいつも灰色で、色がない。どうして人々は侘しい世界で生きているんだろうと不思議だ。通り過ぎる山の中にも家があって、平たい住宅街にも色がない。人間がいる。家にも車にも、人間が入って暮らしている。都会のなかには綺麗な家もあるのだろうけど、私はあまり見たことがない。どうして生きているんだろう。新幹線には旅の憂鬱が詰まっている。
京都に行ったのは、なんとなくだ。寄港した横須賀が嫌になって、日帰りで遠出をしようと思った。特別観光することもなく、何も食べなかった。ただ、気になって、ある神社に行った。出がけに薄雲が京都と言うのを聞いたからかもしれない。だれも不幸になることなしに、海防艦が鎮守府からいなくなりますように、と祈った。
缶を開ける音が聞こえた。
日は落ちてしまって、外はもう見えない。新型車の真っ白な照明が黒ずくめの私の輪郭を際立たせてくれるから、そこは評価したいと思った。
私は沖合から近づく。距離一万メートル、第一戦速。的外れな場所に弾が落ちて、海面を乱す。占守はきまって私の右舷前方に落とすけど、他の三人はめちゃくちゃだ。弾着を観測して自分との相対座標を記録する。自分を狙う弾を見るだけでも、なんとなく性格は分かる。
私は、次の弾が飛んでこないことに気付いた。占守だけではない。
双眼鏡の先で、岸に向かう占守が見えた。司令がいる、薄雲と一緒に。
取り舵、私は岸に向かう。第三戦速。
少し遠すぎる。
肉眼で司令の姿が見えるくらいになって、砲撃の音が聞こえた。
身構えた私のすぐ右にうなりが聞こえて、腋から汗が伝い落ちる。
続けざまに砲撃が聞こえて、私は水飛沫を拭いながら足を速める。
面舵、第四戦速。
岸に併走する私を容赦なく砲撃がかすめる。
私が進むより先に演習弾が足下を赤く染める。
弾が多い。
息ができない。
濡れた髪をかき上げることを諦めて、水面を縫いながら弾を避ける。
なにこれ、何がしたいの。
顔を拭い、息を吸う。岸に目を向けようとした隙に右肩に演習弾が中った。
蛍光色のシンナー臭い塗料が白のブラウスまで染みて肌に触れる。
落ちないの、これ、分かる?
足下に落ちた弾が水柱を上げて視界が途切れる。
きぃ、と国後を睨んだ後頭部に、ガツンと弾が中って音が消える。
足を緩めちゃいけない。堪えろ私。
ゆっくり開いた右目が被弾する。
殴られた、と思った。
一瞬、演習中であることを忘れた。
脳裏に占守の童顔が見えた。
笑っていた。
塗料が目に染みる。赤い視界で目を開く。
心を研ぎ澄ませる。
風を心で感じる。
主砲を占守に据える。
下腹部。
波に揺れる身体が沈むとき、撃つ。
鈍い反動を腰で感じる。
低い弾道が空気を切り裂き、風が髪をかき上げた。
至近弾が止み、私は命中を確信する。
弾着を観測できないのは心残りだが、格好悪いことはしない。
海風を吸い、三隻の目の前に順番に弾を撃ち込む。
取り舵、岸へ向かう。
魚雷の射角に入る頃、終業の鐘が聞こえた。
国後、八丈、石垣が占守の周りに駆け寄って、並んで引き揚げて視界から消える。
海にいるのは私だけ。
まだ距離があるけれど、今日は誰にも会いたくないから良い。
強速。
日没後の薄暗い夕日の陰で、岸に上がる。コンクリートの桟橋に、朱い染みが転々と落ちている。
思わず笑ってしまう。
私の初めてはリ級だった。一人で入渠して隠れて洗った。
今も一人。
私みたいな人間のこと、多分なにも知らない。
作戦に合わせて、私は南の泊地へ移った。
艦娘は私を含めて六人しか居ないけど、長門さんと陸奥さんがいて驚いた。引き揚げてきたらしかった。
長い航海で私の身体は塩が張り付いているのに、占守は着くなり寝てしまった。
月が明るくて気分が良かった。
設備もほとんどない島でも、風呂があって、それが楽しみだった。
屋外の風呂場には脱衣場がなくて、私は脱いだ制服を塀に掛ける。
みんな集まっていて、賑やかだった。新人歓迎会ということだろうか、占守はいないけど。
私はパンツの紐に指を掛ける。
少し恥ずかしい。
制服の下に上品な紐のパンティを仕込んでいるのが、密かなお洒落のようで胸が高鳴るのだけれど。
蝶結びの朱色の紐を一本ずつ、親指と人差し指でつまんで前に引けば、羽のように舞い降りる。
文月はこうでなくては。
ふん、とはなを鳴らして拾い上げたとき、ありえないものが見えた。
私の滑らかな裸体にそぐわない一物が剃り上げた鼠径部にぶらさがっている。
おちんちんだった。
恐る恐る、触れる。
湿っている。
私は焦って、手を奥に挿し入れる。
膣がない。
男性器は私の身体にくっついていて、おまんこの面影もない。
しかもなんだか、大きい。
私が慌てて振り返ったとき、湯船を囲んでいた艦娘たちがこちらを見ていることに気付いた。
いつの間にか静かになっていた。
目が合った陸奥さんの立派な肉体の足の付け根に、立派な一物があった。
小さな悲鳴が溢れた。
私は順番に、目を向ける。
睦月さん、弥生さん……長門さんは笑って足を開いて見せてくれた。
ここにいる全員に男性器が生えていた。
きっと夢だと思った。
いつの間にか賑やかになった風呂場の喧噪が、幕を張ったように遠く聞こえる。
今日は早く寝てしまおうと思った。
まだ夜は半ばだった。
魔法のようにさっぱり眠気が覚めてしまって、私は散歩に出掛けることにした。
二段ベットを降りると、下に居たはずの占守がいなかった。
私の一物は激しく屹立していた。
何も考えたくない。
そういえば、占守はどうなのだろう。
私は未明の泊地を歩く。
月はさっきより傾いているけど、太陽の面影はない。灯りはすべて落とされてがらんとしている。
占守は、風呂場から出てすぐの浜辺に見つけた。
膝を抱えて、海を見ている。
私は近づく。
占守は泣いていた。
「占守。」
私は名を呼んで、隣に腰を下ろす。
占守は私に抱きついて、濡れた顔を胸に埋めた。
幸せな泣き方だと思った。
私は髪をかきあげ、占守の頭をそっとなでる。
占守の髪を掬ってそっと耳に掛けたら、額に痣を見つけた。
「あら、痛かったね。」
優しく声をかけると、占守は顔をあげる。
「お姉さんに見せてくれる?」
占守の肩を優しくつかんで話しかけると、占守は黙って頷き、座り直す。
外傷はあまりない。両腕の肘の下に擦り傷があった。
私は膝をつき、スカートをめくる。
パンツはなかった。
女の子の躯だ、と思った。
「いたいいたい、するの?」
占守は涙を溜めた目で、私に尋ねる。
「お姉ちゃんがいるから大丈夫よ。」
ぷっくり肉付きの良い陰唇の隙間から白い液体がどろっと垂れて、スカートを汚している。ぬくい匂いが、女児の酸っぱさを幾らかましにしていた。
出血はない、大丈夫。
恵まれた子。今夜はきっと痛いだけでおわりよ。
生贄になるのだと思うと、愛おしさも生まれて優しくしてしまう。
私は腰からジンのスキットルを手に取り、ハンカチに染みこませて精液を拭き取る。
スカートの裾を整えて、私はまた占守の隣に腰を下ろす。膝に占守の頭を乗せる。
「楽になるお薬、あげる。」
占守の舌に錠剤を載せて、ジンを唇伝いに流す。
占守は小さく喉を鳴らして飲み込む。
まん丸い頬の輪郭が白く見えた。
私は顔を上げる。
夜の海は黒々としているけれど、今夜は月が明るくて飛沫がきらきら光って見える。波の音が昼間より随分大きく聞こえる。砂浜の先までは少し距離があるのに、油断すると攫われて仕舞いそうな気がする。
暖かい夜風に吹かれながら、私は耳を澄ませた。
「睦月がぶった。」
突然占守が言った。
驚いた。
驚いて、悲鳴が喉につかえた。
幻聴のように思えて、私は水平線を見つめた。
「嫌い。帰ったら絶対提督に言う。」
人間味のない空間の震えだった。
生理的な悪寒が私を硬直させた。
占守の体温を気味悪く感じた。
愚かな娘。自分の貞操の穢れを男に話して、あとで痛い目を見るのも知らない。
占守の横顔が隣にある。
むくんだ頬が月光を照り返している。
でももしかしたら、もしかしたらこの娘はちがうのかしら。
占守がこちらを見る。
やめて。
無様な躯で私に話しかけないで。
思わず立ち上がり、後ずさる。
ああ、この娘は、恥がないんだ。
いつでもどこでも不安なんて一時も感じないで、ぶつけられた性欲をただの敵意で跳ね返せば済むんだ。
風が吹いた。
私は踵を返した。
提督、どうしてこんな娘、貴方も嫌いなはずでしょう。
「文月って睦月の妹でしょう。」
背後から占守の声が聞こえる。
「ええ、そうね。」
私は振り向かずに答えて足早に立ち去る。
提督、あなたが薄雲を傍に置くのは自傷なのだと思っていた。あの娘は貴方を理解できない。私に対するあてつけだと思っていたから、私は貴方に近づかないようにしていた。でも、あなたはあれから少し変わったのかしら? 貴方は自傷に逃げて、形と心の乖離を広げているのだと思っていた。ああ、イエス様、生まれつき罪のない人間は愛を理解できないのだわ。犯された占守を見て貴方はどう思うのかしら。あなたの理性は、祝福された人間の穢れであなたをひどく苦しめるに違いない。
嫌。
許せない。
貴方は私によって苦しまなければならないの。占守はやはりあなたの近くにいてはいけない。
来るべきではなかった。
ああっ、汚い。
ハンカチを投げ捨てる。
月の周りの空は黒々としている。
明け方はまだ遠いけど、布団に戻る気にもなれない。
パキッ、と木の枝が折れる音がした。
私は振り返る。
私の五メートルうしろに占守がいた。
地面でも、空でもない、どこかを見ている。
私が立ち止まっているのに、占守は歩き続ける。
占守が、私を見た。
正面から月光を浴びる占守の顔はつぶさに見える。
ぷっくりまるい頬、大きな瞳、膨らんだ唇、黒い瞳。
小さな頭。
占守が私の目の前で立ち止まり、私の右手を握った。
占守が顔をあげ、眼が私を見た。
風が吹いた。
占守は顔を伏せる。
スカートが舞い、太腿が見えた。
私の男根は未だ屹立していた。
私の手を握る占守の両手は汗ばんでいて、さっきより温かかった。
薬を飲ませたことを思い出した。
この娘は無害、まだ何も知らないだけ。
私は膝をついて占守を抱きしめる。
占守の胸に頬をつけて、抱きしめる。
私の頭を、占守が撫でる。
トクン、トクン、トクン――
鼓動が心なしか速い。
ふわり、と体が浮く心地がする。指先が昂揚している。
占守の首元から順にボタンを解く。ブラウスがはだける。
暑いからだろう、下着はつけていなかった。
平らな胸板、その熱が逃げてしまわぬうちに、胸骨にそっと耳をつける。
皮膚のすぐ下の硬い骨が、トクン、トクンと揺れている。
体温が私より高い。
湿った皮膚が私の頬に吸い付いた。
目の前に、まだ小さな乳首があった。
私はまた、占守を抱きしめる。
私の背中を占守が強く抱いた。
縋るみたいだ、と思った。
私は占守の頭に優しく触れ、手を引いて風呂場に入った。
ただ囲いがあるだけで、空は繋がっていた。
はやまる鼓動に反して、指先は少し冷たくなっているように感じた。
海の先に吸い込まれてしまいそうな気がした。
占守を仰向けに寝かせる。
占守はとろん、と私を見ている。
私は親指と人差し指でつまんで、スカートの下の紐を引く。
風が吹いた。
占守のスカートがはだけて、濡れた筋に月光が跳ねた。
スカートの中を吹き抜ける涼しさに、身体が空に溶けたように感じる。
身体が脈打って、足が小刻みに震える。
スカートの下で陰茎が息をしている。
果たしていつ夢の終わりが訪れるか知らなければ、今しかない。
この瞬間を全力で感じよう。
「占守。」
私は声をかける。
占守はまどろみの中で、文月さん、と言った。
心臓が跳ねた。
「占守、好きよ。」
私は脈打つ陰茎を押さえて、亀頭で筋をひらく。
膨らんだ襞の間に小さな角があって、その角の下に月光が糸を引いている。
亀頭を隙間に、膣に挿し入れる。
ひっ、と占守が息を漏らす。
占守の躯が奥に滑って、上手く入らない。
穴が小さい。
占守の肩を両手でおさえる。
なで肩の薄い首筋は脈打っている。手首に鎖骨があたる。
体中を愛しさが駆け上がって、そのすべてを少女にぶつけたい。
ゆっくり、深く、腰を入れる。
ぬめる肉壁が亀頭を包み、震えそうになる身体を堪える。
ぱっくりひらいた占守の柔らかな口から暖かな息が漏れる。
呼吸が浅くなっているみたいだ。
占守の細い身体を抱き、身体の震えが収まるのを待つ。
占守の匂い。
炭酸水みたいな酸っぱさ。
すべすべのブラウスがひんやり冷たくて心地良い。
意識が落ちた占守の瞼には少し隙間があって、間に黒眼が見える。
首筋にそっと口づける。
ほんのり潮の味。
ゆっくり腰を引き、深く押し上げる。
膣肉が陰茎を強く締め上げる。
粘膜は熱く、やわらかい。
女の子の躯の中が、熱く、軟らかいことが、この上なく嬉しい。
陰茎が膣奥を押し上げるたびに、占守の肺から空気がもれて、細い首がカクン、カクンと動く。
占守っ!
愛しさが抑えられなくて、さっきより激しく、子宮をつく。
くはあっ、と占守が声を漏らす。
声にならない震えを堪える。
ピクン、と跳ねて、占守が眼を開く。
私はもう一度、深く子宮を突き上げる。
眼を見開いた占守が口を開けて、声にならない悲鳴をあげた。
世界から音が消えた。
およそ人間の声とは思えない叫びだった。
キンと高くて、私の耳を壊して脳を直接揺らした。
私は占守の腰を掴み、身体を引き起こして強く腰を打ち付けた。
「嫌ぁ――――」
と占守がまた叫んだ。
私を消し去る呪文だった。
私は無理矢理、腰をついた。
早く射精してしまいたかった。
「嫌あっ。」
金切り声で叫び、私の髪を毟り、胸を蹴り上げた。
後ろに転び、陰茎が跳ねた。
私も叫びたかった。
視界がぼやけて、占守の生殖器だけが白く見えた。
殺さなきゃとおもった。
息が苦しい。
私の影が揺れる度に、占守の悲鳴が空を切り裂く。
怪物だ、と思った。
むくんだぶよぶよの肉体は闇と同化していて、中が空洞だった。
空っぽの黒い瞳が暗闇の何処にあるのか分からない。
無音が空気を圧迫する。
銃剣――
そんなはずはない。
薄い刃は皮膚を擦り切る。
引き切る摩擦熱、皮膚の内側が黄色いことを私は知っている。
闇が私を呑もうとした。
「きいいいいぃ――――」
逃げようとする私を高音が襲う。
立てない。
腰から力が抜けている。
足が、手が震えて身体が動かない。
これは占守?
ただの女児が――女児ごときの分際で――。
占守が息を吸う、無音、
「ぎぃぃ――
「゛ああああああっ。」
無我夢中で、私は占守の悲鳴をかき消すように叫んだ。
怪異の呼び声を撥ね除けるように、低く息の限り吠えた。
無音。
無音のあと、占守が泣き出した。
この世を壊すような、頭を叩き割る泣き声が響く。
血がこれでもかと顔に集まって痛い。
憤怒で頭がぐらぐらして息が詰まる。
白い視界の中で陰茎だけが痛いくらいに屹立している。
「占守!」
暴れる腕を掴もうとしたとき、急に泣き声が消えた。
じわじわと、視野が現れる。
「ごふっ。」
占守は空気を吐いて動かなくなった。
濡れた性器を無防備に晒して丸くなっている。
長門がいた。
「うるせえよ。」
長門は吐き捨てる。
私に向き直る。
私は動けない。
腰をついたまま、長門を見上げる。
長門は、大きな手で、硬く屹立したままの陰茎を掴んだ。
力が強い。
痛いぐらいに握られて、私は息ができない。
長門は無言で私を見つめ続ける。
暗闇で長門は笑っているようにみえる。
私が声を出すのを阻むように、長門の右手は陰茎を硬く握り、怪力を惜しまず引っ張った。
血の気が引くのが分かった。
つうと冷たい風に撫でられて、痛みが溶けて消えた。
力が入らない。
もうどうにでもなれ。
右手にすべてを委ねようとしたとき、ぶちっ――と途切れた。
暗い。
音のない暗闇は寝袋の中みたいに苦しい。
大丈夫、きっと大丈夫。
身体と裏腹に、心が暴走しようとしている。
死ぬの。きっと死ぬの。だから大丈夫、大丈夫よ――
――ああ、死ぬ、死ぬんだ。
怯えないで。きっと死ぬから大丈夫、私を殺すぬくもりを信じて――
そうっと焦らず私を馴染ませてやれば、私は力を抜いて、私は闇に心を開く。
死ぬわけない。そんなこと微塵も考えてないけれど、死ぬから大丈夫と言えば、この娘は安心してくれる。
私を殺そうとする力は、暖かくて、信じることができる。
文月、大好き――
私は私を抱きしめる。
愛おしい気持ちが強ばる心を溶かすまで包み込む。
腕なんてないけど、まるで蝋燭の火を消すみたいに。
可愛い文月。いたいけな命。
☆★▲▲☆▲!
衝撃が走った。
身体中をぬくい膜が包んだ。
膜は一定のリズムを刻んでいて、生きているみたいだ。
全身を包んでいるはずなのに、何もないように感じる。無重力の柔らかさがある。
母の温かさだ、と思った。
胎内回帰の安心が身体中に浸透して、思考から言葉が失われていく。
私の喪失を感じながら、天国、という言葉がよぎった。
冷静だった。
仕方がないという諦めを素直に受け入れることができた。
考えることに疲れた。
解放は、他者によって行われる必要があった。
怯える私が、今は可愛く見える。
私を想う私の喪失を観測した。
喪失とは、同一性の喪失にあたるのかもしれないと思った。
階層を辿りながら、小さくなる私がみえる。
★☆▽▽★▽!
暴力が、私を引き摺りだした。
濡れた身体が外気に晒されて震える。
神様。
どうか神様、私の祈りを捧げます。
☆★▲▲☆▲!
私を癒やすように、母が私を迎え入れる。
地の果てには魔物が棲んでいて、私が目をつむるとき、魔物は私を呑み込んで魂を切り落としてしまいます。地の果てなんて遠くて手が届かないけれど、いつも私のうしろに魔物はいて、私が世界から目を離した隙にみんな壊してしまうのです。私は戦い続けてきたけれど、もう疲れてしまいました。
★☆▽▽★▽!
近頃は魔物が時々、視界の隅に据わって居るのです。海に出ると、振り返ったら鎮守府のある島がまるごとなくなっている予感がして底知れぬ不安に襲われるのです。計器が狂っていないか何度も確かめるうちに、足下の潮の流れがみるみる速くなって立てなくなります。立ち止まったら誰も見つけてくれないことを知っているから、私は進み続けてきました。鎮守府でもそうです。鎮守府……。
☆★▲▲☆▲!
夜に目をつむるとき、闇に私を委ねるとき、私は息を殺して断絶の訪れを耐えます。そういうものだと、私は毎晩繰り返してきました。考えては駄目です。世界を続ける手続きでなくてはなりません。目が覚めたら、私はもう一度世界を見張って、手続きを踏んで切断しなくてはいけない。朝になったら再び、正しい少女に戻ります。だからもう少し、ここに居させてくれませんか。まだ夜は終わらないで。
★☆▽▽★▽!
どうか今は、私を赦して。
この広い世界に、私を許す存在がないことは知ってる。
☆★▲▲☆▲!
だから、今だけは私を慰めて。
見捨てないでいて。
★☆▽▽★▽!
常世を隔てる幕はあまりに薄く、
☆★▲▲☆▲!
自分が今何処にいるのか、
★☆▽▽★▽!
思考が混ざって分からない。
☆★▲▲☆▲!
血液の巡りが加速して、
★☆▽▽★▽!
心が今、
☆★▲▲☆▲!
肉体に収束する。
★☆▽▽★▽!
膜が帯電して、
☆★▲▲☆▲!
肉体に稲妻が走り、
★☆▽▽★▽!
感覚が今、
☆★▲▲☆▲!
肉体に収束し、
★☆▽▽★▽!
膨れ上がった浮遊感に、
☆★▲▲☆▲!
肉体が硬直する。
★☆▽▽★▽!
私に耐えきれず、
☆★▲▲☆▲!
肉襞が今、
★☆▽▽★▽!
激しく痙攣し、
☆★▲▲☆▲!
最期の悪足掻きで、
★☆▽▽★▽!
私をきつく締め上げ、
☆★▲▲☆▲!
粘膜の先の穴が開く。
★☆▽▽★▽!
得体の知れない暴力が、
☆★▲▲☆▲!
私の頭を膣奥まで押し上げ、
★☆▽▽★▽!
じわりじわりと、
☆★▲▲☆▲!
とめどなく湧き上がる熱い飛沫が、
★☆▽▽★▽!
堪えようもなく、
☆★▲▲☆▲!
子宮口が頭に吸い付いて、離させないとばかりに膣肉が私を押し込む――
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
日の出前の薄明が目に飛び込んだ。
空が遠く、思いのほか冴えた思考に驚いた。
私は仰向けに寝ていた。
血の気が引く違和感をお腹に感じてハッと目を向けると、弥生がいた。
「あ。」
弥生はそれだけ言って、腰を押しつけた。
声をあげようか、迷った。
迷ったらもう、駄目だった。
弥生が口角をあげたから、私は嫌になって顔を背けた。
私の陰茎は女性器に戻っていた。
別に蹴っても良かった。でもなんだか、どうでも良かった。
単調で、出ているのか入っているのかよく分からない。
ぞわり、ぞわりと内臓を這う微かな感覚を、できるだけ無視しようと努める。
はやく射精しろ。
私は視線を巡らせる。
占守を見つけた。椅子の上にお腹をのせてうつ伏せにつぶれ、くの字に垂れた頭が床に触れている。放置されていた。膨らんだおまんこの透き間から精液が糸を引き、内腿を伝って床に垂れている。あれは、誰のだろう。
占守の足の裏の、親指の先の方に、くすんだ肉棒が転がっている。ふにゃりと縮んでいるが、おそらくあれはディルドだ。如月が使っているところを見たことがあるからわかる。
弥生が急にピストンを止め、腰を押しつけた。
あまり抵抗する気になれなかった。私は、占守のまんすじから染み出る精液を見ていた。弱い刺激を膜で感じた。あんなふうに溢れてくるとしたら、確かに面倒だと思った。
所詮たいしたことがなかった。たいしたことのない男のたいしたことのない精液が私の子宮の中にあるという事実は、特別可哀想でもなんでもなくて、私をたいしたことのない女にしただけだった。ただ、占守や、鎮守府の那珂や大井や三隈みたいな女に気を遣わなくて良いのは気味が良かった。
頬に触れる冷たいタイルの並んだ先に、開け放した扉があって、その向こう。海は見えないけれど、水平線に重なる空が見える。明け方の空は暗いけれど、海とははっきり色が違って、遠く澄んでいる。澄み切った空を感じるのは、きっとノイズがあるせいだ。
遠くへ行きたい。
遠く、とは水平線の先、惑星の表面を彷徨うばかりの小さな世界の先、水平に投げた亜光速の砲弾が、丸い地面を離れて空を突き抜けた、その先。空の発見に、きっと人類は絶望した。世界の階層を破るには、笑ってしまうほど遠い空間が直上にある。
――きっと私はあそこへは行けないんだ。
紡がれた言葉に驚いた。
無色透明な涙がつうとこぼれた。
涙は、こぼれた事実をもって私をなぐさめようとしているのだと分かった。
安心している自分に抗う力が、もう私にはなかった。
何がいけなかったのだろうか。どこで間違えてしまったのか。日常には希望がなかった。特別でありたいと願った。私には力があると信じた。私が苦しんでいるうちに私を殺してほしかった。諦めた先の日常で私が満たされないことを知っている。
寒い。
悪寒がぞわりと走り、闇がひらく。
あ。
魔物がいた。
目を閉じることができなかった。
身体が浮く。
クル――――
「嫌ぁ。」
声が出た。
身体が動いた。
空っぽな身体には体温がなかった。
硬い床から垂直抗力を受けて、私はかろうじて立ち上がる。
長門と陸奥がいる。
「たすけて!」
私はどう言えば良いのか分からない。
立ち尽くす長門の手に縋る。
膝が震えてへたり込んでしまう。
長門が、魔物だったらどうしよう。
怖くて顔を上げられない。
長門の右手に両手で縋る。
「あら。」
陸奥の声が聞こえる。
「大丈夫よ。」
陸奥は咥えていた一物を離して、私を抱き締める。
暖かい。柔らかい胸が私の心を掬い上げるように優しく、すらりと硬い手は私の髪を撫でる。
「大丈夫。大丈夫。ずっとここにいるわ。」
強張った心が少しずつ心を開いている。
波の音が聞こえる。
陸奥の心音が聞こえる。
まだここにいて。離れないでいて。
明けていく空が、不安を掻き立てる。
「陸奥さん。」
「なぁに、文月?」
私の心臓が、トクン、トクンと震えている。
「私を、犯して。」
言ってしまった。
ああ、言ってしまった。
私は陸奥を抱き締める。
陸奥姉さんは、私の肩を掴んで優しく引き離した。
綺麗なお顔。細い眉、大きな茶色い眼、白くてすべすべな肌、小さなはな、柔らかくて艶やかなくちびる、私はその下唇に口づけをする。暖かい吐息、近くにこないと分からないくらい静かな呼吸が、私の頬を撫でる。姉さんの細い舌が、私の唇の間を滑らせて前歯を撫でる。私の口をこじあける。姉さんの唾は匂いがない。ああ。私を食べようとしている。尖らせた舌が私の前歯の裏側をなぞる。
甘い刺激が脳を貫いて、腰が砕けた。身体が熱くなるのを感じる。力が抜けた身体で、私は姉さんの舌を受け入れるしかできない。硬くなった乳首がブラウスに擦れてこそばゆい。
「文月、横になって。」
私は仰向けに寝そべる。
少し距離が離れるだけで寂しい。
犯される私は少女のままでいたかったけれど、胸もおまんこも発情しきっていて、私は顔を背けて熱い息を吐く。
んっ。
陸奥の硬い中指が、おまんこの割れ目をしたからうえになぞる。クリトリスを撫でられて、腰がしびれる。陸奥の指が陰唇の内側で円を描きながら、人差し指と中指の先が膣口に入って、襞をおし拡げる。
「ゆっくり息を吸って。」
陸奥に言われて、私は深呼吸をはじめる。顔は背けたままだけど、早鳴る鼓動は収まらない。陸奥は膣口を拡げながらゆっくり円を描く。膣から外気の冷たさを感じる。あいた膣口から生暖かい液体が垂れて、肛門をなぞる。うそ。愛液が止まらない。急に恥ずかしくなるけれど、下半身には力が入らなくて、右肘で顔を覆う。
「文月のおまんこ、可愛いわ。」
絆されたおまんこの中に、陸奥の中指が入る。冷たい指に擦られて、ゾリゾリとしびれが走って腰が震える。何も考えられない。私のことなんてお構いなしに指が擦るから、声が漏れそうになって歯を食いしばる。
えっ――
陸奥がするりと指を抜いた。あっけなく終わってしまった刺激が切なくて、私は陸奥をみやる。
「文月。」
陸奥は豊満な乳房を垂らして顔をもたげ、私の頭を撫でる。
「挿れるわね。」
私は小さく頷く。奥歯を噛んで、刺激を待つ。
陸奥の亀頭が、陰唇をなぞったあと、膣口に口づける。亀頭を押しつける力が徐々に強まり、みちりみちりと亀頭が膣口を押し拡げる。カリが入った途端亀頭が跳ねて、腰から力が抜けおちた。
ふわふわした頭の中で、陸奥の陰茎がじわりじわりとねじ込まれる感覚が視える。
ひたすら脳内を支配していた陰茎が、とん、と子宮を突いた。快感が閾値を突き抜けて、意識が飛びそうになる。はあっ、はあっと熱い息が口をついて出る。
「全部入ったわ。陸奥のおちんちん、文月のおまんこの中に全部入ってる。」
陸奥が私にそっと口づけする。
頭の中で陸奥のおちんちんが視える。
斜めに突き出したカリの形がはっきり視える。
陰茎がぬめぬめと滑り出て、カリが膣奥へ入ってきて子宮口に触れる、ぬめぬめと滑り出て、膣奥へ入ってきて子宮口に触れる、ぬめぬめと滑り出て、膣奥へ入ってきて子宮口に触れる、あ、駄目、声が抑えられない。
あっ、あっ、あっ、いやっ、あっ、駄目っ、うっ、うっ、うっ、
子宮を突く度に頭がしびれて飛びそうになる。徐々に強くなる快感がもう自分では制御できない。身体が勝手に反応している。堪えられない刺激に駄目と声を出しても、陸奥のおちんぽは少しも容赦してくれない。徐々に大きくなる。快感が、深くまでくる。
いやっ、いやっ、いやぁっ、
私が私でないみたいな驚きも、嬌声を抑えられない恥ずかしさも、陸奥のおちんちんが入ってくる度に忘れてしまう。小さく速く息を吐く私の口に、長門が陰茎をねじ込んだ。
大きい。あまりに大きくて、あごが外れそうなくらいにこじ開けられる。張り付くような無味がする。私の甘い唾液で洗い流してしまいたい。動けない私の口内で、長門が陰茎を出し入れする。裏筋を舌でなぞるけれど長門は全然満足しなくて、喉奥に激しく突き込んだ。
゛お゛うぇっ、
せり上がる吐き気を陰茎に押し込められて、涙が溢れる。血の味がする。私は、心を急速に充たしていく何かを感じた。世界を色鮮やかにするような、慈愛に満ちた何か。息が苦しくて、血が回る。首を振ってはずそうとするけれど、両腕を押さえつけられて、長門の陰茎はびくともしない。陸奥のおちんちんが聞こえる。長門が腰を動かす。薄い息を吸うたびに喉に陰茎をねじこまれて涙があとからとめどなく溢れる。長門の動きが速くなって、呼吸もままならない。苦しい。長門が勢いよく陰茎をねじ込んだ。押し込まれた嘔吐に喉が痙攣して、陰茎から精液があふれ出る。あつくねばりつく液体が流れていく。息が苦しい。口内に溜まった精液の隙間で、私は息をつく。涙に濡れた私の目の前で、私の口から抜いた長門の陰茎が、みるみるしぼんで、長門の股間からぬるりと抜け落ちた。精液は、ほんのり塩の味がして、ほんのり甘い。うどんのゆで汁のような懐かしさを感じて、ゆっくり飲み下す。
ふわふわする意識が返ってこれない。脱力した身体で息を整えようとしたとき、陸奥が頸動脈を絞めた。息はできる。呼吸はできるけど、血管が脈打って、トクン、トクンとひふが震える。陸奥の綺麗なお顔がみえる。血液が薄くなる。ぼんやり遠くなる意識の中で、子宮が揺れるのを感じる。子宮しか視えない。ふわりと身体が浮いて、白飛びした脳内に、子宮の揺れが直に響く。あ――。
パチン、と目が醒める。明晰な視野いっぱいに明瞭なおちんちんが子宮を突き上げる。濃縮された刺激が一気に身体を突き上がって脳が焼ける。次から次と快感が押し寄せて還れない。深く、深奥まで押し込まれる。来る。既に閾値を通り過ぎていて、本能で生命の危険を感じる。底なしの闇におちんちんが現れて子宮を揺らす。来る、来る、クル、駄目、駄目、駄目、駄目駄目駄目駄目だめだめだめだめだめいやぁ――――。
失神を許さないほどの激しい稲妻が全身を駆け巡って脳を焼き切る。骨盤が跳ね上がって腰がガクガクと不規則に揺れ、膣いっぱいに膨れた陸奥のおちんちんがブルブルブルと子宮を振るわせ卵巣に熱い汁をそそぐ。息の吸い方を忘れた脳内に、舌に残った精子の味が広がって血潮の隅々に仁愛の心が満ちた。
陸奥がおちんちんを抜く。敏感な膣がピクピク震えた。
「愛しているわ、文月。」
仰向けのまま動けない私の枕元で、陸奥は私の頭を撫でた。私は目をつむり、甘い余韻に身を委ねる。遠ざかる足音をぼんやり眺めた。おまんこから精子を垂らしながら、私と占守がふたり、朝日も過ぎた爽やかな陽光の下で横になっている。時折不規則に子宮が痙攣し、当分立ち上がれそうにない。
私は息を整えながら、右手で抜け落ちた陰茎を掴んだ。陸奥の薄桃色の陰茎は、萎えて茶色くくすんでいる。
私はそっと口をつけ、亀頭の先を少し囓った。
ちんちんはたちまち溶けて、指の隙間から溢れて消えた。