二年生になった俺は、八奈見とどういう訳か流れで交際が始まり。
清き良きお付き合いのまま、俺たちは旧校舎の非常階段で弁当を食べていた。
「ぬっくみっずくーん。私は今、非常に重大な問題に直面しています」
「……八奈見さんなら何とかなるよ」
「そんな適当な励ましが聞きたいわけじゃないんですけど!?」
口元からほのかに香るのは、だし巻き卵の匂い。
声色が不機嫌なのに表情が上機嫌なのは、一体どういうことなのやら──
「……親が家に居られないからって、草介の家に週末泊められそうになってるの。ご近所付き合いなんて文化、もう要らないんじゃないかな」
八奈見が闇落ちしそうになっている。
でも思い出して欲しい。それは古き良き日本の文化のはずだ。
複雑な内心で八奈見と話を続ける。
「八奈見さんの両親、わりと過保護なんだね」
「ほんとだよね。私結構お留守番好きなのに。前の時は放って置かれてた高そうなお菓子何個も見つけちゃって。掘り出し物だったよ」
八奈見は戦果を誇るように語りつつ、ベーコン巻を口の中に投げ込み咀嚼する。
なるほど。因果関係がこの上なく単純だ。
「八奈見さんなら女子会とかできそうだけど」
「うんうん。たとえば華恋ちゃんは親友だし、一人暮らししてるから適任だよね」
姫宮家はいいのか。その内そこも袴田家になるぞ。
一年経っても親友設定が継続していることに感心していたが、八奈見はさらに深い闇へと落ちていった。
「でも……今週はもう別の友達が泊まってるんだよね。私が泊まると一週間連続になっちゃう」
「姫宮さん、別に期間は気にしなさそうだけど」
「温水君。私くらいになると、草介が外泊する頻度もわかるんだよ。その上で断言できるけど……一週間も、途切れない」
よし、この話は終わろう!
切り上げたかったのに、八奈見は両手の指先をそっと合わせて、わざとらしくため息を吐いた。
「そんな途方に暮れている私に、手を差し伸べてくれる優しいお友達がいたの。世の中捨てたもんじゃないんだよ」
へえ。急な話なのに八奈見を泊めるなんて、きっと天使のように心が広い子なんだろうな。
俺も甘やかして欲しい。
「八奈見さん、いい友達が居るんだね」
「うん。温水佳樹ちゃんっていう子なの。可愛いんだよ」
──俺の首筋に、タラリと伝わる汗。
「お客様用の部屋もあるんだって。大きな家に住んでる子は一味違うよねー」
「──実はその子の家、年頃のお兄さんが住んでいるらしいんだ。そう、年頃の。八奈見さんが押しかけるのは、ちょっとマズいんじゃないかな」
そうそうない緊張感のなか、八奈見はじっとりとした目で俺に告げる。
「温水君……妹の交友関係に口を出すのは、どうかと思うよ」
とうとう取り繕わなくなった八奈見は、まるでまともな助言を授けるようにして髪をたなびかせ去っていった。
……え。間違ってるの、俺の方なの?
◇
八奈見が泊まりに来る当日。学校終わりに、佳樹と一緒に彼女を出迎える。
「ようこそいらっしゃいました八奈見さん! 安心してください、準備は万全ですよ」
「いらっしゃい八奈見さん。あれ、そういえば父さんと母さんは──」
挨拶くらいはと思っていたところに、佳樹がすとんと割り込む。
「お父さんとお母さんは久しぶりに2人で温泉旅行に行きました。お兄様と八奈見さんの邪魔はさせません」
「え、俺も行きたかった」
「何を言うんですか! はるばるいらした彼女を歓迎しないなんてあり得ません。さあ、お客様用の部屋はこちらです」
佳樹に背中を押され、俺と八奈見は客室に足を踏み入れる。そして扉がばたんと締められた。
振り返った目線の先にあるのは簡素な張り紙。やたら達筆な字でこう書かれていた。
『じれったいのでセックスしないと出られない部屋』
…………ちょっと世界観が違わないかな。本当に出られないし。
八奈見もポカーンとしている。可愛いな。
そして、妹にスマホの閲覧履歴を確認されていたかもしれない可能性に背筋が震える。
「んん、まあまあ。妹ちゃんもこういうおふざけをやってみたいお年頃なんだよ。私たちは大人の余裕で? どーんと構えておけばいいんです」
「八奈見さん、何でベッドの上でお菓子食べてるの……?」
「だってお好きに食べてくださいって書いてるし……」
確かに部屋のあちこちにお菓子や食料が置かれているけど。
この状況で用意されているものは食べない方がいい気がする。それとなく八奈見にも控えさせよう。
「八奈見さんほら、カロリーの問題が」
「余計なお世話、です。これはもう試食みたいなものだし。大丈夫だよ」
「試食だとどう関係するのさ」
「温水君。お試しだとね、クーリングオフが出来るの」
クーリングオフ。やったことないけど、多分そんな制度じゃないと思う。
「クーリングオフの手続きをしたら、カロリーはこう……不思議なパワーで? どこかに返しちゃえるんだよ。私はいつでも体重を元通りにできる状態なんです。はい、温水君も試食どうぞ」
「むぐっ」
食べた直後はなんともなかった。
が、しばらくして……八奈見の顔色が紅潮していき、体温も高くなってきている。
俺にも同様の現象が起きていて、明らかに何かが盛られていた。
熱っぽい雰囲気に流されないように我慢していると、チロリと頬に伝わる感触。
この妙に湿っぽい肌触り──
「え、八奈見さん。もしかして今……俺の頬舐めた?」
「温水君の頬っぺた、なんか美味しそうに見えちゃった。こう、呑気に構えてるのが悪いとこあるよね」
動揺する間もなく、八奈見のフィジカルによって軋むベッドの上に押し倒される。
八奈見はぱさりと服を脱いで、勢いのまま下着を露出させた。
「ぬ、温水君……そ、その。優しく、してよね」
自分から押し倒してきて、なにを言っているんだろう。
だが俺も高校生。こんな素晴らしい状況には抗えない──
◇
流れる汗。乱れるツワブキ高校の制服。ほとんど裸になった肢体。
お互い興味本位で色々な場所を触ったけど、なかなか八奈見が普段と違ってしおらしい。
「初めては海が見える素敵なホテルが良かったけど。彼氏の家っていうのも、また平凡な良さがあったり──」
「八奈見さん、思考が乙女過ぎない?」
「……乙女ですけど。温水君がいま奪ったのは、乙女の唇なんですけど」
腰を浮かせた八奈見から、コットン生地のパンツを抜き取った。そのまま柔らかい割れ目に人差し指を入れる。
八奈見がビクッと身体を震わせて、ちょっとだけ跳ねた。
え、なんだこれ。反応を見るのがわりと楽しい。八奈見は脚をぴっちりと閉じて抵抗して、指が動くたびに軽く悶えていた。
「ぬ、温水君……大胆になったね。男子は3日会わざれば何とやらなのかな」
「俺と八奈見さん、3日も会わない日あったっけ……」
「そ、そりゃあ、ないかもしれませんけど。なんだ、温水君も私のありがたみがわかってきたんじゃん」
ズボンから性器を出すが手順がわからなくて、とりあえず八奈見の股の間にこすりつける。
前後するだけで肉感的な滑りと温かい圧力が伝わってきた。
胸もふくよかで触り心地がいい。……ちょっとだけお腹を触った。
「お、お腹触るのはダメだよ! 条例違反です! そ、それに……なんで焦らすの。温水君」
「あ、これって焦らしになるんだ。わからなくて」
八奈見の股の感触が気持ちよくて、つい夢中になっていた。
待たせるのもどうかと、じっくりと掻き分けながら挿入をする。
「むぎぎぎぎぎ……」
八奈見、流石にキツそうだ。しばらくこのままじっとしていよう。
なんか入れているだけで気持ちいいし……
流れる熱と高揚感で、冷静な思考はできていない。
「温水君、抱きしめて」
「……こうかな」
「もっとだよ。力は強くしていいから」
言われるがまま八奈見を抱きしめる。俺の胸板におされて、八奈見の豊満な胸がふにゅりと形を変えた。
今まで感じたことのない生の刺激に、興奮して血液が集中する。
「ま、まだ大きくなるの……変態だね、温水君は」
徐々に密着する頻度が増えていく。
行為をしている最中に、八奈見からは途切れなくキスで口の中を貪られていた。
「八奈見さん……食欲にまみれるのはやめよう。俺食べ物じゃないから」
「まみれてません。温水君、欲望と夢はでっかくないといけないんだよ。──これくらい、叶えさせてよね」
執拗に八奈見から首筋や耳を甘く噛まれている。
八奈見、やはり人類も捕食対象なのか……? 油断ならない。
しかし八奈見が動くのもあるけど、一人でやる時みたいに上手く動かせない。もどかしい。
「温水君、おっぱい吸ってもいいよ」
「そ、そこまではやらないよ」
胸を弄びつつ、覆い被さるように体勢を入れ替えて、八奈見の膣のより深い場所で擦っていく。
俺の下腹部に当たっている、八奈見のお腹の感触が気持ちいいが──
「えっと八奈見さんゴメン。俺、もう出ちゃいそうで」
「うん、いいよ。いつでも、きて」
初体験なんてあっという間だ。
八奈見の胸に顔をうずめられて、二の腕で包まれながら抱擁をされる。
八奈見は腰で緩くねじるように男性器を刺激してくれた。うっとりとした視線をちらつかせ、耳もとで彼女が囁く。
「ねぇ温水君。好きだよ。君が私のことどう考えてるか、わかんない時もあるけどね。それも含めて君かなって」
それなら俺だって……返す間もなく脳から爪先まで浸る快感。
抑えきれなくなった精液が、八奈見の膣内に向けてとめどなく溢れていく。
「んっ……♡」
◇
──乱れ切った息に、得も言えない喪失感。
お互い未経験からの卒業をしたからか、八奈見が大人びて見える。
でも様子が少し不安定にも見えて。
あれだけくっついていたからこそ、戸惑いの気持ちで微妙な距離感になっていた。
「八奈見さん、緊張してる?」
「……し、してませんけど」
「えっと、この後泊まるといっても一晩だけなんだし。いつものように過ごして欲しいというか」
俯く八奈見を尻目に、思わず頭を掻く。
事後の言葉選びを間違えたか……?
恐る恐る様子を伺っていると、八奈見はにへらぁと笑って、使っていた避妊具をぱくりと口に咥えた。
「そっかー。温水君はそのままの私が大好きなのか。なら仕方ないかな」
待ってくれ。そこまでは言っていないぞ。
「……ね、夜食食べようよ夜食。これだけやったんだからもう出れるでしょ。お湯が欲しいんだよね」
八奈見はどこからか取り出したカップラーメンを片手に、ニヤリと笑う。
すっかりいつもの調子を取り戻した彼女は、下着を付け直してシワだらけの制服のボタンを留めていった。
「──ね、温水君。澄ました顔してたけどさ、どうだったの」
「……はい。気持ちよかったです」
「ふーん。わかった。なら今度は──」