シンシアナ王国には「元日に夫婦が交わればその年は安寧に恵まれる」という言い伝えがある。堅物と噂される王太子と、生真面目な公爵令嬢。政略結婚で結ばれたばかりの二人は互いに経験がないまま、やたらと堅苦しく「閨房作法」を確認し合う。

「まず衣服を解き、次いで身体を清め……」

「文献によれば焦らず順を追って解くべしと」

緊張で震える指先、ぎこちないやり取り。しかし会話を重ねるうちに二人は気づいていく。
なぜこの相手を選んだのか。なぜこの人となら歩めると思ったのか。
真面目すぎる王太子と負けず劣らず生真面目な令嬢の不器用な初夜の物語。


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お堅い二人

 ◆

 

 シンシアナ王国に新年がやってきた。窓の外では旧き年を送り出し、新年を寿ぐ鐘の音が、雪の降り積もる王都の夜空に吸い込まれるように響いていた。

 

 新年を迎えた空には未来を祝福するかのような篝火が幾つも揺らめき、その朱色は分厚い窓硝子越しに室内の闇を微かに染めている。

 

 王城の奥深く、歴代の王たちが愛を育んできた主寝室──天蓋付きの豪奢な寝台の上で向かい合う二人の間には、最高級の蜜蝋で作られた太い蝋燭が一本だけ灯っていた。

 

「では」

 

 王太子レオナルドは居住まいを正し、今日という日に妻──ロムルス公爵家の長女、エリアーナを見つめた。彼女はレオナルドの婚約者だ。いや、婚約者であった。

 

 過去形なのは、先日挙式し、二人が正式に夫婦となったからである。

 

 今日という日はそんな二人の、いわゆる初夜であった。

 

 エリアーナは純白の絹の寝衣に包まれた背筋を凛と伸ばしたまま、夫となった男を真正面から見返している。

 

 しかしながらこの空気感。

 

 二人の間に漂う空気は甘やかな新婚初夜にしてはいささか硬すぎる。

 

「まず、手順の確認をしようか」

 

 レオナルドの重々しい言葉に、エリアーナは真剣そのものの眼差しで頷いてみせる。

 

「ええ、それがよろしいかと存じます。なにぶん、双方ともに実技経験がございませんので、認識の齟齬は致命的な失敗を招きかねません」

 

「そうだな。王立図書館の閉架図書にあった文献と、宮廷医ならびに教育係からの講義には一通り目を通して暗記してあるが、実践となると不確定要素が多い」

 

「おっしゃる通りでございます。座学と実技の乖離は、往々にして現場の混乱を招くものです。では殿下、基本的な流れを私めが復唱いたしますので、誤りがあれば即座にご指摘くださいませ」

 

 レオナルドは深く頷き、顎を引いた。

 

 シンシアナ王国には年の始まりの日に夫婦が交わることでその年の関係に安寧と繁栄がもたらされるという古い言い伝えがある。二人が今夜、形式的な挨拶もそこそこに祝賀パーティを抜け出して寝室へと退いたのは、その伝承を極めて真面目に遂行するためであった。

 

 しかしながら、二人の気質が事態をややこしくしていた。

 

「第一段階。まず衣服を解き、互いの肉体を確認する。第二段階、身体を清めつつ愛撫を行い、精神と肉体の緊張をほぐす。第三段階、結合。以上が基本要綱かと」

 

 エリアーナの説明はまるで軍議における作戦概要のようである。

 

「概ね正確だ。ただし、文献によっては第一段階にも様々な流派があるようだ」

 

「流派、でございますか」

 

「ああ。私が読んだ『古代ルシタニア貴族の婚姻儀礼』によれば、衣服は互いに脱がせ合うのが礼儀だとあった。一方で、ベルタ女史の著した世界的ベストセラー『閨房作法指南・改訂版』には、焦らずに順を追って、会話を楽しみながら自ら解くべしとある」

 

「なんと。私が参考にしたマルコス師の『夫婦和合論・実践編』では、相手の反応を見ながら、まずは視覚的な興奮を高めるために薄布一枚を残す『焦らしの技法』が推奨されておりました。また、東方の秘典『翡翠の経典』には、布擦れの音を楽しむことこそが風流であるとの記述も……」

 

 二人は真剣な面持ちで、それぞれが夜な夜なこっそりと、しかし熱心に学んできた知識を突き合わせている。

 

 蝋燭の炎がゆらりと揺れ、壁に二人の大きな影を落とした。

 

 エリアーナの白い寝衣がその光を受けて、真珠のような淡い光沢を放っている。

 

 レオナルドは妻の姿を改めて観察した。

 

 栗色の髪を緩く編み下ろし、化粧を落とした素顔は昼間の完璧な公爵令嬢としての仮面とは違う無防備な柔らかさを湛えている。ふわりと香るのは湯浴みの際に使用した薔薇と白檀の香油だろうか。

 

 胸の奥で何かがごとりと音を立てて跳ねるのを感じながら、彼は努めて冷静な声を維持した。

 

「……複数の文献を統合して考えるに、まずは互いの合意形成と、精神的なリラックスが最優先事項だと思われる」

 

「同意いたします。では殿下、まずは寝台に腰掛け、文献にあった『導入の会話』から始めましょうか」

 

「そうしよう。ええと、確か推奨されていた話題は……」

 

「『二人の馴れ初め』あるいは『相手の美点の列挙』でございます」

 

 エリアーナがすらすらと答える。

 

 レオナルドは咳払いを一つした。

 

「では、私から行こう。……エリアーナ。君は非常に、その、美しい」

 

「ありがとうございます、殿下。殿下も大変に……凛々しく、魅力的でいらっしゃいます。特にその、鍛え上げられた大胸筋の厚みは、彫像の如く理想的かと」

 

「そ、そうか? 毎日素振りを千回こなしている成果が出ているなら嬉しいが」

 

 エリアーナの視線がレオナルドの胸元に注がれ、レオナルドは思わず胸を張った。

 

 褒め合うという行為だけで、室内の温度が一度上がったような気がする。

 

「……会話による緊張緩和は、一定の成果を上げたと見ていいだろう」

 

「はい。心拍数が上昇しておりますが、これは緊張というよりは、高揚感によるものと推測されます」

 

「では、次の工程へ移行しても?」

 

「はい、殿下のお好きなように」

 

「いや、エリアーナの気持ちを最優先にしたい。『紳士の嗜み』第4章にも、女性の準備が整うのを待つのが王者の余裕と書いてあった」

 

「恐れ入ります。されど、私も殿下のご意向を……ああっ、このまま譲り合っていては夜が明けてしまいます」

 

 エリアーナが焦れたように身を乗り出した。

 

 その拍子に、寝衣の襟元がはらりと乱れ、鎖骨の白く華奢なラインが露わになる。

 

 レオナルドの喉仏が上下した。

 

「よし。では、僭越ながら私からリードさせてもらおう」

 

 レオナルドはゆっくりと手を伸ばし、妻の肩に触れた。

 

 薄いシルク越しに伝わる体温は、予想していたよりもずっと高く、柔らかい。

 

 エリアーナの肩がびくりと震えた。

 

「痛かったか?」

 

「いいえ、むしろ……いえ、とにかくお続けください」

 

「ふむ……気になるが了解した」

 

 レオナルドは真面目な顔で頷き、指先を滑らせて寝衣の紐に手をかけた。

 

 するり、と衣擦れの音がやけに大きく響く。

 

 白い布がエリアーナの肩から滑り落ち、腰のあたりで留まった。

 

 露わになった肌は、蝋燭の光を吸い込んで発光しているかのようだ。

 

 丸みを帯びた肩、そこから続く二の腕の滑らかさ。そしてコルセットから解放された豊かな双丘が、恥ずかしげに、しかし重力に逆らって上向いている。

 

「…………ッ」

 

 レオナルドは息を飲んだ。文献の挿絵とは次元が違う。

 

 平面ではなく、質量と体温と香りを伴った「実物」の破壊力に、彼の脳内の情報処理が追いつかない。

 

「殿下? 観察の時間が長すぎます。羞恥で肌が熱くなってまいりました」

 

「す、すまない。あまりに……その、造形美として完璧すぎて、見入ってしまった」

 

「……褒め言葉として処理いたします。殿下も、その、お召し物を」

 

 促され、レオナルドも上着を脱ぎ捨てた。

 

 鍛え抜かれた上半身が露わになる。

 

 エリアーナの視線が、彼の腹筋の隆起や、腕に浮き出る血管の筋を熱心に辿った。

 

「素敵です……造形美と機能美、双方を兼ね備えたお体ですわね」

 

「触ってみるか?」

 

「よろしいのですか?」

 

「相互理解の一環だ」

 

 エリアーナがおずおずと手を伸ばす。

 

 ひやりとした細い指先が、レオナルドの熱い胸板に触れた。

 

「固い……のに、温かいです。心臓の音が掌に響いてきます」

 

「エリアーナに触れられて、早鐘を打っているんだ」

 

「まあ。殿下も動揺なさるのですね」

 

 エリアーナは嬉しそうに微笑むと、大胆にも両手で彼の頬を包み込んだ。

 

 至近距離で見つめ合う。

 

 互いの瞳に、揺れる炎と、紅潮した相手の顔が映っている。

 

「では、殿下。ここからは『東方秘術・愛の経絡図』にあったマッサージを試してみたく存じます」

 

「なんだそれは。私も未読の文献だ」

 

「王家の書庫の、鍵のかかった棚にございました。人間の身体には『ツボ』と呼ばれる快楽のスイッチがあるそうです」

 

「ほう……! それは実践的だ。ぜひ試してくれ」

 

「では、失礼して」

 

 二人は寝台に横たわった。

 

 まずはレオナルドが仰向けになり、エリアーナがその上に跨る形になる。

 

 彼女の重みなど無いに等しいが、下腹部に感じる柔らかい感触にレオナルドの理性が早くも軋みを上げた。

 

「こ、ここでしょうか」

 

 エリアーナの指が、レオナルドの首筋から耳の後ろへ這う。

 

 ぐり、と親指で押された瞬間。

 

「ぐっ……!」

 

「おや、お声が出ましたね。当たりでしょうか」

 

「そこは……効く。神経が直結しているようだ」

 

「なるほど。では、こちらは?」

 

 指先が胸板を滑り降り、脇腹をなぞる。

 

 くすぐったさと、痺れるような快感が混ざり合う。

 

 レオナルドはシーツを握りしめた。

 

「エリアーナ、君の手つきは……素人とは思えないな」

 

「ピアノのお稽古が役に立っているのかもしれません。強弱、リズム、そして旋律を奏でるように……」

 

 言いながら、彼女の手は大胆にも下腹部へと伸びていく。

 

 寝衣越しに、既に限界まで硬直している部分に触れた。

 

「あ」

 

 エリアーナの手が止まる。

 

 物理的な大きさの変化に驚いたようだ。

 

「……文献の記述通り、著しい膨張が見られます」

 

「男とはそういう生き物だ。特に、愛しい妻に跨られてはな」

 

「愛しい……」

 

 その言葉に、エリアーナはとろりと目を細めた。

 

 研究者の顔が消え、雌の表情が浮かぶ。

 

「殿下。私、交代を所望します」

 

「交代?」

 

「はい。私も……殿下に触れていただきたい。その、色々なところを」

 

 レオナルドは即座に身体を起こし、エリアーナと位置を入れ替えた。

 

 今度は彼が覆いかぶさる形になる。

 

 完全に露わになった妻の肢体が、白いシーツの上で淡く桜色に染まっている。

 

「では、私の研究成果も披露しよう。『王立医学院監修・女性解剖生理学』によれば、女性の肌は非常に繊細で、特に内側が敏感だとされている」

 

「内側、でございますか」

 

「ああ。腕の内側、太腿の内側……」

 

 言いながら、レオナルドはサイドテーブルの引き出しから小さな小瓶を取り出した。

 

「それは?」

 

「『南国の秘薬・媚薬の香り付きマッサージオイル』だ。無論正規の品だ。安全性は宮廷医がしっかりと確認している」

 

「まあ! 準備周到でいらっしゃいますこと」

 

 レオナルドは琥珀色のオイルを手に取り、掌で温めた。

 

 甘く重たいイランイランの香りが寝室に広がる。

 

 ぬらりと光る指先を、まずはエリアーナの二の腕の内側に這わせた。

 

「ひゃぅっ」

 

 可愛らしい声が漏れる。

 

「冷たかったか?」

 

「いいえ、ぬるりとして……不思議な感覚です。そこ、吸い付くようで」

 

「滑りを良くすることで、摩擦による不快感を軽減し、密着度を高める効果があるそうだ」

 

 レオナルドの手は、二の腕から脇、そして胸の膨らみへと移動していく。

 

 オイルのおかげで、皮膚と皮膚の境界が曖昧になるほど密着している。

 

 掌で胸を包み込み、円を描くように捏ねる。

 

「あっ、ん……っ、殿下、そこは」

 

「どうだ?」

 

「強さが……絶妙です。あ、その指使いは……」

 

「『宝石研磨職人の指先』という技術本から得た業(ワザ)だ。優しく、しかし確実に芯を捉える指使いを学ぶにはうってつけだと父上に勧められたのだ」

 

 親指の腹が、硬くなった先端を弾いた。

 

「んああッ!」

 

 エリアーナの背中が弓なりに反る。

 

「反応が素晴らしい。教科書通りの反応だ」

 

「殿下……教科書など、もう……どうでも……」

 

 エリアーナの瞳が潤み、焦点が定まらなくなってくる。

 

 レオナルドもまた、理屈を並べる余裕を失いつつあった。

 

 目の前で乱れる妻の姿が、どんな難解な学術書よりも彼を興奮させるからだ。

 

 彼はオイルを追加し、さらに手を下へと滑らせた。

 

 平らな腹部を通り過ぎ、秘められた森へ。

 

 エリアーナが本能的に脚を閉じようとするが、レオナルドは膝を優しく割り、その間に入り込んだ。

 

「開いてくれ、エリアーナ。ここを丹念に解さないと、本番で君が痛い思いをする」

 

「は、はい……でも、恥ずかしい……」

 

「恥ずかしがる必要はない。『生命の神秘・生殖編』には、ここは聖なる花園だと記されていた」

 

「殿下は……詩人ですね……んくっ」

 

 レオナルドの中指が、濡れた花弁の合わせ目をなぞった。

 

 そこは既に、エリアーナ自身の愛液でしっとりと湿っている。

 

「素晴らしい。準備は整いつつあるようだ」

 

「報告しないでくださいませ……っ、あ、そこっ!」

 

「ここか?」

 

「はい、そこの、その……硬い部分、が」

 

「ここを刺激すると、快楽物質が脳内に分泌されるんだったな」

 

 レオナルドは執拗にそこを責め立てた。指先を細かく震わせたり、円を描いたり。

 

 オイルと愛液が混ざり合い、くちゅ、くちゅ、と卑猥な水音を立て始める。

 

 その音自体が、更なる興奮を煽る。

 

「あ、あ、だめ、殿下、何かが、溜まって……!」

 

「溜めなくていい。放出するのが自然の摂理だ」

 

「理屈はもう結構です! あ、ああっ、んーーーーっ!」

 

 エリアーナがシーツを鷲掴みにし、激しく身を震わせた。

 

 一度目の小さな絶頂。

 

 彼女の呼吸が荒く乱れ、全身の力が抜けていく。

 

 レオナルドはその余韻を楽しむように、彼女の太腿の内側に口づけを落とした。

 

 そして、自身の昂りを解放し、彼女の入り口にあてがう。

 

「……エリアーナ。そろそろ、最終段階へ移行してもいいだろうか」

 

 エリアーナは乱れた髪のまま、とろんとした瞳で夫を見上げた。

 

「……許可を……求めないでください……早く、殿下を……」

 

「わかった」

 

 レオナルドは体勢を整えた。

 

 亀頭が入り口を押し広げる。

 

 きつい。想像以上の締め付けにレオナルドの表情が歪む。

 

「くっ……これは……」

 

「……入って、きて……」

 

 レオナルドは慎重に、しかし力強く腰を進めた。

 

 処女の窄まりをこじ開け、熱い肉壁を押し分けていく感覚。

 

 エリアーナが苦痛に顔をしかめた。

 

「痛むか?」

 

「すこし……っ、でも、大丈夫。あなたが、満ちてくるのが……わかります」

 

 最奥まで到達した瞬間、二人は同時に息を吐き出した。

 

 完全に繋がった。

 

 互いの鼓動が、接触面を通じて直接響き合っているようだ。

 

「……動くぞ」

 

「はい……お願いします」

 

 レオナルドはゆっくりと抽送を開始した。

 

 最初は浅く、様子を見ながら。

 

 徐々に深く、速く。

 

 オイルの香り、汗の匂い、そして交じり合う体液の匂いが濃厚に立ち込める。

 

「あっ、あ……殿下、そこ、深いっ」

 

「エリアーナ、君の中は……いや、もはや言葉は不要か。参る!」

 

「んっ、ああっ! 殿下、すき……好きです、ああっ!」

 

 理性的な会話など、もう不可能だった。

 

 レオナルドはただ快楽に突き動かされ、本能のままに腰を振る獣になった。

 

 エリアーナもまた、公爵令嬢の殻を脱ぎ捨て、夫の背中に爪を立てて啼いている。

 

 粘着質な水音が部屋に響き渡る。

 

 何度も角度を変え、互いの良い場所を探り合う。

 

 賢い二人は、身体での学習能力も高かった。

 

「こ、の角度……深くに当たって……!」

 

「ここか? それとも──こうか?」

 

 レオナルドがエリアーナの脚を担ぎ上げるような体勢を取る。

 

 恥ずかしいポーズだが、信じられないほど深くまで結合できる。

 

「あ、あ、すご、い! そこ、潰れるっ、ああっ!」

 

「エリアーナ、愛している……っ、一緒に、行こう!」

 

 限界まで高まった快楽が、火花のように炸裂した。

 

 レオナルドは最奥に深く打ち付け、熱い種を注ぎ込む。

 

 エリアーナも内壁を激しく収縮させ、彼の全てを搾り取るように受け入れた。

 

 二人の絶叫が重なり、やがて荒い喘鳴だけが残る。

 

だが、若い二人の初夜がこれだけで終わるわけがない。

 エリアーナもレオナルドも、まだまだイ(・)ケ(・)た。

 

 そうして抱き合い、吸い合い、時には上下が逆となって──

 

 ◆

 

 しばらくの間、二人は動けなかった。

 

 汗に濡れた身体が冷えていくのを防ぐように、レオナルドが毛布を引き上げる。

 

「……素晴らしい体験だった」

 

 レオナルドが天井を見上げて呟いた。

 

「はい……未知の体験でございました」

 

 エリアーナが彼の胸に頬を埋めたまま答える。

 

 声は枯れているが、満足そうだ。

 

「手順書には、事後のケアについても記述があったはずだが」

 

「……今は、動きとうございません」

 

「同感だ」

 

 レオナルドは苦笑し、妻の汗ばんだ髪を優しく撫でた。

 

 窓の外ではいつの間にか新年最初の朝が訪れようとしている。様々な行為を積極的に試し合い、結局一晩中むつみあっていたのだ。

 

 レオナルドはさすがの体力だが、意外にもエリアーナもそれについていった。

 

 王族教育の一環として、それなり以上に体を鍛えているエリアーナでなければ失神は免れなかっただろう。

 

 王族というものはタフでなければならない──それがシンシアナ王国の王族教育の根幹なのだ。

 

 空が白み始め、鳥の声が微かに聞こえてくる。

 

「シンシアナの言い伝えによれば、これで今年一年の安寧が約束されたはずだ」

 

「殿下はそれを信じておられますか」

 

「言い伝えとしてはな」

 

 レオナルドは少し考えてから、エリアーナを抱く腕に力を込めた。

 

「しかし言い伝えがなくとも、今夜のことで私は確信した」

 

「何をでしょう」

 

「エリアーナと共に歩む人生は、どんな学問よりも奥深く、飽きることのない探求の旅になるだろうと」

 

 エリアーナは目を瞬かせた。

 

 そして、とろけるような笑顔で夫を見上げる。

 

「殿下は時折、とんでもなく情熱的なことをおっしゃいますね」

 

「事実を分析し、結論を述べたまでだ」

 

「ふふっ……また、その言い方」

 

 エリアーナは小さく笑い、指先でレオナルドの胸をついた。

 

 そうしているうちに二人は互いの体温の中で、満ち足りた眠りに落ちていく。

 

 散らばった衣服のみが、この愛すべき初夜の証人として朝日に照らされていた。

 

(了)


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