真祖の吸血鬼少女がクレイジーサイコ女(異端審問官)に捕まってワイン製造機になるお話 作:嫌われた勘のいいガキ
オリジナル:ファンタジー/ノンジャンル
タグ:R-18 ガールズラブ 残酷な描写 百合・レズ R18G リョナ(物理的、精神的) 吸血鬼 レズドム 四肢欠損 拷問
尊厳をすべて奪われて良質なワイン抽出機になっちゃうお話です。
リョナ(物理的、精神的)、R18G要素があるのでご注意ください。
*ノクタより転載
ルナリエル・フォン・エルダーロードは、吸血鬼という種族が抱く「傲慢」を煮詰めて形にしたような少女だった。三百年という悠久の時間は、彼女にとって退屈な余興に過ぎない。その不老不死の生を持て余し、数多の英雄を絶望の淵に沈めることで、かろうじて自己の存在を定義していた。
「⋯⋯ふん。今宵の月は少々退屈が過ぎるな。誰か、我を愉しませる骨のある人間はおらぬものか」
贅を尽くした玉座で独りごちるその姿は可憐な少女そのもの。しかし放たれる威圧感は王者のそれであった。彼女の性格は冷酷にして華美。自分の肌に触れて良いのは最高級の絹か、自ら選別した処女の生き血のみ。「人間」は家畜であり、無聊(ぶりょう)を慰めるための使い捨ての玩具。その概念は彼女の中で岩盤のように凝り固まっていた。
しかし、近頃は彼女の悪名が響きすぎたせいか、縄張りにはとんと人間が寄り付かなくなっていた。少女は 「くぁ~⋯⋯」 可愛らしいあくびをこぼし、指先を弄ぶ。
「退屈死にするのは、吸血鬼(われら)にとって最大の屈辱なのだな⋯⋯。何かないのか。我を芯から震わせるような獲物は」
「あら、こんなに綺麗な月夜ですのに。退屈だなんて随分と贅沢なのね」
そんな最中に現れたのが異端審問官カグラであった。
「くくっ、またぞろ死に急ぐ虫か。その薄汚い法衣、我が庭を汚すには十分だ。⋯⋯跪け。その首を跳ねて、明日の朝食のワインの香りに変えてやろう」
ルナリエルは心底愉しげに失笑をこぼした。これまで何人も屠ってきた異端審問官。ルナリエルにとっては、あくびを噛み殺しながら行う「作業」――のはずだった。
カグラが放ったのは、剣でも魔法でもなかった。教会の禁忌図書館に封印されていた呪物【聖銀の茨 (セイント・シルヴァー・ソーン)】。それはかつて数百人の殉教者の血と恨みで鍛え上げられた、対真祖用の概念武装である。ひとたび展開されれば、周囲の魔力分子を強制的に「停滞」させ、吸血鬼が持つ超常の治癒力と魔力操作を根元から封殺する最強の枷。
「――ッ!? なに⋯⋯っ、この、忌々しい輝きは⋯⋯っ!」
ルナリエルの視界を、銀色の閃光が埋め尽くした。突如として地面から噴き出した茨は、ルナリエルの意思を無視してドレスを無慈悲に裂き、その白皙の肌に容赦なく食い込む。吸血鬼の天敵である「銀」の毒が、血管を通じて直接脳へと送り込まれる。
「あ、ガぁッ!! 離せ⋯⋯離さぬか、卑しき人間風情が! この我に、このような不浄なものを⋯⋯ッ! 許さぬぞ! 万死に値する辱めだッ!!」
「ああっ素晴らしいっ! 伝説の真祖が、地べたを這いずり、泥を舐めている。これほど官能的な光景があるでしょうか」
カグラの狂信的な熱を帯びた、それでいて冬の氷のように冷淡な声が響く。ルナリエルは必死に魔力を振り絞るが、動くほどに茨の刺は骨に達するまで食い込み、その傷口から「神の呪い」が流し込まれる。真祖の肉体が、拒絶反応で痙攣を起こす。
(くそっ、しくじった⋯⋯! 我の力が吸われているのか⋯⋯!? まさかこんな武装が存在するとはっ!)
「くっ⋯⋯この、小娘が⋯⋯ッ! 今すぐこの茨を解け! さもなくば貴様の四肢をもぎ取り、我が牙でその首を引き裂き、一滴残らず啜り尽くしてやるぞ!」
震える声で虚勢を張るルナリエル。しかし、カグラの白いブーツが彼女の脇腹をぐりぐりと踏みつけた時、王者の声は惨めな悲鳴へと変貌した。
「ひ、あ、がぁッ!! 痛い⋯⋯やめ⋯⋯やめろと言っている⋯⋯ッ!」
「『やめろ』? さっきまで『殺すぞ』と吠えていたのに。⋯⋯ふふ、いいわ、ルナリエル。力を失ったあなたのその高いプライド、解体されるたびにどんな悲鳴に変わるのか、じっくり観察させてもらうわね」
「な、なにを⋯⋯! ぐぁああ!!!」
カグラの意志に呼応し「聖銀の茨」が輝きを増す。ことさらに上げられた出力にルナリエルの身体は悲鳴を上げた。普段であればなんてことのないダメージ、それが今は雷(イカズチ)に穿たれたような衝撃をもたらしていた。
「うふふ⋯⋯」
悶え苦しむルナリエル、その様子を楽しむようにカグラは執拗に責め苛み、ついに耐えきれなくなるまでいたぶった。
――ふと目が覚める。吊るされた魔導灯の青白い光の下、ルナリエルは冷たい石畳の上に全裸で転がされていることに気がついた。そんなルナリエルをよそに、机に置かれた不気味な器具を点検していたカグラはゆっくりと歩み寄ると楽しげに口元を釣り上げた。
(ここはどこだ⋯⋯? 我はどうなった? この女はなんなのだ⋯⋯。なんだその目は。なぜ⋯⋯我を『物』を見るような目で見つめるのだ⋯⋯!?)
心臓の鼓動が耳の奥で爆音のように響く。ルナリエルは震える唇を必死に噛み締め、再び虚勢の仮面を被った。それが、彼女に残された最後の防衛本能だった。
「⋯⋯ふん。このような場所で、我をどうするつもりだ。拷問か? 身体を刻むか? 無駄だ、真祖の再生力は貴様の想像を超える。茨で魔力を削ろうとも我が根源までは届かぬ。さあ、早く殺してみよ。くくっ⋯⋯一体いつまでこの拘束が続くが見ものよな。貴様の喉笛を喰いちぎるのが楽しみぞ」
「ふふ、本当に可愛らしい。元気があっていいわ。その牙、さっきから私を傷つけたくてウズウズしていたのね」
カグラは愉悦を隠そうともせず、聖銀のペンチをゆっくりと取り出した。その冷たい銀の光が瞳に映った瞬間、ルナリエルの喉がひきつったように鳴る。カグラは怯える獲物の反応を楽しむように、ルナリエルの目の前でペンチをカチ、カチ⋯⋯と鳴らしてみせた。
「な、なんだ⋯⋯その道具は⋯⋯。それを、どうするつもりだッ!?」
カグラは答えず、万力のような力でルナリエルの顎を固定し、強引にその口をこじ開けた。
「あ、が⋯⋯はな⋯⋯っ、離せ! 何をする⋯⋯ッ! その汚らわしい道具を、我が口に入れるな⋯⋯ッ!! おいっ!!」
ペンチの冷たい先端が、右側の牙の根元を捉える。だが、カグラはすぐには抜かない。わざとゆっくりと、牙の根元を左右に揺らし、神経に直接響く鈍い痛みを走らせる。
「⋯⋯っ、あ、ぐ、ぅ⋯⋯!! や、やめりょ⋯⋯」
「どうしたの? 真祖の自尊心が震えているわよ。この牙を失ったら、あなたはもう、獲物を屠る獣ですらなくなるものね」
牙は獲物の血を啜るために磨かれた吸血鬼の象徴。その大切な牙に向かってペンチがカチリと音を立て、さらに奥深くへと噛み込む。その、いつ引き抜かれるか分からない根源的な恐怖とおぞましさに、ルナリエルの目から思わず涙が溢れ出した。
「ま⋯⋯待て! 待ってくれ! 許せ⋯⋯いや、我が悪かった! 謝る、謝るから」
「うーん、どうしようかしらぁ」
三百年、誰にも頭を下げたことのなかった夜の女王が願う。抵抗力を失い、人間の少女と変わらない肉体へと堕とされた代償か、精神すらも弱体化したようにルナリエルは必死に言葉を重ねる。
「それだけは⋯⋯! お願いだ、それだけはッ!!! 頼っ――――!!!!」
その絶叫が最高潮に達した瞬間、カグラは無慈悲に腕を引いた。
メキィッ!!!
「ひぎゃあああああああああああッ!!」
一本目の牙が、生々しい肉の感触と共に引き抜かれた。口腔内を熱い血が満たし、神経を直接引きちぎられる凄絶な痛みが脳を灼く。
「あ、はぁ⋯⋯っ、はぁ⋯⋯あ⋯⋯。よくも⋯⋯よくも、我の⋯⋯誇りを⋯⋯っ」
「あら、まだ喋れるのね。じゃあ、次もいきましょうか」
カグラは再びペンチをカチカチと鳴らし、もう一方の牙へと狙いを定める。虚勢を張る余裕すら消えたルナリエルは首を左右に振り必死に逃れようとするが、カグラはがっしりと手で顎を固定する。
「や、やめ⋯⋯よ、よせっ⋯⋯!」
バキィッ!!!
あっけなく引き抜かれた二本目は、ゴミのように床へ転がされた。
「あがぁあああああああ!!!!」
カグラはルナリエルの顎をさらに強く掴み、引き抜かれた後の無残な傷口を、勝利の徴(しるし)として慈しむように見つめる。
「うん、綺麗になったわね。大丈夫よ、貴女の牙はコレクションにして飾ってあげるから。⋯⋯ああ、でもすぐに再生してしまっては台無しね」
「⋯⋯あ、あぁ⋯⋯。わ、われの、き、きばが⋯⋯我の⋯⋯」
ルナリエルは激痛と喪失感に白目を剥きながらも、本能的にその傷口を再生させようと魔力を練り上げる。茨の呪いに侵されてもなお、吸血鬼の真祖たる彼女の肉体は、失われた牙など本来なら数分もあれば元通りに生成するはずだった。
しかし、カグラはそれをあざ笑うかのように、熱せられた「聖銀の封印プレート」をピンセットで取り出した。
「ふふ、無駄ですよ。真祖の生命力が厄介なことくらい、百も承知です。生えてこようとするなら、その出口を物理的に塞いでしまえばいい。あなたはもう、噛む必要のない『受け皿』になるのですから」
「っ⋯⋯!? やめろ、何を⋯⋯っ、何をするつもりだッ!!」
ルナリエルは必死に首を振るが、顎を固定するカグラの手はピクリとも動かない。カグラはルナリエルの牙が抜けた生々しい歯茎の穴に、灼熱のプレートを容赦なく押し当てた。
ジュウゥッ!!
「ひぎゃあああああああああああああああッ!!!」
三度(みたび)、地下室に悲鳴が響き渡る。焼ける肉の臭いと、聖銀の毒が神経を直接灼く激痛。
「あ、が⋯⋯あ、ぁぁぁ⋯⋯ッ!!」
生えてこようとする牙の芽がプレートに阻まれ、肉の内側で圧し潰されていく。吸血鬼の強靭な再生力は、プレートという障害物を避けることができず、そのまま「牙のない平坦な肉」として、銀の板を飲み込むように癒着を強制された。
「これでよし。あなたの口からは、もう二度と誇り高い牙が生えることはありません。これからは私の血だけを受け取り、享受する滑らかな『受け皿』でいなさい」
カグラの指先が、今や牙を失い、銀のプレートで無残に塞がれたルナリエルの歯茎をなぞる。ルナリエルは自分の本能が、肉体が、根本から「書き換えられた」ことを理解した。再生という最後の希望さえも、物理的な銀の蓋によって内部に閉じ込められたのだ。
(我は⋯⋯。もう、獲物を噛むことさえ⋯⋯許されぬのか⋯⋯?)
ルナリエルを支えていたなにかが、焼けるような痛みと共に融解していく。視界は涙で歪み、自分がただの「素材」として作り変えられていく恐怖に、身体の震えが止まらなかった。
そんなルナリエルの様子にカグラは満足げで顔を離すと、次は細長い外科用の鋸(のこぎり)と、さらに大きな聖銀のプレートを並べだす。
「さて、ルナリエル。お口の加工は終わりました。次は、あなたのその肢体ですが⋯⋯私の『醸造樽』として使うには少し手足が邪魔ね。棚に置くのにも、持ち運ぶのにも、この余分な部分は不要でしょう?」
カグラの言葉が理解できた瞬間、ルナリエルの背筋を氷のような戦慄が走り抜けた。
「な、何を⋯⋯何を言っている。腕も、脚も⋯⋯我が我であるために必要なものだ! 触れるな、それ以上、我を⋯⋯我を奪うなッ!!」
しかし、縛り上げられた彼女にできるのは、未発達な胸を激しく上下させ、浅い呼吸を繰り返すことだけだった。カグラはルナリエルの細い右腕を掴み、検分するように作業台へと持ち上げる。
「白くて、細くて、本当に綺麗。でも、これからは私があなたを抱き上げ、私が運ぶのだから、もう自分を支える必要はないわよね。⋯⋯ふふ、この『聖銀の茨』が、あなたの再生を阻んでいる間に、手際よく済ませてしまいましょう」
カグラは躊躇なく、ルナリエルの右肩の付け根に冷たい刃を押し当てた。
「ひ⋯⋯っ、あ、ああああああッ!!」
ギチ、ギチ⋯⋯。吸血鬼の強靭な皮膚が裂け、筋肉が断たれ、硬い骨に刃が達する嫌な振動がルナリエルの全身を揺さぶる。
「やめろぉ! 痛い、痛いッ!! 我は⋯⋯我はルナリエルだ! 三百年を統べた王なのだぞ! こんな、こんな辱めを⋯⋯あ、あああああッ!!」
王者の叫びは、骨が断たれる鈍い音と共に凄惨な絶叫へと変わった。右肩から先が物理的に切り離された瞬間、ルナリエルの脳内に「欠損」という逃れられない事実が焼き付く。切り落とされた腕が石畳に落ち、ピクリと指先を動かす。それを見たルナリエルの瞳に狂乱の色が走った。
「ああ⋯⋯我が、我が腕が⋯⋯! 返せ、今すぐ繋げろッ!!」
「いいえ。これはもう『廃棄物』よ」
カグラは間髪入れず、熱した大型の聖銀プレートを断面に押し当てた。
ジュウゥッ!!
「ぎ、あああああああッ!!!」
傷口を灼かれる激痛と、銀の毒。再生しようとする肉の芽がプレートに阻まれ、行き場を失って断面の内側で盛り上がり、そのまま「滑らかなプレートの蓋」として固定されていく。ルナリエルは、自分の右側から「意志」が完全に消失し、ただの重たい肉の境界線に変わったことを理解し、涙と涎で顔をぐちゃぐちゃに濡らした。
「左も、右と同じようにしてあげましょうね。バランスが悪いのは、美しくないわ」
作業は事務的で、それゆえに酷薄だった。カグラは抗うルナリエルの左腕を強引に固定し、再び鋸を引き始める。
「も、もうやめ⋯⋯やめてくれ⋯⋯。お願いだ、もうやめてくれ!!」
ルナリエルの懇願は届かない。バキィッ! と骨が砕け、左腕が床へ転がる。続いて、彼女が大地を闊歩するためにあった、細くしなやかな両脚が標的にされた。腿の付け根に刃が食い込む。
「あぁ⋯⋯ぁ⋯⋯あぁ⋯⋯あ⋯⋯」
三本目が落とされる頃には、ルナリエルの喉からは悲鳴さえ消え、虚ろな呻きだけが漏れていた。一本失うごとに、彼女の中の「真祖ルナリエル」という像が崩壊していく。かつては数千の眷属を従え、月下に舞った気高き姿。それが今、床には四つの肉のパーツが転がり、本体である彼女は、ただの「肉塊」のような姿へと縮んでいく。
最後の一本が切り落とし、すべての断面に銀のプレートが焼き留められた。再生の光がプレートの内側で虚しく明滅し、そして絶望と共に消えていく。
作業を終えたカグラは、肉塊となったルナリエルをひょいと抱き上げ、工房の隅に置かれた大きな全身鏡の前へと運んだ。
「⋯⋯あ⋯⋯ぅ⋯⋯。⋯⋯あぁ⋯⋯」
手足がない。踏ん張ることも、拒むこともできない。自分の重みさえ感じられないほどに軽くなった身体の感触に、ルナリエルの思考は白濁していた。だが、カグラがその顔を強引に鏡の方へ向けさせた瞬間、彼女の紅い瞳が驚愕に剥かれた。
「見てごらんなさい、ルナリエル。これが今のあなたの姿。本当に、溜息が出るほど愛らしいわ」
鏡の中に映っていたのは、夜の女王ではない。美しいプラチナブロンドの髪は乱れ、牙をもがれた口元からは血が滴っている。そして何より、肩と腿の付け根から先が「存在しない」。切り口を塞ぐ銀のプレートが魔導灯の光を冷たく反射し、彼女がもはや「人間と同じ形」ですらないことを残酷に主張していた。
「な⋯⋯っ、あ⋯⋯っ、あぁああああああッ!!!」
ルナリエルは鏡の中の化け物を拒絶するように叫んだ。だが、叫び声は牙のない口内で虚しく反響する。鏡の中の少女が身をよじれば、ただの「肉の塊」がカグラの腕の中で無様にのたうつ。その滑稽で、あまりにも惨めな光景。
「嫌だ⋯⋯! 嘘だ、こんなの我ではないッ! 我を返せ! 我の手足を、我の誇りを返せッ!!」
「いいえ、これが本当のあなた。私の指先一つでどうにでもなる、ただの愛玩物。⋯⋯ねえ、ルナリエル。手足のない自分を鏡で見るのはどんな気分? 王者だった頃の記憶が、毒のようにあなたを蝕んでいるのが伝わってくるわ」
カグラは背後からルナリエルの頬を寄せ、鏡越しに彼女の絶望を見つめた。ルナリエルは、鏡の中の「自分だったモノ」と目が合うたびに、精神の芯が削り取られていくのを感じた。
(これが我なのか? この、手足も牙もない、ただの肉の人形が⋯⋯我だと言うのか⋯⋯?)
「さあ、存分に今の自分の姿をその目に焼き付けて。⋯⋯これが、あなたが最後に目にする『光』になるのですから」
「⋯⋯? は?」
カグラは鏡の前からルナリエルを引き剥がすと、再び冷たい作業台の上へと横たえた。今しがた網膜に焼き付けられた「手足のない醜い肉塊」の残像が、ルナリエルの思考を掻き乱す。その動揺を逃さず、カグラはトレイから聖銀の細い針と、漆黒の絹糸を取り出した。
「ああ⋯⋯。本当に、吸い込まれそうなほど美しい。この瞳だけは、いつまでも眺めていたいと思ってしまうわ」
カグラはうっとりと吐息を漏らし、ルナリエルの長い睫毛を指先でなぞった。
「⋯⋯離せ⋯⋯っ! もういいであろう⋯⋯っ! 牙も手足も奪われた、何も抵抗などできぬ!」
「いいえ。嘘はいけないわよルナリエル。吸血鬼の持つ『魔眼』は、人間にとって脅威ですもの。真祖の視線ひとつで精神を書き換えられるリスクを、私が放置するとでも思う?」
カグラの言葉にルナリエルの全身が凍りついた。魔眼こそ四肢を失った彼女が逆転し得る唯一の「牙」だった。それすらも奪われるという事実に、彼女の精神が悲鳴を上げる。
「嫌だ⋯⋯! 頼む、目だけは⋯⋯目だけは残してくれ⋯⋯ッ!! 命乞いならいくらでもする、貴女の、貴女の靴でも何でも舐めるから⋯⋯ッ!!」
(死ね⋯⋯死ね死ね死ね! 死んでしまえ! 一体、どこまで我を嬲れば気が済む、地獄に落ちろ!)
ルナリエルの心の内には、まだドス黒い殺意が渦巻いていた。それでも彼女は震える声を振り絞り、自身の誇りを泥に塗る言葉を吐き出す。
「お願いだ⋯⋯っ、ご主人様⋯⋯! 審問官様ッ!! 暗闇は、暗闇だけは耐えられぬ! どんな辱めにも耐える、だから、どうかその針を遠ざけて⋯⋯っ!!」
「ふふ、『ご主人様』? 良い響きね。でも、そんな生意気な瞳で私を睨みつけながら言っても、説得力がないわよ」
カグラはルナリエルの打算を見透かしたように微笑み、固定具で彼女の頭部を一切の遊びもなく締め上げた。
「あ、が⋯⋯っ、はなせ、離せッ!!」
「大人しくしていなさい。手元が狂って脳まで針が届けば⋯⋯まあ死にはしないでしょうけど、無駄に手間がかかるわ」
震える瞼に、冷たい針先が突き立てられる。
「いやああああ!!やめてえええッ!!!」
チクリ、チクリ。鋭い激痛と共に、視界の端から一針ごとに光が縫い潰されていく。カグラの冷酷な微笑みが、黒い糸の向こう側へと消えていく。
「あ⋯⋯ぁ、あああッ!! いやだ⋯⋯何も見えない! 許して、許してくれご主人様ッ!! 助けてッ!! 何も見えぬ、真っ暗だッ!!」
瞬きの間に最後の一針が通り、糸が結ばれた。ルナリエルの世界からは、すべての光が消失した。
目蓋の下で、行き場を失った紅い瞳が激しく蠢く。だが、聖銀の糸は彼女の魔眼の力を完全に封印し、外界への干渉を一切許さなかった。残されたのは、手足のない自分の肉体の重みと、切断面のズキズキとした痛み。そして、永遠に閉じ込められた、暗黒の虚無だけであった。
(何も見えぬ⋯⋯何も⋯⋯! おのれっ⋯⋯、おのれっ⋯⋯必ず、必ず貴様を殺してやる。覚えておれっ、カグラァ⋯⋯!!!)
視界を奪われた暗闇の中で、ルナリエルは憎悪だけを道標に、正気を繋ぎ止めていた。しかし、その強固な意志さえも、カグラにとっては「加工の楽しみ」でしかないことに、彼女はまだ気づかない。
「ふふ、おめでとう、ルナリエル。これであなたはおしまいよ。私の、世界で唯一の、生きた醸造機⋯⋯」
カグラは、暗闇の中でガタガタと震えるルナリエルの耳たぶを甘噛みし、熱い吐息を吹きかけた。視覚を奪われ、漆黒の静寂に沈んだルナリエルの耳に、衣擦れの音だけが不気味に響く。
「ああ⋯⋯。なんて、なんて神聖で美しいのでしょう」
カグラのうっとりとした吐息が、すぐ近くで聞こえた。カグラは肉の塊となったルナリエルの柔らかな腹部へ、慈しむように、しかし有無を言わさぬ強欲さで手を伸ばした。
「わあぁ⋯⋯! あぁぁぁ! わ、我に触れるな⋯⋯っ! その、汚らわしい手で、我を汚すな⋯⋯ッ!!」
ルナリエルは必死に身をよじった。だが、支えとなる四肢を失った彼女にできるのは、冷たい台の上で幼い幼虫のように、無様にのたうつことだけであった。抵抗すればするほど拘束具と化した茨が締め上げ、自分が「逃げ場のない肉塊」であることを自覚させられる。カグラは法衣を纏ったまま、無感情な支配者として、ルナリエルの震える肉を蹂躙し始めた。
「汚らわしい? いいえ、ルナリエル。今、この世界で一番汚らわしいのは、人間に組み敷かれ、手足をもがれて泣き叫んでいる、あなたの方ですよ」
「ひっ⋯⋯あ、がぁっ⋯⋯!」
カグラの手が、ルナリエルの太もも――かつて脚があった場所のすぐ内側、プレートの焼けた匂いが残る付け根を強引にこじ開けた。
「やめ⋯⋯嫌だッ! どこを⋯⋯どこを触っている! 我は、我は真祖⋯⋯ッ、あ、ああああッ!!」
カグラの指が、ルナリエルの最も神聖で、最も秘められた深淵へと侵入した。そこは、三百年もの間、いかなる者の接触も許さなかった処女の聖域であった。吸血鬼としての本能が激しく拒絶反応を示し、内壁が痙攣するように指を締め付ける。だが、カグラはその抵抗さえも、職人が「素材」の感度を確かめるような、冷徹で暴力的な愛撫によってねじ伏せていった。
「⋯⋯真祖の中ってこんなに熱くて、柔らかいのですね。あなたのプライドが、ここでドクドクと震えているのが指先から伝わっていますよ。⋯⋯ふふ、これほど高潔な肉体が、ただの指先ひとつでこれほどまでに鳴くなんて。これから始まる『醸造』に、これ以上の器はありませんわ」
カグラはルナリエルの耳元で、甘く残酷な声を囁きながら、執拗にその奥底を蹂躙した。牙があれば、その喉笛を噛み千切っただろう。手足があれば、その肉を引き裂いただろう。しかし、今のルナリエルに許されているのは、暗闇の中で自分を一個の「モノ」として弄ぶ人間の支配に、嫌悪感と、そして抗いようのない「快楽の予兆」を突きつけられることだけであった。
(やめろ⋯⋯! 我を、我の心をこれ以上、壊さないでくれ⋯⋯ッ! 憎い⋯⋯憎くてたまらない、なのに、なぜ⋯⋯この女の指が、こんなに熱いのだ⋯⋯!?)
憎悪で満たされているはずの脳髄が、強制的に引き出される情欲によって白く塗りつぶされていく。カグラの指先は、容赦なくルナリエルの内壁をなぞり、真祖の肉体に刻まれた秘められたメスの「ツボ」をひとつひとつ暴いていった。それは愛撫というにはあまりに暴力的で、検査というにはあまりに情欲に満ちていた。
「あ、ぁ⋯⋯あぁああッ!! ひっ、ひぐっ⋯⋯!!」
「ふふ、ここですか? ここを突かれると、あんなに高慢だったあなたの声が、これほど惨めに震えるのですね。⋯⋯ねえ、ルナリエル。あなたの自尊心は、このヒダヒダした肉穴よりも価値がないのかしら」
カグラは、わざとルナリエルの耳たぶを甘噛みし、熱い吐息を吹きかけながら、指先の動きを加速させた。支配される屈辱、失った尊厳、そして肉体が強制的に引き出される情欲。視界が閉ざされている分、指先が粘膜を擦る感触、弾けるような水音、自分の口から漏れる卑屈な声が、凶器となってルナリエルの精神を突き刺す。
(嫌だ⋯⋯。こんなものに、我が⋯⋯我が蕩かされるなど⋯⋯ッ! 止まれ、止まれッ! 我の身体よ、これ以上、この女を喜ばせるな⋯⋯ッ!!)
しかし、本能は裏腹だった。三百年という月日、純潔を守り、誰の手にも触れさせなかった分、その肉体の感度はあまりにも純粋で、そして鋭敏すぎた。
「や、あぁっ! ああぁぁぁぁ⋯⋯ッ!! 壊れる、我が⋯⋯壊れてしまうっ!!」
「『壊れる』? いいえ、これは『調律』です。私の醸造機として、最高級の快楽を分泌できるように、その神経を一本ずつ焼き直しているのですよ」
カグラの指が、最後の一押しとしてルナリエルの最奥を強く突き上げた。
「――っ!!! ぁ、ああああああああああああああッ!!!」
ルナリエルの身体が大きく弓なりに反り、手足のない胴体が台の上で激しく痙攣した。視界のない暗闇の中で、極大の快楽が火花のように散る。それは彼女がこれまでの人生で知るはずもなかった、そして最も知ってはならなかった「降伏の味」であった。
「ふふ、達してしまったわね。でもまだまだ終わらないわ」
カグラは止まらない。ルナリエルの最も敏感な箇所を見定めた指先は執拗に弾き続ける。
「あ、が⋯⋯っ、あぁッ!! ひ、ぐっ⋯⋯!! あぁっ⋯⋯!!」
「だらしのない声。真祖の自尊心は、この程度の刺激で安売りされるほど安価なものだったのね」
カグラの声はどこまでも冷たく、事務的だ。彼女はルナリエルが絶頂の寸前まで達するたびに、あえて手を止め、中途半端な焦燥感だけを彼女の肉体に植え付ける。一度、覚えた敗北の味はジリジリとルナリエルの身を焦がしていく。
「あ⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯っ、な、なぜ止める⋯⋯ッ!」
「ルナリエル、誰に向かってそんな口を利いているのかしら。そんな生意気な口を利いていいと思っているの?」
カグラはルナリエルの顎を無理やり上向かせ、縫い潰された瞼の上から、指先で眼球をなぞるように圧迫した。
「さあ、言いなさい。『許してください、ご主人様』と」
「な⋯⋯ッ!? ふざけるな、誰が、貴様のような、人間に⋯⋯あ、ああああああッ!!!」
拒絶の言葉を遮るように、カグラの二本の指が、ルナリエルの奥底を強引に拡げ、最も過敏な粘膜を力任せに抉った。
「あ、ぁ、あぁぁぁぁぁっ!! だめっ⋯⋯だめだ、そこっ、そこはッ!!」
「いいえ、そこだけではありませんよ。あなたが謝るまで、何度でも、何度でも調律を繰り返します。一回でもニ回でも、十回、百回と。あなたの精神が快楽の濁流に呑み込まれて、真祖としての記憶がすべて消えるまで」
カグラの愛撫は次第に速度を増し、技巧を凝らしたものへと変わっていく。ルナリエルは暗闇の中で、自分の身体が自分のものではないような感覚に陥っていた。手足がないため、逃げることも、自分の腕で顔を覆って泣くこともできない。ただ、台の上で晒し者にされ、内側から強制的に熱をかき混ぜられる。
「あ、はぁ⋯⋯っ、あ、あ、ああッ!! 変になるっ⋯⋯頭がおかしくなる⋯⋯ッ!!」
「まだ謝罪が聞こえませんね。⋯⋯次は、さらに奥まで調べましょうか」
「ひぃッ!! 待て、待っ⋯⋯っ! あ、あぁぁぁああああッ!!」
ルナリエルの身体が再び大きく弓なりに反り、限界を超えた快楽が脳髄を灼く。だが、カグラは絶頂の余韻に浸ることさえ許さず、震えるルナリエルの腹部を強く圧迫し、無理やり我に返らせる。
「さあ、ルナリエル。あなたの罪を認めて謝りなさい。⋯⋯今、あなたの身体を震わせているのは、憎悪ですか? それとも、私の指が与える悦びですか?」
(やめろ⋯⋯言いたくない⋯⋯。これを言えば、我は、本当に我でなくなってしまう⋯⋯!)
ルナリエルは必死に唇を噛み、血が出るほど耐えた。しかし、カグラの指が再び、容赦なく「そこ」を捉えた瞬間、彼女の最後の防波堤が決壊した。
「あ、あぁぁぁぁ⋯⋯ッ!! 言う、言うから⋯⋯ッ!! 許して、やめて、ご主人様ッ!!」
「よくできました。では、最初から丁寧に、言いなさい」
カグラは手を止めず、絶頂の波状攻撃を加えながら、彼女の耳元で冷酷に囁き続ける。ルナリエルは、もはや自分が何を言っているのかも分からぬほどに混濁した意識の中で、ついにその言葉を漏らした。
「あ、はぁ⋯⋯っ、はぁ⋯⋯、あ、うぅ⋯⋯。ごめんな⋯⋯さ、い⋯⋯。ご主人様に逆らった⋯⋯愚かなルナリエルを、お許しください⋯⋯っ。ご主人、さま⋯⋯っ!!」
ルナリエルの内側から、屈辱の滴が溢れ出し、冷たい台を濡らしていく。それは、彼女が夜の王であることを一時的に忘却し、カグラという支配者に身も心も、生存のすべてを依存せざるを得ないことを肉体に刻み込まれた瞬間であった。
カグラは、満足げにルナリエルの濡れた髪を撫で微笑む。
「いい子ね、ルナリエル。感度は良好。⋯⋯これで器の準備は整いました。早速いきましょうね」
地下工房の最深部には、鈍い銀光を放つ巨大な金属製の枠組み――『醸造架(じょうぞうか)』が鎮座していた。無機質なその形は、ルナリエルがこれから迎え入れられる運命を予言するかのようだった。四肢を失い、視界を縫い潰され、快楽と屈辱によって虚脱しているルナリエルは、カグラの手によってその冷徹な機械装置の中央へと運ばれる。
「⋯⋯あ、あ⋯⋯。な、何を⋯⋯ご主人様⋯⋯。どこへ連れて行くのですか⋯⋯?」
暗闇の中で、ルナリエルは自身の「肉塊」が空中に吊り下げられ、腰と胸を冷たい固定具で締め上げられるのを感じた。手足がないため、踏ん張ることさえできない。重力に従って垂れ下がる自身の重みが、肩と腿の切断面にある銀のプレートに食い込み、鈍い痛みを走らせる。だが、その痛みは、先ほどの絶頂の残滓によってかき消され、現実感が薄かった。
「ふふ、そんなに怖がらないで。ここはあなたが永遠に過ごす、新しい『玉座』ですよ、ルナリエル。あなたの魂が、この架に刻み込まれた魔導回路と完全に同期するまで、ここでじっとしていなさい」
カグラの声と共に、金属が擦れる不快な音が響く。それはルナリエルにとって、自身の存在が「生物」から「部品」へと書き換えられるカウントダウンに聞こえた。
「さあ、始めましょう。あなたのその誇り高い身体を、世界で最も甘美な貯蔵庫へと書き換える儀式を」
カグラの冷徹な宣告が、暗闇に響く。ルナリエルは『醸造架』に吊り下げられたまま、背後でカグラが金属製の不気味な器具を準備する気配に、小刻みに身を震わせた。
「⋯⋯あ、あぁ⋯⋯。お願いだ、ご主人様⋯⋯もう、やめて⋯⋯。これ以上、我を⋯⋯ルナリエルを、壊さないで⋯⋯っ」
かつての尊大さは影を潜め、漏れ出すのは震える命乞い。しかし、カグラの容赦ない手が、ルナリエルの無防備な臀部を左右に押し広げた。
「ひぅっ!? や、だ⋯⋯そこは⋯⋯お尻の穴です⋯⋯っ! お願い、やめて、ご主人様、お願いっ!!」
(嫌だ⋯⋯何をするつもりだ。そこは最も卑しき場所ではないか⋯⋯!?)
「大丈夫よ、怯えないで。ここはこれから、芳醇なワインが流れ込む『聖なる入り口』になるのです。⋯⋯少し、冷たいですよ」
カグラが手にしたのは、太く、硬質な聖銀の注入管。その先端が、ルナリエルの窄まりへと冷酷に押し当てられた。
「あ⋯⋯ひ、ぎっ⋯⋯!?」
異物が、粘膜を無理やり押し広げ、侵入してくる。吸血鬼の鋭敏な感覚は、金属の冷たさと、そこに含まれる聖銀の毒が、自らの最も不潔で秘められた場所を「暴いている」という事実を、残酷なほど鮮明に脳へと伝達した。
「あ、がぁ⋯⋯っ、あぁああああああッ!! 苦しい、中が⋯⋯中が、埋まっていく⋯⋯っ!! 嫌だ、吐き出したい、抜いて⋯⋯抜いてください、ご主人様ッ!!」
メキメキと内臓が押し退けられる、鈍い圧迫感。アナルという、生存において最も「受動的」でなければならない場所を物理的に支配され、太い管で固定されるという屈辱。ルナリエルは、自分の尊厳がその金属管の一突きによって、ドロロとした汚物のように溶け落ちていく感覚に襲われた。
「いいえ、抜くことはありません。これは、あなたの新しい『背骨』のようなものですからね」
カグラは無慈悲に、管の根元までをルナリエルの深淵へと埋没させた。内側から強引に埋め尽くされ、装置と一体化させられる感覚。ルナリエルは、自分の身体がもはや自分の意志で動かせる「生き物」ではなく、カグラが流し込むワインを受け入れるための「空洞の器」へと成り果てたことを、その不快な圧迫感を通じて強制的に理解させられた。
「仕上げに、この中身を少しだけ整理しましょう。ワインを寝かせるには、あなたの今の内臓は少しばかり『騒がしい』わ」
カグラの指先が、ルナリエルの白く震える腹部を、獲物の品定めをするようになぞった。その冷たい感触だけで、ルナリエルは次に訪れる「冒涜」を本能的に察し、絶叫した。
「ひ、あぁっ⋯⋯! お腹を⋯⋯我のお腹を、切らないで⋯⋯っ!! 嫌だ、嫌だッ!! ご主人様、もう、ルナリエルは十分に、痛いです⋯⋯っ! 本当に壊れる、壊れちゃうっ!!」
ルナリエルの悲痛な懇願を余興のように聞き流し、カグラは手際よくメスを走らせた。真祖の治癒力が働く暇さえ与えず、剥き出しになった内臓へとカグラの指が侵入する。
「あ、が⋯⋯っ、あぁああああああああッ!!!」
手足のない胴体が、作業台の上で跳ねるように激しくのたうった。
「あ、あ、ぁ⋯⋯っ! なにか、なにかが⋯⋯中を、掴んで⋯⋯っ!! ぎ、あぁっ、やめて、そこを、動かさないで⋯⋯っ!!」
それは、生物として決して許容できない感覚だった。自分の内側で、生きたまま臓器が持ち上げられ、配置を変えられ、銀のバイパス管で強引に繋ぎ合わされていく。腸管が、本来の役割を剥奪され、ただ「液体を効率よく循環させるための回路」へと、物理的に組み替えられていく。
(我が⋯⋯我が、中身が⋯⋯作り変えられていく⋯⋯。我の腹の中で、なにかを⋯⋯縫い付けられて⋯⋯っ!)
視界を奪われた暗闇の中、腹の奥底を直接かき回される感覚に、ルナリエルの精神は狂乱の淵へと追い詰められた。痛み以上に、自分の「中身」がもはや自分のものでなくなるという生理的嫌悪が、彼女の誇りを完膚なきまでに叩き潰していく。
「あ、はぁ⋯⋯っ、あ⋯⋯。ご主人、さま⋯⋯。あ、あぁ⋯⋯っ、やめて⋯⋯ぁぅ⋯⋯」
言葉はもはや、意味を成さない。ただ、内臓を弄られるたびに、ヒッ、ヒッ、と引きつけを起こしたような短い悲鳴が漏れる。カグラの手が腹の奥で動くたび、ルナリエルの意識は、自分の身体が「肉の袋」へと成り果てた事実を突きつけられた。
「これで、あなたは完璧な醸造機になりました。もう、あなたの内臓は勝手な動きをしません。私の流し込むワインを、ただ、受け入れるためだけに脈動するのです」
カグラは縫い合わされたルナリエルの腹部を、新築の調度品を確認するように愛おしげに撫でた。その皮下では、新しく設置された銀の管と、吸血鬼の肉体が、無理やり一つの「機構」として癒着を始めていた。さらにカグラは、ルナリエルの胸元から下腹部にかけて、複雑な魔導回路を皮下に這わせ、彼女の感覚神経を特定の部位へ集中させる「調律」を施した。
(我は⋯⋯。我はどうなってしまったのだ? もう、生き物では⋯⋯ないのか⋯⋯?)
拒絶反応の激痛が、次第に重苦しい、不快な「一体感」へと変わる。前後の管、そして腹の奥に根を張った銀のバイパス。ルナリエルは、自分のすべてが装置と逃れられない運命で連結されたことを悟り、暗黒の中で絶望へと叩きつけられた。
――地下工房の静寂を破るのは、装置の規則的な振動音と、カグラが棚からワインの瓶を取り出し、コルクを抜く軽快な音。それが今のルナリエルにとっては、処刑を告げる鐘の音のように響いた。
「さあ、お待たせしました。空っぽになったあなたの中を、これからたっぷりのワインで満たしてあげましょう」
「ひっ⋯⋯あ、あぁ⋯⋯。嫌だ、入れないで⋯⋯。なにか、なにか入って来る⋯⋯っ!」
カグラが装置のバルブを回す。カタカタと、銀の注入管の奥で、液体が流動を始める機械音がした。
「――っ!? あ、あがぁぁぁぁぁぁッ!!!」
ルナリエルの身体が激しく仰け反り、吊り下げられた鎖が悲鳴を上げた。背後の注入管から、冷たく、暴力的な質量のワインが、彼女の体内へと一気に流し込まれる。
「あ、ぁ、あああッ!! 中に、入って⋯⋯っ! なにかが、お腹の中に、満ちていく⋯⋯ッ!! く、苦しい、もう入らないっ⋯⋯! ご主人様、止めてっ、止めてくださいッ!!」
当然ながら吸血鬼の身体は「ワイン」を、このように大量に、しかも排泄口から受け入れるようにはできていない。腸壁を無理やり押し広げ、腹の底からじわじわと体温を奪っていく感覚。それは下の口から無理やり「飲まされる」という物理的な蹂躙だった。
「ふふ、安心しなさい。あなたの内臓は、この量に耐えられるように、先ほど私が『整理』したのですから。もっと、もっと深く、私のワインを受け入れなさい」
ワインは、カグラが設置したバイパスを通り、ルナリエルの体内を循環し始める。真祖としての高純度な魔力が、安物のアルコールと混ざり合い、強制的に「発酵」させられていく。
「あ、はぁ⋯⋯っ、あ、あぁ⋯⋯。我が、溶けていく⋯⋯。我の、力が⋯⋯っ」
ルナリエルは、自らの魔力が、体内に満ちたワインに吸い取られていくのを感じた。力が抜けていく。それと同時に、アルコールによる酩酊感と、聖銀の管を通じる微弱な魔術的刺激が、彼女の脳を揺さぶる。
「ほら、見てごらんなさい。あなたの魔力を吸って、安ワインがこんなに美しく輝き始めましたよ。あなたは今、最高の『醸造樽』として機能しているのです」
カグラの指先が、ワインでパンパンに膨らんだルナリエルの下腹部を、無慈悲に弾いた。
タプン⋯⋯。
「ぃゃぁあああああッ!!?」
内側から響く、水音。それは、自分がもはや「生物」ではなく、液体を湛えただけの「樽」であることを証明する、耐え難い音だった。
ワインがルナリエルの胎内を限界まで満たし、パンパンに張り詰めた下腹部は、今にも内側から弾けそうなほど薄く引き伸ばされていた。もはや身じろぎする力もなく、ルナリエルは浅い呼吸を繰り返すのが精一杯だった。
「さて、溜まったワインを回収しましょう。⋯⋯ふふ、真祖の乳首が、まさか蛇口のレバーになるなんて。滑稽で、最高に美しいわ」
カグラの声が、朦朧とするルナリエルの意識の淵をなぞる。先ほど皮下に埋め込まれた魔導回路の終着点である、その無防備な胸元へカグラの手が伸びた。
「⋯⋯ぁ、あ⋯⋯。や⋯⋯めて⋯⋯ご主、さま⋯⋯っ。もう⋯⋯なにも⋯⋯はいら⋯⋯な⋯⋯」
(⋯⋯死なせて。誰か、我を⋯⋯殺してくれ。こんな、お腹を膨らませて、道具のように吊るされるなんて⋯⋯っ)
抵抗する力など、どこにも残っていない。カグラは、弱りきったルナリエルの左の蕾を指先でつまみ上げると、無慈悲に聖銀の魔導針を深々と、その芯まで突き立てた。
「――ッ、⋯⋯⋯⋯⋯⋯ッ!!!」
あまりの激痛と、神経を直接焼かれる魔術的衝撃。ルナリエルは声にならない悲鳴を上げ、白目を剥いて硬直した。喉の奥が引き攣れ、ヒッ、ヒッ、と掠れた音が漏れる。カグラはそのまま、両方の乳首を装置の制御系へと固定し、彼女を完全に「操作盤(コントロールパネル)」へと変質させた。
「いよいよワインの抽出ね、私のためのワインを搾り出しましょう。⋯⋯いわくよ、ルナリエル」
カグラが装置と繋がったルナリエルの右の乳首を、指先でクリリ、と、壊れ物を扱うように捻り回した。
「あ、ぁ、ぁあああ⋯⋯っ!!?」
乳首への電位刺激がスイッチとなり、尿道の排出弁が強制的に全開になる。同時に、ワインの重みで弛緩しきっていた膀胱が、魔術的な命令によって無慈悲に絞り上げられた。
「あ、はぁっ⋯⋯! でる、でちゃ⋯⋯ぅ⋯⋯っ! いやぁ、あぁぁ⋯⋯っ!!」
じょろじょろじょろじょろ⋯⋯っ!!!
彼女の体温を奪い、魔力を吸い取った液体が激しく排出される。カグラが施した回路により「乳首を弄られる強引な快楽」が、極限まで衰弱した彼女の神経を無理やり跳ね上げ、強烈な排泄衝動を促していく。
「あ、はぁ、ぁ⋯⋯っ! ご主、さま⋯⋯。とまら⋯⋯な、ぃ⋯⋯っ。おしっこ、の⋯⋯ワイン⋯⋯っ、あぁ、ああぁっ!!」
ピクピクと、小さな胴体が力なく痙攣する。 尿道から無理やり搾り取られながら、ルナリエルは涙と涎を垂らし、魂の欠片をこぼすように絶頂した。もはや「イく」というよりは「壊れる」という表現が相応しい、痛々しい引きつけ。自分の意志とは無関係に、胸を弄られ、排泄物のようにワインを漏らし続けるだけの生き物。
「あぁ、はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯っ、あ、あ⋯⋯ぅ⋯⋯はぁぅっ⋯⋯」
萎んだ腹部が力なく上下する。尿道からは、まだ出し切れないワインが一滴、また一滴と力なく溢れていた。カグラは、そんなルナリエルの、涙と汗でぐちゃぐちゃになった顔を、愛おしげに、しかしひどく事務的に覗き込んだ。
「⋯⋯ねえ、ルナリエル。感じてごらんなさい。今の、あなたから溢れ出した無様な姿を」
カグラの手が、絶頂の余韻で敏感になりすぎているルナリエルの頬を、ピシャリと軽く叩いた。
「ひぅっ!? あ⋯⋯ご主、さま⋯⋯。あ、うぅ⋯⋯」
「質問に答えなさい。手足をもがれ、目を縫い潰され、胸を弄られるだけでおしっこのようにワインを漏らす⋯⋯。そんな無残な生き物は、一体何者ですか?」
カグラの指先が、再び右のスイッチに触れた。カチ、と魔導回路が微かに鳴る。その小さな音だけで、ルナリエルの肉体は恐怖と快楽の予感に跳ね上がった。
「あ、ぁ⋯⋯っ! おね、がい⋯⋯もう、出ない⋯⋯出さないで⋯⋯っ!!」
「答えなさい。あなたは、誰?」
「我は⋯⋯ルナリエル⋯⋯しんその⋯⋯っ!」
「いいえ。そんなものは、もう存在しないわ」
カグラが乳首――スイッチをギュリ、と、わざと深く捻り込んだ。
「あ、あああああああッ!! ひ、あぁぁぁあああッ!!!」
再び尿道の弁が強制的にこじ開けられ、空になりかけた腹の底から、絞り出すようにワインが噴き出す。激痛と、残滓のような快楽。その暴力的な感覚の奔流に、ルナリエルの精神はついに「自分」という殻を維持することを諦めた。
「さあ、言いなさい。あなたは、何者?」
「あ⋯⋯ぅ、ぅ⋯⋯。ルナリエル⋯⋯は⋯⋯。ご主人様の⋯⋯おしっこ⋯⋯樽⋯⋯です⋯⋯っ。⋯⋯だから、もう、許して⋯⋯っ」
その言葉を口にした瞬間、彼女の瞳からは、誇りの最後の一滴が涙となって溢れ出した。自分の存在を、自分自身の口で「モノ」として定義してしまった。その不可逆の絶望が、彼女を完全に支配した。
「うふふ、よくできました、ルナリエル。そう、あなたは私の樽。死ぬまで、私のために美味しいワインを出し続けるだけの、愛らしい玩具(ガング)よ」
「はぃ⋯⋯ルナリエルは⋯⋯ご主人さまのがんぐです⋯⋯」
ルナリエルの返事を聞きながら、デキャンタに満たされた黄金色のワインを飲んでカグラは満足げに目を細めた。だが、職人としての探究心は、さらなる「隠し味」を求めていた。
「我ながら素晴らしい成果です。ですが、真祖の魔力が凝縮されたワインには、もうひと工夫、芳醇な『香り』が必要ですね」
カグラの指先が、ワインの排出を終えてヒクヒクと震えているルナリエルの、最も神聖で、最も汚された場所――その秘裂へと伸びた。
「あ、ぁ⋯⋯。そこは⋯⋯もう、なにも⋯⋯出ない、です⋯⋯っ。ご主人様、許して⋯⋯っ」
「いいえ。今の絶頂と排泄で、あなたの内側は最高に熟しているはずよ。⋯⋯ほら、こんなに溢れているわ」
カグラが指先を潜り込ませると、そこからはルナリエルの意思に反して、絶頂の余韻としての「蜜」が、ドロリと指先を濡らした。
「まったくいやらしい⋯⋯最高のスパイスね。⋯⋯さあ、ルナリエル。あなたのワインを完成させるために、もっと、もっと濃厚な『トッピング』を出しなさい」
カグラは、装置に固定された乳首スイッチを再び執拗に弄り始めた。今度は抽出のためではなく、彼女の肉体から最後の一滴の蜜までを搾り取るための、暴力的な愛撫として。
「あ、が⋯⋯っ、あああッ!! くるしい、また⋯⋯なにかが、来る⋯⋯ッ!! ご主人様、ご主人様ぁッ!!」
視界のない暗闇、四肢のない不自由さ、そして「樽」として中身を搾り取られた直後の脆弱な肉体。そこに叩き込まれる過剰な快楽は、ルナリエルの神経を文字通り焼き切らんばかりに翻弄した。
「あ、ぁぁぁぁぁッ!! イク、イッちゃうっ!! 蜜が、我が⋯⋯壊れて、溢れるぅぅッ!!」
カグラは、ワインの抽出を終えて力なく震えているルナリエルの秘裂を、検品するように左右の指で大きく割り開いた。
「ふふ⋯⋯乳首がワインのレバーなら、こちらは『秘蜜』のスイッチにしましょうか。これほど高潔な真祖を、指先ひとつでメス犬のように悶えさせるための、特別な鍵(キー)を」
カグラは聖銀製の「第二のスイッチ」――クリトリスクランプを手に取った。快楽の核を意地悪く弾かれ、ルナリエルの身体がビクンと跳ねる。
「あ、がぁっ⋯⋯! いたい、痛いです、ご主人様っ!! そこは、狂ってしまう⋯⋯っ!!」
カグラは装置の横に腰掛け、まるで楽器を奏でるような手つきで、そのクランプと連動した魔導回路の出力を上げ下げし始めた。不規則に、そして執拗に繰り返される激しい振動。
「あ、ぁ、あああッ!! イク、イっちゃうっ!! おまんこも、おしっこも⋯⋯両方、出ちゃうぅぅッ!!」
「いいわよ、ルナリエル。出しなさい。私のワインをいやらしい蜜で汚して、あなたという存在のすべてをこの瓶の中に吐き出すのよ」
カグラの嗜虐的な言葉に、ルナリエルの精神は限界を迎えた。乳首を弾かれ、クリトリスを抉られるたびに、ワインと蜜が混ざり合った不浄な液体が、彼女の身体から無様に溢れ出す。
「あ、はぁっ、はぁっ!! イク、イキますっ!! 蜜⋯⋯っ、蜜も、ワインも、全部、出しますぅッ!! ああああああッ!!」
カグラは、ルナリエルが白目を剥いて絶頂する様を、うっとりと眺めていた。ポタポタと、ドロリと。ワインのボトルの中に、彼女の処女の蜜が、淫らなトッピングとして混ざり合っていった。
――地下工房の静寂を破るのは、装置の規則的な振動音と、時折漏れる力ない喘ぎ声だけ。 全ての「機能連結」を終え、数日が過ぎた。もはやルナリエルにとって、自分がかつて「夜の王」であった記憶は、霧の向こう側にあるお伽話のように現実味を失っていた。
カグラは、琥珀色に輝くデキャンタを掲げ、光に透かしてその色調を確かめた。
「⋯⋯素晴らしい。ルナリエル、あなたがこれほど『美味しい』存在だったなんて」
その声を聞いただけで、装置に吊るされたルナリエルの身体が、ビクンと小刻みに震える。
「あ、ぅ⋯⋯ご主人⋯⋯さま⋯⋯。⋯⋯ルナリエルのワイン⋯⋯美味しい⋯⋯ですか⋯⋯?」
「ええ。とても。あなたの魂が混ざり合って、背徳の味がしますよ」
ルナリエルは、視界のない暗闇の中で、自分が搾り取られた「成果」を主人が嗜んでいる気配を感じ取り、言いようのない喪失感と、そして恐ろしいほどの「幸福感」を抱き始めていた。
「さて、在庫が少し減りましたね。⋯⋯ルナリエル、補給の時間ですよ」
カグラがバルブを回すと、再び背後の注入管から、安物のワインがルナリエルの直腸へとゴゴッ⋯⋯と流し込まれる。
「ひ、あぁっ⋯⋯! 入って、くる⋯⋯また、お腹が⋯⋯っ。――あ、はぁ⋯⋯っ。ルナリエルは⋯⋯樽⋯⋯。ご主人様の⋯⋯ワインを⋯⋯つくる、袋⋯⋯っ」
もはや、カグラから問われるまでもなく、彼女は自らをそう定義していた。定期的に乳首とクリトリスのスイッチを弄られ、強制的に絶頂させられながら「中身」を搾り出される。その繰り返しだけが、彼女に残された唯一の生の実感となっていた。
カグラは、満足げに微笑んで、装置のメインスイッチを「自動循環メンテナンスモード」に切り替えた。
「おやすみなさい、私の可愛いルナリエル。明日もまた、たっぷり搾り取ってあげますからね」
「は、い⋯⋯。ご主人、さま⋯⋯っ。いつでも⋯⋯お好きな、時に⋯⋯ルナリエルを⋯⋯使って⋯⋯ください⋯⋯っ」
カグラが工房の灯りを消し、扉を閉める音が響く。 完全な静寂と暗黒。その中で、ルナリエルは自分の腹部から響く、タプン、タプンという不浄な水音を聞きながら、心地よい酩酊感の中に溶けていった。
彼女が自由を取り戻す日は、永遠に来ない。真祖の不老不死という呪いは、今や「永遠に搾取され続けるための資質」へと書き換えられ、彼女はこの地下工房で、名もなき「モノ」として、愛らしく、惨めに、熟し続けていくのであった。