動かない古道具屋と呼ばれる、人物がいる。

昼行灯のようなぼんやりとした彼の、日常的な短編集。

※見切り投稿です。

※本文作成に小説生成AI「AIのべりすと」を使用しています。

※本作品は「東方Project」の二次創作です。

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動かない古道具屋

 

──魔法の森の近傍に、その店はあった。古びた外装の目につく、瓦屋根の和風建築で……古めかしい看板には、達筆な墨字でこう書かれている。

 

 

“香霖堂”。

 

 

隣り合うように大きな蔵があり、裏手には見上げる程に見事な桜があるこの家屋こそが、彼の経営する古道具屋だった。それなりの室内空間が確保されている筈なのに、所狭しと詰め込まれた品物のせいで店内はとても窮屈そうに見える。しかも、棚の上にはガラクタばかりが無造作に積まれており、明確な埃臭い香りも充満していた。おまけに年中窓を閉めきってしまっている為、常に薄暗い。

店主の男も自覚する程度には、商売する気概を感じられない店構えだが……不思議と客が来ない事はなかった。

 

店舗の奥から、ごそごそと音を立てて一人の青年然とした男が姿を顕した。

 

燃え尽きた灰を思わせるくすんだ髪からは毛が跳ね、度の入っていない眼鏡の奥には黄金の瞳がある。黒と青を取り合わせた奇妙な意匠の衣類は、一見すると中華の道士服の要素を感じ取れた。

 

彼が古道具屋香霖堂の店主、森近霖之助と言う。

 

「ふむ、もう春の気配か……」

 

霖之助は小さく呟くと、窓から射す陽光を顔に受けて眩しそうに目を細めた。冬の厳寒を乗り越えて芽吹く生命の象徴たる太陽に、彼は微かな笑みを見せる。季節が巡り、春の到来を実感する事に喜びを感じるらしい者からすれば、待ち遠しい陽気がそう遠くない処まで来ているのだ。

暦の上では睦月も終わりが近く、もう暫くすれば冬眠から覚めた連中が一斉に活動し出す頃だろう。

尤も喧騒を嫌う霖之助は、そんな喧しさなぞ関係無いし、何時通りに自分の事だけをして暮らせれば満足だった。

 

幸か不幸か、年明け前後の客足は皆無に等しい。

 

気が向けば新年セールもやったりはしたが、所詮はおまけに過ぎないので儲ける訳でもなし。常連連中も元旦に来たきりで、後は閑古鳥だ。どうせ彼女等の事だから正月は酒を飲み明かして、その後は宴会三昧の日々なのだろう。きっと今年も、博麗神社は人間の参拝客が少ないに違いない。

 

……なんて事をつらつらと考えていた霖之助だったが、ふと思いたった様子で席を立つと、立て付けの悪い扉を押し開けて表に出た。

 

外はまだ冷え込んでいて、肌に触れる冷気だけで身震いしそうな気温である。だがそんな事はお構いなしに、彼は空を仰ぎ見た。

雲一つ無い晴天で、太陽が煌々と輝いているのが見える。どうやら今日明日は快晴続きらしい。こんな日にこそ、何かを始めるのも良いのかもしれない。

 

そんな思いを胸に秘めながら、開店中の立て札を休業中に変える霖之助であった。

 

 

 

 

『動かない古道具屋』という渾名が付けられるくらいに出不精なイメージのある霖之助でも、幻想郷の一存在として落ち着いたのはかなり最近になってからだった。

何千年も生きているような古老たち程では無いにしろ、少なくとも一世紀は生き続けている彼であるが、その出自に関しては不明瞭な点が多い。幻想郷の人物について網羅された『幻想郷縁起』には、「骨董品を扱う物好きな半人半妖」と記されているのみだ。

商売の事ならいざ知らず、自分の事はのらりくらりと言い淀んで語ろうとはしない。詮索好きな連中も居るには居るが、結局根負けしてしまって、今では話の種にもなっていない状態だ。しかしそれで構わないと考えているのか、終ぞ全く口を割らなかった。

 

 

 

 

四季折々の変化が激しい箱庭では、少しずつ春の様相が現れ始めていた。

大半は未だに冬のままだ。雪化粧で彩られた山々の姿は美しく、降雪量は減少傾向にあるけれど雪掻きを怠ると大変な事になる。

 

 

──雪の降り積もった林道を、霖之助は一人歩いている。さく、さくと新雪が足を柔らかく包み込んでいるのを感じられる程には深い積雪だった為、踏みしめるようにゆっくりと歩みを進めているのだ。時折木々の隙間を抜ける寒風が体温を奪いに来るものの、半分人間ではない彼にとっては特に堪えない程度であるようだ。

早々に店仕舞いをした後、向かうのは『幻想郷無縁塚』と呼ばれる場所だった。時空間が不安定故に様々な領域と繋がる事のある此処は、多くのモノが漂着する吹き溜まりとも形容出来よう。ろくでもない奴らも多いが人によっては宝の山に見えるらしい。

何の準備も無く立ち入るのは自殺行為に等しい......当然死ぬつもりはさらさら無いが、だからと言って油断していい場所でも無い。なので彼は幾つかの準備を済ませてからこの場所を訪れたのだった。

 

「相変わらず陰気な処だ、僕の店に負けてない」

 

打ち捨てられた墓標の群れは荒れた大地に埋没しており、辺りに漂う空気はとても湿っぽい。死と腐臭によって成長した草花の香りが充満し、風すら通らぬこの場所は常に陰鬱な雰囲気に満ちているように思える。

ちらほらと見える人工物に混じって、何者かの骸も転がっていた。その多くは食い荒らされた状態で放置されており、とても見るに堪えないものばかりだ。

獣に食い荒らされたような残骸もあれば、鋭利な刃物のような何かで切断されているものもある。いずれも死後数日以上経過しているのは明らかだった。腐敗した死体から発生する悪臭も酷いものだが、それ以上にこの場を包む異様な空気が霖之助の精神を擦り減らしていくようだ。

 

ひょう、と直ぐ脇を人魂が通り抜けていくのを尻目に見つつ、何か目ぼしいものはないかと辺りを見回していた時だ。視界の端で、何かが光を放っている事に気が付いた。

 

「何だ.......?」

 

近寄って確認してみると、苔むした岩に横たわるように半分程埋もれた大きな箱が光を反射して輝いていたのだ。漆塗りか、黒檀製のように見えるそれ。装飾らしきものは見当たらないが、観音開きの扉には大きな錠前がぶら下がっている。

 

「宝箱、というよりはもっと神聖な........御神体でも入っているのか」

 

何となくではあるが、そう思えた霖之助である。神仏を祀る道具ならばこの扱いも理解出来るというものだ。だが幾ら何でも、このような場所に安置しておくとは考えられないし、かといって野晒しにするには些か不気味過ぎたので、仕方なく持って帰る事にしたのである。

 

 

 

明くる日の香霖堂。霖之助は、先日持ち帰った箱の調査を行っていた。

 

店の奥にて、作業机の上には黒い箱が鎮座している。箱の材質は木製だろうが、外見以上の重量を感じるそれは相当な値打ち物であるのは間違いないと思われた。

この手の物品には珍しく、見て分かる範囲(能力を使う限り)では封印術式や魔術的要素などは見当たらなかった。ただ厳重に施された物理鍵の付いただけの箱なのだが、だからこそ余計に霖之助の興味をそそる。

 

「さて……」

 

箱の表面から継ぎ目、錠前を隈無く調べても単純な結果しか分からない。やはり只の容器のようで、特別な意味は無いのだろう。呪いを食らう心配が無いのなら、力ずくで破壊するのも容易い。

容易いが、中身を損傷する可能性あるし、これだけ重厚な箱はそれだけでも価値があるものだ。出来れば丁寧に取り扱った方がいいだろうと判断した霖之助は、大人しく錠前のピッキングを始めることにした──。

 

 

 

ごとり、と音を立てて錠前が落ちていく。

 

「ふう、やれやれ……」

 

悪戦苦闘すること数刻。何とか鍵を開け終えた霖之助が溜息と共に額を拭う仕草をする。既に日はすっかり落ちて、室内は真っ暗になっていた。

改めて机の上に鎮座する黒い箱を見据えてみる。見た目は何の変哲もない木造りの箱だが、中身に関して言えばそうではない事が容易に想像出来た。

 

先程から妙に胸騒ぎを覚えてならないのである。開けてはならない、いや、開けるなという警鐘が鳴り響いているような感覚さえあった。

 

しかし、一度開封した箱はもう元に戻す事が出来ないので、覚悟を決めて蓋を開くしか無いのだが。もしも箱の中身に災厄をもたらす類の呪物が収まっていたらどうしようかと考えつつも、今更後戻りなど出来る筈もなく、意を決して手を掛けるしかなかった。

 

 

ぎしり、と鈍い音を立てて観音扉が開かれていく……次第に見えてくる内部の光景を見て、思わず息を呑む事になったのは言うまでも無い。

 

 

「これは……」

 

薄暗い室内に、僅かな灯りに照らされた物体が見える。形状は円柱形であり、縦長の形をした石像か。実際、石を削って作ったと思われ、その造形はまるで生きているような生々しさがある。

上部は返しのように膨らんでいて、茸類の傘を連想させた。

......というか、霖之助を含めた男性ならば誰でも持っているものだった。

 

「....金精神の御神体........だな」

 

金精神。

 

所謂生殖器崇拝とされる宗教は古来より存在しており、農耕文明が確立される遥か以前より信仰されていたと言われる。生命を創り出す男性器、女性器は最も身近な神秘であるとされ、子孫繁栄、豊穣の象徴として崇められていたようだ。後の時代に隆盛した他の宗教と比較しても、非常にポピュラーな存在と言える。そんな金精神を象ったと思われる偶像は、実に雄々しい男性器の姿を取っていた。

 

「なんと立派な....いや、感心している場合じゃないな」

 

一抱えもあるような箱の正体は、この御神体を祀る為のものだったらしい。長年様々な道具を扱ってきた香霖堂でも、八百万の神の一柱たる御神体を目にするのは初めての事だった。恐らく土着系因子の強い金精神の残滓が宿ったものが、結界を通り抜けて幻想郷へと流れ着いたのだろうと推測出来る。外界と幻想郷の境界は時に曖昧で、このような事象が発生するのだ。

……しかし問題なのはそこではない。目の前の巨大な逸物についてだ。

 

これが単なるガラクタなら大して問題ではなかったのだが、神々しささえ感じる程の精巧な造型をしている為に始末が悪い。

 

神性は完全に消滅してしまったようだが、佇まいと言い、希少性と言い、とんでもない宝物が転がり込んで来たものだと、思った。

 

「……ふむ」

 

実生活には役に立たないだろうが、好事家なら喉から手が出そうな代物だと言えよう。霖之助自身は骨董品収集に目が無い為、実際に役に立つかどうかは別にしても、個人的には有り難い贈り物だと思った。これを手放してしまうというのはあまりにも勿体無い気がしてならない。

どうしたものかと考えた末に、とりあえず店の奥に安置する事にするのだった。

 


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