何度こうしてもまた繰り返す
娼のふりをして街角に突っ立ってる
見知らぬ誰かが私を選んで汚されるままに慰めてもらう
どんなにひどいことしてもいいよ
昨日は血まみれだ 今日は汚物にまみれた
明日はなにをしてくれるんだろう

言うすべもない言葉、核心だけを封じて
はるか遠くに君の笑い声を見ている
公園でボールの跳ねる音
俯いたまま目を見開いた
君が言い訳をくれる

来ない手紙を待ってるだけ
真実を語るのはもうだめ?
たとえば目的のない旅だとか
たとえば意味のない世界とか

核心だけを封じて、窒息するまで


●『僕を止めて下さい』スピンオフ。寺岡秀明の物語。本編の盛大なネタバレになってますので、ぜひとも『僕を止めて下さい』の《1.憧憬(1〜35話)》を読み終わってからご閲覧下さいませ。

1 / 1
好きだ
君のことが好き
わからなかったでしょ
わかるわけないよね

何度こうしてもまた繰り返す
娼のふりをして街角に突っ立ってる
見知らぬ誰かが私を選んで汚されるままに慰めてもらう
どんなにひどいことしてもいいよ
昨日は血まみれだ 今日は汚物にまみれた
明日はなにをしてくれるんだろう

言うすべもない言葉、核心だけを封じて
はるか遠くに君の笑い声を見ている
公園でボールの跳ねる音
俯いたまま目を見開いた
君が言い訳をくれる

来ない手紙を待ってるだけ
真実を語るのはもうだめ?
たとえば目的のない旅だとか
たとえば意味のない世界とか

核心だけを封じて、窒息するまで


●『僕を止めて下さい』スピンオフ。寺岡秀明の物語。本編の盛大なネタバレになってますので、ぜひとも『僕を止めて下さい』の《1.憧憬(1〜35話)》を読み終わってからご閲覧下さいませ。


2014.11.27 ー12.10



恥辱刑 【僕止めスピンオフ】

 

 身体を組み敷かれて、唾液が耳の下まで流れるくらいはしたないキスが、ずっと続いている。

 

 いつのまにかベッドの上に居た。私のそこは太いディルドゥで埋められ、ペニスは猛り狂ったまま慰めてももらえず、自分の粘液だけにまみれていた。全身は男の精液を塗りたくられ汚されきっている。手首が括られているので抗うことは出来なかった。

 

 男娼と偽って街に立ち、陰険そうないやらしい目つきの男に2万で買われた。汚いラブホに連れ込まれ、手首を縛られてシャワーを浴びる間もなく服を下だけ下ろされて、立ったまま壁に押し付けられすぐ挿れられた。欲望の道具になっていく感覚に心が堕ちていく。それがたまらなく淫靡で私はすぐにそれに溺れた。足元に落ちたスーツはそのまま靴で踏みつけられてなすすべがなかった。

 

 男は粘着質で執拗だった。間断のない挿入と耳元で囁く侮辱の言葉を聞きながら、彼自身だけが満足して飽きるまで長い時間掛けて汚された。胸の中が固まりきしんで無機的な音を立てるまで。それでよかった。夜が長すぎるんだ。君がいない夜は。君がいないのに世界が回ってることが信じられない。無駄に明晰な思考を早く悶絶と痛みで奪って欲しい。だからこれでいい。

 

 夜明け近くに名前も知らない男すら去っていった。ソファの上に投げ出された2枚の万券。静寂の中で独り、置き去りにされたベッドで自分で抜いた。全身が鉛のように重くて節々が錆びついたように傷んだ。それでも何度も抜いた。

 

  もう出るものが無くなり勃たなくなると、のろのろとバスルームに入りシャワーを浴びた。無駄に広いバスルームの、無駄な水圧で痛いシャワーの中で壁のタイルにもたれ掛かった。なぜここに居るんだろうか。意識がある思考がある感覚がある感情がある…こんなもの、なぜ洗い流してはしまえないんだろうか。頭からシャワーの雨が降り注ぐ。温かさの中でもわずかな寒気が拭えない。なにも私を慰められない。何ひとつ慰めになるものがない。ただ時間を埋めてくれるだけ。だが、それでもそれだけでもマシなんだな、と不意に気づく。

 

 思い起こしてみれば、何ひとつ報われていない自分の運命に今更ながら絶望を感じていて、そのことに自分自身がっかりした。自分がこんなに弱くなれるのかと呆れる。人の心は思い通りじゃなかったのかい? 好き勝手やってたじゃないか、快楽を貪って。いままでずっと。ああ、やってたさ。本気じゃなかったんだ。溺れるような深いところで泳いでいなかった。ただそれだけだ。もっと泳げると思ってた? そうだな、もっと泳げるって…でも溺れた。海は広いからね。大きな波にさらわれた。とても大きな波だ。プールとは、違うんだよ。

 

 虚脱感に耐え切れず、タイルに倒れこんだ。叩きつけるようなシャワーの中で泣いた。ずぶ濡れで自分の涙が見えないのが良かった。持ってかれたなぁ…本気で抜け殻だ。抜け出す気力もないほど、胸元をえぐって持って行かれた。あとは血を吐くくらいが関の山だ。いずれそれすら出なくなる。その前に離脱できる気がしない。逃げ足は早いつもりだったのに。打ちのめされて突き落とされてもなぜ、ここにいる? 答えはわかっている。離れられないからだ。君の姿が見える場所から。

 

 心を奪われるというのはこのことかと、タイルの硬さの上で私は唐突に理解した。言葉とは巧みなものだ。それは思ったより悲惨な慣用句なんだな、と私は心の底から虚脱感に襲われた。この空虚さは埋めるすべがない。それどころか埋めることすら拒否していると感じた。君が奪っていったものを、他のもので埋める気がしない。どんなに打ちのめされようとも、それは明瞭なものとして感知された。それどころか埋められないことの誇らしさがそこに存在した。それに自分で唖然とした。打ちひしがれて気が狂いそうな自分と、その高貴で誇らしげな自分ははっきりと二分していた。ここに救われない溝があるんだ。厳然とした強者と弱者の溝。自分の中にありながら、それは自分では埋められない。埋めるすべがない。君以外には。

 

 ようやく身体を起こす。タイルに脚を投げ出し、壁に寄りかかってホテルの安っぽい匂いのボディソープで体中の粘液を落としている。寝ているとタイルの硬さに身体がもたなかった。早くベッドに戻って少しだけ寝よう。それだけの目的のために身体を洗っている。今日も仕事だ。何事もなかったように出勤して、教授室で仮眠しよう。ドリンク剤3本くらいで持てばいいな。しゃべり始めればこっちのもんだ。昼間は少しは頭も働くさ。ゼミの子が今の私を見たら驚くだろう。無敗無敵みたいな高慢ちきさが売りなのに。この落差。それが…

 

 もうひとつある拭いがたい欲望。汚されて貶められたいという欲望が、今の状態を続けさせている大きな原因のうちのひとつだろう。これは自分で今まで抑制できた試しがない。排泄が生理的に我慢できないのと変わらないほどの強さを持っているような気さえする。それを今なら際限なく繰り返せる。絶望を燃料としてそれは動き続けるから。君という許可証も発行された。他になにが要ろう。有名なリンチの手法を思い出す。欧州やアメリカでは体中にコールタールを塗りつけられ、鶏の羽をまぶされて手足を拘束され、横木や馬で引かれた。それを知った時に私は言い知れぬ身体の疼きを感じ、それをされる想像をしながら、何度も独りで抜いたものだった。

 

 恥辱刑。こんなそそる刑罰がこの世にあるだろうか? 私はマゾヒストではないと思うが、この件に関しては、自分がなんなのか、すっかりわからなくなる。わざわざ悪いことをして罪を作り、罰されることを望んでいる。こうやって誰の気を引こうというのだろう。だがそれも思い通りにはならず、放って置かれる。仕方ない。他人がしてくれないのなら、自分でするのみだ。

 

 では、今は何の罪を負ってるのだといえば、君のおかげで品行方正になってる現在の自分の咎ではなかろう。私は改心した。それは認めよう。ああ、だがまるで新約聖書のサウロのように、過去の罪故に私は心を打ち砕かれるような試練を負っている。改心した悪党は過去の罪に身を焼くのだ。

 

 だが私と違い過去にも現在にも罪のないヨブという男ですら、試練を受ける。罪のないこの男は、その罪のなさに於いて、面白半分に悪魔に試されるという試練を得た。愛する我が子らを奪われ、財産を取られ、畳み掛けるように重い病で神に試され、それでもヤツは神への信仰を貫いた。私は到底今世でヨブに成れることはない。だがしかし、昔は嘲っていたあのヨブの言葉が今は心をえぐる。それほど今は私の空っぽな心に響く。

 

 『我々は神から幸福を頂いた。なれば、災いも頂こうではないか』。

 

 君がくれた苦しみを私は味わう。愛さなければ決して出会わなかったこの苦痛を。好きだよ、君が大好きだ。砂を噛んでその味気なさに私は悶える。それを日々の糧にしよう。でも今は、苦しみすぎて心が死んでしまわないように、罪と罰とで自分を贖っている。

 

 まだ君を好きなんだ、どうしようもなく。まだそれを感じていたい。どうしようもなく。

 

 暗いバスルームで作られた雨に打たれながら、私はまだ余力が残っていることを思った。その余力を私は恨んだ。バカだな。ほんとにバカだ。いつの間にか私は笑っていた。タイルに座ったまま両膝を立て、その膝を両手で抱えてそこに顔を伏せた。

 

 笑ってる。うん。今、笑ってる。

 

 この言い知れぬ可笑しさが終わったらバスルームを出よう。そう決めて、そのまま長いこと私は笑っていた。太腿に刻まれた消えない傷跡を指でなぞる。いつの間にか癖になっていた。昔からいつも、いちばん気づいて欲しい人はなぜか気づかない。こうやってひっそりとダメになっていくのを君に見つかりたい。あの時みたいに拳で殴ってくれないか。こんな私を見つけてさえくれたら、私はそれで殺されてもいい。すると、殴られて口の中を切ったあの時の血の味が不意に舌の上に甦った。ここでこれか。こんなところで、いまさらなにを。呆れて笑うことをやめた。そしてもう一度微笑んだ。

 

 キスの味…かな。私はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

  −fin−

 

 

 

 

 

 




 
 『僕を止めてください』の寺岡秀明を主人公にしてスピンオフ書きました。インテリは複雑怪奇な精神構造してるよな…という典型的な変態に“回心”と“片思い”というイベントを発生させて様子を見るという鬼畜ゲーです。たまりません。過去にスピンオフを書いたところ、本編の100倍くらい長くなったという反省を込め(←猛省しろ)今回は400字詰め原稿用紙9枚程度で済んだので、反省は無駄ではなかったと言えよう。

 そんなこんなでMy《変態たまごっち》は、ストレスパラメータがカンストして、破滅衝動のステートが発動してます。人間ここまでこないと始まりませんよね(←偏った人生観)。主人公に、裸でシャワーの中で考えさせるのが好きな架空線でした。自分はそんなことはしないのに。変なもんです。シャワーで打たれてる髪の毛がずぶ濡れの人が好きなんでしょうよ、きっと。そう言えば、寺岡さんの架空の著書の一部をつらつら書いちゃいましたが、あれを一冊分書くというわけわかんないスピンオフ(?)もアリかもな…(『サルトル批判、構造主義、フーコーのパースペクティヴ』とかいうそれっぽい題名も決まってるの)。

 このあと、車の中で木村カエラなんか聞きながらヤケクソで大学に出勤してる寺岡さんだった。多分“TREE CLIMBERS”あたりをずっとリピートしてる感じなんですよ。そして日々は続くLife goes on.

 では、ご閲覧頂きありがとうございました。

2014.12.11
架空線 拝

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。