午前6時00分。
アラームが鳴るよりも早く、ジンの意識は覚醒した。それは、部屋の空気が微かに震え、温度が「睡眠最適値」から「活動最適値」へと滑らかに切り替わったからだ。同時に遮光カーテンが静かに開き、冬の鉛色の空から差し込む人工陽光が、冷徹なまでに整頓された寝室を照らし出す。
『おはようございます、マスター。……本日の首都圏の天気は晴れ。司令部への登庁時刻まで残り90分です』
天井のスピーカーから、穏やかで気品のある合成音声が降ってきた。かつて学園でジンの食事を「燃料補給」と切り捨てたあの鈴を転がすような声は、今や邸宅のメインフレームと同期し、完璧な敬語を話す家事OS(マザー)の出力音となっていた。
ジンはベッドから身を起こし、リビングへと向かった。
そこには、この邸宅の心臓が鎮座している。床を一段掘り下げたサンクン・スペースの中央、薄紅色の保存液に満たされたマザー・タンクの中で、西園寺レイカは待っていた。
彼女は全裸のまま透明なワイヤーで四肢を広げられ、磔に近い状態で浮遊している。銀色のオイルを纏った漆黒の長い髪が、液中で生き物のように美しく広がっていた。スリープ・モードから復帰したばかりの瞳はまだ虚ろだが、ジンの姿を捉えると、システム的な「喜び」を示すように瞳孔が微かに開いた。
彼女の股間では、すでに家としての基本機能が始動している。前の穴に深々と挿入された水晶製V-Probeが、重厚な脈動を刻み始めていた。それは彼女の子宮を内側から愛撫して基礎体温を上昇させ、極寒の屋外から部屋を守る暖房エネルギーを生成しているのだ。デバイスから送り込まれる熱量に、彼女の白磁の肌は淡い桃色に染まり、全身から放たれる生体熱がタンク内の保存液をゆらゆらと対流させていた。
「コーヒーは濃いめで。それとトーストを頼む」
ジンがキッチンカウンターに座り、無造作に命じた。
『承知いたしました……。ただいま抽出を開始します』
スピーカーからの応答と同時に、水槽内のレイカの肉体が跳ねた。コーヒーメーカーとトースター。高熱源を必要とする家電の起動は、彼女にとって「強制的な高負荷運転」を意味する。
「ん……っ! ぁ、あぐぅ……ッ!!」
口内のオーラル・ユニットが、彼女の絶叫をくぐもった喘ぎへと変える。V-Probeが往復速度を上げ、工場の調整で過敏になった膣壁を激しく擦り上げた。摩擦熱と、強制的に引き出された絶頂のスパークが青白い光となってケーブルを駆け抜け、コーヒーメーカーへと流れ込んでいく。
ポコポコとコーヒーが落ちる音。トーストが焼き上がる香り。それら全ての生活音は、かつての女王が水槽の中で白目を剥き、涎を垂らしながら生み出した「熱」の変換結果であった。しかし、その肌はナノマシンの恩恵により、汗一つかかず、陶器のような滑らかさを完璧に維持している。
ジンは焼き上がったトーストを齧り、コーヒーを啜った。
「……いい香りだ。君のエネルギーで淹れたコーヒーは、熱くて苦味が効いている。まるで、君の性格そのものだな」
ジンが水槽に近づき、ガラス越しに彼女の顔を覗き込む。激しいピストン責めで意識を飛ばしかけているレイカは、焦点の合わない瞳で、ぼんやりと主人を見つめ返した。かつて「貴方の食事は貧相ね」と嘲笑った彼女が、今は自らの肉体を燃料にして、その貧相な食事を温めている。この皮肉こそが、ジンにとって最高のスパイスであった。
「さて、仕事の話だ。作戦エリアの地形データと、敵性体の予測分布図の同期を開始する」
ジンの言葉と共に、邸宅全体が「戦略サーバー・モード」へと移行した。情報の暗号化やノイズ除去に、高い知性と感度を持つレイカの神経網が利用される、このアセットの真の運用である。
今度は「後ろ」の穴の出番であった。
膨大な軍事データパケットが、家のサーバーに着弾する。レイカの身体が「く」の字に折れ曲がり、アナルに埋め込まれた炭素繊維製A-Probeが、データの質量に合わせて最大径まで膨張した。
「ん、あああーーッ! ぁ、がぁっ!!」
さらに情報のノイズ除去を行う回転ギミックが作動し、彼女の直腸を内側から抉るように荒々しく回転し始める。
「いいぞ、その調子だ。括約筋をもっと締めろ。情報の漏洩を一ビットも許すな」
彼女の腸壁がプラグを締め付ける圧力こそが、セキュリティの堅牢さとなる。元・成績優秀者の彼女にとって、情報を完璧に処理することは本能に近い。どんなに屈辱的であっても、彼女の脳は無意識に「完璧な仕事」を求めてしまい、結果としてその秘部を限界まで締め上げてしまうのだ。
『転送……完了、しましたぁ……ッ……マスター……っ』
最後の一滴まで知性と感度を搾り取られたレイカは、甘い痙攣を全身に走らせ、保存液の中にしなやかに漂った。プラグが収縮し、拡張されきった彼女の菊門からは、透明な粘液が糸を引いて漏れ出している。しかしその表情は、過剰な刺激の余韻に蕩け、どこか満ち足りているようにも見えた。
ジンは軍服を整え、玄関へと向かった。その途中、彼は水槽の前で足を止める。ガラスの向こうで、最高級アセット「SC-001」は熱に浮かされたように呼吸を乱していた。
彼女はもう、自分を人間だとは思っていない。
この家のシステムそのもの。主人の生活を支え、完璧に管理を行う、優秀で美しい「生体造作設備(オーグ)」。その役割に、かつての承認欲求が歪んだ形で統合され、一種の充足感すら見出し始めていた。
ジンはガラスに手を当て、彼女の唇の位置に軽く触れた。
「行ってくるよ、レイカ。今夜は冷えそうだ。帰るまでに、風呂を沸かしておいてくれ」
『……はい。いってらっしゃいませ、マスター。貴方の帰りを、この家の全てで、お待ちしています』
ドアを閉め、ロックを掛ける電子音が響く。
静寂が戻ったリビングで、水槽の中のレイカは、誰もいない空間に向けて微笑んだ。
彼女の股間のプラグが、再びゆっくりと、優雅に動き出す。
主人が帰ってくるその時まで、この部屋の暖かさを――彼女の体温を――一度たりとも絶やさないために。彼女は最高のアセットとしての誇りを胸に、永遠に続く快楽と奉仕の檻の中で、甘い溜息を漏らし続けるのだった。