II. 偽りの完遂と最後の選択
「Xポイント到達!」
ミリアが、この地獄を終わらせるため、そして、あの壁の犠牲者たちを解放するために絶叫した。
「機関室、全エネルギーを主砲へ! 照準、Xポイント中枢、あの肉壁の中心!」
「クロエ、ケイ! 残存火器で私たちへの接近を阻止しなさい!」
機関長のシズカから、無感情な承認(アファーマティブ)が返る。
リアクター・ルームのクルーたちが、この一撃のために、絶頂に近いオルガ・パルスを供給し始めた。
車体中央のタレットが旋回し、主砲「ホーネット」が唸りを上げる。
莫大なオルガ・エネルギーが、砲口に集束していく。
「……ッ! 撃てえええええッ!!」
ミリアの絶叫が響き渡る。
閃光が暗闇を切り裂いた。
放たれた高エネルギーの奔流は、目の前の肉の壁の中心を正確に貫き、その奥にある何かを、大音響と共に爆砕した。
肉の壁の脈動が止まる。
壁に張り付いていた女たちの痙攣が、ゆっくりと弛緩していく。
一瞬、静寂が訪れた。
「……やった……?」
リナが、かすれた声を上げた。
「任務……完了……?」
だが、それこそが号砲だった。
破壊された中枢の、さらに奥深く。
地下の暗闇で眠っていた何かが、その濃密なオルガ・パルス(ホーネットの残響)に狂乱し、最後のライダーたちが爆発的に溢れ出してくる。
その直後、リナがレーダーを見て絶叫した。
「後方からもライダーが! レーダー全域、青で埋まってます! ……退路が……退路がありません! さっきまでいなかったのに……まるで、私たちをここに追い込むみたいに、回り込まれて……!」
その瞬間、ミリアは、すべてを悟った。
自分たちが認識していた作戦名「エリア-ゼロ掃討作戦」。
その、司令部の高官だけが使う真の作戦名を、昨夜の調整の最中、あの男が漏らしたのを、思い出していた。
「プロジェクト・ユダス-ゴート(裏切り者のヤギ)」。
……そうか。
私たちは、掃討する側ではなく。
掃討されるべき汚染、ライダーを、一箇所に集めるための、生贄だったのだ。
ガシャン!
装甲が次々と破られ、車体は完全な包囲下に置かれた。
「クロエ! 隣のB-ポッドが破られ……!」
ミリアの絶叫が響く。
A-ポッドのクロエは、ガラス越しに、隣のB-ポッドから仲間の砲手、ケイが引きずり出され、ドッキングされる最期を、目撃した。
これで、ガンナーはクロエ一人となった。
その時、司令部から、冷徹な自動音声が車内全域に響き渡った。
《パルス飽和レベル、MAX。コード:メルトダウン、起爆カウント開始。05:00》
「5分……!?」
ミリアの目に、絶望ではなく、凍てついた怒りが宿った。
「5分も持つかよ……! もう、ハッチが……!」
ミシミシと、ブリッジのハッチが軋み、ライダーの触手が侵入し始める。
「捕まる……!」
リナが、あのアヤの姿を思い出し、絶叫した。
「燃料にされる……! いやぁぁッ!」
「させるものか!」
ミリアは、もはや死から逃れるためではなく、あの地獄絵図の元凶を道連れにするため、最後の命令を下した。
「リナ! 操縦桿を! あの『穴』の奥へ、全速で突入する!」
「え……!? 隊長!?」
「奴らの狙いは、私たちをここで5分間、蹂虙し尽くすこと! だが、私たちは『燃料』にはならない! この『爆弾(ジャガーノート)』を、奴らの『子宮』のど真ん中まで届けてやる!」
ミリアは、機関室へ絶叫した。
「シズカ! 『オルガ-ブースト』起動! 残った全エネルギーで、あの壁を突き破るわよ!」