【幕間:執行人】
ジャガーノートが灼熱の閃光と化した、その直後。
エリア-ゼロの外周、安全地帯。
パルマシン「スレイヤー」のコックピットで、クロウは、眼前に広がる戦術モニターを、無表情のまま見つめていた。
カウントが「04:50」を刻んだ、その瞬間。
Xポイントの赤い光点が、観測史上ありえないほどの、異常なオルガ-エネルギーの奔流を放ったのだ。
通常のメルトダウンとは異なる、まるで意志が飽和したかのような、理解不能な波形だった。
《警告!リアクター-コア、臨界突破!カウント強制終了!》
同時に、クロウのコンソールに、システムアラートが赤く点滅した。
[ERROR: Unknown Pulse Pattern Detected. / Source: JUGGERNAUT / Type: ORGANIC_WILL_SATURATION (Over MAX)]
(なんだ……? "意志の飽和"だと……? 馬鹿な)
次の瞬間、戦術モニターが、閃光で真っ白に染まった。
ジャガーノートの戦術級の大爆発が、内部の7名の同時絶頂をトリガーとして、即時起爆したのだ。
爆風と電磁パルスが、安全な外周にいるスレイヤーの機体さえも、わずかに揺らす。
やがて、ホワイトアウトが収まったモニターには、ただ、ぽっかりと開いた巨大なクレーター、浄化完了区域が映し出されているだけだった。
《プロジェクト-ユダス-ゴート、全フェーズ完了。目標、完全達成》
「こちらスレイヤー。戦果確認。……作戦は、完了した」
クロウは、通信機に事務的に応答した。
「……処理、完了だ。……だが、システムログに、軽微な『エラー』が記録された。後ほどデータを転送する」
《司令部より:了解。影響のない『ノイズ』だ。貴官は帰投せよ》
「……了解」
クロウは、モニターに一瞬だけ表示された「ERROR」の文字を意識から追い払い、機体を反転させた。
彼の任務は、終わったのだ。
スレイヤーの主推進器が唸りを上げ、機体が加速する。
背後のモニターはすでに地図データへと切り替わっていたが、クロウの網膜には、あの瞬間の強烈な残像がこびりついて離れなかった。
破壊の極光。
だがそれは、死の断末魔というよりは、まるで新たな恒星が産声を上げたかのような、圧倒的な「生」の奔流だった。
「……俺は、何を視た?」
操縦桿を握る手に、覚えのない脂汗が滲む。
ただの廃棄処理。そう定義された任務の裏側で、観測機器すら捉えきれなかった何かが、あのクレーターの底で胎動しているような錯覚を覚える。
彼は首を振り、加速Gに身を委ねて思考を断ち切った。
深淵より立ち昇る不可視の粒子が、去りゆく執行人の機体を静かに、そして慈愛すら帯びて見送っていたことには、まだ誰も気づいていなかった。