【エピローグ:『合理的』なご遺族様】
あれから、数週間後。
エリア-ゼロが浄化完了とされてから、リナの両親が暮らす、古びた居住区画の一室を、連合の遺族管理局の役人が訪れていた。
「リナ兵曹のバイタルロストを正式に確認。結果、作戦は成功裡に完了しました。これにより、貴殿方には『遺族特別年金』受給の『権利』が発生しました」
感情の欠片も感じさせない、冷ややかな声。
役人は、娘の死に打ちひしがれる両親を前に、事務的にタブレットを操作する。
父親が、その受諾確認書に、震える手で触れようとした、その瞬間。
「なお、ご遺族様には、リナ兵曹からの『公式な遺書』をご確認いただく義務がございます」
役人は、そう言うと、壁のモニターに、一つのデータを転送・再生した。
モニターに映し出されたのは、あのFTD。
自分たちの娘が、あの過剰に最適化された卑猥なインナースーツ姿で、涙と涎を垂らし、カメラに向かって快感に喘ぎ、絶頂させられる、あの公式な遺書。
「お、お母さん、お父さん……」
「ぁ……っ!? ちが……っ、私は、みんなに……っ、……ぁぅ! ひぅっ!」
「……や、やだ……っ、ぁん! んくぅっ……!」
娘が、システムにオマンコを慰められ、強制的に絶頂させられる映像。
父親が、屈辱に顔を歪め、母親が、目をそむけた。
その、絶頂の瞬間。
ブツッ!
映像が、一瞬、激しいノイズに飲まれた。
そして、娘の、システムにイかされているはずの喘ぎ声に、
「……お母さ……ッ!」
という、絶叫が、高周波のノイズとして、一瞬だけ重なった。
「……チッ」
役人が、舌打ちをした。
「……転送エラーか。あの『飽和エラー』の影響で、アーカイブ-データにまで『ノイズ』が混入したか。……『高価値』な商品の品質が、わずかに劣化したな」
だが、両親は、そのノイズの意味を、知る由もない。
ただ、娘の最期の絶叫のような、その異様な声に、言葉を失うだけだった。
役人は、再生を止めると、何事もなかったかのように、冷徹な提案、選択肢を、冷ややかに告げた。
「『合理的』にご判断ください、ご遺族様」
「その『データ』は、リナ兵曹の『最終精神状態』を、連合の『精神安定化技術』によって『最高のクオリティ』で記録した、『極めて『高価値』な『公式記録』』です」
「貴殿方には、二つの『合理的』な『選択肢』がございます」
役人は、タブレットに二つの契約書となる二つのボタンを表示した。
【選択肢 A:『権利の放棄(非合理的)』】
「貴殿方が、その『非合理な感情』、怒りに従い、この『遺族特別年金』の受給権そのものを『放棄』される場合。……リナ兵曹の『データ』に関する『全ての権利』も、同時に『放棄』したものと見なされ、即時、連合に『帰属』します」
「もちろん、この『高価値なデータ』は、連合の『合理的』な判断に基づき、『公共の利益』のために『再利用』されますが……当然、貴殿方には、一切の『利益』は、支払われませんが……よろしいですね?」
【選択肢 B:『権利の受諾(合理的)』】
「……あるいは。『賢明』で『合理的』な『ご遺族様』であれば、お分かりでしょう」
「こちらの『年金受諾』に『同意』され、リナ兵曹の『データ』の『公共利用権』を、連合に『正式に許諾』して、くださるのなら」
「連合は、その『販売利益』から、『純益の20%』を、貴殿方の年金口座に『永続的』に『上乗せ(ボーナス)』し続けることを、『合理的に『保証』』いたします」
リナの両親は…言葉を失う。
目の前には、「娘の尊厳を守るために怒る」という非合理な地獄と、
「娘の絶頂映像の販売を許諾し、娘の死という商品の利益で、残りの人生を合理的に生きていく」という、「賢明な地獄」が。
彼らは…顔を見合わせ、震える手で、タブレットに、ゆっくりと指を伸ばした。
「怒る気も失せる」
これこそが、連合の非情な合理性の完成形である。
たとえ、その完成形に、少女たちの意志が遺した、ほんのわずかなエラーが混入していたとしても。